軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十三話 幕間(エルフの娘)

私には幼いころから変わらないものがあります。

――アミクスは本当にその本が好きなのね

――うん、お母さん! 私は、お父さんが書いたこの本……大好き!

私がまだ無垢で何も知らない幼いころ、物書きをしているお父さんが書き上げた作品。

お父さんの本で読み書きを覚えた私は、その物語に関しては丸暗記してしまいました。

その物語は、私が住む集落の同世代の子供たちにも愛されて、知らない者はいないほどのものです。

――お父さん。この小説もディスティニーシリーズのように続きをもっと書いて欲しいな~

――ん? あ~、まぁ、いずれね……いずれ……時期が来たらね

唯一の不満はこの小説に関して、続きをもっと見たいのに、お父さんが書いてくれないことです。

大好きなお父さんに対して唯一私が不満に思っているぐらい、私はこの物語が好きなのです。

それに……

――こんにちは、アミクス。あれ? またその本を読んでるの? この本……本当に好きなんだね

――たしかに……もう暗記してるでしょ?

――いけない? 兄さん……姉さん

――ううん! ぜーんぜん、いけなくなんかないよ~

――まぁ、ボクもその本は好きだしね

小さい頃からこの村によく来て、お土産をくれたり、一緒に遊んでくれたり、勉強を教えてくれたり、コッソリと近くの街まで連れて行ってくれる、エスピ姉さんとスレイヤ兄さん。

種族は人間で、私たちエルフとは異なる存在ではあるけど、私や集落の皆にとっては家族同然の二人です。

――この主人公の男の子がいいなって……正義でも悪でもなく、貫き通すのは己の信念……この村にいる男の子たちにはない、情熱溢れる姿にどうしても惹かれちゃうの……そして何よりも幼い妹と弟を大切にする家族想いな所も……

――うんうん♪

――うん、その通りだよね

――それに、この村以外の外の世界をほとんど知らない私でも……この本を読んでいる時だけ、自分も一緒に外の世界で冒険しているような感覚になって……おかしいよね……こんなこと……

――おかしくない。ぜーんぜん、おかしくないよ。この男の子カッコいいよね。妹もメチャクチャかわいいよね! 弟よりかわいいよね! キュートだよね!

――いやいや弟の方が良いと思うよ。妹はガサツでワガママで泣き虫で……うん、弟の方がいいよ

――ふふ……また兄さんと姉さんは……でも、この主人公の男の子……もし、現実に存在したら、きっとかつて大魔王を倒して世界を救ったと言われる勇者様もこのような―――

――それは違うよ! この男の子の方が、勇者なんかよりずーっとずーっとずーっとカッコいいよ!

――うんうん。それだけはエスピに同意だね

お父さんはたくさんの作品を書いているけど、その数多くの作品の中でも私にとって特別で、私がもっとも好きなのは昔も今もこの物語です。

小さい頃から私がそれを公言すると、姉さんも兄さんもとても嬉しそうにして、私をとても可愛がってくれます。

そんな二人が私も大好きです。

でも、最近……

――信じらんない……信じらんない! なんで!? なんなの!? 帝国……あいつら……あいつらッ……なんなの!? ヒイロもマアムも、ほんっと役立たず! ユルサナイ! 今すぐぶっとばしてやりたい! 許せない……なんで……なんで……あんなヒドイこと……

――帝国の連中……よくもボクたちのお兄さんを罵倒して……こんなに怒りを覚えたのは本当に久しぶりだ……傷ついたお兄さんを今すぐにでも保護したい……

――いやいや、落ち着いて。御前試合が終わって、これから旅を経て……数カ月後、ゲンカーンで、でしょ? ここで余計な動きをして、歴史がグチャグチャになったらどうするのさ。お二人とも十年以上も待ってたんでしょ?

――その通りだ。少し落ち着くがよい、二人とも。まぁ、大切なものが罵倒される怒りは小生も分からんでもないが……

最近、姉さんも、兄さんも、お父さんも、そして先生まで一緒になってコソコソと話をしています。

私や他の皆の前では絶対に見せない感情的に怒る姉さんと兄さんに驚きを隠せませんでした。

そして、その理由や原因を私には教えてくれません。

私が子供だから?

寿命が長いエルフにおいて、私はまだ15歳。

だけど、エルフは20歳までは人間と同じように成長し、そこからの老化の速度は遅くなるみたい。

姉さんと兄さんが15歳のときは、もう一人前みたいなものだったと思うから、私も色々と未熟な半人前ではあるけど、半分は大人だと言えると思います。

少なくとも……

――あれ? アミクス、その服……新しいの? 私がこの間いっぱいお下がりあげたでしょ?

――ご、ごめんね、姉さん。その、どうしても……む、胸元が……私にはきつくて……

――……え……?

――ごめん! せっかく姉さんがくれたのに……

――わ、私も……ちょっと、うん、自信あるけど……ねえ、アミクス……ま、また大きくなっちゃった?

少なくとも体だけは大人の仲間入りはしていると思います。

それなのに、私だけが蚊帳の外でなんだかとても寂しくて……

しかし、そんな時でした。

「えっ!? お、お父さん……どういうこと?」

「ん? だから言葉の通りだよ。アミクスも子供の時からお願いしてたじゃん……」

「そ、そうだけど……でも、なんで急に? 何で急に続きを書くの!?」

これほどの衝撃、今まであったかな?

なんと、お父さんが私の大好きな小説の続編を書くって言いだしたのです。

勿論私は嬉しかったです。

しかし、同時に不思議で仕方ありませんでした。

この物語をお父さんが書いたのは十数年前。その間、私は何度も「続きが見たい」とお願いしたのに、お父さんは曖昧に返事するだけで書いてくれませんでした。

それなのに、どうして突然書くようになったのか。

「はは、急にじゃないよ……ずっと言ってたじゃん。時期が来たらって……その時期がようやく来たってだけ」

すると、お父さんはどこか昔を懐かしむように微笑みました。

ズボラで、めんどくさがりで、ちょっとひねくれた所があって、あまり笑ったりしないお父さんが珍しく微笑み、そして……

「ようやくこの物語の……続きが始まるからね」

そう言って、お父さんは手に持っている『ラガーンマンの冒険』を掲げました。