軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十話 事情が違う

「アース、すごいです! アースの大逆転なのです!」

「んあー! やっぱり、おにーちゃんはさいこーなのん!」

クロンとヒルアが手を取ってダンスをするように興奮する。

「強い……パワーとかスピードじゃなくて、お兄ちゃん……あんな……」

「流石はお兄さん。質が違う!」

「あの若さであれほどの……戦略や駆け引きを実行するだけの技術……」

エスピとスレイヤとヤミディレは冷や汗を浮かべ……

「兄上が……これほど手玉に……」

「単純なパワーならタッちゃん……スピードなら俺様……なのに、技術っていうもんならアースは……」

「これが十代の青年のクオリティ……」

ゴクウやツウたちは戦慄している。

「くっ……アカンわ……なんでか、勝てる気せえへん……」

そして殴り飛ばされ、それでも意識が途切れなかったタツミヤ。いつも通りここから笑みを浮かべて相手に倍返しするかのように殴り返しにいくところだが、この時は違った。

どこか表情が複雑そうな様子で萎えていた。

殴り合いを求めて胸を高鳴らせていたはずのタツミヤ。しかし、アースは熱さで返さずに冷静に対処されてしまった。

その結果、タツミヤはただ痛みだけが叩き込まれるという事態。この状況はタツミヤにとっては予想外で、そしてイライラだけが募り、一方でいくらやっても気持ちよく応えてくれないアースに対しては寂しさを感じていた。

(確かに強いわ……勝てる気せぇへん……が……せやけど……)

アースのフルスイングで殴り飛ばされ、痛みと同時にアースの強さを実感する。まだ自分は戦える。

しかし、このまま終わりたくはないと、タツミヤは殴り飛ばされながら即座に態勢を整えてアースに顔を向ける。

そして、先ほどまでの荒々しく落ち着きない様子から、少し落ち着いた様子でスクっと立ち上がった。

「ふぅ……いったいわぁ……で、おもろくないわぁ……」

そう吐き捨てるタツミヤ。しかし、アースは追撃することなく、相変わらず静かに佇んだまま。

そんなアースにタツミヤは再び溜息吐きながら、寂しそうな瞳を向けて尋ねる。

「なぁ……なんで、ワイにはアオニーやゴウダのときのような……そいつらとヤッたときのように戦ってくれへんのや?」

あの、見ている者たちの血を滾らせ熱くするような戦いを自分もアースとやりたかった。

それなのに、一向にアースはそれを自分とはしてくれない。

自分とその二人は何が違うのか?

その問いにアースは……

「二人とお前とでは事情が違うからな」

「事情……やと?」

その理由は「事情」。目を丸くするタツミヤに対し、アースは当時を思い返しながら……

「アオニーの時は、意地だよ……あれは、勝つのが目的じゃなくて、『証明』するための戦いだったから……」

アースの言葉を聞いて、その場にいた全員がハッとした。エスピやスレイヤは当時その場にいて、そして他の者たちも鑑賞会でその光景を見ていた。

――オメーもそうだーべさ。安全な所にいるうちはいくらでも綺麗ごとを並べて、でも危なくなったら我が身可愛さに素早く逃げるーべさ。オメーは所詮そんな人間……んにゃ……そんな……男だーべさ

アオニーの挑発。

アオニーとの戦いはアオニーを倒すためではなく、自分がアカの友であり、それが口だけではないと証明するための戦いだった。

「せやったな……ああ、そういや、そんな話やったな……せやけど、ゴウダはどうなんや? アレも色んな技を確かに使ってたが、今みたいに冷めた感じで冷静に対処というよりは、全力全開のエネルギーをむき出しにするようなぶつかり合いやったやないか」

「ゴウダの時は特別だ」

「あん? 何でゴウダだけ特別なんや」

「違う。まぁ、確かにゴウダは今となっては俺にとっても特別だけど……あの時、俺が無我夢中で自分の全てを解放して正面からぶつかり合ったのは、ゴウダが特別だったんじゃない……ただ……『俺にとっての特別な人』が『ゴウダの最期に全力で応えてくれ』と願ったからだ」

「……はぁ? そんな場面……あったかいな?」

「ああ、あったんだよ」

アオニーは分かったが、ゴウダはなぜ? アースの答えにはタツミヤだけでなく、ゴクウたちも分からず首を傾げる。

「スレイヤくん……」

「……ああ」

だが、今ならアースの言っているその答え、当時はその理由がまるで分からなかったが、『アースにとっての特別な人の願い』が誰のことなのか今なら分かるエスピとスレイヤは微笑み合い、そして……

