軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十一話 だそそ

「クマった……まさか、タツ様がやられるとは想像もつかなかったベア……」

戦いの一部始終を観戦していた一人の獣人が居た。

そして、自らが最もその強さの信頼を置く男が、一人の人間に叩きのめされた事態に戦慄していた。

「ひはははははは、い~つまでも自分たちが最強クラスと思ってるから恥かくんだよ。まぁ、ボスの引き出しの多さには相変わらず驚かされたけどなぁ」

その獣人の傍で、お菓子とジュースを口にしながら、完全にお気楽観戦モードに入っている悪魔。

二人は、巨大鯨の体内で、外の光景を映し出す巨大な魔水晶の前で並んでいた。

そこには二人以外にも、深海族や、戦いで傷ついたハチコたちも顔を青くしていた。

「分かったかい、畜生共。もう時代は変わってるのさ。ミカドすら老い衰えて最前線から遠のき、バサラは隠居し、六覇も崩壊、七勇者もロートル化した……それほど移り行く時代の中で、いつまでも創世記の古くせぇ畜生共がデカい顔できると思わないことだな! ひははははははははははは!」

タツミヤが敗れた光景に言葉を失う者たちに、徹底的に罵声を浴びせて嘲笑するのはパリピ。

その言葉を受けながら、この場で唯一無傷の獣人、熊の獣人がパリピに振り返った。

「何故、お前がそれほどえらそうだベア? お前も、ヤミディレも、ゴウダも、ノジャも負けているベア……」

「ひははははは、俺はお前らと違って、デカいツラはしねえ。日陰の世界で黒子役に徹している。全ては新たなるボスのために♪」

「草葉の陰でトレイナも泣いているベア」

「いいや、きっと『ボスの傍』で喜んでるさ。そして、もっともかつての主を泣かせてんのはテメエらだろうが」

ぶつけられる文句すら跳ねのけて何倍にもして返す。そして、パリピに言葉では勝てないと悟っているのか、それとも否定できないからか、熊の獣人……

「なぁ、『ベアキン』……あのヒステリババアやゴクウのようなバカや、そこの忠犬バカどものようにテメエも同じか? テメエは親しかった『ゴールド』を生き返らせようとしてるのか? ひははははははは、そんな都合の良い力、古代人たちも持ってなかっただろうが」

ベアキンと呼ばれたその獣人は、パリピに言われるまま、反論できずにただ睨んだ。

そして、言いたい放題言ったパリピは立ち上がり……

「そんなに主様たちと会いてえなら、頭砕いて死んでろ。運良けりゃ常世で会えるかもしれねーからよ。ひははははははははは!」

もう、それ以上は興味ないとばかりにどこかへと姿を消した。

「うっ、うう……あの下衆め……あの下衆めぇ……」

パリピに憎しみのこもった言葉を吐き出すも、それ以上は何もできずにただ唇をかみしめるだけのハチコ。

そして、ベアキンは上を見上げながらさみしそうな目で……

「ただ……もう一度、ゴールドと相撲したい……それだけの願いだったベア……」

消え失せそうなほど切ない声で、ただそう呟いた。

「やったね、お兄ちゃん! で……何だったのアレ!?」

「けがの手当てを……で、お兄さん……きゅ、急に踊り出したかと思えば……え? 何だい、アレは!?」

タツミヤをついに倒した。

最後は完全に手玉に取ったものの、それなりのダメージを受けたアースは疲労が見られるが、そんなアースを労い、気遣いながらも、エスピとスレイヤはアースが急に披露した舞に混乱していた。

「はは……アレはダソソだ」

「だから~、ダソソって何!? しかも、すっごいキレッキレだったし!」

「なんつーか……ああいう獣みたいなのを誘き寄せる、どっかの部族の技だとか。これで森の中で獣を誘き寄せて狩ったりとかできるんだよ」

「そ、そんなの、ハンターの僕も聞いたことないよ……あ、あんなのが……でも、確かにあのタツミヤという男はフラフラとお兄さんに無防備に引き寄せられていた……」

アースのこれまでの戦いの歴史。

共に過ごしたことや、何よりもあの鑑賞会を経て、アースの身に着けた技や実力は多くの者が認識している。

そんな中で、今では自分たちこそが一番詳しいはずと思っていたエスピとスレイヤは、初見の技、そしてそれがあまりにも唖然とするような光景だっただけに、二人は混乱していた。

