軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十五話 上には上

「ぬお、お、ぬお、おおおお!」

腰にヤバイ負荷が……バーベルを担いでそれで腰を落として持ち上げる……スクワット?

『足だけでなく、腰もきつかろう? そう、ここの連中はマジカル・スクワットは下半身のみのトレーニングだと思っているようだが、実際は下半身のみでなく、腰や背中、腹筋、さらに腕まで刺激を与える。何よりも、体幹も鍛えられる。つまり、全身の筋肉を鍛えるものだ。あと、下半身というぼんやりしたものではなく、正確な部位は太ももの筋肉……ハムストリングや大腿四頭筋、ふくらはぎの下腿三頭筋、尻の大臀筋等だな』

「ぐっ、し、しかも、このバーベル乗せてる首も、い、痛い……」

「それは、慣れろ、若いの! 根性だ!」

『単純にフォームだな。しっかりと胸を張り、首ではなく肩……僧帽筋の上部にバーベルを乗せろ。グリップ幅と肘の角度も、もう少し調節してみろ』

トレイナの指示を聞きながら、とにかくやれるだけのことをやってみる。

全身……確かにその通りだ。下半身の刺激がかなりキツイが、普通に全身の筋肉も刺激されてかなりキツイ。

「おおお、マジカルスクワット、230パワーだ! いやー、大したもんだ! 本当に初心者か?」

「すげえな……マジカルデッドリフトも210パワーだし……いやいや、恐ろしい若造だぜ」

これもそれなりにいい数字だったようだ。

確かに、これらも壁に貼られている歴代ランキングに十分食い込める数字だ。

だが……

「はあ、はあ……おい……この1位のやつ……全部同じ奴だが……どんなバケモノなんだ? 全部俺の倍以上なんだが……」

そこそこ俺も力が付いてきてるとは思いつつも、別に俺は力自慢ってわけでもねえ。

トレイナも言うように、この数字はあくまで参考だ。

とはいえ、それでも俺とは比べ物にならんほどの数字を叩き出している奴を、気にするなという方が無理だ。

「あ~、マチョウはちょっとな……規格外の怪物だよ」

「だな。カクレテール一の怪力無双」

「師範を除けば、魔極真流最強の男だ」

魔極真流最強……まあ、こんなバケモノみてーな数値を叩き出す時点でそうなんだろう。

「最強か……とはいえ、この国で……」

カクレテールは過去の魔王軍との戦争にも参戦しなかった鎖国した独立国家。

そんな国に、そんな奴が名も上げずに居たってのか……と思えば……

『世界が知らぬ強者……アカも……ブロもその部類だ……居るものだな……隠れた逸材というものは』

確かに、世界が知らない強者は結構居たわ。

トレイナも腕組しながら壁に貼られているランキング表を見て呟いている。

そう、俺は今までどれだけ狭い世界に居たことか……

「さて……どうせなら、スピードも測るか? つっても、スピードは外で測るから、その前に「眼」でも測っておくか?」

ちょっと落ち込み気味だった俺に、カデゲハのおっさんから次の提案。

力を計る測定から、次に眼を測ると言われた。

眼か。健康診断でやった、視力検査みてーなもんか?

「ほら、こっちの部屋だ」

「ほーら、あんちゃん、行くっす!」

「次もガンバ」

そう言って、一階にある奥の部屋へと誘うカデゲハと、俺の背中を押すカルイとアマエ。

もうここまで来れば何でも来いと俺も後に続いた。

そして、案内された部屋。

室内の壁には丸い突起のようなものが立て横何列にも埋め込まれていた。

「なんだこれ?」

『なんと!? マジカル・ビジョントレーニングまでできるのか?』

「これは、マジカル・ビジョントレーニングってやつだ」

興奮して声を出したトレイナの口から出てきたものと全く同じ名称のトレーニング。

もう、なんか、ここまでくると細かいことはどうでもよくなってきた。

「これは、トレーニング開始と同時に魔力でランダムにこのボタンが光っていく。それを押すと、また別の場所が光る……これを素早くやっていき、十五秒間で何回できるかっていう奴だ」