「ふん……健気なものだな……お願いされただけで六覇と命がけの戦いに全力で身を投じるか……普段、どのように接し合っているのか分からずとも、それだけで分かる……いかに『あの御方』がアース・ラガンをどれだけ可愛がっているかをな……思わず私ですらアース・ラガンの頭を撫でてやりたくなる一方で、無性に妬けてしまうな……」

もうその事情を察したヤミディレも慈愛に満ちた微笑をアースに向け……

『ふ、ふん……そ、それだけ余が尊敬に値するということなのだ……うんうん』

幽霊が顔を少し赤くして落ち着きなかったりした。

そして、それぞれの事情を話したアースは改めてタツミヤと向き合い……

「タツミヤ……正直、俺はお前に勝ち方にこだわって何かを証明したり、何かを応えてやる理由もねーわけだ。だから、お前の思い通りにしてやる必要はない……だから……勝てるやり方で勝たせてもらう……ただそれだけだ」

改めてアースは、アオニーやゴウダとタツミヤは違うと突き付けたうえで、タツミヤはただの敵として、自分の勝てるやり方で勝つと返した。

ソレを受けてタツミヤはまた溜息を吐き……

「なんや……ずーっと恋焦がれてた片思いの相手に、まるで相手にされへんみたいな感じやなぁ……ほんまつれないわ……ま、ようするにあのときのオドレを引きずり出すのは今のワイには無理やと言いたいわけかい……せやけど!」

一瞬、もう終わり……かと思ったが、タツミヤはギラつく瞳でもう一度構えた。

「それならしゃーない! オドレとの熱い殴り合いはもう諦めたる! せやから、もう一度オドレの大魔螺旋やらなんやらだけでも出させて、それと二度目の全力ド突き合いで我慢したるわ!」

「……は?」

と、それならそれでと、またタツミヤは勝手に言い出した。

それを聞いて今度はアースがため息を吐き、

「おい、大魔螺旋とかを使うかどうかは俺が決める……何であんたが勝手に決めて、やる気になってんだ?」

「せやけど……それやないと、ワイをぶちのめすことは不可能やないか? ワイを見てみィや。何度もフルスイングでぶん殴ってくれおったし、確かにメッチャ痛かったが、こうしてワイはまだ起き上がれるし、戦えるやないか」

「…………」

そう、タツミヤはダメージはある。だが、まだ普通に戦えるだけの元気は十分残っている。

「別にダメージを与えるだけじゃなく、意識を断ち切るカウンターを―――」

「そして、普段あんま頭使って戦わへんワイやけど、これだけは分かった。ようするにオドレをぶちのめすには、こっちから先に動いたらアカンということをな」

話を勝手に進めながらも、同時に今のアースに対する攻略をタツミヤも思いついた様子。

そして、タツミヤは身構える。

だが、先ほどのようにアースに飛び掛からず、その場から動かない。

「オドレのカウンター戦法……ガチンコカウンターをしようとしても振り回されて、被弾するのはワイ……なんやよー分からんけど、ようするにワイから飛び掛かったらアカンいうことやろ? なら、こうしてワイはオドレが来るまで突っ立っとったらええやないか」

「…………」

「どや、これがオドレ対策! 今度からはもうワイからは動かん! オドレからかかってこんかい! そして、カウンターを使わんオドレの攻撃力ではワイはどんだけ殴っても倒れへん! 大魔螺旋とかを使うしかあらへんなぁ!」

それはあまりにも単純な戦法。だが、周囲の者たちは少しハッとした。

「そ、そうか……お兄ちゃんは向かってくるタツミヤに対してカウンターを仕掛ける戦法……」

「ノーガードでタツミヤを呼び込み、そして攻撃を単純化させて先読みしやすくしてカウンター……」

「バカなようで、なかなかな逆転の発想……」

そう、これまで獣のようにアースに飛び掛かってばかりだったタツミヤが、今度は身構える立場になる。

そうすることで、アースに先に攻撃をさせる。その結果、アースのカウンターを封じるという戦法。

自分の耐久力に絶対の自信のあるタツミヤだからこそできる、アースのカウンター封じだった。

「いや、お前……俺がこのまま攻撃しなかっただろうするんだ? いや、お前からもう攻撃して来ないなら、別にこのまま帰っても―――」

「確かに、オドレはもうワイと殴り合う気はないようやけど……戦いを放棄して逃げはせぇへんやろ? そうなったら、それはもう戦法でもなんでもあらへん。単純にワイに勝つためではなく、勝てないから逃げるということになるやろ? それとも、それでもええんか?」

