軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十五話 1位

一人の鬼がその視界に帝都を捉えていた。

壮観にして壮大。その威厳。その文明。あらゆる意味でもこの地上世界の最先端にして最大を誇るディパーチャー帝国の帝都。

物見の感覚で眺めるその鬼だが、その表情はこれだけのものを目の当たりにしても浮かない様子。

「というわけで、明日の夜だから~、鬼姫先輩も集合出来たらよろしくってことで~」

魔水晶の向こうにいる同志に向かって連絡事項を伝える、レンラクキという若い鬼。

だが、その連絡相手である魔水晶の向こうでは……

『いや、おま、今……えっと……結構プライベートなんだけど……だから周りに人もいてよぉ……』

今のレンラクキの言葉に明らかに戸惑っていた。

「周りに人? あー、そうですか~、じゃあ、殺しちゃえば問題なくない? ね? 鬼姫先輩さ~。っていうか、昨日から連絡してるのに全然出てくれないだけじゃなく、出たら出たで逆ギレとか、イケてなくないですか~?」

『……ァ゛?」

「……あ」

だが、レンラクキが流れるように不満を口にした瞬間、魔水晶越しでも空気が変わった。

数秒前まで戸惑っていたはずの鬼姫ことドクシングルのドスの利いた声が伝わった。

その反応に、レンラクキは余計にメンドクサそうになった。

『オイ、コラ……レンラクキ……テメエ―――」

「あ~、えっとぉ、今のはァ……あ~、もう、めんどくさいな~」

『ァァん!?』

「あ……今の無し……あ~、いいから早く来いって行き遅れババア……って……長鼻のテングのお爺さんが言ってるよ?」

『ッ?! テメエええええええええええええええええ、ァァアア!? テングだァァァ!? テングが言った? テングのクソジジイが言ったのかァ?! ぶっ殺す! すぐにそこ行ってぶっ殺してやらァァァ!?」

「そう、ついでに帝国滅ぼしてくれたら早く帰れるからお願いしま~す」

明らかに怒っている伝説の先輩のご機嫌をどう取るか?

