軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十五話 手も足も

『ここまでの次元に達したか……』

繰り出される攻撃の側面を弾くことによって軌道をずらして受け流す。

ノジャの九つの尾と両手足の動きと、いざという時には噛みついて来ることまで想定して全てを見切って捌く。

「ッ~~ウッガアアアアアアアアアッ!!!!」

「大魔ソニックパリィッ!!」

更にイラつきが高まったようだな。ギアが上がってきた。

だが、落ち着きなさ過ぎてモーションがデカすぎる。

パーリングでいなしきれないものは、普通に頭振ったり、スウェーを交えて回避する。

「……頬を……そして肩をかすめとりますな~……一発当たれば全てチャラという攻防……しかし、当たらへん……何よりお兄はんのあの目は……恐怖心もないと……一切ミスをせえへん」

カウンター打ち込もうと思えば打ち込める……相手が幼女の姿をしてなければ、クロスカウンターとかスマッシュで顔面打ち抜いてやるんだがな……。

でも、六覇相手にそういうこと気にするぐらい、心にも余裕が出て来たってことだ。

「凄い……お兄ちゃん……足を止めて全部捌いてる。もし……もしこれで足を使っちゃったら……」

「なんというか……お兄さん……じゃれてるみたいだね……」

そして、ここまでくれば全てが手に取るように分かってくる。

ノジャが次にどう動くのか。逆に俺がどう動けばノジャがどう反応してしまうのか。

誘導してカウンターを打つことだってできる。

「グル、グ、グガアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

いや、ここまで来たらカウンターを打つどころじゃねえ。

今のこんな状態のノジャ相手なら……

「そろそろ体も温まってほぐれてきた……さぁ……今度はもう……触れさせもしねえっ!!」

今ですらこの状態。なら、ここから足を使ったらどうなる?

どんな景色になる?

正気を失っても、尋常でない破壊力秘めた暴風雨のような攻撃を相手に、足を止めて捌き切った俺が、本格的に足を使ったら?

「大魔クロスオーバーステップ!」

「ガ? ウガ? ガ……ッ!?」

上体を左右に揺らし、足を交差させてのステップで、俺はノジャを正面から抜いて背後に回り込んだ。

目で追いかけてすぐにノジャは振り返ろうとするが、俺は既にそこには居ない。

ノジャの視界の外に回り込む。

当然ノジャもその俺を追いかけて、俺の正面に立とうとするが、俺はそこからまたカットを切ってノジャを振り払う。

「出た……お兄ちゃんが逃げる側になった場合の鬼ごっこ……あれは……捕まらない」

単純にヨーイドンでまっすぐ走ったらノジャが勝つ。

だけど、走り方という技術なら負ける気はない。

さらに……

「大魔ムーンウォーク」

「……?」

「大魔コサック」

「…………ウガッ!!」

ココから先は、ただ逃げ回るだけじゃない。

無意味で不必要なステップも交える。

同時に、頭、目、腕、肘や膝もバラバラに動かして、ノジャの「獲物に食らいつく」という野生を惑わす。

「大魔・アース・ミスディレクション・シャッフル!!」

「ウ……ガ? ウガ……ガ……」

殺意と野生剥き出し状態のノジャ。

しかし、その動きがここにきて止まった。

「おお……こ、これは、俺でも何となくわかる……よく分かんないってことが分かる!」

「驚いた……十数年前から私も強くなってるから……でも、だからこそ、今のお兄ちゃんの高い技術力が昔よりも深く分かる……」

これまでは目の前に居る俺をただ殺そうと攻撃を振り回してきたノジャだったが、ここにきて目の前の俺の動きが全く分からなくなったようだ。

そうなれば、野生は牙をひそめて、次第に大人しくなって、やがて攻撃態勢に入ったまま次の動きに移行できずに尻尾も固まってしまった。

「んふふふふ、これは驚きモモノキやな~……我を失ったはずの獣が、目の前の獲物のことの方が分からなくなって戸惑ってしまったと……七勇者のエスピはんの連れのお兄はんがこないな逸材やったとは……忍者戦士にも捉えることはできひんやろな~」

