軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三話 平和な朝

朝から一同はほのぼのとしていた。

「お母さん、マジカルナン焼いてね。朝カリーの準備は私がやります、やるからね」

「……………」

「お母さん~?」

「ふぁ、ひゃ、ひゃい!」

「むぅ~、無視はメッ、だよ? アースやエスピさんたちと家族になったとき、親子の仲が悪いって思われたらマイナス何ですだよ?」

「で、ですから、それは、親子の仲ならアース・ラガンが……」

「メっ!」

朝食の準備。

準備は全部自分たちでやると張り切るクロンと、顔を真っ赤にしたまま俯いているヤミディレ。

「おいおいおいおい、どうしたんでい。妹分、昨日の夜に何が……おいおい、まさか一線越えて?」

「んあぁ~、でも、クロンちゃんはなんだか今日は一段とキラキラしてるのん! いつにも増してかわいいのん!」

それは毎日クロンと顔を合わせているブロとヒルアでも驚くような変化。

「なあ、妹分が師範にあんな態度してんの……お前さんが何かしたのか? 兄弟」

「へへ……まーな」

誰に対しても敬語で会話するクロンの、ヤミディレに対してだけの変化。

昨晩まではそんなことはなかったのに、朝起きたらこうなっていた。

誰もがその変化はアースによってもたらされたものだと思うのは必然であった。

「はぅ……や、やっぱり、アース様とクロンちゃん……昨日の夜……え、え、っちなことしちゃって……」

「朝から品がないぞアミクス。お前は最近頭が桃色すぎて危ない兆候にある。レディとして慎みをだな……」

「ラルさんの言う通りだよ、アミクス。ただ……お兄さんが何かしたのは本当のようだけどね」

「ふふ~ん、クロンちゃん、かわいーねぇ~。シノブちゃんとは違うタイプだけど、こっちもお兄ちゃんの嫁度高いね~」

広い調理場の一角のテーブルを囲うように座って朝食を待つ、ブロ、ヒルア、アース、エスピ、スレイヤ、ラルウァイフ、アミクス。

皆で、黙々と朝食の準備をしているクロンとヤミディレを眺めながらホッコリしていた。

「ねえ、おにーちゃん、クロンちゃんになんて言ったのん?」

「ああ、実は昨晩―――――」

そもそも、何故クロンは今日からいきなりこんなことを?

昨晩、アースはクロンに何を?

それは―――――

「お母さんに敬語は使わない……ですか?」

「そうだ、お前はさ、今まで俺に対しても含めて、誰に対しても『です』とか『ます』で喋ってるだろ? ま、それはそれでお前の特徴の一つなんだけど、ここはあえて、『世界でヤミディレ一人だけ敬語は使わない』ぐらい、特別感を出すんだよ!」

それは、クロンのヤミディレ攻略に対するアースの思いつきだった。

「そもそも、お前はヤミディレに敬語使ってほしくねえのに、お前が敬語使ってどうすんだよ。とはいえ、ここでお前が俺とか含めて周囲にまで敬語使わないっていうよりは、あえてヤミディレにだけ……世界でただ一人の家族だけにはってな」

「なるほど……お母さんに『様』で呼ばれたくない、敬語を使われたくない……そのためには……ですか。でも、アースともいずれ家族になるのですから、アースにも敬語はおかしいのでは?」

「いや……ま、そ、それはそのとき、というか、ほら、お前とヤミディレの長年の関係、生まれた時から一緒なのに、お前のそういう変化が後から出会った俺と同じってのもな? な?」

