軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十二話 いつの時代

――そう、少年は時を越え、まだ勇者になる前の幼き頃の父と母と対面してしまったのである

パリピがナレーションで断言するように言葉を添えることで、世界もようやく気付いた。

アース・ラガンの身に起こってしまったこと。

「な、なんということです……で、では、原理はどうであれ、坊ちゃまが過去へと跳んでしまい、そしてその坊ちゃまが旦那様と奥様を救い……そしてその姿に憧れた旦那様が勇者への道を……そういうことだというのですか?!」

ありえない出来事であるが、見たままの光景を言葉にするのならそうとしかならない。

人が過去へと跳び、幼い頃の両親と対面するなど誰が信じられるか?

何よりも……

「ちょっと待て! 人が過去に行くことができるかどうかも含めてだが……で、では、今アースはどこにいるのだ?! アースは!?」

フィアンセイのその叫びに皆がハッとする。

「そ、そうだよ……ちゃんと帰って……来れるんだよね? この時代に」

「そう……であるはずだ。でなければ、パリピがこのような鑑賞会を開けるはずがない。戻ってきているはず……」

そう、アースが本当に過去に飛んでいたとして、アースはちゃんとこの時代に帰ってこれるのか?

そうでなければ、自分たちはアースとはずっと……

『ほほほほ、ほんとに? 時間跳躍? いやいや、でも可能なのか? よく物語とかで……『過去は変えられない。しかし未来は変えられる』みたいなベタなセリフあるじゃん!』

そして、アース自身も状況を理解しながらも「一人」で森の中で叫んで混乱している。

『とにかく、エスピとスレイヤがどうしてこんなもんを俺に渡したか分からねーけど、元の時代に帰った方がいいってことだよな?』

だが、それでも「どうすればいいのか」の答えはちゃんと出していた。

「ほほう、あの小僧も混乱しつつもちゃんと考えておるな。不用意に顔を晒して名乗ることもせんかったし、……時の矛盾を回避するよう心掛けておる……えっと、何とかパラドックスじゃったか? いずれにせよ、賢いではないか」

ニタニタと笑いながらバサラも興味深そうに空を眺める。

とはいえ、それ以外の者たちにはまだ冷静になるのに時間がかかりそうであった。

「どうやら幻術ではなさそうだ……アースは本当に過去に……」

「……そのようだな」

もはや人前で、ましてや臣下の前でなければ腰抜かしてひっくり返るところであった、ソルジャとライヴァール。

未だに「信じられない」という思いは捨てきれないものの、事の重大さに震えが止まらなかった。

「過去に戻ってやり直せる……悪用すれば無敵だな……」

「そうだな……アースにそのような意思が無かったことが救いだが……」

「しかし、どうしてエスピはあんなものを持っていて、しかもそれをアースに渡したのだろうか?」

「……流石に分からんな」

そう、原理に続いて不明なのは、エスピの目的であった。

エスピは何のためにそんなアイテムをアースに渡したのかということ。

「いずれにせよ…………あ~……ライヴァール……ここからどうなると思う?」

「……むっ……」

「「「「「………………………………」」」」」

そして、何か含みがある苦笑した表情でソルジャが尋ね、その場に居た兵たちも色々な意味でライヴァールの言動に注目。

その周囲の視線にライヴァールは……

「どうも何も、アースも過去の時代で何かをやらかそうとしているようでもないので、あのアイテムを使ってちゃんとこの時代に戻ってく―――――」

「「「「「ええええっ!!!??? 戻ってくるって……ということはつまり……!?」」」」」

「……も……戻ってくるだけならば、パリピが今夜の第二幕をワザワザ蛇足のように伸ばす意味も無いからな……恐らく、戻ろうとしたら何かあったのだろう! つまり、アースは『あの時代』……幼少期のヒイロやマアムや我々の居る時代でもう少し何かをやった……かもしれない」

