軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十一話 もったいない

仲間には絶対に手を出させない。そのうえで、全て自分で責任を持ってケジメを付ける。

そんなブロの姿に仲間の不良たちは悔しそうに唇を噛みしめている。

「これだから、不良なんてバカなガキは嫌いなんだ、んだ! 仲間のため? 大人にそんな寒い理屈が通じると思っているのかのか!」

そして、大人たちは罵倒する。

なら、俺は……?

「よう……それ……やる方もやられる方も楽しいのか?」

いたぶられている真っ最中のブロへと歩み寄ってそう尋ねた瞬間、大人たちは「邪魔しやがって」みたいな不愉快そうな顔を浮かべるも、すぐに俺を見てハッとした様子を見せた。

「ッ!? な、え?」

「お、お前は……!?」

案の定、大人たちは俺のことは知っていたようだ。

いや、俺というよりは俺の肩書の方のようだが。

そして……

「久しぶりっすね、シツツイ大臣」

「……ッ!? な……なんで……」

「王宮での姫の誕生パーティー以来っすね」

いたぶられているブロを見下しながら罵声を浴びせて騒いでいたシツツイの顔が歪む。

「まったく……純粋なガキを、喫煙だ飲酒だとワルの道に引きずり込もうとするような不良が、せっかくあんたが違法に手を染めないようにしてやってるのに……俺もたいがいだが、あんたも酷いんじゃねーのか?」

「な、なぜ……ここに……いや、お前は、こ、この街に来ていたのか、アース!?」

「家出して数日……最初に会う顔見知りが、まさかあんたとは思わなかったぜ」

この奇妙な再会に俺は苦笑した。

「おい、あのガキ……どういうことだ?」

「シツツイ大臣の知り合いか?」

「……?」

周囲も急に出て来た俺に戸惑い、さらに不良たちも「どういうことだ?」と動揺する中……

「いててて……あら? ……どういうことだい……お前さん……手ェ出さないように言ったはずだが?」

垂れ流していた血を拭いながら、ブロが俺に尋ねた。

「俺がいつあんたの仲間になった? どうして俺があんたの言うことを聞かなきゃならねーんだ?」

「……カッカッカ……なら、尚のこと無関係だから普通は手を出さないはずじゃねーのかい?」

「それでも目の前で不愉快なことをいつまでもやられていたら、気になるだろうが。こういうことを人前でやるんじゃねーよ」

「なんだそりゃ? 暴論だな」

「お互い様だろうが」

まるで憎まれ口の叩き合いのようになっちまった。

ブロとしては、このまま気の済むまで相手にやらせて、ケジメを取ろうとしたんだろう。

だが、俺は割って入った。

「おい、私を無視するな……アース……御前試合で姿を消したお前が……こんな所で何をやっているのだ? のだ?」

「何もしてねーっすよ。姿を消して無我夢中で帝国から離れようとして、ここまで辿りついただけで、まだ……俺は何もできてねーし、何も成し遂げちゃいない」

「何をベラベラと……ヒイロはこのことを知っているのか、のか!」

親父が知っているか? その問いに俺は思わず鼻で笑っちまった。

「俺がどうしてああなったかも知らねーんだ。知るわけがねーだろうが」

「……ッ……」

「だから、俺としては妙な揉め事なんかに巻き込まれず、さっさと誰も俺のことを知らない遠い所へ、世界の果てまで行きたいと思ってるんだ」

そうだ。だからこそ、今回のこの面倒事だって見て見ぬふりしてさっさとこの街から離れればよかったんだ。

だが、それができなかった。

「だが、それでもどういうわけか、誰かと出会って関わっちまう……この不良もそんな一人さ」

「……なに? ……まさか、アース! お前、こいつらの……」

「それは違う。俺は別に、こいつらの仲間でもなけりゃ……不良でもねー……いや、もう今の俺は帝国ではどういう評価かは知らねーが……」

俺は不良ではなかったはず。だが、こうして家を出て、両親の気持ちも無視して好き勝手してるんだ。

だから、「そう」言われても仕方ないかもしれない。

「何を……お前など、名誉ある御前試合もメチャクチャにして、どういうわけか禁断の技まで使ったということで、帝国でも最早不信しかないわ、ないわ! 不良と一緒に居たと知っても、驚きも無い無い!」

「そうかい……まっ……俺もそれはもう、覚悟してるけどよ……だけど……仲間でもねーけど、この男をボコるのはちょっと待っててもらえないすか?」

「なん、だとだとお?」

似たようなもんかもしれねえ……でも……それでも、俺はブロという男を見ていると、「俺とは違う」と思えちまう。

「一つ教えてくれ、ブロ」

「ん?」

「あんたがケジメを取ろうとしている姿……考え……バカみたいで……でも、目が離せなくて……心が揺れた……。強いやつとか、人気のあるやつとかいくらでも見てきたが……あんたは、初めて見るタイプだった」

ブロのことを知ったからこそ、どうしても聞きたかった。

「そんなあんたが……何でこんな所で燻って不良なんてやって……シツツイ大臣の下なんかに居るんだ? いつまでも不良のままでいさせてくれる? こんなことになってまでか?」

