軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十四話 腕試し

「ガハハハハハハハハ、師範~、今日は随分とカワイイガキを連れてるじゃねーですかい!」

道場内を見て感心している俺の元へ、一人の大柄な男が現れた。

肩まで出したシャツに、半ズボン。ツルッパゲ頭で、口髭だけは生えている、イカつい男。

かなりのムキムキなやつだな……

「うむ。『カデゲハ』師範……どうだ、門下生は?」

「ああ、まだまだですねえ。どいつもこいつも、三か月後の大会で優勝してやろうって気合が……っと、まあ、それは俺もですけどねえ」

「やれやれ……情けない」

「でも! 優勝できなくても、旧体制の兵士や、内戦を知らねえ魔法学校のボンボン共には意地でも負けねえっすけどね!」

「なるほどな……『マチョウ』には勝てずとも、そういうやる気は師範代も門下生もあるわけか……やはり、大会の門戸を広げてよかったということか……」

ムキムキ。デカイ。パワーもそこそこで馬力もあるんだろうが、まっ、帝国の下級戦士と中級戦士の間ってとこだな。

大神官があまりにも桁違いだったから、他の師範代ってのがどのぐらいのレベルか怖かったが、どうやら大神官一人だけが別次元ってことか。

いや……もう一人だけ……居るっぽいが……

「で、マチョウは?」

「マチョウはマジカルロードワークで……まぁ、もうあいつに教えられることもなけりゃ、スパーリングの相手も居ないっすからね……」

「そうか……やはり、今のままではマチョウの優勝だな……まあ、今のままではだが」

「で、それはそうと、……その若いの、誰ですかい? 魔法学校の生徒? 貧民街の孤児じゃなさそうっすけど……」

「ああ。こいつは、新入りだ」

「ぬわに!?」

って、いやいや、俺、まだ入門するって決めたわけじゃねえが!

まあ、トレイナが嬉しそうだから、別に入ってもいいと思いかけているけども……

『入門しておけ、童』

『ッ、と、トレイナ?』

『勿論、連中に教えを請う必要はないが……この施設は利用させてもらえ……』

『本当にいいのか? だいたい、このまま言われるがままとか癪だろうが。変な大会にも出されそうだし……』

『それならそれで構わん。重要なのは、今、この環境を利用すれば、貴様は飛躍的に力を増すことが出来るということだ』

『そ、そうなの?』

『ああ。余の正しいトレーニングを受ければ……ふふふふ、腕が鳴るというものだ』

あっ、もうトレイナは完全にその気だ。

多分こいつ、もう大神官の企みとか、何でトレイナの銅像があったかとか、もうそんなこと忘れてんじゃねーのか?

「待ってくだせえ、師範! 最近は、入門しても数日で逃げだす腰抜けが多くて、俺らもイチイチ根性の無い奴を相手にはできないんですよ」

と、俺が返事する前に、ハゲのおっさんが大神官に異議を申し立てた。

「私の判断だが?」

「つっても、何年か前にブロが友人連れて来たときだって、そいつら直ぐに逃げだしたじゃないすか。やっぱ、多少なりともテストをしないと!」

「テスト? ……まぁ、別に構わんが……」

どうやら、俺の意思とは関係なく、俺がこの道場に入門するにはテストを受けろとのこと。

まぁ、まだ何も返事はしてなかったが、とはいえトレイナもああ言ってたことだし……まあ、ここは師匠の顔を立てるか。

「わーったよ。ここの施設は使わせてもらうよ。で? 何のテストを受けりゃいいんだ?」

「ほう、なかなか自信満々な奴だな。とはいえ、最近は口だけが達者で、すぐに逃げ出す腰抜けも多いが……来い」

「……ん? スパーリングじゃねーのか?」

「ガッハッハッハ! おいおい、新入り相手にそんなイジメのような真似はせん」

そう言って、ハゲのおっさんは階段を下りて一階へ。

別にスパーでもいいんだけどな。このハゲおっさんには勝てそうだし……

「そーいや、大神官様が連れて来ただけど、私らもあんちゃんの力がどんくらいか知らないんだよね~……楽しみだね~、本当に姉貴の救世主になるかどうか……」

「ん」

そんな俺のテストの様子を、ワクワクした様子のカルイとアマエ。

そして大神官も笑みを浮かべ……

「そうだな……他の門下生たちの刺激にもなるだろうし、少しはあの小僧の力を周りも知っておいた方がいいかもしれんな……」

あっ、何かものすごい悪い顔を浮かべてる。やっぱ、あの大神官かなり黒いぞ!

