軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十三話 さよなら

「ぼぼぼぼ、坊ちゃまが戦時中の魔王軍と……あ、ああ、い、今すぐ行きます、坊ちゃま!」

「お、落ち着けサディス! 一人で行くな、わわわ我も共に!」

「サディスさんも姫様も落ち着いてくださいよぉ! これは現代じゃなくて過去だから、行くってどうやって!」

「……アースが……過去の魔王軍と……」

混乱して取り乱すサディスとフィアンセイ。二人そろって今すぐにでもどこにいるかも分からないアースを求めて海に入って泳ぎだしそうな勢いだ。

それをフーが必死に抑えるも、フーもまた落ち着いては居られない。

リヴァルも同じである。

それは、自分たちが生まれる前には既にいなくなっていた存在。どれだけ両親たちを目標にしていたところで、七勇者たちと比較されるとどうしても判断材料としてあげられてしまうもの。

自分たちは魔王軍と戦ったことがない。ということ。

そして、六覇の残党でもあるパリピ一人に完膚なきまでに叩きのめされたことで、より一層己の無力さを感じ取り、更に高みを目指すことになったものの、それでもどうしようもないこと。

どれだけ強くなっても、既に魔王軍が存在しない以上、自分たちでは七勇者たちを目標にしたところで超えることを決して証明できないのである。七勇者と魔王軍という存在が、既に「時の流れ」というものに守られてしまっている以上は。

しかし、そんな中でアースは過去の現役バリバリの魔王軍と対峙してしまった。

その事実に「この後何が起こるというのか?」と誰も落ち着かずにはいられなかった。

ただ、そんな状況下で……

『んじゃ!』

アースは戦わず、走って森の奥へと逃げ出した。

「坊ちゃまが逃げて……」

「なぜ逃げる! いかに相手が屈強な魔王軍の兵士とはいえ、今のアースなら……」

「うん。確かに強そうだけど……でも、あのパリピを倒したアースなんだから……」

「なぜ逃げる! 自分の力を試すことができる、今しかないというこの場面で!」

アースの心配はするものの、アースが逃げだしたことにはそれはそれで驚く一同。

相手はどう見ても、魔王軍の兵士といっても六覇のような超大物ではないのだから、アースならば……というか、アースが魔王軍相手に戦う姿を見たい……という気持ちもあっただけに、アースの行動にフィアンセイたちは戸惑った。

だが……

「ぬわははは……そりゃ、戦う理由がないからじゃろ。さっきの人助けとは別でな」

サディスたちの疑問に、バサラが答えた。

「あやつは別に人類の連合軍の兵士でもない……ただの時の漂流者……勘違いされて攻撃されはしたが、ここで暴れて何の意味がある?」

「師匠……」

「むしろ、下手に戦闘で相手をぶちのめすとどの程度歴史に影響があるかも分からんという……驚いたな。賢いだけでなく、いきなりこういう状況に陥ってパニックに見えるが、意外と冷静ではないか」

バサラだけは、アースが魔王軍と戦わずに逃げたことを、逆に感心した様子で眺めていた。

「それと……父親が勇者であることにコンプレックスを抱いているからか……それともあやつ自身の器ゆえか……クロンという嫁もいることだし、あやつはどうも『魔王軍』や『魔族』そのものに対して拒否反応や敵対心がまるでない……それも理由の一つじゃろうな」

そして、それは「魔王軍」と聞いただけで「危ない」、「戦う」、などと真っ先に言葉が出たリヴァルたちとは違う、アースならではの反応。

「そ、そういえば確かに……いや、魔族とは既に人類は和睦を結んでいるわけでそれは当たり前ではあるが……」

「で、でも、僕たちならいきなり知らない魔族が目の前に居たら身構えるよね? ましてや、相手は魔王軍なんだし……」

「まぁ……六覇のヤミディレやパリピを見た後では……ということもあるかもしれんが……そもそもあいつの使っている技は、話によると大魔王に所縁のある技のようだしな……」

