軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十二話 俺の名は

「よしっ、逃げろぉぉぉぉお!! エスピ! スレイヤ!」

「うん! 問題なし! お団子も持ったし!」

「まったく、堂々と入国できたのに出るときは逃げることになるとはね……」

民も王国戦士団も色々と普通ではない、まるで祭りのような盛り上がりの最中で俺たちは隙を見て逃げ出すことにした。

これ以上囲まれても面倒だしな。

「な、あ、あ……」

「おら、シノブの兄ちゃんも、その仲間たちも行くぞ!」

「あっ、か、かたじけない!」

ついでにこのドサクサに紛れて、一応今はお尋ね者になっているフウマとその仲間のイガとコウガの二人も呼ぶ。

「ぬっ、ちょっと待つでごわす!」

「あああ、戦碁神さまが!」

「ま、まってくれ、あんた、名前は……!」

「待ってください、お兄さん! せめて名前をぉ!」

後ろから俺たちを呼び止める声が聞こえてくるが、そう言われて止まるわけがない。

「あああああああああああ、フウマたちまで逃がしてしまったでごわす! って、ぼ、僕たちはそういえば何をッ!?」

そして、大切なことまで忘れていたことをようやく連中も思い出した様子。

だが、もう遅い。

仮に今から忍者たちが追いかけてきても、俺たちを捕まえられない。

フウマたちも一流の忍者戦士ということで、これだけ敵と距離が離れたら捕まることもない。

「くはははは、いや~……随分と訳の分からない経験をしちまったが、何とか助かったな」

俺たちはジャポーネの屋根伝いを走って飛んで、後ろを振り返れば誰も俺たちに追いついてきてないことを確認してから笑った。

「あははは、ほんとほんと~。シノブちゃんのお兄さんたちも良かったね♪」

「ああ。今日はまだボクらも暴れるつもりはなかったから、戦闘にもならずに助けられてよかったよ。それに、なんだか面白かった」

団子が大量に入った袋を抱えて一緒になって笑うエスピとスレイヤ。

そんな俺たちにしばらくポカンとした様子のフウマたちだったが、走りながらハッとして口を開く。

「その……助けてもらった……恩に着る。まさか、お前がジャポーネにいたとはな……」

「ああ、縁があるな。あんたには色々と複雑だけど……」

「ッ……うむ……」

俺がちょっと意地悪を込めてそう言うと、フウマは顔を暗くした。

俺の言葉が何を指しているのか、こいつにも分かっているんだ。

つまり、「あの出来事」はこいつにとってもちゃんと……

「分かっている……あのオーガのこと……だろう?」

ちゃんとあのことをこいつも罪悪感を抱いていたということなんだろう。

「お兄ちゃん、オーガって……それって……」

「ああ……だけど……もういいんだ」

まぁ、もう今更掘り返しても仕方のないことだしな。

シノブのこともあるし、俺ももうそのことをこれ以上は言わないでおこう。

「で、シノブの兄ちゃん……」

「フウマで構わん。……あ、もしお前がシノブと……その……結婚―――」

「あっ、決してお兄ちゃんとか呼ばないからな」

「……そ、そうか……」

なんだか少し残念そうだな……まぁ、確かに「そういう可能性」だってあるわけだから、あながち「何言ってんだよ」というものでもないかもしれない。

とはいえ、今はそんなことよりも……

「で、あんたらがジャポーネに帰ってきたのは、オウテイさんとカゲロウさんたち、そしてコジローとミカドのジーさんの関連だろ?」

「ッッ!? な、なに……?」

「何で知ってるかってーと、今俺らの友達がシノブたちと一緒にあんたの両親やコジローもミカドのジーさんもその仲間たちも匿っているんだよ。つか、この数日間色々あってな……」

