軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百二十九話 感情移入

アース・ラガンは今も生きているのか?

ハクキ登場の際に世界中から沸き起こった疑問だが、少なくとも今回は助かった。

それは、一人の漢が命を懸けて救ったからだ。

オーガは本当に恐るべき存在なのか、そうではないのか。それは脆弱な人類には簡単に解決できない疑問である。

しかし、少なくともアオニーがアースやエスピやスレイヤ、そしてエルフたちの命を救ったことは紛れもない事実として全人類の心に刻み込まれた。

その事実に世界が心震える中、エルフの集落では……

『そうかぁ……アカぁ……生きていて……くれたのか……』

それは、戦争でアカが死んだと思い、人類に対して底すらない憎しみを抱いて復讐鬼となっていたラルウァイフが、アースからアカの生存を聞かされて涙を流している場面。

『まったく……小生はなんと滑稽な……真に愛する男の死を疑っていなかった……生きていると信じず……一方的に復讐だと喚いて小生のこの両手は……あの人が望まぬ程……拒絶してしまうほど血みどろに……もう二度と……会う資格がないほどに。ただ……生きていてくれているのなら……』

復讐鬼が心を取り戻し、愛する者の生存に感激しているシーンなのだが……

「……や、やめよ……」

張本人である『現代』のラルウァイフは、自分のそんな過去の姿を空に映し出され、当時は感動で震えていた体も今は羞恥で体がプルプル震え、褐色の肌が真っ赤になっている。

「…………ぐすっ……せんせぇ……よかったぁ~……うふふ」

「だめ、アミクス。笑ったら怒られる」

「だ、だって、姉さん、せ、先生が、か、可愛いし……よかったなって……」

集落では皆もプルプルと震えている。

それは、笑いを堪えているのだ。

アミクスも感動しながらも、それでも初めて見るラルウァイフの姿に思わず笑みが零れている。

さらに……

――幼い頃から愛していた……本当に心の底から愛していた初恋の男……

「ちょまっ!?」

――真に愛する男……そう、真に愛する男が死んでラルウァイフの世界は終わったかに見えた……しかし……真に愛する男は生きていた!

そこで、パリピのナレーションも入り……

『良かった……ほんとうに……よかったぁ……』

美しく、そして可愛い少女のような笑顔で涙を流すラルウァイフの顔がアップになり……

「やめよおおおおおおおおおお! ぬわああああ、や、やめええ、ぐっ、こ、これ、アカも見ているのであろう?! ふわああああああああああ!? 闇の賢人んんんん! なぜ、ソコをあえて三回言う!? なぜあえて小生の顔を全面に出す! ふぁあんん!?」

その瞬間、ラルウァイフは頭を抱えて恥ずかしさのあまりに地べたをのたうち回った。

「ふぉっふぉっふぉ、いやいやよかったのう。オーガどころか、人類のダークエルフに対する認識も変えてくれそうじゃわい」

「ほんとーじゃない! いやぁ、オイラ今まで姉さんのことを感情や考えが読みづらいと思ってたけど、こんな可愛いところ明かされたら、そのアカさんってのもイチコロじゃな~い!」

「かわいらしいなぁ~、ほんで、よかったやんな~」

「死んだと思っていた真に愛する人が生きていた……アミクスの言う通り、本当に良かったと私も思うわ。私だってもしハニーが……あ、だめ、想像しただけで泣いてしまうわ」

のたうち回っているラルウァイフだが、この当時のラルウァイフがアカの生存を知ったときの場面を初めて見たミカドたちは微笑ましそうにニッコリ。

しかし、その温かい眼差しが余計にラルウァイフにとっては羞恥だった。

ただ……

「ん? 待つのじゃ……この時の話が十数年前?」

復活したノジャがポツリと呟く。そして……

「ということは、ラル! その惚れた男が生きているの知っていながら、おぬしは十数年間も会いにも行ってないということなのじゃ?!」

「ふぁ!? だだだ、大将軍ッ!?」

「だってラルの膜はまだあるのじゃ! 臭いで分かるのじゃ! なんという奥手なのじゃ! まさに婿殿が誕生してから精通……じゃなかった、過去から戻ってくるまで手出ししてはならんという約束を守り続けていたわらわ並みの奥手っぷりなのじゃ!」

