軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百二十八話 世界の歴史に関わった

「坊ちゃまが!?」

「な、後ろから……あのアオニーというオーガが……」

「そんな、まずいよ! アースが……」

「や、やられた……アース……」

ハクキに啖呵切ったアースに対して、背後からの一撃。

これにより、アースが再び意識を断ち切られて、完全に気を失った。

不意の一撃。

この一瞬、アオニーの行動に「卑怯だ」という言葉が沸き起こる寸前に―――

『こうするしか……ねーべさ……大将軍……こいつは……こいつだけは……今……殺すわけには……いかねーべさ』

アオニーが呟いたその言葉に、見ている者たちは言葉を失い……

『逃げるーべさ! ここはオラが食い止める!』

そしてアオニーは、ラルウァイフに、エスピに、エルフの民たちに『逃げろ』と叫び、そして倒れているアースを一瞥して、驚いた顔をしているハクキに向かって……

『せめてもの……オラに『嘘じゃねえ』って証明した男への……甘ったれたオラの弟分の友達への……せめてもの誠意……だーべさ。すまねぇ、ハクキ大将軍。だけど……だけど……ここは絶対に通さねえーべさぁ!!』

その魂の叫びに、世界が震えあがった。

「な、なんだと!? あ、あのオーガ、ま、まさか、アースを守るために……ばかな、魔王軍の隊長格なのだろう?! そ、それほどの男が、直属の上官でもあるハクキに逆らい……アースを守ろうと!?」

「こ、こんな……ことが……坊ちゃまを守るために……い、命を……」

「うそ……」

「こ、これは……これは……!」

フィアンセイも、サディスもフーもリヴァルも、自分たちの目に映るものを信じられなかった。

これまで、アース自身がやらかすこと、出会った人物のこと、そしてアースが成し遂げたこと、それらに驚いてばかりだったが、これは違う。

アースが倒れている時に、アースの意識のないところで起こっていること。

『あ、アオニー!?』

『行くーべさ、お嬢! そして、そいつが起きたら話を色々聞くーべさ! はやぐいくーべさあああああああああああああ!』

それこそ、同じ魔王軍でアオニーとはそれなりに付き合いのあったラルウァイフも……

『な、何をやってんだよ、アオニー隊長! ど、どうして大将軍に!? やめてくれーっ!』

それまで共に命を懸けて戦争を戦い抜いてきたアオニーの部下のオーガたちですら驚いているのだ。

「……え、ええ!? 守っ……あのアオニーって人が、アースくんを守ろうとしている!?」

「なんで!? 敵だったんじゃないんすか?! しかも相手はあのヤバそうな……こ、殺されるんじゃ……」

「……それも……全て覚悟している目だ……自分の命と引き換えにしてでも守ろうという目だ!」

たとえ、オーガのことを今回の鑑賞会まで知らなかった、ツクシやカルイやマチョウたちカクレテールの住民たちもアオニーの行動の意味に戸惑うしかなかった。

そんな中で……

「……ふむ……」

これまで頬杖ついて鑑賞したり、両手を上げて叫んだりして興奮しながらと色々な表情を見せていたバサラも、この瞬間真剣な顔つきで姿勢を正した。

「これは、黙って見届けなければならぬな……そして、生涯ワシの脳裏と胸に刻み込んでおかねばならんのう……一人の漢の生き様を……ふっ……オーガが人間を救うなど、ピーチボーイやカグヤあたりが見たら卒倒するわい」