「むぅ……」

可愛らしく顎に手を当てて真剣に考えるクロン。

ヤミディレともっと本当の親子らしく……そのためには、確かに悪くないかもしれないと思っている。

ただ、唯一の問題なのは……

「アース……ところで……」

「ん?」

「…………敬語を使わないってどういうふうになるのでしょうか?」

「…………」

これまで敬語を使ったことがないクロン。

だからこそ、使い方がイマイチよく分からないというのがあった。

「ほら、俺とかさ、ブロとかが話してる感じで……ほら、試しに練習してみろよ」

「は、はあ……ん~……」

だからこそ、まずは試しに練習。

自分や周囲の者を参考にと、アースが提案すると、クロンは……

「えっと、……く、くはははははは、お母さん、今日から俺は敬語つかわねーぜ、がんばろーぜえ! ……ど、どうですか?」

「すまん。俺とかブロとかはやめよう。これは逆に怒られる」

「む、むう……ダメですか……」

「ここは女の子の方がいい。女の子で、もっとフランクなの。ほら、エスピとかすごいフランクだろ?」

「で、でも、私、アースの妹とあまり会話したことが無くて……」

「じゃあ、カクレテールで他にもいるだろ? ほら、それこそ教会で……」

「フランク……と、言いますと、カルイですね! では……にひひひ、お母さん、今日から私、敬語使わねーっすよ~……えへへ、ど、どうですか? ちょっと恥ずかし……アース?」

「す、すまん……やっぱ、それはなし……」

歯を出して「にひひ」と笑うクロン。普段とは違うクロンの笑い方のギャップで思わず可愛すぎて顔を真っ赤にするアースはソッポ向く。

だが、可愛いけどこれは無しと、却下した。

「なら、アマエです…………お、お母さん……ぷんだぷんだ――」

「ちがーうっ! 可愛いけど、つーか、ツクシさんがいるじゃねえかよぉ!」

「そうでした! コホン、お母さん、敬語はやめるかな! 私もやめるかな! もっと仲良くしたいかな!」

「なんかわざとらしい! あえて、な感じで不自然だ……フィアンセイは! 少し話はしただろ?」

「えっと……お母さん、我は敬語使わぬから、そなたも――――」

「却下! シノブで!」

「うう……お母さん、私は敬語使わないわ。だからお母さんもそうしてくれると嬉しいのだけれど」

「悪くはないけどなんか距離ある! ガアルは!」

「あううう……お母さん、君にはこれから敬語使わないよ、僕の可愛いことりさん」

「全然ダメぇ! つーか、もっとちょうどいい女はいないのか?!」

「う~……他には……この人も話したことはないですけど特徴的なので分かります……お母さん、敬語はやめるのじゃ!」

「それは俺がヤミディレにぶっ殺されるから絶対にそれだけはやめろ! ってか、もはやなんかモノマネ大会になってるぞ!」

と、意外と身近な例というので参考にできそうなものがないということで、悩ましいことになった。

「やっぱ……エスピ……あとはアミクスあたりな感じが……そうだな。アミクスがいいかもな」

「え、ええ……むぅ……あの女の子ですか……」

「ああ。それこそアミクスは家族の仲は抜群だしな……」

「…………」

「鑑賞会でのアミクスの様子から、なんか話し方とか分かんねーかなぁ? どういう場面だったか俺も正直分からねえけど……」

そう、親子でフレンドリーで家族関係良好という意味で、アミクスはいい例かもしれなかった。

だから、アミクスをどうにか……と口にするアースだが……

「アースは……意地悪です」

「え?」

なぜか、可愛らしく頬を膨らませて少し拗ねた様子のクロン。

なぜ?

