軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十六話 迎えに来た家族の恐怖

「お兄ちゃん無事いいいいいいいい!?」

「お兄さんンんンンンンンんんンん!!」

「クロン様ァァァァァァァァァァァ!!」

目の前で巨大なクジラを串刺しにし、瞳を抉り、海を大量の血に染め上げた悍ましい状況下で、エスピ、スレイヤ、そしてヤミディレはアースとクロンに飛びついて熱烈なハグをしながら半泣きだった。

「いや、無事だから、お前ら、いや、あの……ケガねえし」

「わぷっ、んもう、お母さん大丈夫ですって。アースが守ってくれましたから」

二人は無事。それどころか無傷である。しかし、そんなことなどお構いなしに、三人は過保護丸出しでアースとクロンを抱きしめて全身を触れてケガ一つないことを入念に確認しようとする。

「んもぉお、配達に行って帰ってこないと思って心配したら~、配達先に確認したら二人は居ないって言われてぇえええ!」

「まったく、僕たちがその瞬間どれだけ、どれだけ……『まさか、またお兄さんが望まなくてもどこかに飛ばされるパターン?!』と心配したことか!」

「クロン様……ふう、ふう、ふう、ふう、……ご、ぶじで……嗚呼、ご無事で何よりです」

二人に傷一つないことを確認し、改めて三人は各々を強く抱きしめる。

そして……

「「「さて……」」」

二人の無傷と存在を十分に確認し終えた三人は、ユラリとその禍々しい眼光を血に染まった鯨に向ける。

――人間……そして……暗黒戦乙女……よくも

「「「うるさい」」」

――ッ!?

そして圧する。

「おんわー! 怖いの怖いの怖いのん! 三人とも怖いのん!」

その圧倒的な射殺す威圧はヒルアが漏らし泣きするほどであった。

――どこまで愚弄を……させない!

だが、それで屈服するほど伝説も甘くはない。

鯨は大量の血を流しながらも、その場で身体を捩らせる。

痛々しいほどに巨大な銛で串刺しにされたままでも、構わず動く。

エスピたちを遠ざけようと勢いをつける。

「今夜は鯨カリーかな、エスピ」

「うん。お兄ちゃんとの思い出カリーだけじゃなく、レパートリーを増やさないとね」

「それなら問題ない。我が魂の主君が残した大魔フィッシュカリーのレパートリーも豊富なのでな」

ただ、それで驚いたり狼狽えたりするわけでもないエスピたちではあるが……いずれにせよ、その巨体を揺らすだけで、巨大な水しぶきが津波のようになってエスピたちを襲撃する。

「ふわふわ海割り!」

―――ッッ!!??

その巨大な波がエスピたちを飲み込もうとした瞬間、エスピは両手を水平に広げる。

すると、波が、それどころか「海」が二つに分かれてしまったのだ。

「うお、おおお、海を割りやがった! エスピ!?」

「わあ、すごいです!」

「おんわー、あのお姉ちゃん、いんや、妹? エスピちゃん、どっちにしろおっかないのん!」

「もはやかつてとは比べ物にならない力……」

『あやつ、そのうち大陸ごと持ち上げたりしそうだな……』

この所業には流石にアースやヤミディレたち、何よりもトレイナすら呆れたように笑った。

そして、鯨も口開けたまま固まる。

「えへ? すごい? お兄ちゃん、私スゴイ? えへへ、すごい?」

「お、おお……すごいすごい」

そんな皆の驚愕の中で、エスピは鼻の下伸ばしながらアースにスリスリ。

頭を撫でてくれと言わんばかりに、アースに頭をズイッと向ける。

「むっ……」

そんな中でスレイヤは……

「やはり、大きな魚はしっかり捕らえないとね……聖光呪縛錬鎖!」

何もない空間から突如と出現した、巨大で長い鎖。

それが鯨の身体をグルグル巻きにして、そしてその強度は今度こそ鯨がどれだけ捩ろうとも千切れることはない。

「うおおお、鎖!? しかもデカくて長ぇ、あんなのを一瞬で!?」

「捕縛完了……どうかな? お兄さん? ふふふふ、妹よりも弟の方が優秀だよね? ね? お兄さん」

そしてスレイヤもニンマリした笑みでアースにくっつく。

「……あ~、ふ、二人とも……すごいなー、えらいぞー……いいこいいこ」

「「くぅ~~~~~!!!!」」

もはやアースも唖然として、顔を引きつらせながら両手で二人の頭を撫でると、二人は目を輝かせて顔を赤らめて興奮して悶え悦んでいた。

――ばかな……ありえない、強い……強すぎる……これほどの……

「まぁ、そういうことだ。お前たちが海に引きこもっている頃から、六覇も含めて地上の勢力図も次世代の才も着実に変わってきている。伝説という称号も相手によっては、ただの中古品扱いだ」

――ヤミディレ……

「まぁ、流石に私も驚いたし……もう、エスピやこやつらとやり合う気もないし……というか、将来は親戚になり、カリー屋を共同運営するのだしな……」

そして、身動き取れずに海に浮かぶ鯨の真横に、再びヤミディレがクロンを抱きかかえたまま静かに下降する。

ヤミディレも色々と呆れたような表情をしており、少し鯨に哀れんだ様子を見せる……が……

「とりあえず、今はあの二人と私も気持ちは同じ。貴様、よくもクロン様を生臭い腹の中にいれおったな? もう片方の目も抉ってくれようか?」

――ッ!?