そう思ったのだ。

「あの人、アースを守ろうとしているのですか!? さっきまで戦っていたアースを……で、でも、あの人はあの後から出てきたハクキという人の部下なのですよね?」

クロンもアオニーの行動にオロオロとしてヤミディレを見る。

するとヤミディレは神妙な顔で口元を抑え……

「……アオニーは……記録上……処刑されていた……それは、単に任務失敗とかそういうことではなく……その死には……」

ヤミディレは「記録上」でアオニーがどのような末路を辿っているか知っている。

だが、これは知らなかった。

アオニーの記録ではなく、歴史の真実。

「アース・ラガンが……アース・ラガンを……アース・ラガンたちを守るために……」

その瞬間、ヤミディレは不意に拳を握りしめて、ゾクゾクと全身が震えあがった。

「大将軍……あのアオニーは……」

「なんという……オーガが……魔王軍の鬼天烈の称号を持つオーガが……人間を助けるために……」

この事態に、ショジョヴィーチもマルハーゲンも震えが収まらなかった。

かつての戦争を生き抜き、オーガの存在も知っている彼らからすれば、これはそれほどありえないできごとだったからだ。

『お嬢。しっかり話を聞いて……これからをどう生きるか考えて……自分が思うがまま、もう一度……生きるーべさ! だからいけええええええ!』

ハクキに謀反を起こし、タダで済むはずがない。

『ぬぅうう、おおおおお! 青膝ッ!!』

既にアースの拳で砕かれている膝。

そんなことお構いなしにアオニーは必死に叫んで高速の膝を繰り出す。

しかし……

『ふん……』

『ッ!?』

ハクキは片手でその膝を受け止め、そしてもう片方の手を伸ばしてアオニーの踵に手を添え、強引にアオニーの膝を伸ばして『逆方向』に折り曲げた。

『ぐぎゃがあああああああああああ!!??』

本来曲がらぬ方向に捻じ曲げられるアオニーの膝。

鬼の目にも涙が溢れるほどの激痛。

「ひ、ひどい、うぷっ……」

「ひいい、あ、足が、あ、うぅ……」

思わずクロンも、そしてショジョヴィーチの娘たちも目を手で覆ってしまうほどの光景。

こんなことされてしまえば誰だって心も戦意も折れるというもの。

全身を無残に痛めつけられ、瀕死の状態。

『が、ぐ……あ……と、通さねえべさぁあああああ!』

『……アオニー……』

しかしそれでもアオニーは必死にハクキにしがみ付く。

その姿に流石のハクキも目を見開いている。

「な、なんで……何でオーガがアースを助けるんだよ……」

「オーガは人間を喰う野蛮で狂暴な種族なんじゃ……」

「でも、殺されちゃうよ、アオニーが!」

「そ、それなのに……自分が認めたアースを守るために……」

ついさきほどまで、ハクキという存在からオーガに対する恐怖を芽生えさせた帝都民たちも流石にこの状況で何も感じないはずがなかった。

「信じられぬ……こんなことが……」

ハクキの恐怖を語った老人たちも目を疑っている。

帝都の民たち同様、当然彼らよりもオーガや鬼天烈やハクキのことを知っている宮殿のソルジャやライヴァール、そしてライファントも……

「これが……歴史の真実……」

『うむ……アオニーは任務失敗で処刑されたのではない……自分の認めた男とその仲間を守って……ということだゾウ』

そして、アオニーはそれをやり通した。

ハクキを足止めし、アースやエルフたちはワープで安全圏まで離脱した。

「彼がアースを……守ってくれたのか……」

ハクキ登場の場面から、アースは過去の時代で殺されているのではないか? と不安に思っていたソルジャたちも胸をなでおろす……が、アオニーのことを知らされては、素直に喜ぶことはできなかった。

さらに……

『さらに……このことで……アオニーの行動で変わったのは、アース・ラガンの生死だけではないゾウ……』

「え?」

ライファントの言葉に首を傾げるソルジャ。

だが、その理由はすぐに分かる。

それは……

『結果的にハクキは……殺すことができたはずの七勇者のエスピまで取り逃がした……アオニーが命がけで逃がした……それがどういうことか……』

「……あ……」

そして、それは張本人でもあるアースも……

「そうか……アオニーが本当に体を張って……助けてくれたんだな……あんな状態で……敵うわけがねえのに……それでも……」

気絶させられて、最期の最期はどうやって助かったかは話でしか聞いてなかったアースも、胸を押さえながらアオニーの姿を目に焼き付けた。

「うん、そうだよ、お兄ちゃん」

「本当に僕たちだけではもうどうしようもなかった……」

エスピもスレイヤも頷く。

当時その場にいたエルフの大人たちも無言で自分たちの恩人の一人の姿を改めて刻む。

「アオニー……」

ラルウァイフも目元に涙を浮かべながら、過去の出来事を思い返して色々と込み上げてきた様子。

「先生……それじゃあ……このとき、この人がいなかったら、お父さんもお母さんも殺されて……私だって生まれてなかった……アース様も、姉さんも兄さんも……殺されて……」

