軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十九話 ここからどうする?

『…………コジロウ…………あ……ありがと……死んじゃえって言ったの……うそだから……ごめんね……』

別れ、そしてアースと共に旅立つエスピは、見逃して送り出してくれるコジロウに礼を言った。

服の裾をチョコンと摘まんで小声で、アース以外には心を開かないエスピが、恥ずかしがりながらもそう告げた。

その言葉に笑みを浮かべるコジロウ。

その様子に、帝都は……

「え、エスピって、かわい~!」

「ああ、それに七勇者のコジロウもいいやつじゃん!」

「ま、七勇者ってのは強さだけじゃない。人としての器のデカさも必要だからな」

「ったく、みんなさっきまで七勇者なんだから逃げ回らずに戦えとか言ってたくせによ~」

「ま、俺は最初から分かってたけどな。コジロウは器のデカい男だと」

五人の七勇者を排出している帝国で、唯一帝国出身ではない二人の七勇者同士の絡みは彼らにとっては初めて見るレアなものであり、その様子にホッコリしながら盛り上がっていた。

一転して、戦時中とは思えぬ平和で温かい光景に、こんな時間がいつまでも……人々は、そう願っていたところで……

宮殿では……

「ふむ、コジロウと別れたか。航海は順調そうであるし、アースとエスピはこのまま魔王軍や六覇とも遭遇せずに無事に――――――」

「「「「「黙って見ましょう、ライヴァール様ぁあああああ!!!」」」」」

兵たちが慌てて声を発した。

「ど、どうだ、い、いまのは?」

「聞こえてない。お、俺は聞こえなかったぞ…………最後までは」

「ど、どうしよう……お、俺……俺は最後まで聞こえ――――」

「や、やめろぉ! お前も何も聞いてない! 幻聴だ!」

「そうだ、ライヴァールさまは晩御飯の話題を口にされたのだ! 全て聞き間違いだ!」

兵たちは顔を暗くして頭を抱えて騒ぎ出す。

その様子にライヴァールはムッとしながらも……

「いや、しかしお前たちよ。これには根拠―――――」

「ライヴァール、私も今はこの鑑賞会に集中しているところなので、話はまた今度にしよう!」

「いや、ソルジャよ……しかしこれは……ライファントよ。お前だって分かるはずだ。当時の魔王軍の――――」

『小生は集中しているところだゾウ。話はまた今度聞くゾウ』

その場に居た者たちや魔界のライファントは別に互いに相談し合ったわけではないのだが、皆の考えと想いが一致したようなライヴァールに対する態度であった。

とにもかくにも、世界が望んでいた穏やかな時間を、アースとエスピは過ごしていた。

船の上でアースが魚を釣り上げる。

『フィーーーーーシュッ!』

コジロウに見送られ、船に乗って海を渡るアースとエスピ。

コジロウもいなくなり、更に船にはエスピを知る者はいない。

大好きな兄と二人ということもあり……

『私の勝ち! お兄ちゃんは今日は私の言うこと聞くの! だから、今日一日、私をだっこするの!』

エスピはワガママ全開で……

『お兄ちゃん、わたし、ズルして嘘ついた! 念力でギュッと魚を絞めて持ち上げたの! 私正直に言ったでしょ? はい、だっこ!』

とにかくアースに甘えたくて仕方なかった。

「お、俺らの前では口数少なくていつもムスッとしていたエスピが……あんなに喋ってる……」

「頭を撫でることすら許さずに、勝手に触ったら力でぶっとばすのに……自分からあんなに抱っこをせがんでるなんて……」

「しかもアースに言いくるめられて釣りやったり……昔、俺が誘っても『死んでもヤダ』とか言われたっけな……」

「うん。そもそもエスピはサディスぐらいとしか遊んでいるの見たことなかったし……」

自分たちの仲間なのに、自分たちの知らない表情と知らない態度ばかりを見せるエスピにヒイロもマアムも苦笑してしまった。

まさかエスピがこれほどまでにアースに心を開いて懐いていたなど知らなかったのだ。

まさにそれまでの人生、我慢ばかりで我満を言ったことすらなかったエスピのタガが外れたのだった。

一方でハクキは……

「いや……貴様ら……注目すべきはそこでは……いや、もうよいか……」

ヒイロたちに苦笑しながらも、「もういいや」となってアースを眺めていた。

「もう完全に……海の中、魚の動きや位置を把握して……『マジカルレーダー』を完全に身に着けているではないか……エスピを救ったときの森の中でのゴウダの部下たちとの追いかけっこで既に兆候はあったが……大したものだな……かつて人間で名を馳せた伝説の漁師・イリエシマを彷彿させる……ふ、あの時代はあ奴が助けた亀に連れられて深海世界に行って姫と結ばれたことで色々と面倒なことになったものだな……異種族婚ということで……」

