軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十一話 そもそも二人なら

アースにとってはつい先日のこととはいえ、色々と胸が熱くなるものがあった。

アオニーやゴウダのこと。

そして何よりも、エスピとスレイヤのこと。

それを世界中に知られてしまったというのは恥ずかしい。

だが一方で……

「ま、アオニーやゴウダの事……もっと色んな奴に知ってもらえてよかったかもな。パリピは今度会ったらぶん殴るけど」

照れ隠しでアースがそう言うと、エスピとスレイヤも苦笑しながら頷いた。

そして……

「うぅうううう、よがっだよぉ~、姉さんも兄さんも、アース様もぉ~~~」

「ア、アミクス……」

せっかくのエルフの妖精のような美貌が鼻水と涙でクシャクシャになっている。

他の大人たちも泣いてはいるが、特にアミクスが酷かった。

「あは、もう泣かないのぉ、アミクス」

「だってぇ~、姉さんがぁ、兄さんがぁ、あんなに泣いて、あんなに小っちゃい頃でぇ、うえ~~~ん。よがっだよぉ~」

「うん。でも、ほら、もうお兄ちゃんとはずっと一緒だし」

「うん、うん……アース様ぁ、もう姉さんと兄さんを置いてったらダメですからねぇ!」

アミクスはエスピに抱き着いてワンワン泣いた。

「ああ。もう二度とあんなことしねーよ」

「絶対ですよぉ~、同じことしたら私でも怒っちゃいますよぉ!」

「あははは、それは大丈夫だよ、アミクス。そもそも、もう私たちが逃がさないし。ね? スレイヤ君」

「ああ。ふふふ、どこだろうとね♪」

アースにまで縋ってくるアミクスに対して、エスピとスレイヤはアースとアミクスを包み込むようにハグした。

アースも照れくさいが、今はそれを受け入れる。

「そうなのじゃ、もう二度と離れないのじゃ、婿殿~♥」

「って、お前は自重しろぉ!」

「はぐっ!? ひ、ひどいのじゃ、婿殿! わらわだって我慢してたのじゃ! どれだけ尻が疼いても、未来を変えぬよう……というか、昨日だってわらわのプリティーなお尻を―――」

そしてドサクサに紛れ込んでくるノジャを引き剥がし、そんなアースたちに周囲も笑っている。

「ふふふ、うらやましいわね。私もあの中に加えて欲しいわ。ハニーの妻になれたらその想いが叶うのだけれどね……はぁ~……それにしても……アレほどの灼熱なハニーを見せられたこの火照りはどうやったらいいのかしらね」

シノブは加わらず、しかしそれでも微笑みながらアースに物凄い熱烈な視線を向ける。

ただ、そんな中……

「いや……うむ……で……マジでどーすんじゃ?」

「世界の教科書が変わるじゃない? しかも、魔族側の反応も……もう頭痛いじゃな~い?」

「そうでござるな……」

「シノブの選んだ男に狂いはなかったどころか、どえらい男やんな~」

ミカド、コジロー、さらにシノブの両親はシミジミと呟きながら茶を飲んで、その目は現実逃避しようとしていた。

その理由は一つしかない。

「やはり一番は……ゴウダじゃな。アレ、ほんとに今後どうするんじゃろうな」

「ヒイロとマアム、さらにはソルジャやライヴァールの反応も気になるじゃなーい? ヒイロなんて絵本の印税をもらってるじゃな~い」

そう、ゴウダのことである。

勇者ヒイロのことを語る上で欠かせない、六覇の一角であるゴウダを討ち取った大偉業。

それが実はアースの功績だったことを世界は今後どうするか?