考えるだけでも余計にめんどくさく、思わず口に出してしまったレンラクキは、何だかもう投げやりになってどうでもよくなり、代わりにテングを犠牲にすることにした。

だが……

「帝国流・疾風列斬!」

「わ……」

次の瞬間、レンラクキの魔水晶を持っていた右手首が一瞬でなくなった。

「あ……」

一瞬の風。鋭く、速く。あまりの切れ味に、痛覚すらも感じず、斬られてしばらくするまで、自分が斬られたことすら実感できないほど……

「あれ? 僕の手……あれ? あれ? あれえ? あ、痛い! これ、スゴイ痛い! 僕の手どこいっちゃったの!?」

失った右手。

そして、今になってようやく滲み出る血。

顔を青くするレンラクキが震えながら顔を上げると……

「この世に存在するオーガは悪いものだけではない……アースにそう気づかされ、しばらく様子を見ていたが……どうやら躊躇う必要はないようだな」

「ッ!?」

そこには、一人の剣士が立っていた。

『んあ? って、そのクソ陰気臭ェ声は!?』

「……ふっ……そして、こちらから聞こえてくる声もまた懐かしくもあり……複雑な心境だな……まさか生きていたとはな……」

長髪の黒髪をオールバックで後ろにまとめた、長身瘦躯の銀縁眼鏡。

黒いコートを羽織り、鋭い瞳で空を睨む一人の剣士。

「だ、誰? ぼ、僕の手を……」

魔水晶でキレ散らかしていたドクシングルすら、ギョッとしたように驚愕の声を出す。

そして男の右手には美しき長剣。そして、もう片方の手にはレンラクキから奪い取った魔水晶。

「不穏な気配を感じて来てみれば……ハクキの斥候か? そして、久しいなドクシングル……先ほどは、テングの名も聞こえたが……」

『テメエ、ライヴァールッ!?』

「え……ライヴァールって、だ、誰だっけ? あ、でも、この人、めちゃツヨ……」

そこには、七勇者の一人であるライヴァールが立っていた。

「帝都を滅ぼすだのなんだのと聞こえた……ドクシングルまで呼び寄せようとし、テングも居るとなると……当然……ハクキもいるのか?」

「あ、いや、えっと、あの……そ、そのぉ……」

「あえて、首を斬らなかったのは話を聞くため……言え、ハクキの率いる残党共はどこにいる? そして、明日の夜……というのは間違いないな?」

「はい、間違いないです。明日の夜。で、ハクキの親分たちはバラバラで現地集合って感じで、僕はひとっ走り様子見て来いって言われただけだから見逃してほしいなって……あと、痛いから手当して……」

そう、不真面目なレンラクキもまさか、いきなりこんなメンドクサイことになるとは思ってもいなかっただろう。

ただ様子見のためだけだったのが……

「ライヴァール様!」

「師範、勝手に一人で行かないでください!」

「むむ、そこに居るのは、魔族? オーガ!?」

さらに、七勇者のライヴァールに続き、甲冑を纏った帝国騎士たちが続々と駆け付けてきた。

『ヲイ、レンラクキ! そいつと戦うんじゃねえ! そいつは、わっちがぶっ殺す! 七勇者のライヴァールッ!』

「ふっ……よりにもよって……ヒイロもマアムもベンリナーフすら不在の状況下で……ならば、この私が再び勇者として、かつての因縁ごと―――」

「だから、痛いんだってばァァァあ、手ぇ返してよぉぉ、お願いだからァァあ! って、囲まれてるしィィい!」

かつての宿敵。生きていた好敵手。その存在を感じながら、ライヴァールは心を燃やす。

戦争が終わり、大規模な戦いも死闘も久しくなってきた今日この頃。

かつて人類を守るためにあらゆる死地へと飛び込んで、勇者と呼ばれるようになった。

「帝都には決して近づけん! ドクシングル! そしてハクキ! たとえ、ヒイロたちが居なくとも、この帝国にはまだ私が居る! 陛下も……ソルジャも居る! 七勇者をあまり甘く見るな!」

『甘く見てねーけど、相変わらずムカつくぜ……わっちがいくら男に飢えてもテメエはお断りだ」

「こちらもだ。鬼天烈の『序列3位』の怪物なんぞ――――」

「だから手ぇ、痛いんだってばァァァァああ!」

七勇者の一人、世界最強の剣士とまで言われたライヴァールが、人類を、民を、国を守るため、命を懸けて再び剣を振るう。

「……だァ……クソ……って、あ! ムカついたから魔水晶を壊しちまった!?」

一方で、かつての因縁相手でもあるライヴァールと、魔水晶越しとはいえ久々の再会をしたドクシングルは、思いのあまり強固な魔水晶を素手で握りつぶして壊してしまった。

おかげで、これでもはや向こうの様子を伺うことは不可能。

「ぬぅ、し、しかし、ドクシングル! どういうことじゃ! 帝都を……帝都をハクキたちが!」

「いや、わっちに言うなよ、マルハーゲン! つか、わっちもいま聞いて驚いたんだし!」

そして、この状況で我慢できずにマルハーゲンが立ち上がって声を荒げた。

マルハーゲン以外人間のいないこの状況下、ほとんどの者が帝都に思い入れがあるわけでもない。

しかし、それでも……

「ら、ラル先生ぇ……帝都って、アース様の故郷だよね……ひどいこと言ったりした人たちだけど……で、でも、それを滅ぼすって……」

「う、むぅ……し、しかし、あの帝都を……ハクキ大将軍がこんな前触れもなく……」

「何やらとてつもないことが起ころうとしているようだね……坊やの故郷か……鑑賞会ではあまり美しい人たちはいなかったようだが……」

そう、アミクスやガアルたちからすれば「アースの故郷」ということになる。

何よりも、思い入れが無かったとしても、地上世界における人類の盟主とも言える帝国である。

まさに人類の中心という国をあっさりと「滅ぼす」などと、事態があまりにも大きすぎる。

だが……

「だけど……まぁ……ハクキの大将はヤルならガチでヤルだろうな……いや、ほんとマジで」

ハクキの率いる部下たちの中でも最強クラスであり、側近中の側近でもあるドクシングルが断言する以上、間違いなくそうなのである。

「い、急いで帝国に! そして、アース・ラガン君に伝えねば!」

「いや、ちょっと待て、マルハーゲン! そうなるとわっちもまた立場が色々と複雑で……」

「ダーリン! そ、そうなると、その……」

そう、帝国の危機ならば急いで知らせなければならない。特にアースに。マルハーゲンがそう口にするが、ドクシングルは顔を顰め、そしてショジョヴィーチは複雑そうな表情を浮かべる。