『視野角を最大限に駆使し、周辺視野、動体視力や眼球運動、瞬間視、深視力、さらには反射神経や集中力まで鍛えられるものだ』

マジカル速読とはまた少し違う眼の鍛え方だな……次々と壁に埋め込まれているボタンとやらが光って、それを素早く押していく。確かに、反射神経や集中力も要求されるな。

「なるほどな。おもしれえ」

ちょっと自分でもこれだけは良い数字が出るんじゃないかという期待があった。

トレイナとの訓練や、これまでの実戦で俺の眼はかなり鍛えられているはず。

更には、俺のパンチの速度ならば人よりも早くボタンを押せるはず。

「おっ、自信満々だな……じゃあ、ヨーイ……はじめ!」

「しゃっ!」

全神経を解放し、この数秒に全てを注ぎ込む。ボタンが光ったのを確認して間髪入れずにボタンを叩く。

「うお、おおお!」

「手ぇ、はや!?」

「オオ……」

両手両目を駆使して、今の俺の全力を叩き込み……

「ッ、それまで!」

「どうだ!」

途中から自分でも数えてなかった。頭の中でカウントするよりも俺の手の動きのほうが圧倒的に速かったからだ。

そして……

「ろ……六十回!?」

「う、うそおお!?」

「これは、文句なしだ! すげえ!」

六十回。それはどのレベルだ?

「っし! これは自信あるぜ! えーっと、アレは……アレは……あった!」

俺は部屋を見渡して例のものを探す。

それは、ランキング表。

「ランキング1位は……51回……ディナイ・ズツト……って、誰だコレはッ!? マチョウとかいうのはどこだ?!」

今までのパワー系のランキングには一度も見なかった名前でどこの誰か全然分からなかった。

そして、マチョウとかいう奴の名前はそこに無かった。

「あー、マチョウはそういう細かいの苦手でな……単純にパワーがすごすぎて、ボタン一回押したら壁が壊れて計測できなかったんだ……」

「って、何だソレは!?」

一応、今の俺の記録でランキング1位。しかし、そこには、何やら他の事情も絡んでの話のようだ。

つまり、素直に喜べねえ。

「いや、でもこれはすごいぜ!」

「そーそー、マチョウさんは逆にこういうのだとあんまり記録出ないと思うよ? 乙女心にも鈍いし」

まあ、計測云々を抜きにしてもマチョウとやらはこういうのが苦手のようだ。

なら、ここは俺の勝ちってことで、歴代1位は俺ってことで……

「どいていろ」

「えっ?」

「うおっ、師範!?」

「大神官様!」

そのとき、大神官が錫杖をカルイに預け、身構える。そして……

「始めろ」

やる気のようだ。いきなりどうした? と思ったと同時に、俺はあることに気づいた。

「……なんだ? あの眼は……」

『……ふん……ソレを使うのは……反則だろう』

大神官の両目が突如、見たことの無い紋章が浮かび上がった。

一瞬、見間違いかと思ったが、ハッキリと浮かび上がっている。

そして……

「……ッ!? な、なに!?」

次の瞬間、信じられないことが起こった。

大神官は首も眼球も一切動かさず、初期の位置のまま、手だけを動かしてボタンを押していった。

しかも、ボタンが光った瞬間と押された瞬間が、ほぼ同時だ。

俺は、ボタンが光ったのを確認してから押したのに対し、大神官はまるで「どこのボタンが次に光るか」が分かっているかのように押していく。

その結果……

「62回……まぁ、こんな所だろう……」

「ッ!?」

俺の記録を……

「ちょ~、師範、どうせなら最後まで……」

「そっすよ、大神官様!」

大神官は『残り、五秒』もあるのに抜いていた。

「師範でもある私がいくら数値を出しても仕方あるまい。門下生たちに、力の差を見せ付けて発破をかけるにも、限度があるからな」

まるで涼しい顔でそう告げる大神官。

それは、俺が「これは俺の勝ち」と思いかけてたものを粉々に打ち壊すほどの衝撃だった。

「まあ、でも、師範は別にして、お前さんの記録はスゲーよ!」

「そうそう。パワーも眼も、歴代トップクラスじゃん!」

そう褒められる俺だったが……正直、嬉しくなかった。

そして同時に、ついこの間までの自分を思い出す。

同期の幼馴染に敵わず、一度もトップを取れず、ただの秀才どまりだった自分のことを。

「~~~っ、つ、次だ! 次は何をすりゃいいんだ!」

負けてたまるかよ!