「ちょっ、だだだだ、だいしょうぐんっ?! なにを、ここ、幼い子供たちも居るのですから、あまりそのような話は!」

「いいや、言うのじゃ! まさにビンテージの処女ま―――ふぉがふぉがふぉが!?」

次の瞬間、復活したばかりのノジャはアース、エスピ、スレイヤで取り押さえて猿轡を噛ませた。

「「「ダマレ」」」

アオニーのことや、ラルの涙で少しだけしんみりとしていた集落に明るい笑いが広がっていた。

「ったく……くはははは、でもさ、俺もそう思うぜ~ラル」

「ぬっ、アース・ラガンッ……」

「そろそろ勇気出して本格的にさっさとアカさん探して会わね~とな」

「黙れぇ、そなたのようにアッチもコッチも女を惚れさせている思わせぶりな男にだけは言われたくないぞ!」

「な、そ、そんなことは……」

アースがラルウァイフをからかったら、思わぬ反撃にあって少したじろぐと……

『ったく、アカさん……やっぱ、罪な奴だぜ』

アースがそう言っている場面を映し出され……

「ほら、そなたの方が罪深いであろうが! 何人の女たちを振り回している!」

「な、ふ、振り回して、な、ないぞォ……」

しかし、アースの周囲は噛みしめるようにラルウァイフの言葉を何度も頷いた。

一方で他の地では……

「ふふふ……愛する幼馴染……死んだと思っていたが生きていた……か……良かったな」

「ええ。彼女は魔王軍ではありますが……それでも……同じ女として感情移入してしまいますね」

「うん。良かったかな……うん……何だか、私もそう思う」

カクレテールではフィアンセイ、サディス、そしてツクシたちが女としてラルウァイフに感情移入し、そしてアカの生存を喜んでいするラルの涙と微笑みに、自分たちまでもらい泣きしてしまい……

さらに……

「……不憫で健気な……しかし……よかったね……ああ……良かったじゃないか、あのダークエルフとやらのお嬢さんは」

ジャポーネ王都内にある屋敷の庭で、微笑みながらも少し目元を擦る仕草を見せるガアル。

「王子……私……会わせてあげたいです、あの人と……」

「ええ、アカさんという人と……」

そして、そんなガアルの左右で寄り添う二人の天空族の乙女たちもラルウァイフに感情移入してそう告げ、ガアルも素直に頷いた。

「ああ。僕もそう思うよ。話の流れから、坊やの親友のアカさん……まだ会えていないのだろう。しかし、僕たち天空族が全力を出せば……空からだって探し出すことは可能!」

ガアルが拳を握りしめてそう呟くと、家主の息子であるオウナも反応。

「へぇ~、そんな便利なことできんだ~。じゃぁ、アースっちが今どこにいるかも調べようと思えばできるの?」

「造作もないさ」

「そうなのかァ……そっか……アースッち……懐かしいし、会いたいなぁ。タケノコ先生にも会ってみたいし」

そして、他の地でも……

「……真に愛する存在……死んだと思っていた……それが生きていると分かったのなら、確かに希望となるであろうな……」

それは、これまでハクキの登場やらで色々と大慌てだったヤミディレ。

落ち着き、そしてラルウァイフの涙を眺めながら、しみじみと呟いた。

「ヤミディレ大将軍?」

「何でもない……目にタマネギが……じゃなかった、砂が……」

「……はぁ……」

少し目元を拭ったヤミディレ。

その様子にクロンも心配そうにのぞき込む。

「お母さん?」

「大丈夫です……クロン様……」

ヤミディレはどこかラルウァイフの気持ちを理解できたのだ。

かつて自分も己の全てを捧げられる存在を崇拝していた。

だが、その存在を失った。

それからのヤミディレは狂気に染まっていたと自分自身でも自覚していた。

「今の私が望むのは……クロン様の幸せだけ……それが私の望みです」

「お母さん……」

「神は失えど……今の私には宝物がありますので……」

もしクロンが居なければ自分も同じように今でも狂ったままだったかもしれない。

だからこそ、ラルウァイフが復讐鬼となったことも、その憎しみから解放されて希望を抱いたことに、どこか嬉しく思ったのだ。

そしてクロンも……

「お母さん……あのラルウァイフさんという方……アースのお友達のアカさんと今、再会できているのでしょうか?」

「……少なくとも、アース・ラガンはラルウァイフのことを知らなかったので、アカというオーガと現代では一緒ではないのでしょうが……」

「そう……ですね……」

クロンもまた、しみじみとラルウァイフに感情移入していた。

自分ももし、愛する人を失ってしまったら?