「まさか……あんな技まで習得していたとはな……鑑賞会での貴様を見る限り、我らとカクレテールで会うより以前に身に着けていたのか?」

「ヤミディレ……流石にあんたは知っていたか?」

「ああ。だが、あの技がタツミヤ含めたこやつらにまで有効ということは頭になかったがな。相変わらず多彩だな。まさにお見事と言ったところ」

そんな中でヤミディレが機嫌よさそうに笑みを浮かべながら近づいてきた。

「どれ、治療してやろう。今の私はもう完全解放状態なのでな」

「あっ……そ、そういえば……」

「ふふふふ、以前まで当たり前に出来ていたものがこれまで封じられていたが、それが再びまたできるようになる……実に気分爽快だ。何よりも邪魔な遺物共も頭ごと叩き潰せたのだからなぁ」

手を翳してアースの頭に魔力を送るヤミディレ。

ヤミディレの治癒魔法によって、頭の割れたアースの傷を癒していく。

だが、そんな状況下でも……

「ぐっ……兄上が……だが、アース・ラガンも今は軽くない手傷を負っている……なら、わちしが――――」

オツが醜く顔を歪めて立ち上がる。

「ウキキ……やめな、オツちゃん……こりゃ、お手上げだ。まさかタッちゃんまで圧倒されるとは思わなかったからよ」

「たしかに……このアース・ラガン……そして何よりも完全に枷の外れたヤミディレや、あの弟妹を相手はつらいですね……」

だが、唸るオツの背を軽く叩いて『諦め』を滲ませて苦笑するゴクウとツウ。

そして……

「当初の予定通り、詫びを入れて出直すしかないカメ……」

ゲンブもまたお手上げの言葉を漏らした。

「ふ、ふざ、何を言う! ゴクウ、ゲンブ、ウヌらが完全解放の大型化で大暴れすれば、まだ戦況は……まずはこの暁光眼で―――」

「「「「…………」」」」

「ッッ!?」

オツがこの隙を突こうと何かの行動を起こそうとした。が、アース、ヤミディレ、そしてエスピとスレイヤがギロッと同時にオツを睨みつけ、そのプレッシャーでオツが硬直した。

「言っておくが……今の私ならば貴様が瞬きするよりも早くにその目を抉ってやるぞ?」

「あのさぁ……ここから先はもう私も黙ってないから」

「ここから先は僕たちが相手だよ?」

「俺も別にやろうと思えば戦えるぜ? お前ら次第だがよ」

この隙を突く……というのは勘違いである。隙など微塵もなかった。

アース、ヤミディレ、エスピ、スレイヤの四人が揃うだけで、もはやオツは自分がどれほど強大なものに挑もうとしているかを嫌でも突き付けられた。

「ッ、し、しかし、……このままでは……第一世代が……ッ、イリエシマ様が……」

だが、ここで敗北を受け入れてしまえば、オツにとっては自分の望みが叶えられなくなることを意味していた。

もう一度会えるかもしれなかった愛する男と、結局二度と会えなくなるかもしれない。

その望みだけは捨ててなるものかという想いが、オツの心をまだかろうじて繋ぎとめていた。

だが、そんな中で……

「う~……」

「クロンちゃん、どうしたのん? おにーちゃんが凄かったんだから喜ぶのん! ご褒美にほっぺにチューぐらいしてあげるのん!」

「う~~~~~~」

「クロンちゃん?」

張り詰めていた空気の中で、何やらクロンの唸る声。

それが聞こえてアースたちも思わずハッとした。

戦っている最中は全身を使って飛び跳ねてアースを応援していたクロン。

戦いが終わってアースが勝利したのなら、いの一番に抱き着いてくるぐらいの態度を見せると思っていただけに、そのクロンが静かだったことに、アースたちは気づいて思わず首を傾げてクロンを見る。