ハクキはアースが釣りをしている姿から、アースがマジカルレーダーを身に着けていることに気づき、素直に賞賛した。

「いずれにせよ、実戦経験に事欠かない環境下で、戦争に参加する義務のない自由な身である立場を存分に活用していると言えるな」

戦争をしながら修行をするというのは簡単なことではない。

特に、当時のように生きている限り英雄だろうと子供だろうと戦えさえすれば、世界中のあらゆる戦地に派遣されていたのだ。

仮に戦争の中で自身の弱点に気づいたところで、その弱点を克服するための訓練をする暇などそう簡単に確保できるものではない。

よって、当時の戦士や兵士はほとんどが実戦の中のみでしか己を成長させることができなかった。

今のアースのように、リフレッシュしたり、十分な『指導』や修行する時間を確保し、そしてその成果を試せる機会にも恵まれているというのは非常に稀なのである。

だが、それを口にしながらも……

「実戦経験……か……事欠かないと言っても、それに関してだけは七勇者どもには流石に劣るか……やはりそればかりは惜しいというところか……」

と、ハクキは冷静にアースを判断した。

「おい、ハクキ。お前さっきから何を……」

「そうであろう? あやつも六覇と戦ったとはいえ、殺さぬように手加減したヤミディレに、戦争から遠ざかって鈍った体で相手を舐め切っていたパリピ……。アース・ラガンは現役バリバリの全盛期の、殺意剥き出しの本気の六覇とは戦えていない……そこが貴様らとの違い……パワーもスピードも技術も頭も既に数値的には七勇者に負けてはいないが、その経験ばかりは過去の時代に行ったとしても、戦争に関わらないように行動している以上はそれを賄えないということだ……意外とその経験があるのとないのとでは精神的な逞しさの面でも違うからな……」

「それは……」

「パリピはこの鑑賞会を通じてアース・ラガンの凄さを世に知らしめて、その反応を楽しもうとしていたようだが……これから敵対する吾輩としては、この鑑賞会を通じてアース・ラガンの戦歴や力や戦い方などを全て知ってしまった……現状では最大限に警戒する相手であることは認める……が、まだ負ける気はせん。ということだ」

ヒイロとマアムはハクキの言葉を否定できなかった。

アースは強くなり、自身にあったやり方で理想的に成長している。

そんなアースに唯一足りないものがあるとすれば……というハクキの言葉の重みと大切さを七勇者である二人も十分に理解していたからだ。

「アース・ラガンよ。今のままではまだ吾輩を子分にすることはできんぞ?」

「お、おい、ハクキ。お前……アースとガチで戦う気なのか? しかも、負けたら子分になると?」

「何か不都合でもあるか?」

どこまで本気か分からないハクキに開いた口が塞がらないヒイロとマアム。

一方でハクキはそんな二人を鼻で笑いながらも……

「とはいえ、吾輩がアース・ラガンに対して『こういう判断』に至ったということは、『あの御方』も分かるはず……ならばどうされる? ふふふ、今あるものを伸ばすか……それとも――――」

そして……

『もはや貴様の戦い方は丸裸……使うフットワークもパンチもレーダーなどの技も……ブレイクスルーによって強化されたパワーとスピードのレベルも大体わかった……と、ハクキならば思っているだろうな……』

『……え? それってヤバイんじゃ……だって鑑賞会の流れからして、この後らへんに編み出した技とかも流れるわけだよな?』

『うむ。一方で余がハクキの力について知っているのは戦前の話……つまり、あまり参考にならん』

ハクキがそう考えている……ということを、トレイナも当然予期していた。

周囲の目があるために、心の中でアースに語り掛け、その言葉にアースも納得しながら、それがまずいことだということも理解。

今後戦う恐れのある最強クラスの相手に、自分の力や技や戦法の全てを知られてしまっているのだ。

それは明らかに自分たちの方が不利ではないかとアースは頭を抱えた。

『だからこそ……今が重要になる』

『え?』

『もうこれまでの鑑賞会の流れ……そして、カグヤのこと……もうハクキは童の傍に余がいることを察していると思った方がよい』

『え……いや、それもまずいんじゃ?!』

『だからこそ、ハクキがそういう考えに至ったと余が見抜いている……ということを、ハクキも見抜いている』

『あ~……まぁ、二人ともそれだけよく知ってるってことだよな……いや、でもマジかぁ……パリピだけじゃなくハクキまで……』

『まぁ、ヤミディレも……それはさておき、そう、つまりハクキはこう思うだろう……『鑑賞会が終わったらどうするのか? 今ある武器を伸ばすのか……それとも新たなものを身に着けるのか……』……とな』

そう、既に自分の戦力を丸裸にされてしまっているのなら、今の自分よりさらに強くなり、その上でハクキも知らない何かを身に着けるしかない。

だが、それがそんな簡単なことではないことぐらい、これまでトレイナと過ごした鍛錬の日々でアースも良く分かっている。

ならば、どうするか?

