軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十六話 何かが見えている

「な、なに!? 姉さんと兄さんから沸々と……何かが沸き上がっているのが見える……」

「こ、これは……私とは種類が違うけれど、私には分かるは……これは……嫉妬オーラ」

賑やかで笑顔と興奮溢れていたエルフの集落に、禍々しい二つの瘴気が発生した。

『アマエはあんちゃんの膝に座んなよ』

一回戦を余裕で勝ち抜いたアースは観客席で高みの見物。

懇意のシスターたちと並んで座るが、会場は満員なのでアースが座ると座れない人が出てしまう。

ならばと、カルイがニヤニヤしながらアマエにそう言うと、アマエは顔を真っ赤にさせてビクッと震えた。

モジモジとしながらアースの顔を伺うアマエに対し、アースは笑って……

『ほら、アマエ』

『いいの? お……お……に……ちゃ……あぅ……お、おにいちゃ……う~』

アースはポンポンと膝を叩いて頷いた。

するとまたモジモジしながらブツブツ何か言いたそうなアマエ。

しかし、アースはそれを察して……

『いいよ、別に。好きなように呼べばいいぜ』

そう言って、アマエの頭を優しく撫でるアース。

「……むむむ……」

「……ぬぬぬ……」

ますます眉間に皺が寄るエスピとスレイヤ。

そんな二人の気持ちなど関係なく、空に映るアマエは一瞬呆けながらも、勇気を出してアースに向かって……

『お……おにーちゃん……』

『おう』

『……おにーちゃん』

『ああ』

『おにーちゃん』

『なんだよ、アマエ』

最初は恐る恐る。だけど、次第に確認するように、そしてついにはハッキリとアースをそう呼び、そして次の瞬間には……

『おにーちゃん!』

『ああ』

『~~~~っ、きゃっほーう!』

アースの膝に乗るどころか、アマエは体ごとアースの腹にダイブした。

『むふー! アマエのおにーちゃん!』

『ああ』

「「あ゛あ゛ん!!??」」

屈託のない満面の笑みを世界中に見せつけるアマエ。

プニプニの柔らかい頬でアースの顔に頬ずりする。

それを見て世界中では……

――アマエちゃん、かわいい……

――私もお姉ちゃんって呼ばれたい……

――お兄ちゃんになりたい

――アマエたん、はあはあ、天使……

――あんな妹ができたら人生何もいらない

――なぜ俺はアマエちゃんのお兄ちゃんじゃないんだ!?

と様々な声があがる。

だが、このエルフの集落では……

「は、……は……はぁああああああああああああ?? なにそれ! は? ぐぬぬぬぬぬぬ、お兄ちゃんを誑かしてる! 泥棒猫?! アマエちゃん……お兄ちゃんの妹分ってのは知ってたし、かわいいけど、……でも、とんでもないよ!」

「なんというあざとい……ボクのお兄さんをまるで自分だけのお兄さんだというような態度で独占しているかのように見える!」

「ってか、時代の時系列的に先に妹になったのは私なんだけど! お兄ちゃんにギュッとして、頭撫でてもらって、しかも膝の上を独占とか、何それ!?」

「弟のボクを差し置いて随分と……ぐぬぬぬぬぬぬ」

まさに、かつて自分たちがアマエと同じ歳ぐらいだったころに、アースを失ったエスピとスレイヤ。

今でこそ再会できたものの、あの小さかった頃にまだまだ小さかった時ゆえの特権でやりたいことは山ほどあった。

それを目の前で自分たちの知らない娘が、やっている。

「ん? 一体何の……ああ……アマエ……お、おいおい、エスピ、スレイヤ。お前ら何を……アマエはあんなちっちゃ―――」

「お兄ちゃんは黙ってて!」

「これはボクたちの誇りを揺るがす大事件だよ!」

何の騒ぎかとアースが体を起こして振り返り、鼻息荒いエスピとスレイヤに呆れた表情を浮かべるも、それを強い口調で黙らされた。

「に、兄さん、姉さん……こんな二人は初めて見るよぉ~」

「……ハニーの妹であること、弟であることが二人にとっては誰にも譲れない絶対的なものであり、だからこそ自分たち以外の人が『お兄ちゃん』なんてハニーに甘えて、しかもハニーもそれを可愛がるなんて光景を見せられてしまって爆発してしまったようね……」

まさかのエスピとスレイヤの嫉妬モードには妹分であるアミクスもビクビクしてしまい、シノブは二人の気持ちを理解して憐れむような表情を向けていた。

「やれやれじゃのう……戦時中、エスピがヒイロやマアムに頭撫でられそうになった時、全力で拒否したりしとったが、アレは照れではなく本気で嫌だったんじゃなぁ……」

「ははは、そりゃそうじゃない。エスピ嬢にとっての兄は十五年以上前からたった一人だけだったから……」

アースに対して色々と思うところがあったミカドとコジローも、今のエスピの様子からも深くは聞くまいと、また楽しむように空を見上げることにした。

『大魔ラビットパンチ!』

『お……あ……い……一閃! 一瞬の決着! ちょ、私も解説挟む暇もなく見入っていて……と、とにかく攻防を制したのは、アース! 堂々の準決勝進出です!』

だがしかし、それでも黙って流すことができない者がいるのは仕方のないことである。

「魔呼吸を習得し……しかし、それだけではない。ブレイクスルーや大魔螺旋にこれまで目を奪われていたが、今にして思うと、アース・ラガンは非常にバランスが取れた戦士だ……」

