軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六十一話 くんな

『ほぉ……こやつもまた変わらぬな』

トレイナが懐かしみを込めてそう呟くものの、空から降り立つ謎の巨乳美女の存在にまるで状況がつかめぬアース。

その美女はのたうち回るゴクウの側に降り立つ。

背も高く、キリっとした顔立ちな大人の美女という雰囲気を感じ取ったアース。

だが、その大人な美女が突如少女のように頬を膨らませて、

「ぐぅ……セイレーン、何でぇ? お、お前の持ち場は―――」

「だーかーらー、こっちのセリフだっつーのぉおおおおお!」

「ぎゃああああああああ!? 頭がぁあああああ!?」

「それに、どういうことでいきなりアース・ラガンと戦ってるんだっつーのぉおお!」

ゴクウの耳元で叫ぶ女。それはアースたちにとっては耳鳴りがするような大きな声。

だが、ゴクウだけには違うのか、大袈裟なほど更にのたうち回った。

「ハニー……この人……セイレーンって」

「……あ……ああ」

そして、さらにゴクウが口にした気になる名前。女に向かって「セイレーン」と言った。

それが指し示す意味は……

「あ~……お取込み中のところワリーんだけど……どういうことなのか、こっちも知りてーな」

とりあえず、このままでは埒が明かない。アースが女に話しかける。

すると女はアースの言葉に反応して顔を上げ、真っすぐアースを見つめ……

「……わ……ほ、本物の正義のヒーローのラガーンマン……アース・ラガンだっつーのだよぉ~」

「……ん~?」

「……あれ? でも……え? あれ?」

アースを確認したうえで、急にアタフタしだす。

しかし、女は何かにハッとしたようにアースや周囲を見渡し、急に真顔になる。

そして……

「あれ? ねえ、スレイヤとエスピはどこにいるんだっつーのぉ!」

「え?」

「再会してたのに、まさかもうバイバイしちゃってんるんだったら、ウチは許さないんだっつーのなんだけど!」

「いやいや、バイバイなんてしてねーよ! たまたま今この場に一緒にいないだけで、エスピとスレイヤとはこれからもずっと一緒だっつーのぉ!」

「ッ!?」

何やら急にアースに対しても怒ったような口調でまくし立てるので、アースも思わず乱暴に返す。

だが、その言葉は目の前の女だけでなく……

「お……」

「おおお!」

「これからも一緒……くぅ~~~!」

と……

「「「「「わぁぁあああああああ!!!!!」」」」」

―――パチパチパチパチパチパチパチ

ジャポーネ民たちも含めて拍手喝采であった。

「良き! 良きだっつーのだよぉ! アース・ラガン、良い男だっつーのぉ! そう、大切な家族は……いつも一緒、いつも一緒にいないとだっつーのだよぉ! 皆が幸せになるにはそれが一番!」

「つぅ、あ~もう、うるせーな! っていうか、お前、誰なんだよ! セイレーン? ゴクウの仲間か?!」

「あ、うんうん、自己紹介遅れたっつーの、うん」

感動の涙を流しながら拍手しながら何度も頷く女。

そして女は涙を拭いながら改めて真っすぐアースと向かい合い……

「ウチはセイレーン。お尋ねの通り、ゴクウくんとは仲間……ピーチ親分の翼! 雉神なんて呼ばれてたっつーのぉ……だっつーのぉ♥」

「ッ!?」

その名もまた、伝説の名前。それどころか子供ですら、特にジャポーネの者たちにとっては所縁のある名前……なのだが……

((((なぜあえて谷間を寄せて上目遣いッ!!??))))