それに、鑑賞会中はこのように……

「あ、婿殿。ほれ、お茶と菓子をお持ちしたのじゃ。ほれ、わらわはよくデキたお淑やかなレディなのじゃ……おほほほほほ、なのじゃ」

と、ベッタリくっつかなくなったものの、それでも傍から離れないノジャやら周囲の目がある中ではどうしようもない。

少なくとも鑑賞会があるあと数日は……

『ああ。だから……もう貴様は寝ろ』

『……え?』

『そもそも貴様がコレを見てももはや仕方のないこと。ならば『精神的に疲れたし寝る』……とでも言っておけ。そのままヴイアールだ』

『い……いや……そ、それもそうだけども……』

確かにトレイナの言う通り、もはやアース自身が一度体験した過去……と言っても、アースの体感的にはつい最近の出来事を繰り返し見ているだけであり、アース自身がもう一度見る必要はそこまでない。

とはいえ、皆がこうやって目を輝かせ……

『その……エスピにとっては懐かしい思い出だから、ああやってすごい嬉しそうに見ているわけだし……』

『…………』

『それに………今からスレイヤも出てくるのに、あいつが出てくる前に寝たら……なんか……悪いじゃん……』

『……………』

『なんかさ……あいつらとの思い出を……ないがしろにしていると思われたら……』

と、修行の気持ちはある一方で、目の前で弟妹二人に悲しそうな顔をされたくないと少し照れながら俯いて心の中で呟くアース。

そんなアースに……

『むぅ……………』

トレイナはむくれた……が、アースにその顔を見られる前にすぐに元の顔に戻り……

『やれやれ貴様というやつは……仕方ない。では、起きたまま、そして静かに小さくできることをやる、それでよいな!』

『え……そ、そんなことできるのか!?』

『ふん、このブラザーコンプレックとシスターコンプレックス童め……少しは余にも、じゃなく……まったく、ハクキは強いぞ、なのに危機感が……ふん!』

と、少し不貞腐れ気味のトレイナだが、それでも今のアースの気持ちを尊重するような修行を考え……

『いや、それなら最初から教えてくれれば……』

『効果的なのがヴイアールで何の遠慮もなくやることだったのだ。しかし、これならこれでやり方もある……だから、とりあえず童……集中せずに失敗すると、むしろ周りに迷惑がかかるからそのつもりでいろ~』

『え、な、なに……?』

この鑑賞会の中で何をやるのか? むしろ何ができるのか?

『今ある武器を伸ばすのか? 新たなものを身に着けるのか? 答えは両方だ。今ある武器を伸ばすことで、その延長の果てで新たなものを身に着けさせる』

『そ、そんな都合の良いことが……?』

まるで想像もできないアースに対し、トレイナは……

『童、貴様の今の最強の必殺技……それはゴウダを穿った、極限大魔螺旋だ』

『……ああ』

『貴様に覚えさせる技、技術は……あれの応用であり、逆のことをする』

『……………?』

『それはすなわち、魔呼吸によって無限に膨張させる大魔螺旋ではなく、逆に――――』

トレイナのその言葉まででは、まだすぐには理解できないアース。

すると、その時だった。

「お兄さん、お兄さん!」

「ふぁっ!?」

『むっ…………』

「ほら、ほら、お兄さん!」

「お、おお、おお!」

『む~~~~~』

話の途中でスレイヤが興奮しながらアースの背中に飛びついてきて、嬉しそうに空を指さす。

そこには……

『お兄ちゃん! 誰か……ちっちゃい男の子がいるよ!』

航海の途中、アースとエスピが乗る船の前方に、巨大な海洋生物の死骸。

その傍らの小舟に……

『…………』

小さいころのスレイヤが……

「わー、スレイヤ兄さんだ~、うわ~~、かわいい~~!」

「そーそー、スレイヤにもあんな時代があったよね。初めて私たちの集落に来たときはあんなだったもん」

「おほー、婿殿ほどではないが、やはりあの頃のスレイヤも涎が出るほどプニプニの肌で、まず下の毛も生えてないであろう……と、こほん。うむ、かわいらしいのじゃ、おほほほほ」

と、ついに現れたスレイヤの幼き頃の姿に皆が興奮している中……大魔王だけがちょっと拗ねていた。