軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十二話 思惑

興奮して眠れない……ということはなく、エルフの集落はすぐに静かになっていた。

見ている方も疲れたのだ。

「……結構俺も映ったけど……もう、今の時代なら大丈夫……だよな?」

そんな中、寝る前に部屋の窓の前で、族長は空の月を見上げながら色々と考えていた。

(マスターキーのことも知られたけど、あんなもんを利用しようとするやつも……たぶん……パリピとかいうやつも肝心なとこは編集してたし……はぁ~~~、お兄さんたちを過去に連れて行ったとき、余計なの見せなくてよかった~……『衛星』とか、あとは『バックアップメモリー』……ああいうのまで出なかったし……ま、大丈夫……大丈夫……だよなぁ? ずいぶん昔に深海の方で動きがあったみたいだけど、当時の勇者が消滅させたみたいだし……)

今は静かになっているが、つい先ほどまで夜空で世界中に流れていた鑑賞会。

そのすべてがアースを中心に多くの出来事が流されたが、その中に自分も多少なりとも映った。

(本当なら……もうマスターキーなんてこの世に必要のないもの……お兄さんに言って廃棄してもらうというのもあるけど……でも……万が一……億が一……そんなときのための抵抗手段として……そう思うとなかなか踏み出せないね……)

そのことを族長は少し思うところがあった。

「あなた、どうしたの?」

「ん? いや、なんでもないんで」

「……そう……ふ~~~~~~ん」

ボーっとしている族長に妻のイーテェが尋ねるも、族長は心配かけまいと首を横に振る。

だが……

「こら」

「あだ」

そんな族長の頭をイーテェが頬を膨らませながらチョップした。

「何年あんたの妻をやってると思ってんの?」

「…………」

「そういうの、ほんと嫌だからね。ちゃんと話しなさいよ?」

「……ごめん」

「まったくもう……それとも……可愛くしたら教えてくれたりするの……かにゃん♥」

「うぇ?!」

と、イーテェが少し恥ずかしがりながらも笑みを浮かべて族長に猫パンチをして、族長が少し照れると、イーテェは族長の胸に飛び込んで。

「久々にラルのアカさんへの想いを見たり……エスピやスレイヤの涙や再会の喜びを見てたら……ね」

「……ん」

「……可愛くしなくてもたまには可愛がりなさいよ」

いつも愛する人と一緒にいられる幸せを、改めて実感して甘えてくるイーテェに対し、族長は素直に抱きしめ返して……

「大丈夫。出会った時から可愛いんで」

「……なら、可愛がりなさい」

「……おう」

そんな族長の言葉にイーテェも満足してもっとくっついて……

「んもぉ~~~~、おとーさんも、おかーさんも、ラブラブ~~♥」

「「ッッ!!??」」

と、そこで夫婦の寝室のドアをのぞき込むように、アミクスがニタ~っと顔を出した。

「ちょ、あ、アミクス!? こ、これは……って、あ、あんた、どうしたのよ!?」

「ん~、なんかね~、今日はお父さんとお母さんと一緒に寝ようかな~って」

「え? ななな、なんで?」

「なんでも!」

と、アミクスは族長とイーテェの腕を掴んで、そのまま一つのベッドに引きずり込んだ。

アミクスは嬉しかったのだ。

「もう、あんたももう子供じゃないのよ?」

「子供だも~ん♪」

「……それじゃあ、シノブにもクロンって子にも勝てないわよ?」

「んも~、今日ぐらいいいでしょ~? それに私なんか恐れ多い……」

鑑賞会を通じ、父と母が互いに昔から愛し合い、そして自分はそんな二人から生まれたのだと分かって、たまらなくなったのだ。

「はいはい、どーぞ」

「やたー! お父さんスキー!」

「もう、あなたはアミクスにはほんっと甘いわねえ! はぁ~、もう!」

そんな娘の幸せそうな笑顔の前に、族長もイーテェも何も言うことができず、素直に受け入れてそのまま横になることにした。

(……ま……今は考えても仕方ないか……俺を知っている奴らはもういないし……バックアップメモリー利用とか、星の向こうから誰かがやってくるとかそういうのもないはずだし、ましてや……時を超えて追いかけてくるというミラクルもないので大丈夫。俺はもう寝る。うん……だいじょーぶだいじょーぶ)