バサラの告げるアースの姿にフィアンセイたちが「言われてみれば……」という表情になる。

すると……

「……あ……」

「サディス?」

「……まぁ……ああ……いえ……坊ちゃまは魔王軍も魔族も敵として見ない……ええ、でしょうねぇ……むぅ……」

サディスは一人だけその理由を理解し、同時にムッとした表情を浮かべた。

それは、アースが心から信頼し、今では自分よりもアースの傍に居る、姿の見えないある人物のことが原因だと分かったからだ。

『っ、ま、待ちやがれテメエ!』

『んの、暗殺なんて外道なこと仕掛けて、失敗したらトンズラか? この卑怯者どもが!』

身軽に森の奥へと逃げていくアースを捕まえるべく、魔族たちが一直線に森の木々を薙ぎ倒しながら追いかけてくる。

アースも振り返りながら、相手が巨体でありながらもなかなか素早いことに少し驚いている様子。

『うっきー!』

『うきゃー!』

『げはははははは、始末する!』

さらに、森の至る所に散らばっていたと思われる他の兵士たちも、騒ぎを聞きつけて次々と集結していく。

そしてその中に……

「むむ! おい、ライヴァール! 見ろ、あの……デカい魔族を!」

「ぬっ、一人桁外れな雰囲気を……いや、見たことある! アレは……確か……猩猩人族とオークのハーフで……」

「ああ、私も覚えている! 確か、六覇のゴウダの配下に居た部隊長!」

「そうだ……ピッグゴリ! 『ピッグゴリ・ヤオエイト』だ! まさか、あの豪傑とアースが遭遇していたというのか!?」

ソルジャとライヴァールも知る、まさに大戦中に名を馳せた魔王軍の兵士の一人の姿を確認した。

教科書に載るほど有名ではないとはいえ、七勇者でもあるソルジャたちが顔色を変えるほどの武人。

『ピッグゴリ隊長!』

『連合軍の下衆です! あのガキはまだですが……でも!』

かつての大戦を知る者も、知らない者も顔が青ざめる。

本当に、アース・ラガンはどうなってしまうのか? と。

「ライヴァール様……彼はどうなるのでしょう?」

「アレだけの数に囲まれ、速さと強さと何よりも統率力の取れたゴウダ軍のピッグゴリの部隊に狙われているのだ! 逃げ切れん……アースもただでは済まない!」

「「「「逃げきれな……ただではすまな!? ……………」」」」

そうだ、現役の魔王軍。しかも相手は名の知られる武人と強力な兵も率いてアースを追いかけているのだ。

誰がどう見ても、タダではすむと思えない状況。

だから、ライヴァールの断言に皆も一瞬狼狽えるも……

「「「「「…………ほっ」」」」」

「…………ぬ? お前たち何……を……あ……」

すぐに皆が安堵の息を漏らした。

その意味を一瞬理解できなかったライヴァールだが、すぐに自分でその意味に気づいて固まった。

「……い、いずれにせよ、ピッグゴリが隊長として……そして、将軍暗殺となるとそれは間違いなく、六覇のゴウダということに……となると、時期的にはヒイロがゴウダを討ち取るより、少し前あたりのことか?」

「そうなる……だろうな。しかしそうなると、なおさら解せん。あの時……ゴウダの暗殺作戦など聞いてないぞ! べトレイアル……どういうことだ!」

まさに自分たちが七勇者として現役バリバリで最前線で戦っていた、もっとも戦が過熱していた頃の時期だけに、当時のことはソルジャもライヴァールもよく覚えていた。

だからこそ、「そんな作戦は知らない」と断言できた。

ただ、そんな中で……

「おい……ヒイロ様とゴウダの話が出てきたよ……」

「う、うわぁ……すげー会話だ……」

「歴史というか、伝説というか……」

テラスに集う兵たちの中でも特に当時の戦争を知らない若者たちは、ソルジャとライヴァールの会話の中でサラリと出てくる話題に目を輝かせた。

「ん? そうか、お前たちにとってはまだ幼いころだっただろうからな……」

「そうです、陛下。七勇者の伝説は勿論のこと……やはり、真勇者ヒイロがあの六覇の魔巨神ゴウダを討ち取ったという大偉業は、幼かったころの私たちにも鮮烈で、衝撃で、希望で……自分たちも勇者になるぞーと、夢を抱くような出来事でしたから」

まさに自分たちが子供のころに憧れた勇者の伝説。

だからこそ……

「そうだな。ヒイロとゴウダの正々堂々の伝説の戦い……あれは……そうだ、ハクキに我らがボロ負けし……絶望しかなかった状況下で、瀕死の底から立ち上がったヒイロの覚醒が、見事あのゴウダを討ったのだ。しかしそれとは別に……べトレイアルが連合に内密にし、独断で暗殺に出ていて、しかも失敗していたなど……なんということだ」

戦争に綺麗ごとを言えるものではないものの、それでもその裏で独断で動いて手柄を上げようと欲に溺れた者たちの存在をこんな形で知ることになるとは……と、ソルジャは不快感をあらわにしようとした……が……

「ん……? 待て、ソルジャ!」

「ライヴァール?」

そのとき、何かに気づいたようで、ライヴァールが慌てて声を上げた。

「もし仮に……本当にべトレイアルがゴウダを暗殺しようとしていたとして……失敗したようだが……それでも相手はゴウダ。そのゴウダの暗殺に……誰をべトレイアルは仕向けたのだ?」

「え? それは…………ッ!?」

そして、ライヴァールもそこでハッとした。

そう、いくら暗殺とはいえ、六覇のゴウダを討つには当然それなりの実力者ではないと不可能である。

なら、べトレイアルが誰を?