「ちょ、お母さん、お顔怖いです! それにやりすぎです! 私はほら、こうして無事なのですから、これ以上は可哀想です!」

再び鬼の形相を見せるヤミディレを、宥めようとするクロン。

――ぐっ、なんという……それに中も……ハチコたちは……ッ、むごい……何と酷い……まさかこのようなことに……

もはやこの空間において、深海の巨大にして伝説の怪物は手も足も出ずに敗れてしまったことを示していた。

だが……

――しかし、これはこれで……主要な戦力が既にこの地に集まったことを意味する……

血みどろになり、身体を縛られながらも鯨は……

――これを見逃す……オツではない

不敵に笑みを浮かべた。

「とにかく! あのライヴァールのクソ野郎、ひょっとしたら負けるかも、つうかぶっ殺されてるかもしれねえ! わっちの因縁だってのに……あの忌々しいクソガキ、強さだけはガチだからよぉ……つーわけで、わっちは帝国に行かねえと!」

「いや、だからドクシングル、それは……」

「止めるんじゃねえよ、丸ハゲ! イイか? テメエとも過去には色々あったが、ショジョヴィーチの夫ってことに免じてクソぉ、結婚しやがって、つうか、テメエをぶっ殺したらショジョヴィーチも独身に戻るか?」

その頃、ナンゴークの島にある一軒家ではちょっとした騒動になっていた。

「どうすればいいのかな、ラル先生……」

「アース・ラガンの耳に入れないわけにはいかないでしょう……ただ、その後どうするかは……」

「果たして、坊やはどう動くか……」

偶然知ってしまった帝国転覆を狙うテロ計画。

それをどうすればいいのか、自分たちはどのような立ち位置にすればいいかと。

そんな中で、ドクシングルはドアを開けて帝国へ向かおうとしており、それをマルハーゲンが止めようとし、そのマルハーゲンをショジョヴィーチが止め、アミクスやラルたちはオロオロしているだけだった。

「やれやれ……敵か味方か……そういう単純に色分けできないからこそ…………むっ」

そんな人と魔族の争いと、各々の事情に苦悩する者たちを、どちらの存在でもない天空族であるガアルは興味深そうに眺めている。

だがそのとき、ガアルが何かに気づいて表情を強張らせた。

「ガアルさん、どうしたの?」

「王子? ……む」

アミクスは首を傾げるが、ラルウァイフは分かった様子。

二人とも家の天井を見上げる。

そして……

「つか……今こっちは色々ゴタゴタしてるってのに……どこのバカが飛び回ってんだぁ!」

マルハーゲンと口論していたドクシングルが、金棒を思いっきり天井に投げつける。

すると、ドクシングルの圧倒的なパワーにより、天井は爆発したかのように吹き飛んでしまう。

「ちょっ、こらこらこら!」

「ワシらの家を……ぬうう」

流石にいきなり天井に金棒を投げて破壊されて、ショジョヴィーチもマルハーゲンも、そして三姉妹の娘たちも慌てて大騒ぎ。

だが、そのすぐあと、ドクシングルによって破壊された屋根の向こうには……

「天の導きに参った」

「「「「「ッッッ!!??」」」」」

翼を生やした、『若い』男。

長い金色の髪を靡かせて、纏ったその白い衣は神聖さを感じさせる。

「うおおお、なんだぁ、イケメンじゃねえか! わっち、独身! 家庭的! どうだ!」

「うわ、だ、誰?」

「わ~、誰だろ……あれ? どこか、ガアルさんに似ているような……」

その美形と神々しさからも天使と見紛う者がいてもおかしくないほど、皆が見惚れ……

「ッ、この感じ……うそだ……いや、し、しかし……」

そして、ガアルはその男から何かを感じた。

ありえない。

しかし、そう思いながらも頭の中に自分の良く知る人物が過ったのだ。

すると……

「さあ、迎えに来た……来やれ……我が元へ……第一世代の血縁よ」

落ち着いた口調でそう告げる男に……

「うおおお、わっちを迎えににいいいい、プロポーズッッ! っしゃぁ、ついについについについに! わっちもロストヴァージンの日がああああああ!」

「「「「いや、たぶん違うぞ!」」」」

そう、男が何者かは分からない。だが、その男は明らかにその言葉を「アミクス」に向けて告げていた。

さらに……

「そしてお前も……今ならばお前も受け入れられよう……ガアルよ。我が娘として我が子を産み、その後でその瞳を儂に献上せよ。そうすれば我が娘としてこれまでの全ては水に流してやっても構わん」

「ッ!?」

「あ? いきなり浮気か? ネトラレとか許さねえぞコラぁぁあ!」

話が余計にややこしくなった。