伝説の名前よりも、アースも、そして他の男たちもどうしてもセイレーンの見せつけるような谷間寄せポーズに目が行ってしまったのだった。

「ッ、ハニー? 妹も見ているのよ?」

「はう! そ、そうだった! 大丈夫見て無い俺へいき!」

「…………やはり胸なの? ハニー……ぐぅ……」

ジト目のシノブにハッとさせられて、見惚れている場合ではないと慌てて取り繕うアースは気を取り直してセイレーンに問う。

「あ~、それで……このままどうするんだ?」

「逃がして欲しいんだっつーの」

「逃がす? この状況で何を――――」

と、アースがセイレーンの要望を拒否しようとしたら、シノブが慌ててアースをコッソリ小突いた。

「ちょ、ハニー、何を言ってるの! ここらへんで彼らには逃げてもらわないと困るでしょ!」

「は? 何言ってんだ、今こんないい状況で……」

「一連のことは全部演技なのよ? 忘れたの?」

「え? ……………」

これは全て演技である。

ゴクウのウマシカ誘拐やらなにやらは全て。

そのことをシノブに言われて、アースは……

「Σ(゜Д゜)アッ!?」

「やはり忘れていたのね……」

と、演技のことをすっかり忘れていたのだった。

一方で……

「まぁ、簡単に逃げられないのは分かってるんだっつーの。いくらウチとゴクウくんの二人がかりとはいえ、タダでは済まないのは分かってるんだっつーの。それにこの状況下でこれ以上『世界中』に見られているのに手の内を晒したりしたくない……そこで、交渉させて欲しいんだっつーの」

「え? あ、いや……ん? 交渉?」

アースが簡単に逃がすわけがない……と勝手に思い込んでいるセイレーンは勝手に話を進め、その上で真顔で自分の谷間をアースに改めて見せつけ……

「逃がしてくれたら、ウチの胸を好きにしていいっつーのぉ?」

「……うぇ?」

「鶏の胸肉は美味しいんだっつーのだよぉ?」

「ッッッッ!!!!????」

「アース・ラガンはオッパイに弱いのは知っているん、だっつーのぉ♥」

とてつもない発言に、これまたアースが言葉を失い、そして世界が揺れた。

「ぬわな、な、ななな……ッ!」

「「「「なんだっっっってええええええ!!!???」」」」

「胸を、あ、あの、すごい胸を!?」

「ブルンブルンの胸を?! 好きにしていい!? 食べていい!?」

「な、なんていう悪魔の提案!」

「っ、駄目よ、アース・ラガン! シノブちゃんが見ているのよ!」

「そうよ、クロンちゃんはどうするの!?」

「妹だって悲しむわよォ!」

「うぇえええ、ちょ、セイレーン、何でぇえ!? 俺様が揉みたいって言ったら脳を破壊しようとしてきたくせにぃ、アースだけズッリーッ!!」

ジャポーネ中……というか、まさに世界中から様々な声が飛ぶ。

そしてアースも「ゴクリ」と生唾を飲む。

(す、好きにしていい……食べ、あ、アレを、確かにどうなってるか気になるというか、ゴクウを逃がすのは元々の予定で、だからここは頷くしかないんだが、だけど、そうなると食べ……)

『ヲイ……』

(ッ!?)

だが……

『何を混乱している……バカ者。先ほどのゴクウとの攻防、少しぐらい褒めてやろうと思ったのに、やれやれ……』

『う、うう、トレイナ……』

『いい加減、免疫をつけよ。それにそもそも、貴様はつい先日、この手の誘惑に一度耐えたであろう?』

『え……』

『…………それに、単純な胸囲ならば、余の見たところ、あ奴より……その、アレだ、『あの娘の方』が大きい……』

『誘惑……アレより大きい……いや、アレより大きい胸なんて……あっ!』

ゴクウとの攻防では一切口出ししなかったトレイナも、これには流石に口を挟んでアースを戒める。

そして、アースもトレイナの言葉で思い出す。

――アース様、私のパイパイを……

「そうだった」

それを思い出し、アースは仮面の下で達観した気持ちになり、そして……

「セイレーン。俺をいつまでもそんなもので鼻の下伸ばして揺れ動くようなガキだと思うなよな?」

「え?」

「確かに昔は、そう、大昔はそういうのを求めたり、サディスに鼻の下伸ばしたりしていた時もあったかもしれねーが……俺ももう一人の男として、兄貴分として、いつまでも妹や弟に恥ずかしいガキのままじゃいられねーんだよ!」