タツミヤの暴論だが、しかし「勝てないから逃げる」というのは確かにアースも看過できることではなかった。

「そりゃそーだな……だけど……はん」

「あん?」

タツミヤの作戦は、確かにヤミディレたちもハッとするようなやり方だった。

しかし、アースはそれを鼻で笑った。

「ようするに、あんたも俺のカウンターにビビったってことだろ? 何が飛んでこようとも、たとえ恒星大魔螺旋だろうと関係なく、考えなしに飛び込んできたあんたが、ついに頭を使った……余計にあんたが怖くなくなったぜ」

「あ゛?」

「大体、俺に先に攻撃させるだと? 忍耐力もなさそうなのに、俺と我慢対決するつもりか?」

そう、どんな時でも単純明快に飛び込んで拳を振り回していたタツミヤが、頭を使った。

それは人によっては脅威に思うが、人によっては「持ち味を殺す」という印象を抱くこともあり、アースにとっては後者だった。

そんなアースの言葉に、タツミヤの額に血管が浮き出て、今にもまた飛び出しそうな勢いだった。

「兄上、挑発に乗るな! そうやって、その男は兄上を動かそうと―――」

「じゃかしいわ! 黙っとれや!」

受け身になろうとしたタツミヤを挑発して動かそうとしている。そう思ったオツがタツミヤを抑えようとするが、タツミヤの怒りは収まりそうにない。

するとアースは……

「まあ、このまま忍耐勝負をしても、それでもあんたに負ける気はしないが……さっさとあんたを動かして、意識断ち切るカウンターで倒してやるよ」

「ああん!?」

全身から自信に満ち溢れた笑みを浮かべて、その場にいた「トレイナ以外」は見たこともない構えを見せた。

「ブレイクスルーや大魔螺旋やフェイントばかりに捉われず、これまでの経験や身に着けたもの全てを駆使する……そういう意識で戦おうとしただけで、あんたを倒す方法がいくらでも思いついてな……見せてやるよ!」

アースのその言葉にエスピたちも目を見開く。

「スレイヤ君! あれ、分かる? 私、見たことない!」

「僕もだ……まさか……お兄さんの新技?」

「……なんだと? いや、しかし……あのフォーム……どこかで見たことがあるような……」

「わぁ! アースの新技ですか! わくわく! わくわく!」

「んぁ! いくのん、おにーちゃん!」

皆も知らないアースの技のお披露目。

ゴクウたちも何が飛び出すのかと息をのみ……

『そ、そう来たかぁ……ソレは余も予想外の技を……いや、確かに有効だが……』

トレイナも、アースが繰り出そうとするものが何かを理解して苦笑する。

そして……

「なんや……なにが……はん、なんでも来いやぁ!」

「来るのは……あんただよ!」

「なんやて!?」

アースは繰り出す。

「ダソソ!」

「……は?」

「「「「「「……………?」」」」」

「ダソソ! ダソソ! ダソソ!」

「( ゜д゜)ポカーン?」

「「「「「( ゜д゜)ポカーン????」」」」

アースが妙な掛け声とともに、妙なキレのある力強いダンスを始めた。

一瞬、誰もが目を疑い、誰もが言葉を失ったが……

「ッ、あ、あれは! 確か、バンビノ族の?!」

先に反応したのはヤミディレで……

「ウキ? なにを……あ、あれ? 俺様……」

「な、なぜ!?」

「ッ、私たちまで引き寄せられ……ッ、タツ様!」

ゴクウたちはポカンとしながら、なぜかフラフラと足が自然とアースに引き寄せられていることに気づき、ゾッとする。

そして、アースの妙なダンスと掛け声をまっすぐ向けられているタツミヤは……

「アレ? ワイ? あ、アレ!?」

受け身の姿勢から、すべての攻撃を受け止める気概で構えていたはずが、フラフラと夢遊病のようにアースに吸い寄せられていることに気づき、頭がパニックになり……

「いらっしゃい!」

「はっ!? あ、えっと、ガチンコ―――」

そして、気づいたら目前に迫るアースの拳。

ハッとして、慌てて頭突きでガチンコカウンターをしようとするが……

「あっ……」

それも、フェイント。

アースはタツミヤのカウンターと同時に横に回り込んで、カウンターに対するカウンターで……

「大魔ジャブ」

「――――――ッ!?」

タツミヤの顎を、鋭くキレのあるジャブで素早く打ち抜く。

ダメージを与えるためではなく、意識を断ち切るためのジャブ。

次の瞬間には、タツミヤは糸の切れた人形のようにその場に倒れ、ついに突っ伏してしまった。