「クロン様? どうされたのです?」

「……う~……」

何か様子がおかしいと感じたヤミディレが慌てて立ち上がり、クロンに駆け寄る。

するとクロンは顔を俯かせ……

「おかあさん……」

「はい、クロン様、どうされましたか? クロン……様?」

「あう~……♥」

何事かとクロンの顔を覗き込むと、クロンの顔は真っ赤で茹で上がっていた……

「お母さん……まずいのです……たぶん、私……」

「はい?」

「もう、ここから一歩でも動いちゃったら……アースが好きすぎてギュっギュっギューってして、ちゅーってしたくてたまらなくなっちゃうのです……もう、我を忘れてしまいそうです……うう、人前とか外とか関係なく、とってもはしたないことをしてしまいそうなのです……さ、流石にそれはアースに迷惑を……うう、でもぉ……」

「…………………」

ようするに、アースの雄姿に完全に恋する乙女として参ってしまっていたのだった。

「あんな……ダソソなんて、アースからの力強い誘い……アレは、絵本で読んだことあります……求愛のダンスなのですぅ……」

「あ、あ~……ま、まぁ……そうかもしれませんね……」

「ずるいのです、アースばかり……一体何回これ以上ないぐらい好き……という気持ちを更新させるのでしょうか!」

「………………」

アースの雄姿もそうだが、クロンはアースのダソソにも心を奪われていた。

本来は野生や獣などに有効な技であり、人間や普通の魔族には別に有効な技ではない。

しかし、『愛する男』が、『力強く誘う』という行為そのものにはクロンには有効だったようであり、もうどうしようもない状態であってクネクネしていた。

そんな愛娘の姿を見て、ヤミディレは……

「ならば、クロン様……クロン様の方からアース・ラガンを呼び込むのです!」

「え……」

「あのダソソは、別に男女関係ない舞であります。クロン様の方からアース・ラガンに近づいてしまって理性を失うのが嫌なのであれば……アース・ラガンの方から近づけさせましょう! であれば、責任はあやつに! 既成事実も即!」

「わ、私の方から……アレをするのですか?」

「クロン様ならばできるはずです!」

「ううう……そ、そうですか……」

もちろん、背中を押すに決まっている。

母にそんなことを言われたら、今の正常な思考ができないクロンに抗えるはずもない。

覚悟を決め、顔を真っ赤にしながらクロンはアースを睨み……

「クロン?」

二人の会話がボソボソでよく分からなかったアースは、クロンのただならぬ雰囲気に首を傾げる。

するとクロンは、可愛らしさを纏いながらも両足を小刻みに揺らし……

「だ、だそそ♥」

「……え?」

「だそそ♥ だそそ♥ だそそー♥」

「!?」

それは、事情を知らない者たちからすれば唐突過ぎて意味不明な行為。

しかし……

「アース! だそそ♥ だそそ、なのです♥ だそそ♥」

見よう見まねで先ほどのアースのように前後にステップを踏みながら両手を使ってアースを誘う求愛の舞。

「あ、あ……あ……」

その、世界一かわいいダソソにアースはフラフラと……

「かわ……って、お兄ちゃん?!」

「あ、お兄さんがフラフラと……す、すごい、これがダソソ!? 何という恐ろしい技だ!?」

その威力にエスピとスレイヤは衝撃を受け……

「ッッッッ、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ア! わちしの前で……くぅ……見せつけるように、愛する者との……おのれぇ……ううう、うううう! ……ずるい……わちしも、わちしも……ひっぐ……ううう、あ、う……あああぁ……」

そして、クロンはそんな気は全然なかったのだが、そのアースとのイチャイチャぶりを見せつけられたオツは、完全に心折れたのか大粒の涙を流して蹲ったのだった。