ヤミディレを天空族から救えないままだったら?

もし、アースが死んだと聞かされたら?

想像しただけでクロンも苦しくなる。

だからこそ……

「私、あのラルウァイフさんに……幸せになって欲しいです……」

「ええ……私もそう思います」

そう口にしたクロンの肩に手を添え、ヤミディレも笑顔で頷いた。

それは……

「ダーリン……」

「……ぬっ?」

「……あたい……ダーリンと死ぬまで一緒だから」

「……うむ」

マルハーゲンとショジョヴィーチも感化されたようで、二人は寄り添い合いながら互いの愛を確認し合った。

「おとーさん、おかーさん!」

「ぎゅ~~♥」

「わたしもー!」

そんな二人に娘たちも抱き着いて頷き合った。

しかし……

『アカと会うには小生はもう……血に汚れすぎた……殺した数も十や二十では収まらない。小生は自分がおぞましい……』

「「「「「えっ!!??」」」」」

アカとラルウァイフの二人は再会できたのだろうか? 出来ていないのであればどうにか会わせたい。幸せになって欲しい。

そう思っていた中で、ラルウァイフがそのようなことを言うものだから、クロンたちは思わず声を上げてしまった。

『とにかく安心しろ。魔王軍にも戻らぬ。エルフのことも口外しない。アオニーの命に誓ってもな。その辺でみじめに野垂れ死ぬのもまた、小生にお似合いの末路だ……』

そして、自嘲気味にそう呟く言葉に嘘が無いからこそ、クロンたちは納得できないと声を上げた。

「そんな! どうしてです! どうしてそんな悲しいことを言うのです! せっかく助かった命……アオニーさんだってあなたに生きて欲しいから助けたのですよ!」

「そうですよー! 好きな人と幸せにハメハm……ラブラブな生活を送りたいと思わないのですかねぇ!」

「ったく、ラルの奴……どうしてそう思っちまうかなぁ? これじゃぁ、ダーリンとラブラブ生活しているあたいは……」

「いや、むぅ……しかし、どうであろうな……ヤミディレよ、そなたはどう思う?」

「……まぁ……私も人のことが言えないからな」

戦争で自分がこれまでやった行為を思い返した上でのラルウァイフの言葉。

「お母さん!」

「……クロン様……こればかりは……『戦争だったから仕方ない』……そう思える者と思えない者はいるものです……」

クロンや三姉妹たちは不満の声を上げるが、しかしラルウァイフの気持ちも分からないでもないと、ヤミディレたちは複雑そうな表情を浮かべた。

実際ヤミディレたちも「自分たちがこんなに幸せで良いのだろうか?」と考えるときもあるのだから。

「で、でも……でもそれは――――」

実感籠ったヤミディレの言葉をクロンも安易に否定はできない。

しかしそれでも……そう思ったとき、

『なんだかな~……俺から言わせれば……どっちもどっち……全部同じなんだけどね』

そこで一人の男が口を挟んだ。

「……え?」

「ぬ? なに?」

「?」

族長のその一言に、ラルウァイフの心情に納得していた者たち全員が思わず反応した。

それは、戦争とは無縁の世界で生きる族長の第三者からの視点でもあり、

『この世に魔族がいなくなり、人間だけになったら……この世に人間がいなくなり、魔族だけになったら……世界はどうなると思う?』

『……人間だけの世界になったら、人間同士で争う……魔族だけになったら魔族同士で争う……そんな世界になる』

『結局そういう世界なんだ。それは百年経っても千年経っても変わんないよ。どこにいっても争いばかり……悲劇と悲鳴ばかり……つまり、お姉さんがやったことはやられた側の一部の人間たちが騒ぐことはあっても、世界的にみれば普通のことであり、少なくとも今のこの世界のこの時代で思い悩みすぎるのもどうなのかなと思うわけだ』