「「「「「……えっと……つまり?」」」」

「つまり! ちゃんとこの時代に戻ってきたか、あの時代にもう少しとどまったか……どちらかだ!」

「「「「「(あ……なんか、卑怯!?)」」」」」

腕組んで威厳を込めて強く発言するライヴァールだったが、周囲の視線は少し微妙。

そんな中で……

「陛下! 急報です! 引き続きベトレイアル王国から……」

また、慌ただしく宮殿の兵が鑑賞会をしているテラスに駆け込んできた。

急報。

とはいえ、ソルジャたちにはその内容が既に聞く前から予想がついたようで溜息。

「今度はエスピの件か?」

「はい……『我が国を裏切ったエスピと勇者ヒイロの息子であるアース・ラガンが接触したという事実を隠していたこと。これはエスピより我がベトレイアル王国の機密情報などを得ようと――――』

「ああ、もう分った分かった……アースとエスピがそもそも接触していたなんて我々も初めて知ったというのに……というか、裏切ったも何も絶縁していただろうに……」

「そ、それと……」

「……他にも? ああ……あの時を越える力についてか……」

予想通りだなと頭を抱えるソルジャに対し、更に伝令の者は言いにくそうに……

「ええ……『そのようなアイテム、更には事実を今日まで隠蔽し、それを魔族側にも知られるような形で公表されたことは誠に遺憾である。戦前より続いた連合国としての絶対的な信頼関係にヒビを入れる重大な隠蔽工作を強く非難する』……とのことです」

「はぁ……」

「アースが……アースだったのか……アースがあの時の正義の味方だったなんて……でもなんか、今にして思えば、そそくさと立ち去っていたような……それに、あのモンスターを一瞬でぶっとばしたのは……速すぎて見えなかったけど……パンチだったかも……」

「じゃあ、あのときアースが私たちを助けてくれていなければ、私たちは今もこうして生きてなかったってことに……」

「……なんてこった……」

「何てことなの……」

「で、でもよ! それだったら一言ぐらい言ってくれてもよ……俺らが信じたかどうかは別にしても、『俺は未来から来たお前たちの息子だ』みたいによ!」

「そうよぉ! こんな形で知ることになった所為で、心臓止まるかと思ったわよ……」

まさか実の息子が命の恩人であり、憧れた存在だったと知ってしまったヒイロとマアムは、何と言えばいいのか気持ちを言葉にできなかった。

まさに、「なんてこった」と言うしかなかった。

「バカが。この時代に居るお前たちがそのことを知らなかったということは、この時代から過去へと行ったアース・ラガンがお前たちに余計なことを伝えてしまえば時の矛盾が生じてしまう……奴はそれを回避したのだろう」

「「……ときの~むじゅん?」」

「だが、どちらにせよ……この時のアース・ラガンの行動から魔王軍の命運が大きく変わっていたのかもしれないな……全ては繋がっていたと……だが、一方で……ちゃんと時を越えたなりの立ち回りをしているわけか……しかし……惜しいな……」

ハクキも一連の流れに驚きながらも苦笑して空を見上げ……

「アース・ラガンの傍に居るあの方は……このときどんな顔をされていたのか……どんな反応をされているのか……見てみたかったものだ。『お前も』そうであろう? 惜しいものだ……」

「「???」」

そんな思わせぶりに呟くハクキの瞳には、エスピから渡された懐中時計と「一人」で睨めっこしているアース。

【登録サレタユーザーノ認証確認完了。ジャンプノ設定ヲオ願イシマス】

『おお、で、ここから……?』

【設定完了シマシタ。ジャンプヲ起動シマス】

そして、アースが弄っていると、再び時計か言葉を発して閃光を放ち、アースの体を包み込む。

「あ、おい、またアレが! 今度はどうなっちまうんだ!?」

「アースはちゃんと帰ってこれるの? ってか、今もちゃんと帰ってきてるの!?」

ハクキの言葉の謎よりも、今はアースの安否。

今度はアースはどこへ行く?