あとで、トレイナにこの女のことはよく聞いておかねーと……

「よし、これだ。入門テストは……マジカルベンチプレスだ」

「……ベンチプレス?」

そして、ハゲのおっさんが1階で俺にテストとして示したのが、ベンチプレスとやらだ。

寝転がるにしては狭い椅子のようなものと、その上に長い棒と両端に輪っかが付いている。

「これは、道場特有のトレーニング器具で腕を鍛える器具だ……」

『腕などという曖昧なものではない。上半身……大胸筋、上腕三頭筋、三角筋などだ。主に大胸筋がメインであり、逞しい胸板を手に入れることができる』

そう言って、ハゲのおっさんはまずは自分が見本を見せるとばかりにその、ベンチプレスとやらの下に入る。

その際、傍らのトレイナが「補足」とばかりにハゲおっさんの説明に付け加えてくれた。

「こうやって、台の上で仰向けになり、この『バーベル』という重りの真下に顔と腕が来るようにする」

『ベンチに横たわり、バーを掴む。その際、肩幅より多少広く構えてバーを握れ』

「で、こうやって持ち上げ……ふぬぬぬぬぬぬぬぬ、ぬどりゃあああ! こ、こうやって、バーベルを持ち上げてから下ろす! そして胸に一回付けてから、また持ち上げる! その際、このバーベルにかかっている魔法……持ち上げるために込められた力に応じて重さが増える仕組みになっている……それがすなわち、その人物のパワー……ちなみに、俺は『120パワー』だ! これを毎日やってりゃ、自然とパワーが上がるってわけだ!」

バーベルの上に魔力の光が発生して古代数字が浮かび上がる。あれも古代魔法なのか?

その古代の数字によると、表示されているのは「120」という数字。

だが……

『なんと……まさか、ただの『マックス測定』をトレーニングと思いこんでいるとは……分かっていないな、こやつらは。ベンチプレスは、複数回……最低十回の上げ下げができるもので行うトレーニング。それに、こやつ、『チーティング』……バーベルを下げて胸の上で叩いた反動で持ち上げている……ちゃんと胸元で勢いを殺して持ち上げるようにしなければ意味がない』

ドヤ顔で説明しながら見本を見せるハゲおっさんをダメ出ししまくるトレイナ。

しかし、その「120パワー」というのは相当なもののようで、道場で鍛えている奴らは皆が感心したような声を上げている。

「ヒュー、さすがカデゲハ師範……」

「マチョウさんには敵わないが、パワーは魔極真流のトップクラス!」

「はは、すっげ。さ~て、次はあんちゃんの番だよ~ん」

「ガンバ」

なんなら、拍手まで起こっている。そんなにスゲー数値なのか、イマイチピンと来ねえ。

「ちなみに、男の一般的な数字は『40』パワーってとこだ。すなわち、俺のパワーは常人の3倍ってところだ」

そう言って歯をキラリと光らせて笑みを浮かべるハゲのおっさん。

で、次は俺ってわけか……

『どのみち童を鍛えるにはマックスの数字も参考で知っておきたかったところ……見せてやれ、童……貴様は元々下地があった上に余が鍛え、更には度重なるブレイクスルーで筋肉に負荷を与え続けていたため、自然と貴様の能力は向上している』