「……先ほど……魔王軍の兵たちは……『ガキ』がどうのこうのと言っていたね?」

「ああ。アースをその仲間と思っていたようだが……」

「べトレイアルで……ゴウダの暗殺に向かわせられるようなガキと言えば……」

「……一人しか……」

そして、ソルジャとライヴァールが「それ」にたどり着いた、そのときだった。

森の中を逃げるアースの視界に……

『……う……あ……ぅ……』

『え? こ……子供?』

「「ッッ!!??」」

何故かそこに居た人間の小さな女の子。

ボロボロで、明らかに重症で、今にも消え失せそうなほど弱り切った姿と瞳で……

『……だれ?』

アースにそう尋ねるその少女のことを、ソルジャとライヴァールはよく知っていた。

『おい、あそこで止まっ……ッ! はははは、おいあのデッカイ木の所だ!』

『あのガキもいる! 見つけたぜ!』

『手間を取らせおって! 我らが偉大なる大将軍『ゴウダ様』を暗殺しようなどと企んだ愚か者め! 子供といえど勇者の一人! 容赦はせん! その首もらった!』

『よいか? 勝手に飛び出すな! たとえ瀕死でも、相手はあの七勇者の一人だ!』

そして、その少女こそが魔王軍の兵たちが探していた者。

彼らはハッキリと「七勇者」と口にした。

『何が……本当に……何がどうなっているゾウ?』

もはや、未だにライファントと通信が繋がっていることを忘れてしまうほどに、ソルジャもライヴァールも呆然としていた。

もちろん、ライファントも魔界で呆然状態。

「ええええ!? いやいやいや、なんで!? え、そうなのか!? え? べトレイアルが、アレで、ゴウダの時で、いや、ちょっと待て! そこに、あいつが、え!?」

「聞いてない聞いてない聞いてない!! あの子がそもそも単独でゴウダ暗殺なんて作戦何も聞いてなかったし、失敗とかも……って、しかもこれ、見かけたとかすれ違ったとかじゃなくて、アースが……」

もはや囚われの身とは思えないほど落ち着きなく混乱状態のヒイロとマアム。

ハクキはそんな二人をニヤニヤして見ながらも、自分自身も予想はしていたとはいえ知らなかった歴史の裏側を覗けることにご満悦。

そして……

『七勇者の一人にして、連合軍加盟国……ベトレイアル王国の異端児……、『超能力少女・エスピ』だな?』

遭遇した傷だらけの少女に呆然とするアースの周囲には追いついた魔王軍の兵たち。

そして、隊長であるピッグゴリがそう告げた。

ただ傷だらけの少女を映し出しただけでは、その少女を知らない者たちからすれば何のことかわからないかもしれない。

しかし、アースが時を遡ってしまったことに加え、ゴウダの名前と少女の肩書と少女の名前を魔王軍の兵士が口にしたことで、世界は理解した。

――七勇者のエスピ!!??

まさに、アースに過去へ跳ぶアイテムを渡した張本人のかつての時代。

世界中が一斉に驚きとともにその名を叫んだ。

「や、やっぱり、エスピ!? う、嘘だろ!? エスピとアースが出会ってた?! ちょ、お、おち、おちついて、れいせいにどうなってんだ!?」

「で、でも、知らないし聞いてないし……ど、どうなるの? どうなっちゃうの? てか、どうなってどうしてどうこうどうなん、も~~~~、何なのよぉおおおお!!」

幼いころの自分たちの命を救った正義の味方の正体がアースだった。

それに加えて、まさか幼少期のエスピとアースが出会っていたという更なる事実。

「ふふふ、さ~て、どうなるのだろうな?」

ハクキは楽しそうにしながら、優雅にワインに口をつけた瞬間――――

―――そう、こうして……時を越えて……少年と少女は出会ったのだった

「ん? パリピ?」

パリピのナレーションが入り……

――第二部 完♥ ご視聴ありがとうございました。本日の鑑賞会はこれにて終了します

「ぶぶっほ!?」

ハクキがワインを噴いた。

「え……え? お、終わり? ここで?」

「あ……え? あ、空が元に……」

そう、皆は既に忘れていた。そもそも本日の第二部は、ヤミディレ、バサラ、天空世界、そしてパリピとの戦いというあまりにも濃すぎるレベルの鑑賞会だったのである。

それゆえに、本来であればその続きはもうお腹いっぱいで蛇足……となるはずが、予想外の展開に皆が思わず引き続き見入ってしまった。

しかし、あまりにも長時間ゆえに、時間的に今日はこれまでというパリピの配慮……なのだが……

――それでは、明日をお楽しみください。さよなら! さよなら! さよなら!

「「「こ……ここで終わり!!??」」」

もはや、ハクキすらも思わず立ち上がって空に向かって叫んでしまう、あまりにも残酷すぎる場面でのお開き。

「な、納得できるかぁぁ!? ど、どうなってんだ! どうなるんだよ! エスピがアースと出会って、で、ど、どうなるんだ!? この後、どうなるんだ!」

「な、なんちゅうところで切ってんのよ、あの史上最悪の男は! な、なにこれ、うそ、ここで本当に今日終わり? 明日の夜まで我慢しろって言うの!?」

「……かつての同志ながら……鬼と呼ばれた吾輩ですらもあやつにはこう言いたくなるな……『まさに外道な悪魔め』……と……」

その悲鳴のような叫びはヒイロ、マアム、ハクキだけではない。ハクキのアジトに居たオーガたちも……そして……

魔界も含めた全世界で同じ悲鳴が一斉に響き渡っていた。