『バカな……普通であるはずが……小生はもう、どれほど薄汚れたか……』

その演説のようなもの、考え方、そして問いかけは、屁理屈のように聞こえるものもいるかもしれないが、それでも色々と重くのしかかる者たちもいた。

「……なんだか耳が痛いね……どっちもどっち……というのはね」

『確かに、身も蓋もないこと言われている気もするが……真理を突かれている気もするゾウ』

帝国で、ソルジャやライファントたちがしみじみと頷いた。

「思い悩み過ぎて悪いとも思えないし、もちろん被害者遺族などからすれば、そんなことはあってはならないだろう。そしてそれこそ、我々人類側だって魔界の民たちから多くの恨みを持たれてもいる……しかし……そこを言い出したらキリもないが……」

『確かに……魔界でもかつての戦争中に起こった悲劇の中……度を越えた凌辱行為や虐殺行為の被害者や遺族たちからの反人類活動もある……そう言った要因がなかなか両種族の友好を進展させぬ……もちろんそれは人類側も同じだろう……その者たちを想うと決してそのようなことは言えぬが……しかし……』

正直、ソルジャたちも族長の言葉に納得しているわけではないが、そういう考えや割り切りという意見も分からなくもなかった。

このときの族長はあくまで、このまま放置すれば野垂れ死ぬことも厭わないラルウァイフを思い直させるための言葉だったのだが、こうして世界に広まったことで、色々と考えさせられる者も居た。

「そう思うと、アースが羨ましいかもしれないな……自由奔放に、好きに異種族だろうと何だろうと友達になれてしまうのだから」

色々考えさせられ、しかしだからと言って答えが出るわけでもなく、ただ悩むだけしかないソルジャたちは思わずアースに対してそう呟いた。

すると……

「とはいえ、そう言った感情論ばかりに囚われるのもな……そしてそれに左右されるのも危険ではある。戦争の後処理はな」

「ライヴァール……ちょ、君は黙っ――――」

「それに今回のその、アオニーとやらの行動やアースの話から、『オーガにも良い奴がいる』という想いが人類にも広まったかもしれない……が、現在オーガたちのほとんどを率いているのはハクキだ。である以上、オーガという種族はまだ立場上人類にとっては……そうであろう?」

「……それはそうだが……」

「ライファント……むしろ魔界側でも今のオーガの立場は……」

『うぅむ……』

一同がライヴァールの口を塞ごうとしたが、それは予測や予想とは関係ない、ライヴァールの現実主義者のような意見であり……

『なぁ、ラルウァイフ……今、アカさんがどこにいるかは俺も分からねえけど……せめて……俺がアカさんと出会って、どいうことがあったか、どういう話をしたのか、どういう遊びをしたとか……思い出話でよければ……話そうか?』

ただ、それでもやっぱり……

「民たちはそれでいいかもしれないが、少なくとも私たちは感情やら屁理屈に流されるわけにも、ましてやお涙頂戴の話で甘い認識をするわけにもいかんだろう。アースには悪いかもしれないが……『アースの話を聞かされたとしても、少なくとも私はオーガに対する認識は簡単に変えられぬ。ラルウァイフという者に対しても半端なことは言えぬ』……」

「ライヴァール……やれやれ、君らし……い……ん? ん?」

「「「「「あ……」」」」」

ライヴァールは自分で自分のことも当てられない。

『まず、俺とアカさんが出会ったのは―――――』

ちなみにその頃……

「うふふふ、真に愛する男……あらあら~♪ このこの~♪」

帝国の辺境の村でニマニマしたアヴィアが一人の男を肘で小突いて、

「う~、駄目ぇ! おにーさんは、私のお婿さん~!」

「私のだもん!」

「やだぁ!」

村の幼女たちもまとわりついて、

「……お、お嬢……」

男は赤い肌を更に紅潮させて……

「こ、こっ恥ずかしいだ……おで、知らなかったでよ……」

両手で顔を覆って震えていた。