軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十八話 新たな

「ほな、ちょいと行ってくるわ。オツ、ワイらは負けたんやから、しばらく大人しゅうしとくんやな」

「ッ、うう……くぅ……」

アースたちに深海族一団の力が大敗した。

色々な血筋を引き入れたり、アミクスを攫おうと企んだりしたが、深海族を代表する戦士であるタツミヤの敗退からすべてがご破算になったと言っていい。

「おい、オツよ……ヨーセイらについてだが……まぁ、私たちが居ない以上はあやつもどうにかできるとも思えぬが……今はまだ余計なことをしないことだな。でなければ、その程度の顔面崩壊では許さんぞ?」

「ひっ、……ヤ、ヤミディレ……」

そして、当のオツ自身もまた、ヤミディレにコテンパンに叩きのめされてしまったことによる痛みや、

「アース……えへへ、アースの腕シートベルトなのです~」

「うう、や、やわらけ、細い、イイ匂い可愛い、お、落ち着け俺ぇ」

二人乗りでアースに後ろから腰に手を回されてニコニコが止まらないクロンの「好きな人とのイチャイチャ行為を見せつける」というものに心のダメージ取り返しのつかないほどになったオツは……

「ぐっぅ……わっちはぁ……うう、どうしてわっちだけ……」

と、もはや何かをするほどの気力はなくなっていたのだった。

「ひははははは、つーわけだ。んで、ドクシングルちゃんもいいよな~? 今度会うときは、人妻かな? ひはははは」

「う、うるせえ、このクソパリピ野郎! お前らは全員まとめて大将にぶちのめされちまいな! ……人妻……ぐへへへへへ、よーし! 独身野郎どもぉ、今から島に行ってお見合いすっぞぉぉおおお! おい、ショジョヴィーチ、マルハーゲン、結婚したらお前らの島に住ませろよな!」

そして本来はハクキの部下であり、この場合はハクキの援軍なり、アースたちの敵となって戦うはずのドクシングルにはもはやそういった考えよりも、女としての新しい人生を選んだようで、パリピに手渡された労働者たちの経歴書などを片手に戦争ではなく婚活にいそしむことになって飛び出した。

「私は行きませんよ、ゴクウ」

「まぁ、こちらは……オツ姫のことは任せるカメ……」

もはや戦う気はないものの、ゴクウやタツミヤのように参戦するわけではないゲンブたちは残り、心折れているオツを介抱しながら、静かに待つことを選んだ。

そうやって、行くもの、残るもの、マルハーゲンたちのように見送る者たちに分かれ、

「よーし、では、ヒーちゃん! 先頭に行ってください、ハイよ~、ヒーちゃんなのです!」

「んあーーー任せるのん! 僕のスピードを見せちゃうのん!」

クロンの掛け声とともにヒルアは飛び、その後を一同も追いかけたのだった。

「こっちも帰るか……ダーリン」

「……」

「へっへ、島の住人が増えるかもしれねーし、土地の確保やら色々としとかねーとな

♪ なっ、ダーリン!」

「…………」

「……ダーリン?」

飛び立ったアースたちが見えなくなるまで空を見上げるマルハーゲン。その表情はどこか複雑であり、そんなマルハーゲンの気持ちを察したようで、妻であるショジョヴィーチは寄り添った。

「なーんだよ……結局見送るしかできないことが悔しいのか?」

ショジョヴィーチのその問いにマルハーゲンは頷いた。

「ワシとてかつては人類連合軍の将……かつての故郷の危機に、本来であれば駆け付けねばならぬ身……しかし、今のワシでは足手まとい……自分より半分も生きておらん青年に任せてしまうしかない不甲斐なさ……恥じゃ……時代についていけぬ自分が恨めしい」

飛び立ったアースたちを新時代とし、そして留まる自分を時代に取り残されたものと口にしたマルハーゲン。

かつては人類の将として魔王軍と命がけの戦争を繰り広げてきた元武人なだけあり、今のこの状況に対して思うところはあった様子。

だが、そんなマルハーゲンの頭をショジョヴィーチはスパンと叩いた。

「ったく、ハゲのくせに悩むんじゃねーよ、ダーリン」

「ぬっ……」

「時代についていけないだ~? 何言ってんだよ、うちの家族は時代の最先端を行ってるんだよ。魔族と人間の夫婦で子供も三人もいて円満家庭! アース・ラガンですら未だ実現してねーことやってんだぞ?」

「そ、それは……」

「戦いについていけねーだけで、戦いだけが全てじゃないんだからよ、新しい人生を生きていることを、時代についていけねーとか言うなよな!」

ショジョヴィーチの説教にマルハーゲンは胸を打たれたかのように目頭が熱くなった。

そして、アースたちの飛び立った空に背を向け……

「うむ、そうじゃな。ワシらはワシらの新時代を生きるのじゃ。早速、ドクシングルの婚活がうまくいったときに備えて、準備をせねばな。ドクシングルを押さえておくことも重要な責務じゃ」

