軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十四話 甘えんぼ

思い出のカリーを、俺たちは涙を流しながら食べた。

いっぱい作ったはずなのに、いっぱいおかわりして、鍋も空になっちまった。

お腹いっぱいどころか、胸いっぱいだ。

そして、何だか色々とあり過ぎた日で、流石に体も心も疲れてしまい、眠気が襲ってきた。

だから、手分けして後片付けをして今日は休もう……って話だったんだけど……

「なぁ、エスピ。片づけしなくていいのか? スレイヤは鍋を川で洗ってるのに、帰ってきたら怒られるぞ?」

「いーのいーの♪」

俺の膝を枕にして寝っ転がるエスピ。その両手を俺の腰に回してゴロゴロと甘えてくる。

「おにーちゃん、手が止まってる!」

「はいはい……」

そして、ただ膝枕してやるだけではエスピは許してくれない。

「いーこいーこ……どうだ?」

「……うん……ゆるす……ぐすっ……うん……えへへ」

その頭を優しく撫でてやる。

すると、エスピは少しだけ涙声になるもすぐに嬉しそうにニヤけた。

「おにーちゃんだぁ……おにーちゃんの匂い……おにーちゃんの手……ぐすっ、本当に本当の……おにーちゃんだ~……」

今のエスピの年齢は俺よりも上だ。サディスより上。

昔は簡単に抱っこできた体も今では大きく成長している。

いい歳してお前はいつまで甘える? なんて言葉は口が裂けても出ない。いや、むしろ俺だって嬉しい。

これだけ大きくなっても、もう一度俺の妹になって甘えてくれる。

だから、俺は心も込めて、そしてここまで待ってくれた妹を心底労った。

こんなことぐらいで喜んでくれるならいくらでも……と……

「10年以上だもんな……」

「うん……待ったよ……すっごい……それに戦った……そしてまた待って……」

「おう」

「ついでに、故郷とは絶縁した」

「お、おお、そうかそうか。ま、いいんじゃねーの?」

「ノジャを抑え込……あ、これはいいや。また今度」

「ん? え? いま、何かサラっとスゴイ名前出なかったか?」

「いーの! とにかく待ったの!」

七勇者の一人として、大魔王を打倒した……だけでは終わらない。その後の人生の方が長かったんだ。

俺が置いてきぼりにしたあと、それは濃くてつらい日々をこいつにも、そしてスレイヤにも送らせていたんだよな……

「アース・ラガンくんが生まれて成長していくけど、一向にお兄ちゃんになる気配がないし……」

「は、はは……」

「御前試合のとき、帝国の連中をぶっ飛ばしてやろうかと思ったけどそれも耐えて……」

「そうか……」

「このゲンカーンでお兄ちゃんをすぐに見つけられるように、スレイヤ君は道具屋開いて……」

「そうだったのか……」

「でも、私は我慢できなくなっちゃってとりあえずカクレテールに行っちゃったけどすれ違っちゃって……」

「うん……」

「アマエちゃんだっけ? その子だけがお兄ちゃんの妹じゃないんだからね?」

「ああ、本当にそうだよ」

「とにかく! いーっぱい、いーーーーーーーーっぱい、なんだからね!」

「ああ」

俺に膝枕されて甘えながらも文句を言ってくるエスピ。そんなエスピの話を俺は頷きながら、頭を撫でる手は止めずに聞いていた。

そして、エスピは文句を言いながらも俺が頭を撫でるたびにゴロゴロと俺の膝の上で甘えてきた。

俺もまだエスピを感じていたいと思って、撫でる手を止めることは無かった。

だけど……

「あ……」

「「あ……」」

ピカピカに磨いた鍋を持ったスレイヤが帰ってきた。そして俺たち二人をギロッとした目で睨んできた。

「な、なにを……後片付けをサボって何をしているんだい?」

おっと、スレイヤがムスッと……あれ? そういえば……あっ、そうだ!

俺はこの時とんでもないことを思い出した。

たしか、エスピとスレイヤって付き合ってるんだっけ?

となると、今の俺は、彼氏がいない間に彼女の頭を撫でてる的な……

「ん~? な~に~? スレイヤ君。私は今、お兄ちゃんに十数年分甘えてるんだから、邪魔しないでよね?」

「ッッ!!??」

って、お前も彼氏を挑発するんじゃねぇよ!

俺だってもし、クロンやシノブやサディスが俺の居ないところで俺以外の男に膝枕されてゴロゴロ甘えている光景を見たらムカつく……いや、別にクロンもシノブもまだ俺の恋人ってわけでもないが……

「ぼ、ボクのお兄さんに何をしているんだ、エスピ!」

「いーっだ! 私のお兄ちゃんだし~!」

「お兄さんもお兄さんだ! エスピだけ依怙贔屓して……ぼぼ、ボクもだね、その……十年以上も待っていたわけなんだから……」

「えっ、そっち!? おま、嫉妬はそっちに!?」

俺にじゃなくてエスピに嫉妬!? いやいや、こいつら……こいつらは……

「はぁ、エスピ。お前はちょっとズレなさい」

「え? なんでよ、お兄ちゃん! 私、まだ満足してないよ~!」

「半分だけだ」

「?」

俺の両膝に頭をのせて占領していたエスピの頭を右足にだけ載せて……

「……ん」

「あっ、お兄さ……」

「ほい……どーぞ」

俺はポンポンと左足を叩いた。

「ま、まったく、し、仕方ないね。お兄さんはボクをいくつだと思っているんだい? そんな子供っぽいことを求めるほど今のボクは子供ではないんだけどお兄さんがボクをいーこいーこしたいというのであれば、それを聞いてあげるのも弟の役目であると思うわけで……」

とはいえ、流石にスレイヤもすぐには飛びついてくるわけではない。

色々と言い訳を並べて……だから俺は……

「なぁ……スレイヤ」

「え?! な、なんだい、お兄さん……」

「お前のことも……いーこいーこ、させてくれよ。お願いだから」

「お、おにいさ……ん」

ははは、スレイヤがなんか感極まったみたいにウルっとしている。

初めて道具屋で見たときは、スカしたイケメンだと思ってたのにな……

「あ~、スレイヤくん~、泣いてる~、あまえんぼ~」

「う、うるさいな、君に言われたくない!」

「いいも~ん。私は甘えんぼだもん。スレイヤくんは違うなら一人で後片付けしてればいいよ」

「ぼ、ボクはお兄さんからの直接の依頼だ! だ、だから、これは、うん、されなければいけないんだ」

エスピと軽く口げんかしながらいそいそと近づいてくるスレイヤは、ちょっと緊張した顔をしながらも俺の膝に頭を乗せた。

その頭を俺が撫でてやると……

「大きくなったな……スレイヤ……」

「……お兄さん……」

丸まった猫のように大人しくなった。

俺の方が年下。年上の弟と妹。明らかに矛盾してる。だけど気持ちは本物だ。

俺はこれからもこいつらの兄貴なんだ。それを自分に言い聞かせ、改めて確認するように二人の頭を撫でながら、俺は今の幸せをかみしめていた。

『一応余もここにいるのだが……待てよ? これからの旅はこのような感じになるのであれば……童が余に全然構ってくれなくな……ではなく! そ、そう、余が童を鍛えてやる時間が減るではないか! これは師として由々しき問題だ。うむ、ならこれからは寝ている間のヴイアール修行をもっと増やして濃い内容にしなければな! うん、そうしよう!』