そして、族長は娘にくっつかれ、そして傍でイーテェの温かさも感じながら、口には出せないが確かな今の幸せを感じながら瞼を閉じた。

「なんだ……この亀……いや、甲羅か」

トレイナがヴイアール世界で創造した巨大な亀の甲羅を前に、アースはポカンとしてしまった。

そんな甲羅の傍らでトレイナはどこか色々と懐かしさも込めた笑みを浮かべた。

「もはや今となっては神話だがな……かつて、この巨大な甲羅を纏った神話の怪物がいた」

「え……え? ちょ、こんなのがいたのか?」

「うむ。今は亡き深海帝王に仕えた忠臣でもあり、後にとある人間の相棒としてその背に乗せて、なかなか厄介な存在であった」

「し……しんかい……てーおう?」

「うむ。深海の姫……乙姫の父に仕え……というか、アレだ。絵本にもなっていたであろう。イリエシマが助けた亀だ」

「…………え?」

トレイナの言葉にアースは改めて甲羅を見上げてポカンとする。

「待て待て、あれ系の絵本が実話をもとにってのはあんたの話から聞いてはいたけど……イリエシマの話はイジメられていた亀を助けただろう? こんなのイジメられるか!?」

「……まぁ、幼少期は誰でも小さかったのだ」

「デカすぎるだろうが!」

「それもそうだが、この手のタイプは後に巨大化の力を大人になって身に着けるのでな……それこそピーチボーイが引き連れた連中も……まぁ、的のでかい巨大化ではなく、巨大化で得られる力を人型まで圧縮したりするのもいたが……っと、それはそれとして、いずれにせよ防御力だけであればこの甲羅を破壊できれば、貴様もまた一つランクが上がるといってもよいだろう。試しに普通に大魔螺旋で叩いてみよ」

トレイナ自身も一度説明を始めれば非常に長くなると途中から察し、関係ない話は切り上げて、とにかく目の前の甲羅を叩いてみよとアースに告げる。

アースもとにかく今は言われたとおりに……

「よっし……大魔螺旋! おおおおおおおおお!」

咆哮し、とにかく目の前の甲羅目掛けて大魔螺旋を叩き込むとする……が……

「ッ!?」

「ふふん」

これまで味わったことのない手ごたえのなさ。大魔螺旋の刃先すら引っかからない感覚。

「硬い……いや、それだけじゃなく……」

「ふふん。甲羅の丸みもあって、テキトーに叩けばうまく刃先を立てられまい? 力も分散されるであろう?」

そう、ただ硬いだけじゃない。うまく突き立てられないのだ。

「この手のタイプはポイントに一点集中せねば、力が分散される。ただでさえ硬いのに、力もうまく伝えられないのだ。だからこその、圧縮大魔螺旋」

「……お、おぉ~……」

アースも手に伝わる感覚にこれまで味わったことのない違和感があった。

大魔螺旋が通用しなかったことは何度もあった。

バサラにだって弾かれた。

だが、その時とは違う感覚。だからこその課題なのだと納得もした。

一方で……

「つか、こんなのが昔、あんたの敵にいたのか? こんなの他の奴はどうやって倒すんだ? しかも実際はこれ、丸まってるだけじゃなくて反撃したり暴れたりしたんだろ?」

普通に大魔螺旋で倒せない敵が過去にいたのか? と、アースにはそっちの方も気になった。

だが、そこはトレイナも首を横に振り……

「甲羅を壊すではなく、倒すだけであれば話は別だ。甲羅ではなく手足や頭を叩けば良いだけだし、何だったらひっくり返して腹を潰すというのもある」

「うわ、ひでー!?」

「いや、それぐらい普通であろう! 貴様だってノジャの尻に大魔螺旋を叩き込んだであろうが!」

「あ、アレは事故だし!? いや、それはそれとして……じゃぁ、甲羅を叩き割って倒すって、あんた以外には無理だったってこと?」

相手の弱点を叩くのは当然のことであり、別に何も問題はない。

ただ、それはそれとして……

「まぁ……、甲羅も叩くポイントというか繋ぎ目みたいなのを叩くという工夫もあるが……あえて、そういうのを抜きに、ただの力だけで甲羅をぶっ壊してやろうというバカも居たりもしたがな――――」