遠くの地にて、ハクキもまたアースに対して疑問が尽きなかった。

「ただの父親の劣化版の魔法剣士という評価だったアカデミー時代から、剣を捨てただけでこうも……やはり解せんな」

アースの成長の仕方が理にかない過ぎて、理想的過ぎて、だからこそあり得ないことが起きていると、ハクキの表情は真剣そのものだった。

「そして、そもそも御前試合の前はどのような鍛錬をしていたのか……貴様ら知らんのだろう? だからこそ、それほど驚いているのだろう?」

チラッと傍らを見て、バツの悪そうな表情を浮かべる、ヒイロとマアム。

そう、二人もハクキの疑問の答えがまるで分かっていなかったのだ。

『ワーチャ、ホワチャ、ワチャホワチャ♪ はい!』

『さあ、選ばれし男たちの準決勝! 向かい合う、超新星と歴戦戦士。正に、新時代と伝統という構図になります! では、見せてもらいましょう! この対決の結果を! 準決勝……始めっ!!』

『大魔フリッカーッ!!』

『ホワチャァ!!』

そして、ハクキやヒイロの疑問の答えが出ぬまま、舞台は準決勝。

そこでは、一回戦や二回戦の時と違い、洗練されて研ぎ澄まされ、神経をすり減らすような技術の攻防が繰り広げられる。

一流の拳法家のワチャとの一戦。

当然、ワチャの戦闘能力自体は、六覇や七勇者たちよりも遥かに劣るが、その戦闘技術は目を見張るものがあり、アースはそのワチャに対して技術戦で渡り合っていた。

「フットワークでフェイントを織り交ぜながら互いの動きを先読みし合い、カウンター、動体視力……やるな……経験豊富な武闘家相手に対して、若さに任せた強引な力押しではなく技術で渡り合うか……」

「アースの奴……あんなことまでできんのかよ……ああいう繊細な動きは俺には……マアムのようなしなやかな動きだ」

「でも、私とは動きのキレが違うわ。アレは一つの動きを何度も反復練習したうえで、その動きを応用している感じ……だから、外側から見ている以上に、直接対峙している人には更に速く感じると思う……実際、私たちもアースのフェイントに振り切られたし……っていうか、そもそも今のアースは、あのレベルの相手に対して……左しか……」

単純な力のぶつかり合いではない。

アースならば、勝とうと思えばブレイクスルーで力押しでねじ伏せることも可能。

しかし、アースはそんな戦い方をしない。

それどころか……

『あ……当たりません! 互いに攻守同時に繰り返す目まぐるしい技術戦! いや、技術戦でアースがワチャと渡り合ってる時点でもう既に凄いんですが!? しかし、ワチャはワチャでアースの若さと勢いに押されるわけでもない! 互角! 実に素晴らしい試合です!』

『ははは、互角とは買いかぶり過ぎアル。私が全身の部位を使って攻撃しているのに対し、向こうは左手一本のみの攻撃……互角が聞いて呆れるアル』

『安心しろ。本気は出すが、あくまでテーマは左だ』

そう、アースは左のパンチしか攻撃に使っていないのである。

もはやそれは、アースのランクが一流の武闘家に対してもケタが違うことを意味していた。

『本気? 右を使うアルか? それとも……大神官様が気にされている……奥義・ブレイク――――』

『いいや、違うぜ。あくまで左だ。だが、左は左でも……もっと集中力を高めた状態での左をぶつけてやる』

『ぬ?』

『ブレイクスルーとは違う。使うのは魔力ではなく……神経……脳……見せてやるぜ。『ゾーン』をな……そして……一瞬で終わらせてやる』

そして、自分に枷をはめた状態のまま、魅せる。

「おまけに、ゾーンか……自力で入れるか……まぁ、魔呼吸できることに比べれば……だがな。とはいえ、もうこの領域になると……やはり、あの小僧は……」

そのとき、ハクキが改めて問いかける。

「お前はどう思う?」

またもや聞かれた問いに、ヒイロは唇を噛みしめながら……

「だから……俺たちにも分から――――」

「違う。『お前たち』に聞いていない」

「……は?」

ってきり、自分とマアムに問われたのかと思ったヒイロだったが、「お前たちではない」とハクキは否定。

ならば、ハクキの部下たちか? と思うも、ヒイロとマアムがキョロキョロ見渡しても、近場にハクキの部下たちはいない。

ならば、誰に?

どういうことなのかヒイロとマアムが分からぬまま、ハクキはただ一人で……

「あのアース・ラガン……吾輩と同じように……『何かが見えている』……のではないか? ……ふっ、やはりお前もそう思うか? 果たして何が見えているか分からぬが……どうした? やけに嬉しそうではないか?」

「「……????」」

「ん? 吾輩も嬉しそう……だと? ……ふむ」

突如独り言を言い出したハクキ。

しかも変な独り言である。

まるで、「誰か」と会話をしているような独り言に、ただでさえ息子のことで訳が分からなくなっているヒイロとマアムは混乱するばかり。

だが、そんな二人を無視してハクキはどこか嬉しそうに再び空を見上げて……

「確かに……色々と確かめてみたい……もし、あやつが何かを見えていて……しかも、それが吾輩たちの知っているものであれば……たしかに、これほど嬉しいことはないかもしれん」

そう呟いた瞬間、アースの閃光のカウンターがワチャを捉え、ハクキはゾクゾクしたような笑みを浮かべた。

『これこそ、俺がゾーンに入ったことで打てるようになった……『大魔ファントムパンチ』だ。礼を言うぜ。初めて実戦で『入る』ことができ……極限のタイミングを『掴む』ことができた……あんたが引き出してくれた』

『あ~っと、立てない! そのままワチャは地面に突っ伏し……気絶! 気絶しております! 左の一閃、まさに電光石火! 新時代と歴史。今日、軍配は新時代に上がりました! アース・ラガン、堂々の決勝進出決定ですっ!!』

そして、アースの決勝進出の姿と雄姿が映し出され、世界中から歓声が上がった。