ヒイロとマアムがそう叫ぶと……

『ここは……森?』

アースは変わらず森の中に居た。しかし、先ほどと同じ場所ではないようで、風景も少し違う。

何よりも……

『居るな……』

アースがいつでも動き出せるように警戒心剥き出しに身構えている。

感覚の鋭いアースが身構えるということは、近くで何かの気配がある証拠である。

すると……

『おい、いたか!? 侵入者は?』

『十人居たが、それは全部始末した』

明らかに一般人とは違うドスの利いた声である。

咄嗟にアースが茂みに隠れて伺うと……

『ってことは、あとは『将軍』にふっとばされて逃げたあのガキを捕まえるだけか。でも、もう逃げてるんじゃねえのか?』

『バカ。将軍も言ってたろ? 吹っ飛ばした時の手ごたえで、奴は死んでねぇって。でも、逃げられるほど傷も浅くないってよ』

重厚な鎧を纏い、巨大なアックスを持ち……二足歩行ではあるものの、人間ではなく……巨漢の……

「な、ま、魔族!? 犀人族……いや、……いやいやいや、待て待て! ってかあの鎧……」

「魔王軍の鎧!? え? なに? だって、ライファントが新政府設立とともにあのモデルの鎧は廃棄して……ひょっとして魔王軍の残党!?」

「ふふふふふふ……ふはははは、いや、違うな! 違うぞ! あれは残党などという侘しいものでもないし、現在の吾輩の同志でもない。アレは……まさに現役!」

アースの視界に映る魔族の兵。

それだけを見れば、「魔王軍の残党」と一瞬勘違いするのも無理はない。

しかし、ヒイロもマアムもすぐにハッとする。

「げ、現役……現役って……ッ……アースはエスピからもらったあのアイテムで時を越えられるから……」

「うそ……でしょ? うそでしょ!? そ、それじゃぁ、アースは……ま、まさか……まさか……」

アースは時を越えられる。

現役の魔王軍。

であれば、もはや答えは一つしかない。

――そう、少年は再び時を駆けた。ただし、それは元の時代ではなく……

「ッ、パリピの声!」

「しっ! 元の時代じゃない……そ、それじゃぁ……」

パリピのナレーションと共に、森の中で隠れるアースの視界に映る魔王軍の兵たちの姿。

『とりあえず、さっさと片付けちまおうぜ……侵入者を……なぁ!』

『ああ……そうだ……なぁ!』

そして、隠れているアースへ向けて鋭い視線を向ける魔王軍の兵たち。

「バレてる! アース!」

「逃げなさい、アース!」

現役。戦場の兵士。その鋭い感覚は隠れていたアースに気づき、兵たちは隠れているアースにアックスを振り回す。

アースはそれを何とか回避するも、その姿を兵たちの前に晒してしまった。

『ちっ、あのガキじゃねえか……とはいえ、侵入者がまだいたか……ドギタネエ連合軍が……』

『お前も俺らの陣に忍び込んで、将軍を暗殺しようだなんてセコイことしようとした、連合軍のカスか?』

アースが避けなければ間違いなくアースを殺していたであろう魔王軍の兵。

深々と突き刺さって地面を破壊しているアックスに、アースの表情も強張っている。

「マジかよ! アースが……魔王軍の兵と遭遇しちまって……しかも連合軍と勘違いされてる?」

「もう、どうなってんのよ! っていうか、いつの話なの? 私たちが現役の頃? それとももっと昔の話? 陣に忍び込んで将軍暗殺? そんな作戦あったっけ?」

混乱しながら、必死に過去に頭を巡らせて思い出そうとするヒイロとマアム。

だが、アースはどうなる? これはいつの時代? 色々なことが頭を過って半ばパニックになって落ち着けるわけが無かった。

すると……

『まっ、連合軍といってもその中でも更に下衆……『ベトレイアル王国』のやつ等だからタチが悪い』

『手柄欲しさに将軍暗殺なんてしようとしやがって……しかも、いくら強いとはいえ、あんなガキと将軍をぶつけて、最悪相打ちにさせようとか、下衆な奴らの発想は怖いぜ』

アースと対峙する、魔王軍の兵たちはハッキリとそう言った。

「……え? ん? ベトレイアル……?」

「ベトレイアル王国……って、今……言ったの?」

流石に具体的な国名まで出てくると、それに反応せざるをえない、ヒイロとマアム。

勿論それは世界各地で。

そして、それを聞き間違いではないとあえて強調するように……

――そう、時を駆けた少年が辿り着いた時代……それは、世界の歴史の裏に隠された……連合加盟国であったベトレイアル王国……ハイ! ベト~レイア~ル王国~が、独断! と、無断! で動いたことで生じてしまった出来事に、偶然に、そして運命的に少年は関わってしまう

大事なことなので、パリピはあえて二回言った。