「ッ!?」

「そんで、今日俺たち三人が王都に来てたのは遊……情報収集も兼ねてだったんだが、運が良かったな」

「な、なんと……拙者らが知らぬ間にそんなことが……」

「ああ。まっ、とりあえず後でゆっくり話してやるし、みんな無事だから安心しろよ」

そう、走りながら教えられるほど簡単じゃない。

色々あったからな。

「そうか……それならそれでよい……父上も母上もシノブも、そしてコジロー様やミカド様もご無事であれば……シノブも『マクラ』のことで色々と複雑な想いもあったであろうが……お前が傍にいてくれたのなら……」

そして、フウマもこの場で全て聞こうとはせず、とにかく今は自分の家族の安否を知っただけで十分だと、ホッと胸をなでおろしている。

「全部、お前が助けてくれたのか?」

「えっ? いやぁ……どうだろうな……色々と偶然が重なったりもしたし……別に俺一人でどうこうしたわけでもないし……」

「そうか? だが、それでも何となくだが……お前がその場に居たからこそ、皆が無事だった……分からないが、拙者はなんとなくそう思う……だからこそ、お前にはまた返すべき恩が増えたな……」

「んなことねーっての」

ちょっと照れくさいし、本当に俺一人でどうのってわけじゃない。

エスピもスレイヤも族長やエルフたちの協力もあったわけだからな。

「そうだ……以前会ったあの後……結局お前に聞きそびれていたのだ……大事なことを……」

「ん?」

「お前の名は……なんというのだ?」

と、その時俺は今になって今更なことに俺自身も気づいた。

そういえば、俺はフウマたちに名乗ってなかったっけ?

「あはははは、な~に、お兄ちゃん。未来の義理のお兄さんになるかもしれない人に自己紹介もしてなかったの~?」

「ははは、でもそういう大事なことを気づけば後回しにしているの……なんだかお兄さんらしいね……ボクたちにもそうだったしね」

そんな俺たちのやり取りを、エスピとスレイヤも過去での出来事を指して笑っている。

たしかにあのときも、一緒に居た二人は俺のことを「兄」と呼んで名前を言う必要もなかったし、ノジャとのときは『ラガーンマン』にしてたからな。

俺が『アース・ラガン』と名乗ったのも、ゴウダとの戦いのときだけだ。

『ふふふふ……おかしなものだな』

『ん? トレイナ?』

そのとき、傍らのトレイナもおかしそうに笑った。

『過去の世界であれだけのことをしてきて、貴様を『アース・ラガン』と認識していたものはごく僅か……あのエルフの集落ですら、族長とラルぐらいしか貴様の本当の名を知らなかった』

『た、確かにな……』

『そして、思い起こせばカクレテールでも、天空世界でも、貴様は大きなことをやらかした……しかし……天空世界もカクレテールも情報が閉ざされた世界……ゆえに、貴様のアース・ラガンとしての武勇伝を世界は知らない……』

『ん? まぁ……そりゃそうだな……』

俺は何がそんなにおかしいのか、トレイナの言葉の意味がよく分からなかった。

だが……

『帝国から飛び出して……貴様はここまでとてつもなく濃密な日々を過ごしてきた……シノブたち忍者戦士と戦い、オーガのアカと戦い、カンティーダンでは裏社会の連中やアウトローのブロ……カクレテールではマチョウら猛者たちと戦い、大会で優勝……天空世界では王国と全面戦争……そこから過去に飛んで大暴れ……ふふふ、六覇に至っては、ヤミディレ、パリピ、ノジャ、ゴウダたちと戦って……そして先日はミカドをも撃破……時代が違えど乗り越えてきた強敵たちは七勇者の功績に決して負けてはいない……』