「あ、そっか……ショジョヴィーチさんは、あのハクキって人の仲間で……そうなるとアース様と……あ……」

そう、アミクスもハッとして悲しそうな顔を浮かべる。

ショジョヴィーチにとってドクシングルはかつての友人でもある。そして、ドクシングルが居たからこそ昨晩は自分たちも助かったのである。

だからもし、ここでハクキたちと対峙するような立ち回りをするのであれば、それはすなわちドクシングルとも敵対する立ち位置になるのである。

「ダーリン……そのぉ、それによぉ、その、アース・ラガンって帝国が嫌で飛び出したわけだしよぉ……ひょっとしたら、救わないとかも……」

「だ、だが、ワシは……もう十数年も行ってはおらんが、帝国はワシにとっても……」

「だ、ダーリン……」

ショジョヴィーチも強く言えない。「ドクシングルと対峙するような立ち位置になりたくないから、帝国を見捨てたらどうだ」とは。

「ドクシングル殿……あなたは、この状況……やはり、行かれるのか? 鬼天烈の序列3位として、ハクキ大将軍と共に帝国を……」

ラルウァイフが重い口調で尋ねる。

本当にこのまま帝国へ向かって、帝国を滅ぼすのかと。

だが、そこでドクシングルは頭を掻きむしり……

「あ~~~、もう! あ~~~、もう! なんかもー、わっちも、なんつーかァ、あ~~もう! なんか、ややこしくなっちまったよなァ~。まぁ、アース・ラガンとまだ仲良くなったわけじゃねえから、野郎と戦うのも気にしねえし、ライヴァールぶっ殺すのも、つーか帝国を……あ~~~~、つうか、その前に、レンラクキもぉ! つーか!」

そして、イライラしながら乱暴にまくし立て……

「つーか、さっきのライヴァールもそうだが、ラル、お前も情報古いんだよぉ、ムカつくなァ!」

「は?」

「わっちはなァ! 今は序列……『4位』なんだよぉ!」

「……へ?」

「「ッッ!!??」」

その言葉に、ラルウァイフ、そしてマルハーゲンもショジョヴィーチも固まった。

「かは……いったァ~……もう、右手が痛いよぉぉ……ま、もう慣れたからいっか。血も止まってカサブタになったし~、片手無しの縛り人生プレイを楽しんじゃおっとぉ♪」

斬り落とされた右手の激痛に半べそ掻いていたレンラクキだったが、急にコロッと態度が変わって、「ま、いいか」と切り替えた。

そして、その逆の左手もまたグッショリと血に染まっていた。

真っ赤な……

「が、ガハ……な、ば、かな…………」

血だらけに染まって這いつくばっているライヴァール。

「が、あ」

「ば、けもの」

そして、同じく這いつくばる全滅した帝国騎士たちからの真っ赤な返り血で。

「き、さま……何者?」

「はァ? なに? なに? 問答無用で人の手を斬り落としてくれたくせにさ~、ここにきて人の名前を聞くとか遅くな~い? なになに、ほんと態度悪いオッサンだね、ムカつく~」

「ごぶっ」

「あとさ、おじさん情報古いよ~? 鬼姫は序列4位だよ?」

「……なに?」

瀕死のライヴァール。信じられないと言った表情で、自分をここまで叩きのめした、謎の存在。

すると、その鬼は鋭く邪悪な笑みを浮かべながらライヴァールを踏みつける。

その鬼こそ……

真・鬼天烈大百科・序列1位:レンラクキ