そう思った瞬間、俺は早く次の種目をやらせてくれと自ら声を上げていた。

「はは、ストイックなやつだぜ」

「これで全然満足してないんだもんね……いや~、すごいすごい」

「じゃあ、次はスピードだな!」

何でもやってやる。そして、一つでもいい。誰にも負けない何かを見つけたい。

いずれ、世界でビッグな男になってやろうって息巻いてた俺が、一つの国の道場の中の記録で一つもトップを取れないなんて、これほど口だけ大将なことはねえ。

「スピード、ああいいぜ! やってやろうじゃねえか!」

スピードもそれなりに自信がある。多くのステップを身に付けたおかげで、『キレのある加速』を俺はできるようになってる。

「じゃあ、スピード測定は外だ、外に移動すっぞ」

「おうっ!」

次こそは必ず……そう思っていた俺だったが……

「ところで、カルイ。ノンビリしていていいのか?」

「はい? 何がっすか? 大神官様」

「そろそろ、学校だろう?」

「へっ? ……」

外へと俺たちが出た瞬間、唐突に大神官がカルイに「ワザとらしく」尋ねた。

するとカルイは少し呆けるも、すぐに顔を青くし……

「……のわああああああ! わ、忘れてたーーー!!?? ちっ、遅刻ううぅぅぅ!!」

さっきまでヘラヘラしていたのに急に慌て出したカルイは、よほど慌てているのかそのまま……

「わ、私、い、行ってきまーすっ!!」

そのまま街中を勢いよく走り出し……走り……はし……ッ!?

「ふふ、カルイのやつ、慌てて……制服に着替えもせず行くとは……」

呆れたように笑う大神官だが……ちょ、ちょっと待て……

『ほぅ……あの小娘……良い足を持っている』

「な、なんだ、あいつは!? は、はえー……」

礼服姿のまま駆けるカルイ。その軽やかな足は街中を、そして人ごみが見えた瞬間ジャンプして建物の屋根に上って、そのまま高速を維持したまま駆け抜けていった。

まるで重力を感じさせないその走りはあっという間に見えなくなってしまった。

マジカル・パルクールをやった俺にはわかる。

普通じゃねえ。

あの足、普通に忍者戦士たちよりもずっと……それこそ、俺よりも……

「ああ、ちなみに……あの娘、カルイこそが……まだ小娘だが……カクレテール最速……『無重力のスプリンター・カルイ』の異名を持っている……と、さあ、スピードのテストだが……」

「……いや……しばらく……いい……」

「ふふ、そうか。まぁ、どちらにせよ貴様はこれで合格だ。好きにここを使って体を鍛えればいい」

ハッキリ言って、俺が走るのよりもずっと速いということが見ただけで分かる、圧倒的な足。

ひょっとしたら、ブレイクスルーを使った俺よりも速いんじゃ……?

目にも止まらぬ足とは正にこのことだと思わせる。

流石にあんなものを見せられてから「1位を取ってやる」と鼻息荒くしてテストに挑戦する気は無くなってしまった。

「さて、小僧よ。早速で悪いが……カルイが制服も着ず、教科書も持たずに行ってしまった。学校まで持っていってもらえないか?」

「……はぁ? 何で俺が!」

「ついでに、この街を見ることもできるだろう? アマエ、案内してやれ」

「いや、そんなこと言われても……」

ちょっとまだショックから抜け出せない俺に対して大神官からいきなりパシリの依頼。

街の案内も兼ねてと言われるが、ちょっと気が進まない。

それどころか……

「つか、いいのか?」

「何がだ?」

「俺はそのまま逃げるかもしれねーぞ? 結界とやらを破って」

俺をそんな自由にしていいのか? と試しに聞いてみた。

すると、大神官は全てを見透かしているかのように……

「ふふふふふ、できんだろう? いや、そもそも……このまま逃げることができるのなら、好きにすればいいだろう?」

結界とやらを破れるものなら破ってみろ。

それ以前に、このテスト結果のまま逃げても構わないというなら逃げてみろ。

そう言ってるように聞こえ、そして当然俺もこのまま尻尾を巻いて逃げるわけにはいかねえと、受け入れるしかなかった。

「くそっ!!」

情けねえ。そして自分が恥ずかしい。自分では前よりもずっと強くなった気になってたってのに……

「ん。おんぶ」

「ぐっ、くっ……あ~、もう!」

「オオ……ハイヨ~」

カルイの制服とカバンと思われるものを両手に抱えて、俺にオンブを要求するアマエ。

イラつきながらも俺はアマエを背負い、今は言われたとおりにするしかなかった。

今に見てろと、胸に抱きながら。

だから……また……よろしく頼むぜ……師匠!

『当然だ』

そんな俺の心の中で呟いた想いに、師は頼もしく頷いてくれた。