『な、なんだよ……ほめ殺しかよ……つっても、改めて振り返ると確かにすげえな……』

『だろう? それなのに……ふふふふ、貴様の名前は実はまだ世界でそれほど広まっていないということだ。一部の者を除いてな……』

『あっ……』

言われて気づいた。

そう、俺は確かにこれまでとんでもない激戦の日々を乗り越えてきた。自分でもそれは自信を持って言える。

親父たちのかつてのライバルだった連中とまで戦ったし、俺は堂々と渡り合えたと自負している……まぁ、トレイナの協力はあったけども。

だけど、肝心の俺の名前は色々とあって世界に知れ渡っていない。

だから今日みたいなことがあっても、みんな俺のことを知らないんだ……

「くははははははは」

「「「!?」」」

確かにそうだ。俺は思わず笑っちまった。

『ったく……親父を超える偉業を成して、アース・ラガンのことを認めさせてやる……ってことを掲げて家出したのに……あんだけのことをやってきたのに、俺の名前ってそんな有名じゃないとはな……』

『ふふふ、まだ貴様のことは新聞にすら載らないだろうからな』

『あぁ……あんだけのことをしてきたのに……俺はまだまだまだまだってことか?』

『そういうことだな。先は長いなぁ』

これまであれだけのことをしてきたのに、まだまだ?

途方もなさ過ぎて笑うしかない。

『そういうことなら、まだまだ鍛えてもらわねーとな、師匠♪』

『ふん、それこそまだまだまだまだまだま~~~だ、教えることがあるというものだ』

そんな風に心の中で会話して笑い合う俺たち。

でも、「お前の名前は?」

まもなくこの質問は誰も俺に対してしなくなる。

何故ならば、もう名前を聞くまでもなくなるからだ。

俺が『アース・ラガン』と名乗るまでもなく、俺が何者なのか……それはもはや大勇者ヒイロすらも超える知名度となって、俺の顔と名前は全世界に種族問わずに知れ渡ることになるからだ。

「……あっ、お兄ちゃん! いま、コッソリ『二人』で内緒話してるでしょ! 何を話してるの? ニヤニヤしちゃって、ずるいよ!」

「まったくだ、ボクたちを除け者に内緒話なんて、そうはいかないからね!」

「「「?」」」

俺の様子を見て、エスピとスレイヤは「ピーン」と来たようで、二人はムッとした顔で走りながら俺に詰め寄ってきた。

流石に分かるか。ま、フウマたちは「?」状態だけどな。

「まあまあ、後でちゃんと教えてやるよ」

「む~、絶対だよ? トレイナも分かってるの~?」

「まったく、お兄さんはトレイナさんだけのものじゃないんだからね? 分かってるかい?」

『……ふん……』

二人が左右から俺に耳打ちし、トレイナもそれには苦笑。

そうだよな……今度から更にこの二人も俺たちの旅に加わるわけだからな……

「大丈夫。こいつも分かってるよ。それに、今は機嫌もいいしな。それこそあんなに戦碁を堪能させてやったしな」

『うむ……まぁ、確かに余も今日に関しては堪能させてもらったがな……』

「あはははは、そうなんだ。でも驚いたな~、あんなに戦碁強かったなんて……ねえ、ちなみにだけどトレイナって他にもすごい特技とか趣味とかあるの?」

「確かにね。ジャポーネにコッソリ遊びに来ただけなのに、あれほど大騒ぎになるとはね……ま、楽しかったけども……ふふふ、これからもまたあんなことがあるのかな?」

まだあるか? これからも?

エスピとスレイヤの言葉に俺はまた笑ってしまい……

「くははは、何言ってんだよ。こんなの、まだ始まったばかりじゃねえか」

「「?」」

「俺、エスピ、スレイヤ、そしてトレイナ……この時代での俺たち四人の遊びは、まだ初日だぜ?」

まだあるか? あるに決まってる。

これからも? いつまでもだよ。

「あははは、そうだね! これからもさ、今日みたいなことがいっぱいあるんだね!」

「ふふふふ、行く先々でこんなことになったら、もう楽しすぎて心がもたないよ。でも、なんてたまらなく楽しみなんだろうね!」

俺の言葉の意味を理解し、エスピとスレイヤも嬉しそうに頷いた。

「だな。まだまだな」

『うむ、これからもだな』

――完――