「ぐわははははは! ふぬらばああああ!」

「っっ……」

「おっほぉ~、硬くてよいのぉ~。簡単に壊れぬのは嬉しいわい!」

両手を使ってただ甲羅を叩くバサラは、甲羅を砕けずとも楽しそうに笑っていた。

この世に存在する生物のほとんどは、バサラが軽く撫でるだけで引き裂かれる。

だからこうやって、力を入れて叩けられる存在はバサラにとっては久々で、懐かしさも加わって愉快になった。

「あ、あわ、げ、ゲンブ……ほ、本当に大丈夫なんだろうなぁ?」

浜辺で腰抜かしているヨーセイたちは、このままゲンブが殺されてしまわないかという恐怖と、そうなればその後の自分たちはどうなるのかということに怯えていた。

「ふぅ……あんま殴らないでほしいガメ……」

「じゃあ、反撃しろい。これではワシがイジメっ子みたいではないか」

「だから戦う気はないガメ……」

「でも、くだらんことをしようとしているのだろう? 無視しろと?」

愉快そうなバサラとは反対に、溜息を吐きながら丸まった甲羅から手足と首を伸ばして憂鬱そうな顔を浮かべるゲンブ。

すると、ゲンブはバサラをじっと見上げながら……

「あの鑑賞会で……」

「ぬ?」

「あの鑑賞会でお前に……カグヤ殿に対する未練もあり、月に引きこもって、それが現代まで続いていたというのは知ったガメ」

その言葉にバサラの眉が動く。

ゲンブはそのまま続け……

「それはイリエシマ様に対する私や乙姫様……ピーチ殿に対する猿たちの想いと同じガメ……」

「は? 猿? ……なんじゃ、あやつら、そっちにおったか……つか、乙姫ちゃんも生きとるのか?」

「あの方たちは私たちにとってはかけがえのない方……同じ作られた存在でありながらも……我々とは違う人間型……ただ、そういうのを抜きにしてあの方たちは……」

「……だからなんじゃ?」

過去に慕った人間への想い。しかしそれが何なのかとバサラが問うと、ゲンブは……

「だが……あの遺跡の最深部に行けば……もう一度あの方たちと会えるガメ!」

「……ん~……」

「あの方たちは私たちと違うガメ。人間として作られた……が、一つだけ大きく違うところがあるガメ。バサラ……かつて一度提案したが、もう一度言うガメ。なんだったら、お前もカグヤ殿たちと―――――ぶっ!?」

すると、ゲンブが全てを言い終わる前にバサラは思いっきり腕を振りかぶって、それをまた叩きつける。

ゲンブも慌てて手足を引っ込めるも、その甲羅ごと浜辺を激しく転がった。

「あ~、何かあれじゃろ? バックアップなんたらがどうとか……で、ワシは言ったであろう? それはカグヤであってカグヤではないと。そして貴様らにとってもイリエシマでもないと。あやつらは死んだ……あの時に死んだあ奴らはもういないとな。トレイナもそう言うておったじゃろ?」

「……バサラ……」

「そんな偽物を求めては、本当のあやつらが幽霊になって呪われるぞぉ? ま、ワシは化けて出られるならそれはそれで嬉しいかもだがのう」

「人は死ねばただの躯……幽霊も魂もこの世に存在しないガメ……そして、仮にお前が正論であっても、それでもあの方たちにもう一度会いたいという我らの気持ちは変わらないガメ」

そして、再び手足と首を伸ばして立ち上がるゲンブ。その目は先ほどまでよりも鋭くなっている。

「ふん。少しはやる気になったか?」

「いいや、逃げるガメ……既に『合図』は来たガメ」

「……ヲイ~……いい加減にするんじゃぞ? だいたい、おぬしらはトレイナ級の頭を持ってるわけでもないのに、あんな小難しい遺跡をどうにかできるのか?」

あくまで戦う気はないとするゲンブ。

だが、そのときのバサラのその言葉に……

「できるガメ……だからこそ動くガメ……トレイナ級の頭が無くても……希望があるガメ。あの鑑賞会でそれを知ったガメ。お前たちは知らないだろうガメが……」

「ん?」

「あの遺跡をよく知り尽くしていると思われる……第一世代が」

強い力を込めてゲンブはそう口にした。