ノジャの攻撃を捌くとか、触れさせないとか、もうそういう次元じゃない。

「ノジャ……お前の野生を屈服させてやる!」

どう攻撃していいか分からず固めてしまう。

『ノジャとはいえ本来の力を出し切れなければ……ふふふ……まさに文字通り、手も足も出ないというのはこのことか』

つまり、攻撃すらさせない。

それが……

「この足さばきの音……筋肉の動き……ああ……間違いないじゃない。オイラが間違えるはずもない。あの時のお兄さんじゃない」

「コジローは彼を知っているでござるか?」

ん? あ……

「あっ!? こ、コジローッ!?」

「ハニーっ!?」

そのとき、唐突に二人の男が姿を現した。

いや、二人だけじゃない。他も森の影にまだ姿を隠しているのが何人か……って、今は集中!

「いよう、エスピ嬢。ず~いぶん久しぶりじゃない? こちとら逃亡しようとしているところで、操られてるっぽいノジャが待ち構えていたりで頭を抱えていたら、まさかお前さんまで居たとはねぇ……奇遇じゃない?」

「……コジロー……」

「ほんとに……。ベトレイアルと絶縁して行方をくらましたお前さん……噂の彼氏とよろしくしてんのかと思えば……どういうわけか、十数年前にお前さんが心から慕ったお兄さんが……一応聞くけど本物?」

「当たり前だよ。私がこの世で『お兄ちゃん』って呼ぶのは世界でたった一人だけなんだから……でも……コジローもお兄ちゃんのこと覚えてたんだ……目が見えなくても……十年以上前に一回会っただけのお兄ちゃんだって分かるんだ……」

「だーっはっはっは、当たり前じゃない。世界の勇者が誰一人救えなかった寂しがり屋の少女の心を救った男……オイラたちの誰もが出来なかったことをアッサリ成し遂げた男じゃない♪ 刻み込まれてるじゃない、心にね」

「………………」

「まっ、細かい話や事情やら面倒なことや、なんかお兄さんが十年以上前から肉体の年齢が変わっていないように感じるのは別にして……とにかく彼があのお兄さんなのだとしたら……よかったじゃない、エスピ嬢。『かつてできなかったこと』……今度こそできるじゃない」

エスピの傍らに立ったコジロー。

過去に会った時より老け込んでる? だけど、そのたたずまいや身に纏う雰囲気は一切錆びついちゃいないのが分かる。

エスピと並んで何か話しているようだが……そういや、昔あいつに……

――エスピ嬢、あとのことはオイラに任せて、お兄さんと楽しくどこへでも行ってくるじゃない!

そうやって送り出されたのに……そのあと、エスピが連合軍戻った時どう思われたかな?

――何者かは知らねえが、このお兄さんは信用できる……オイラはそう思ったじゃない

俺は結果的にあの信用を裏切ったってことだ。

でも、今度こそ……

「そこで見てやがれ、七勇者コジロー!」

「おっ!」

「今度こそ……嘘じゃねえからよ!」

「……はは」

今度こそあの信用を裏切らないと自分自身に言い聞かせるように俺は誓った。

まぁ、その前に俺があの時の俺であることを信じてもらえるかどうか……そして……

「ハニー、何をノンビリしとるん? 今のうちに森抜けした方がええんやないの? 今なら……」

「そうでござるな、カゲロウ。しかし、このようなものを見せられたら……そうも言っていられぬでござるよ」

コジローと一緒に出てきた全身真っ黒の忍び装束で顔も隠している男。

なんか、カゲロウにハニーとか言われてるけど、誰だ?

まっ、誰にせよ……

「ガ、グガ、ガゥ………ガゥ……」

まもなく野生の牙を完全にへし折るから、その後でいいか。