「ん? あっ……でも、今頃ワシが気にしても仕方ないのぉ! なんせワシ、ジャポーネから追放されとるから、もう政務には関われんからな!」

「おお、それならオイラもそうじゃなーい! あー、良かった!」

頭が痛くなる事態だが、ミカドとコジローは自分たちがジャポーネの現国王のウマシカにクビにされているということで、今の事態はむしろ良かったのかもしれないと冗談交じりで責任と考えることを放棄して笑った。

「……いっそ、自分もこのまま隠居――――」

「ん~?」

「……いや、何でもないでござる」

何だったら自分も……と、シノブの父であるオウテイも便乗しようとしたが、それはニッコリと微笑んだカゲロウが制した。

「まっ、とりあえず……世間がどうなっているかはもう想像するのも疲れるけど、とりあえずもうすでに見ている方もぐったりだよね……流石に今日はもうみんな寝た方がいいと思うんで」

と、本来なら色々と興奮で目が冴えるような展開ばかりだったが、流石に今日は疲れただろうと、族長が集落皆に声をかける。

「はは、確かにね」

「うん」

「子供たちはもうぐったりね」

「たしかに、ハッピーエンドで安心ってのもあるしな」

族長の言葉に皆も苦笑しながら頷く。

「そだね、お兄ちゃん。もう今日は寝ようね」

「そうだね、兄さん」

「うむ、婿殿。わらわが添い寝―――ほぎゃあ!?」

「はい、ノジャちゃんはだめだよぉ、アース様を困らせたら」

エスピたちも色々と満足したように笑い、今日はもう寝ようと頷く。

「ええ~い、離すのじゃ! そうじゃ、婿殿! 婿殿の傍らに居る御方も、殊勝なわらわに慈悲を望ん――――」

「もう、何言ってるの~? はい、ノジャちゃんは別の部屋~」

「そそ、そうだよ、ノジャ。もうお兄ちゃんの傍らとか何言ってるのかなぁ?」

「ま、まま、まったくだね。お尻と一緒に頭も壊れたかい?」

少し焦った様子のエスピとスレイヤも協力し、ノジャをグルグル巻きにして引きずっていく。

そしてアースは……

「ま~、確かに疲れたな。今日はもう――――」

今日はもう自分も見ているだけで疲れたし、アースもぐっすり休もうとした……その時だった。

『ヲイ……ヲイ……ヲイ、童ぇ……』

「……は……はは」

まさか、本当に休むつもりじゃないだろうなぁ? と、鑑賞会の途中から放置されていた師匠が頬を膨らませて腕組みしていた。

「いやぁ……身体は疲れてないけど、頭が疲れたよ……今日は」

「まぁ、それは分からんでもないがな。パリピも最後の方は全部曝け出していたからな……」

そして、ヴイアールの世界で向かい合うアースとトレイナ。

鑑賞会では周囲の目もあり「これどうする?」という相談も出来なかったので、二人とも頭を抱えていた。

「ってかさ、さっきのもそうだし……ノジャにはもうバレてるよな?」

「だろうな。他の六覇にもな」

アースにしか見えないトレイナの存在。このことは、サディス、エスピ、スレイヤしか知らない。

しかし、この鑑賞会を通じて幽霊の存在云々は別にして、他の六覇たちもトレイナの存在を感じ取ったのは間違いないと二人は確信していた。

「どうする?」

「まぁ、すっとぼけるには無理な情報が山ほどあったからな……ゴウダとのことは特に」

「……ヤベエよなぁ……特にヤミディレとかは何ていうか……しかも魔王軍の将は俺に恨み―――」

「いや、逆だろう。六覇はそれに関してはむしろな」

「……え?」

今回のことで、アースの存在が過去の人類と魔族の戦争を、エスピを森で救ったり、ノジャと戦ったりした時以上に大きく左右させてしまったことが世界にバレ、さらにアースとトレイナの繋がりを六覇は察した。