どうしてこんな街で燻って、世界にも出ず、名前も上げずに居るのかと。

「半魔族であることが―――」

「それはなんも関係ねえ……不良になったきっかけではあるが……不良でいつづけようと思う理由とは違う」

その理由に半魔族であることが何か関係しているのかと問う前に、ブロは俺の言葉を遮るようにそう告げた。

「ただ……燻るなんて言うんじゃねーよ。俺は、お前さんが想像している以上に世界に出ている。表の陽の当たる世界ではないが、まぁ、色々とな……道場にだって通ってたし……だから、俺は色々な経験や出会いの果てに、最終的には色々と諦めて、今の生き方が良いと思って選んだんだ」

「はぁ? こんな……こんな奴らにいいようにいたぶられて、そんな生き方が良いってのか? こんな奴らに好き放題いたぶられて、バカにされ、そうやって守ろうとしているのは、大臣の小遣い稼ぎの手伝いだろうが! 何がケジメだ! そんなことしてまで、ここを守る理由があるってのか?!」

そう、俺は我慢できなかった。シツツイ大臣たちがじゃねえ。

「ブロ……あんたはツエ―よ……人望もある。そして何よりも、自分を曲げない、そして折れないハートを持ってやがる。仲間のためにって自分でケジメを取ろうとする心意気も……耐え忍んで殴られていることも……スゲーと思った……だが……だからこそ……スゲーと思うと同時にこうも思った」

この、ブロという男のやり方だ。

「もったいねーって!」

俺には分かる。

こいつはもっと強い奴だ。戦えば、帝国戦士……帝国騎士どころじゃねえ。

「あんたがその気になれば……地元や不良にこだわりさえしなければ……もっと……もっと……」

力の底はまだ見えないが、少なくとも、戦闘能力だけなら姫よりも……リヴァルよりも……もっと、ずっと……だからこそ……

「お、おい……あ……アースお坊ちゃんよぉ……何をやってるんですかい?」

「そ、そうそう……ここは、大人の遊び場で、お坊ちゃまの来るところじゃないですよ?」

「ほら、さっさとお家に帰ってくださいよ。俺たちはこのクズ不良に用事が……」

そんな俺とブロの話に割って入ろうとするシツツイの連れてる護衛たちだが……

「邪魔すんな」

三連ジャブ。男たちが持っていた酒瓶、椅子、鈍器を全て拳で砕いてやった。

「なっ……あ……お」

「は、や……」

「こ、このガキ……」

俺の左にまるで反応できなかった三人。

だが、こいつらがさっきまで好き放題いたぶっていたブロは、昼間俺と戦った時はまるで動じなかった。

「あんたはこいつらより、もっとずっと強いだろうが、ブロ! いつまでも不良で居続けることに、何の意味があるってんだよ!」

ブロはこいつらよりもずっと強い。

だからこそ、見ていられなかった。

すると、ブロは……

「ワリーな……この生き方はもう呼吸するみてーになっちまって……だから、俺たちはもう戻れねーのさ」

「は?」

「お前さんとは種族が違う……人種が違う……だから、文化も考えも違う……ワリーな。元々誰かにそれを理解してもらおうとも思ったこともねーから、お前さんの納得する説明が思いつかねえ」

俺に対しては踏み込んで馴れ馴れしくしてきたのに、いざ自分のことになるとこうやって拒絶する。

まあ、そもそも人の人生や生き方に関われるほど、俺も偉くもなければ何かを知っているわけでもねえ。

「ちっ、意地っ張りが……最近はオーガだって話せば分かるってのに……あんたはやっぱ、どんなに話しても分からねーな」

「カッカッカ、それも、治らねえな」

本当に理解できねえ……どうしようもねえ……なのに……どうしてだろうな……なんかやっぱり気になっちまうぜ。

「……シツツイ大臣……あんたも大変だな~、こんな奴らを採用してんだから……」

「ぬっ、ぬぬ……」

「で? どーするんすか? こいつをこのままケジメでもっとボコボコにするんすか?」

そして、俺が呆れたように溜息を吐きながら、未だに動揺しているシツツイ大臣に話を振った。

さっきの続きをこのままやるのか?

違法だと分かっていることをこのまま強要するのか?

すると……

「ふ、ふん。アース……ブロとどういう関係かは知らないが、お前は、私がお前を……いや、お前の両親を恐れて手を引くと思っているのではないだろうな、な?」

汗を滲ませながらも、どこか腹を括ったかのような笑みを浮かべ……

「先ほどの私の話を仮にお前が報告したところで……もはやお前の発言も、この街の不良たちと同様に誰も信用せん……むしろ、大臣たるこの私が……『アースは悪の道に走った』……と言えば、今なら帝都中が信じるはず、はず! ならば、お前を恐れることなど何もない、ない!」

そう言って、シツツイは手を上げ、連れている護衛たち全員に向かって……

「この私の邪魔をするクズどもを、まとめて痛めつ――――」

「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

しかし、その時だった。

「……へっ?」

大臣どころか、俺たちすらまるで予想していなかった悲鳴のような声が聞こえ……

「ひ、ひいい! た、たすけ……たしゅけて……」

賭博場の奥にある部屋から、血に塗れたシツツイの護衛の一人が這って現れて……え?

「え? はっ? どういう……」

「?」

俺もブロも顔を見合わせるが、互いに何が起こっているか分からない。

だが、傷だらけで這って出てきたその男の姿を見たとき、あることに気づいた。

それは、その男が、シツツイの指示でどこかへ行った男……『何か』を『連れて来い』と言われて……

「「……あ……」」

その時、俺とブロは同時に気づいた。

そして……

「……………コロシテヤル……ニンゲンドモ……」

寒気がするほど冷たい声が、部屋の奥から禍々しい瘴気を纏って出てきた。

そして、その影は一つではない。