アースは本当に分からなかった。

だが、クロンは不機嫌なまま、とりあえず立ち上がり……

「でも、分かりました……アースがそこまで言うなら……むう……ふっ、ふっ、ふっ!」

「は?」

クロンは急に両手を胸元に、そして全身を左右に振り始めた。

その動作の意味は? アースがキョトンと首を傾げると……

「ううう……オッパイが揺れません」

「ッ!? いや、真似するのそういうところじゃ――――」

「だ、だって、あの御方、喋るたびにオッパイがブルンブルン揺れているんですもの! それを参考にって……アースは意地悪ですぅ!」

と、ヤミディレの前に、まずはクロンの敬語を取ることの方もだいぶ苦労したアースだった――――

「――――ってな、ことがあったんだよ。いやぁ……苦労した」

「「「「「あははははははははははははは!!!!」」」」」

そのことを、ケラケラと笑いながらアースは語り、皆もそれを聞いて笑った。

「クロンちゃんって本当にかわいー!」

「ふふ、そしてなんという破壊力。ヤミディレ大将軍が手も足も出ぬとは……」

「たしかに、シノブとは違うタイプ……ただ、色々と健気なところは同じ」

「だよねー。どうする、スレイヤ君。どちらも甲乙つけがたい……」

「しっかし、そうなると、後は師範次第って感じだな。おーい、師範~、娘にその態度はねーんじゃねぇの~?」

「そうなのん! いい加減、クロンちゃんに報いてあげるのん!」

全員で笑いながら、そしてクロンを応援するように声を上げる。

すると俯いていたヤミディレが鋭い眼光で顔を上げ、

「貴様ら黙ってろ、朝食抜きにして殺すぞぉ!」

「お母さん、お客さんもいるのに朝からそんな怖いこと言ったらメッだよぉ! ほら、メっ!」

「はぅ、あ、ぅ、ぅ……」

しかし、顔が真っ赤で何も迫力もなく、そしてクロンに諫められてまたシュンと縮こまってしまい、皆が余計に笑うだけであった。

そして……

『くはははは、あと一押しだな……なあ、そういえば……ヤミディレってもうあんたの存在に気づいてる……って、思ってていいんだよな?』

『まぁ……十中八九な。おそらくどこかのタイミングで聞いて来るだろうがな……』

『そっか……ま、あのノジャですら気づいてるっぽかったしな』

皆と同じように微笑ましそうにヤミディレとクロンを眺めているトレイナ。

今は何も深く追求してこないが、その存在はもう鑑賞会でヤミディレ辺りにはバレているという認識。

鑑賞会時はそれを焦ってどう誤魔化すべきかと頭を抱えたアースだが……

『今のヤミディレになら……誤魔化す必要もねーかもしれねえな……クロンには説明できねーだろうけど』

『………………………』

今のヤミディレならば『トレイナの存在を知って、人類の害になるようなことを企む』などは絶対にないだろうという確信があったからだ。

『それによ、何だったらあんたの一言でヤミディレもクロンに対して――――』

『ふん、それは放っておいてやれ……誰かに命令されて態度を変えては意味あるまい……』

『……ん……まぁ……そりゃそうだな……』

『ヤミディレもそう遠くないうちに己の気持ちを理解するであろう……それまで待ってやれ……ただ、それでもどうしても、何か余からの言葉をヤミディレに求められたら……』

『ん?』

『好きに生きよ……そして、今のこの光景……嫌いではないとだけ伝えておけ』

『はははは』

トレイナはあくまで命令はしない。しかし、どこかしら背中を押すような気持が込められている温かい言葉を口にした。

だが、そこで……

『ただ、万が一ヤミディレが余のことを追及してこないのであれば……まあ、その、な、あ~……無理に余のことをペラペラしゃべる必要はないと思うぞ?』

『え? なんで?』

『な、なんでっ、て、まぁ、余のことを知られることでのリスクは最小限にということで……そ、それに貴様も面倒になると思うぞ! 色々と付きまとわれたり監視されたり、面倒だぞ!』

『あー、まあ、そりゃそうだよな。なんか、エスピとスレイヤにバラして、んでその後であの鑑賞会だし、段々俺もマヒしてきたかもしれねえな』

『いかんぞ、それは! エスピとスレイヤは許し、まあ、誤魔化し切れぬ六覇までは……だが、それでもバラす必要なければバラすでない!』

最近、トレイナの存在が一部にバレバレになりそうで、アースもその秘匿に対しての感覚が緩み始めたことをトレイナは一喝する。

自分の存在が他者に知られることによるリスクやらを色々と捲し上げた。

『それに、修行の時間も減るではないか! 今の貴様もまだまだまだまだ未熟ゆえに余が鍛えなければならんということを忘れるな! ただでさえ最近は修行の時間が減り気味でさみし、鈍っているのではないかと! 余は思っているのだから貴様も自覚と危機感をだなぁ!』

『お、おう!』