だから、そんな自分の存在を他の六覇たちは許せないのではないかとアースは危惧したが、トレイナの意見は違った。

「あやつらもそれほど器が小さくはない。ゴウダを見ての通りだ。ノジャとて仮に貴様に惚れていなかったとしても、貴様に恨みや復讐を抱いたりはせん」

「そ、そう……なのか?」

「うむ。ただ、問題は……魔界の民たちがどう思うかだがな。正直、パリピの鑑賞会で色々と感化された者たちもいたかもしれんが、大衆がどう流れるかまでは保証できんな」

「……だよな?」

仮に六覇がアースに対して恨みを抱いていなかったとしても、魔界の民たちそれぞれの反応までは分からない。

それこそ、かつての戦争で魔王軍が負けたことで失った命はトレイナやゴウダだけではないからだ。

誰もが六覇のような考え方ではないというのはアースにも分かっている。

だが、それでも……

「しかし、それでも貴様は言った。この世の全てを敵に回しても、エスピとスレイヤと共にいると」

「…………」

「であるならば、誰が敵に回ろうとも関係あるまい」

それは、トレイナの言う通りでもあった。

アースのその言葉は、決して気持ちが高まって思わず言ってしまったとか、そういう軽いものではない。

自分自身の絶対に曲げない信念として口にした言葉だ。

だからこそ、トレイナの言う通り、誰が敵になろうとやることは変わらないのだ。

「ああ……その通りだとも」

「うむ。それに、案外敵だけではないであろう? あの鑑賞会を通じて今後貴様に対して色々と企むよからぬ者たちが敵として現れる一方で、貴様に感化された味方も増えているかもしれんからな」

「そうかな~?」

「ああ。貴様と共に戦いたいと思う者たちがな」

味方。

そう言われてアースの頭の中にこれまで出会った者たちが次々と頭を過る。

そして、これまで出会った全員に、これまでの自分の全てを見られたことを考えた。

「フィアンセイたちとか、マチョウさんたちとか……クロンも驚いてんだろうな。何よりも……親父と母さんもな」

「うむ。今度誰に会おうとも色々と問い詰められるだろうな」

「だな。ま、その結果誰が味方になってくれるかはその時の状況次第だろうけど、あんたの言う通り俺のやることは変わらない」

「そうであろう? それにエスピもスレイヤも何があっても味方であると分かっている以上、よほどのことがあっても――――」

「はぁ~? 何言ってんだよぉ、トレイナ」

「ん?」

誰が来ようと変わらない。

味方が何人になろうと、敵が誰になろうと、そもそも―――

「ってか、そもそも俺とトレイナで最強なんだから、何も関係ねーさ!」

「……ふん。そうだな」

アースとトレイナ。二人がそもそも最強なのだから、何も関係……

「へへ…………」

「ふふ…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「/////////」

「/////////」

だが、流れで自信満々に言った自分の言葉にアースは顔を真っ赤にし、トレイナもしどろもどろになり……

「えええい、何をムズ痒いことを言っておるかぁ! 何を照れておる!」

「て、照れてないし! あ、あんたの方が照れてんだろうが!」

「照れとらんわ! ええい、さっさと今日の修業をするぞ、たわけぇ!」

「お、おお、修行だ修行! うおおお、圧縮大魔螺旋!」

「こら、圧縮が緩い! もっと抑え込め!」

空気に耐え切れなくなって大声を出すトレイナに、アースも頭を振って恥ずかしさを吹き飛ばしながら、唐突に修行に入った。

とはいえ……

「うおりゃああああ、どうだぁ! だいぶ小さくなっただろう!」

「それはただ魔力を減らしただけ。大魔螺旋ではなくノーマル螺旋だ。実際、それで相手を突いたところで大したダメージも与えられまい」

「え、ええ? そうかなぁ……?」

「うむ……まぁ、せっかくだ。試してみれば分かるであろう」

集中力が散漫になっている状態で熟せるような修行ではなく、それを分からせて気を引き締めるためにも、トレイナはこのヴイアールの世界を利用して……

「今から硬いものを用意してやる。今の貴様では壊せないものを、余が創造してやろう」

修行の課題を提示することとした。

「え? それって……まさかバサラの鱗とか?」

「いや……せっかくなので……『もっと硬いもの』……コレだ!」

そして、このヴイアールの世界でトレイナが創造したものは……

「え? ナニコレ……亀?」

「甲羅だ。暴れぬし、反撃もせんし、回転したり、変化したりするわけでもない、ただの甲羅だがな」

山のように巨大な、亀の甲羅だった。