そして、このことを知ったアミクスも涙を浮かべながらそう呟き、その言葉に誰も否定しなかった。

アオニーが居なかったら今この場に誰も存在していなかった。

アオニーが命を懸けたからこそ、この場所に繋がっているのだと。

「なんと……このようなことが……」

「当時、オイラたちがバリバリにオーガたちと戦争していた裏側で、こんなことがあったなんてショックじゃな~い」

「彼がいなかったらハニーも……」

ミカドやコジローたちも胸に来るものがあった。

そして……

「そういうことかなのじゃ……」

アオニーの姿に感化されたのか、屍と化していたノジャがいつの間にかアースの膝枕状態から姿勢を正し、真剣な顔で空を見上げていた。

「そして……もしこの場でエスピが死んでいたら……七勇者の一角が死んでいたら……それもまた後の戦にも大きな影響を与えていたのじゃ……」

「「「ッッ!!??」」」

「エスピ……うぬが戦場でどれほど魔王軍相手に大暴れしたか……どれだけ魔王軍にもダメージを与えたか……もし、この場でエスピも死んでいたら……」

「もしこの場で吾輩がアオニーを気にせず、アース・ラガンだけでなく、エスピも葬っていれば……魔王軍と連合軍の戦争も変わっていたであろうな……」

と、ハクキもこの場面を改めて見ることで、その「もしも」に至った。

だが、それでもハクキは首を横に振り……

「死なずに済んだ同胞も……大魔王様も……とはいえそれでも、もう一度あの場面に自分が立ったとしても……同じことをするだろうがな……アオニーの心意気を無視し、あやつが守ろうとした者たちを殺すことは……できんなぁ……」

たとえエスピを逃したことが失態だったと思い知らされても、それでもやはりあの場面でアオニーを無視してアースたちを皆殺しにできるものではなかったと、吐露した。

「あいつが……アースを守ってくれたのか……そしてエスピたちのことも……」

「じゃあ、もし彼が命を賭けなければ……アースが殺されてた。それどころか、エスピも死んでいたら、私たちは……連合軍は魔王軍に勝てなかった……私たち、七人の誰かが欠けていてもトレイナに勝てなかった……」

そう、世界はこれで気づいた。

アオニーの行動は、ただ自分が認めたアースを助けただけではないのである。このことが後の戦争、大きく言えば魔族と人類の戦争の歴史を大きく変えたとも言えるのだ。

「教科書にでも載せてやるのだな、ヒイロ……マアム……吾輩の落ち度でもあるが、貴様らの勝利にアオニーは深くかかわっていた……また、それも元を辿れば、貴様らの息子のアースがその心をアオニーに認めさせたことが起因でもあるが……いずれにせよ、二人とも……天晴だ」

ハクキは複雑な気持ちになりながらも、それでもアオニーとアースを称え、そして……

「それにしても、アース・ラガン……過去に渡った当初は歴史に影響を与えないように云々だった男が……エスピを救い、ノジャを退け、そして今回のこと……十分歴史に影響を与えているではないか……貴様らも息子の陰からのサポートに感謝するのだな。奴の行動は紐解いていけば『間接的』に貴様らをも救っていた」

僅かながらの皮肉も込めてそうヒイロとマアムに告げた。

そのことに、ヒイロとマアムも否定できなかった。

「そうだよな……エスピのことも当然だし……それに俺やマアムと当時会っていなかったとしても、あいつの行動が『間接的』に……」

「そうよね……」

しかし三人は、そして世界はすぐに思い知らされるのである。

アース・ラガンの行動がもはや『間接的』ではなく、『直接的』に人類と魔王軍の戦争に大きな影響を与えるどころか、ヒイロたちの命まで救ってしまったという歴史の真実を。

そして同時刻、一人の赤いオーガが空に向かって声を上げて哭いた。