「おう!」

マルハーゲンも心の整理をつけ、ショジョヴィーチと寄り添いながらナンゴークへ帰還する。

そして、そんな二人のやり取りを見て……

「新時代の戦いについていけずとも……新たな人生を生きさえすれば……カメか……未だに新たな人生を生きようとしないこちらとしては、痛いことを言われたカメ……」

ゲンブも色々と考えさせられたようだ。

そう、新時代の戦いに参戦もせず、そして新たな人生を未だに生きようとしない。それこそが深海族たちだった。

「……バサラの言う通り……もはや出番などなかったカメ……。昨日の……アース・ラガンとクロンの技がそれを証明していたカメ……」

どこか達観したような様子のゲンブ。

タツミヤやゴクウのような最強クラスの力を持ちながらも本格的に参戦することはなかったが、アースたちの力や未来を存分に体感したと思っている。

そのうえで、自分もまた時代遅れの存在であり、以前バサラとの再会時に突き付けられた言葉が今になってよく理解できていた。

「仕切り直すか、それとも一旦落ち着き考えるか……オツ姫、今一度――――」

ゲンブはこれ以上はもうどうしようもないとどこか落ち着いていた。

自分たちの愛する者たちへの妄執も、力づくで押し通そうとしたところで、もはやその力も押し通せない時代になったのだと実感したからだ。

だからこそ、狂って妄執に駆られていないで、今一度自分たちも改めて考え直さないかとゲンブはオツに提案しようとした。

だが……

「ふむ……数分遅かったか……やはり、自分はまだまだ出来損ないか……亀よりもお遅いがゆえに間に合わなかった……」

「「「「ッッッ!!!???」」」」

「だが……シテナイの言う通り、置き去りにされた過去の生体がこれだけまだ稼働していたとは……回収するしかないか」

そのときだった。

「……何者カメ?」

これまでその場にいなかった何者かが、何の前触れもなく、ゲンブにも気づかれずにいつの間にか現れた。

「お前たちと同じと言うべきか、ガラクタと言うべきか、自分はまだ自分を語れるほどの自分はないが……名だけは告げよう」

その者は、無機質な淡々とした様子で――――

「―――コピィマシン・ロボト」

そして、その数分後、その海に出現した巨大な亀も鯨も突如消息不明となった。

「……ク、クロン……あ、あのさ……」

ヒルアの背に乗って海をひとっとび。

その傍には巨大な雲やらタツミヤやらペガサスやらに乗った仲間たちが居るのだが、もう周りの目があろうと気にしない、甘々の空気満載のクロン。

「アース背もたれなのです~♥」

二人乗りでアースを背に、クロンは体をアースに預けて寄りかかる密着状態。

「ひははは、さ、お嫁さん、こちらに美味しいビスケットがありますのでどうぞ~」

「あら、気が利くのですね、パリピ。さ~、アース、あ~~ん、してください♪」

「あ、今のシーンいいねぇ~、さ、お嫁さん、こっちこっち、ピースして」

「あ、んもぉ、まだお嫁さんではないのに……アース、パリピの持ってる魔水晶にピースしてください!」

そんなアースとクロンを冷やかすニヤニヤのパリピがその二人の周りを飛び回る。

雲にも竜にもペガサスにも乗せてもらえないが、そんなこと何の問題ないとばかりに魔法アイテムらしきものを駆使してパリピは背に蝙蝠の翼のようなものを生やし、その手には魔水晶を持って明らかに二人を撮っていた。

「だぁぁあああああ、パリピてめえはいつまでそんなことやって、ああああもう許せねえ、ヒルア、俺が許す、ブレスでも何でも使って撃ち落とせぇ!」

「アース、これも思い出作りですし……」

「クロォォオォォン、お前もいい加減にしろ! 今から真剣に戦うんだ! 命がけなんだ! いつまでもこんな可愛すぎることやられると、気持ちがふにゃふにゃになるんだからよぉ!」

「あうぅ……」

「いくら味方がツエーからってよぉ、相手はハクキだ。舐めてどうにかなる相手じゃねーんだからな! 皆に、お前に、誰かに何かあったらどうするんだ!」

そして、すっかりパリピの口車に乗って浮かれているクロンをアースはいい加減に一喝する。

「あぅぅ……」

そして、アースに真剣に怒られたからこそ、先ほどまでのキラキラウキウキニコニコ甘々なクロンがシュンとなり、うっすら涙目になる。

「あ、うぐっ……」

「ごめんなさい、アース……私は……うかれすぎで……」

「あ、あいや、ああ、もう………か、わ……い」

涙目クロンに罪悪感で胸が痛むと同時に、そんなクロンも可愛くてやはり抱きしめたくなる衝動に、結局ふにゃふにゃになるアース。

「アース・ラガン、貴様ぁぁぁあああ、夫婦喧嘩とはいえ泣かせた時点で貴様は万死に値するということをぉぉおおおおおお!!!!!!!」

「いやぁ……見ていてホッコリするけど、まぁ、お兄ちゃんの気持ちも分かるしねぇ……」

「確かに、あのハクキには僕たちも子供のころには恐怖したからね……」

「ワイの知らん間にあいつもそこまで強なったんやなぁ~」

「ウキー、なーに、このメンツなら勝てるって!」

「クロンちゃん、羨ましいなぁ、アース様とくっついたり、真剣に怒ってもらえたり……」

そんなアースとクロンのやり取りに、結局何だかんだでまたホッコリしているため、どうも皆の気は引き締まらない。

だが……

「ひはははは、ボス~、怒っちゃやーよ、ひはははははは! にっげろー!」

「ぬああ、パリピ……ぐっ、くそぉ、あいつがそもそも……」

その心配は今夜無くなる。

アースの八つ当たりで攻撃されないように、飄々と一団から離れるように逃げ回りながらパリピは……

(さーて……鑑賞会の邪魔をされないように……適度に距離を離して逃げ回らねえとなぁ)

今夜の準備をし、そしてその結果で、一行の気は引き締まるどころか気合で燃え上がるようになるのだった。