そんな俺に周囲も興味深そうに見物し、トレイナもウキウキしながら俺を見守る。

だから俺もとりあえず、見よう見まね、あとトレイナの言っていた「正しいフォーム」とやらでやってみる。

仰向けになり、棒を掴み、それを持ち上げ……

「うおっ、ぬっ、お、重!?」

『当然だ、マックス設定なのだからな。後で設定は変えるが……とりあえず、ブレイクスルーは使わずに、それを一回だけ全パワーを出して持ち上げろ』

「ぬっぐ、ぐ、ぬお、お、おるあああああああああああああああああ!」

パワーに応じて重さが変わる? いや、ちょっと待て……これって使い方を考えれば凄い武器になるんじゃ……? と、余計なことを若干考えながらも、歯を食いしばり、全腕力、更にパンチを打つ際に意識している広背筋まで駆使して俺はそのバーベルとやらを持ち上げた。

「うおおおおお、どうだあああああああ!!」

「「「「「……な……え!!?? ひゃ…………170!?」」」」」

170? それが俺の数字? 一応、ハゲおっさんは上回り、更にはその数字に周囲も驚いている。

「ほっほー、こいつは予想外!」

「へ~、すげーじゃん!」

「ああ、あの若さでこれだけ上げられるなんてな!」

「体格だって普通なのに、大したもんだぜ!」

「ちょ、マジですか!? いや、マチョウさんには敵わないとはいえ、十分スゲーし!」

「……オオ……」

「なるほどな……つまりブレイクスルーを使えば……200はいくか……まぁ、現時点では及第点だな、小僧」

まっ、とりあえずこれで合格ってことでいいだろう。

「ぷはっ………ふ~、これでいいよな?」

「おお! すげーじゃねえか、若いの! どこで鍛えたか知らねーが、こりゃとんでもない逸材が来たぜ!」

そんな俺にハゲおっさんも嬉しそうに背中を叩いてきた。

にしても、このベンチプレス……確かに数値化されるってのは、今の自分のレベルだったり、後に成長したかどうかも分かりやすくていいもんだな。

「へへ、俺も今まで気づかなかったが、俺って結構力があるんだな……」

自分よりガタイのデカい奴よりも腕力がある。その事実が少し気持ちよかった。

『まあまあだな。だが童よ、なかなか良い数字は出したが、それに振り回されるな? そもそも、ベンチプレスはあくまで参考値であり、それが戦闘力とイコールになるわけではない。筋肉を無駄に膨らませても、その分パンチのフォームなどが崩れたり、妨げになったりするのでな。貴様の持ち味である『しなやかな筋肉』が固くなって良さを潰してしまうことになりかねん』

『えっ、そうなの?』

『そうだ。だから、理想は全てをバランスよく満遍なく鍛えることだ。パンチだって腕力のみで打つのではなく、強靭な足腰があってこそだしな。恐らくだが、この道場の連中はソレが分かっていない』

『へぇ……色々と難しいんだな……強くなるって……』

『そういうことだ。とはいえ、童よ……せっかくだ。他の器具、スクワットや走力なども数値化して確認しておこうぞ。数値のみに振り回されるのはよくないが、それでも自分の身体能力を数値にして可視化するということは非常に役立つ。なぜなら、自分の身体能力で何が足りないか、逆に長所は何か、ということが分かるからな』

そして、合格早々早速俺に指示を出すトレイナ。

まっ、俺もなんか興味が出て来たし、素直に頷いてやってみることにした。

にしても……

「こりゃ、師範が連れてくるだけあって、大したもんだ」

「ああ。マチョウには敵わないが十分逸材だな……」

俺を褒めながらも、周囲は「すごいけど……」とある人物より俺は下だと言っている様子。

さっきからチョイチョイ出てくるが、そいつ、そんなにスゲーのか?

まあ、トレイナが言うように、別にこのベンチプレスとやらだけで戦闘力が決まるわけじゃないと思えば気にすることでもねーんだが……

「ん?」

そのとき、俺はベンチプレスの傍の壁に貼ってある紙が目に入った。

そこには、「ベンチプレス歴代ランキング」という紙が貼っており、その一番上には……

「……1位……マチョウ・プロティーン……? ……500ぱわー? ……?」

それは、初めてのベンチプレスとやらで自分が人よりも強い力を持っていると知り、少しいい気分だった俺に「調子に乗るなよ?」と釘を刺されたかのような数値だった。