「ッ!?」

「俺を見くびるなよな、セイレーンッ!!」

と、急に強気になって、アースはセイレーンの誘惑を跳ねのけた。

「んなっ!? こ、こ、断った!?」

「アース・ラガンが、あの、あのデカ乳の誘惑を!?」

「すごいわ、流石はアース・ラガンだわ!」

「うん、ほーんとウチの国の男どもと大違い!」

「シノブちゃん、よかったねー!」

「流石だわ、ハニー! 愛しているわ!」

アースのその発言に驚愕と拍手喝さいが沸き起こる。

セイレーンもまた、拒否されるとは思わず、少し狼狽えた様子。

「そうだぜ、セイレーン! アースには……アースにはフィアンセイがいる! フィアンセイは数年後には今よりもっと大きくなるし、アレはかなり芸術的な美乳に育つはず! 俺様には分かる! そう、アースにはフィアンセイのオッパイがあるからお前のデカいだけの胸には耐えられるんだ! シノブもクロンもイイ女だが、オッパイならばフィアンセイの勝ちだ! サディスよりもデカくなると、俺様は分かっている!」

「え!? そっち!? いやいやいや、なんだそれは!」

ここにきて、何故かゴクウが威張りだし、しかもフィアンセイの名前まで出しての謎のアピールで、むしろアースまで戸惑ってしまう。

そんな中で……

「ウチのセクシーポーズで悩殺されない……こ、これにはピーチの親分もいくらでもキビ団子くれたし、子分にもしてくれたし……ショックだっつーの……ッ、だけど!」

狼狽え、後ずさりするセイレーンだが、すぐに鋭い目つきでアースを睨む。

「所詮は理性! つまり、本能から出た言葉ではないっつーのぉ! そんな理性……ウチの谷間で挟んでハグすれば脆く崩れ去るに決まっているん、だっつーのぉ!」

「な……え、なに!?」

「だから……それを剥き出しにするんだっつーのぉ!」

「ッ、き、来やがっ――――」

誘惑が通用しないのなら、実力行使で強制的に言うことを聞かせてやると、アースに飛び掛かるセイレーン。

思わず身構えるアース。

だが――――

「疾きこと風の如しッ!!」

「―――————ッッ!!??」

「……は?」

セイレーンがアースに飛び掛かろうとした瞬間、突如強烈な疾風が駆け抜けて、セイレーンを弾いた。

「な、なにものだっつー……いいえ、それより……この技はっ!?」

突然の邪魔に驚き、同時にその受けた衝撃に動揺を隠せないセイレーン。

そして更にポカンとするアース。

すると……

「ワーッハッハッハッハッハ、ワーッハッハッハッハッハッ!!」

突如、どこからともなく声が聞こえ、その声の方向に皆が一斉に振り返ると……

「男は巨乳が好きとは、流石は太古の遺物は最近のトレンドが分からぬ時代遅れなのじゃ。今のトレンドは尻! アース・ラガンが好きなのは尻! そして激しくほじられたわらわこそがトレンドにして至高なりなのじゃ!」

「「……………ゑ……」」

屋根の上で両腕組んで高らかに笑う、妖しい幼女。その尻から伸びるフサフサの九つの尻尾。

その幼女を見て、セイレーンも、そしてゴクウも口を開けて固まり……

「助太刀に参上したのじゃ、我が婿殿ぉ!」

「くんなぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

『……ダメだ……もはや余も整理できん……』

そしてアースは激しく拒絶の声を上げ、トレイナももう匙を投げたように頭を抱えた。

「も、もう……どうなっちゃうのかしら、これ……」

同じく頭を抱えて項垂れるシノブ。

その近くで……

「う~、ノジャちゃん、置いていくのひどいよ~……私のボディーガードって言ってたのにィ~……うんしょ、うんしょ、ここに足をひっかければ……待っててね、アース様! 私も今すぐ助太刀するんだから!」

世界に散らばる乙女たちに強烈な爆弾を叩き込む危険物が、懸命に屋根によじ登ろうとしていた。