軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十九話 胸の苦しみ

「族長。これを……」

「ん?」

「預り所に金を預けている。その引換書だ。貸しってことで……」

「この借金は……いつか……ってことだよね? ディスティニーシリーズを書き続けて……」

「ああ」

一通りの治療を受けた後、俺たちは地下へと戻った。

「じゃ、お兄さん。エレベーターにもマスターキーをかざして。今から行く階層は、それないといけない所だから」

「お、おお」

この移動する、「えれべーたー」ってのにはまったく慣れねえけどな。

「ねぇ、お兄ちゃん。それより、どういうこと? お兄ちゃんがヒイロとマアムの子供? ねえってば!」

「未来から来た……そんなことが本当に……」

「……未来から……そんな魔法聞いたことがない……それに、未来ということは……戦争は……戦争はどうなっているのだ?」

薄暗く、地中の中で天井も壁も見たことのない材質で作られた通路が続いている。

奥さんたちが待っているところではなく、族長曰く「先にここへ」ということらしい。

「俺がシソノータミ……つまり、この場所を目指したのは……未来へ帰るため」

「え……かえ……る?」

キョトンとした顔のエスピとスレイヤ。まだ俺の話を飲み込めないのは無理ない。

だけど……

「さて、ここだよ。お兄さん。また扉にもマスターキーを」

「……ああ」

そして、薄暗い通路の奥に一つの扉があった。

族長に言われるがまま、俺はマスターキーを取り出す。

すると、扉の中央が急に赤く点滅し出したかと思えば、扉がサッと勝手に開いた。

「おお……もう、何が来ても驚かねえな」

扉の奥に広がる暗黒の世界。

しかし、それも一瞬。

族長がその部屋に足を踏み入れた瞬間、

「「「「ッッ!!??」」」」

突如、部屋に光が灯されて明るくなった。

「お、おお、なんだこれ? 光の魔法か? って、早速また驚いちまった……」

「なに? 急に明るくなったよ?」

「誰かいるのか?」

「魔力は感じぬ……一体何だと……」

相変わらず事前に説明のない族長にヒヤヒヤするが、一応害は無さそうだ。

そして……

『マスターキーを使わねば来れぬ階層……入れぬ扉……すなわち、ここより先の部屋は余も足を踏み入れていないということだ』

「ッ!?」

そうだった。

トレイナもかつてはこの遺跡で色々と探索したりしていたようだし、シソノータミに住んでいた民たちもこの遺跡を利用はしていたものの、それもほんの一部だと。

かつてこの地下にいた古代人たちの持つものは、もっと深い。

それこそ、俺がこの時代に来てしまったように……

「うおっ…………」

「おっきい……」

「何の部屋だ……?」

「……これは?」

灯された部屋の中は、広々としていた。

階段状に並べられた長い机と固定された椅子。一見、アカデミーの教室と少し似ているか?

壁には、一面に張られた巨大なガラスのようなものが設置されている。

「メインのコンピュータールーム……電源は生きているか……『退去』したんなら消していけばいいのに……まぁ、おかげで充電もできるし、お兄さんも帰れるんだけどね」

「こんぴゅた~? でんげん? 族長、何語を喋ってるんだ?」

族長はそそくさとガラスの目の前まで歩み寄り、その目の前にある席に座る。

そして、族長が座った席の机を軽く指先で動かすと、机の一部がめくれ上がり、板のようなものと、謎の紋様の入った窪みが浮かび上がった。

「これでも研究所のほんの一部。かつて遠い星からこの世界に降り立つも、この地上の環境下に適応できなかった古代人は地下世界にシェルターを作り、更には環境に適応しようと度重なる実験の果て……この世界の幾多の遺伝子を掛け合わせて、天空族、そして俺のような実験体や、カグヤ様が生まれ、この世界に溶け込ませようとした……」

『……カグヤ……』

「古代人……シソノータミの地下に生息していた古代人と呼ばれる異人類たちは既にいない……置き去りにされたカグヤ様、その後繁栄したシソノータミの街も既に滅んだ……まっ、時間はないし歴史のお勉強はいつの日にかまた」

「いつかまた……か……ああ、そうだな。今はそれよりも、残りの時間……俺には費やさなきゃならねえことがあるからな……」

族長がその窪みを先ほどの扉の時と同様に慣れた手つきで動かしていくと、突如壁一面に張られた巨大なガラスが光り、鮮やかな色と見たことも無い紋様が大きく写し出され、さらに……

――ガチャ

「「「「ッッ!!??」」」」

族長が座っていた机の引き出しが突如音を立てて開き、その中には……

「あっ、時計!」

「わぁ、いっぱいある……」

俺が持っている時計と同じものが、その引き出しの中に、何か紐のようなものと繋がれて置いてあった。

「はい、お兄さんそれ貸して。コードに繋いで充電するから」

「お、おお……」

訳が分からねえ中で族長に時計を渡すと、族長は妙な先端の突いている紐を、時計にある俺も気づかなかった小さな窪みにカチャっとはめて、すると時計が光りだした。

「今のうちに設定を……お兄さん、何年後のどこに戻してあげればいいの?」

「え、あ……えっと……」

設定? えっと、どういうこと? 何年後? それって俺が来た時代のこと?

『ゴウダの戦死からだから……そういえば未来ではまるで日付を意識しなかったな……童、御前試合は何日だった?』

『え、えっと、たしか……〇〇年の〇〇××月日だったような……』

『では、計算上は……そこから家出、旅路、カクレテール滞在日数……だいたい今から〇〇年と××日だな。数日の前後はあるだろうが……』

「あ、今から〇〇年後の××日で」

「了解」

トレイナが居てくれて良かった。

そして、族長は俺の時計をカチャカチャ操作している。

そしてこれ……族長いなかったら何も分かんなかったんじゃ……

「それにしても……時計がいくつかあるけど……それも同じもの?」

「うん」

サラリと頷かれた、時を超えるアイテム。

それがこんなに……

「おいおい、これがそんなにあるなんて……もしこんなの悪用したら……」

過去や未来に行き来できるアイテム。

こんなものを自由に扱えるなら、なんでもできるんじゃ……

「何でもは厳しいね」

しかし、族長は否定した。

「これ、一個で渡航できるのは一人までだし、それに肉体への負荷も半端ないし、生涯で数回ぐらいしか使えないんだよね」

「……え!?」

「これは魔法じゃなくて技術。コンピュータが人体を分析して分子を転送して再構築……まっ、簡単に言えばやりすぎると、臓器、血管、骨なんかがズタズタになって死んじゃうってこと。少なくとも成長期の子供には使用できない。だから、お兄さんも結構ギリギリだったと思う。確か実験では、4~5回渡航した人が全身ズタズタになって死んだとかって聞いたことあるしね」

「んなっ?!」

「これは古代人も偶然手にした技術の産物。でも、あまりにもリスクが高すぎるということで、使用は禁止されてたんだよ」

最初の説明自体はよく分からなかったが、最後だけは分かった。

つまり、これって頻繁に使えない?

って、俺は確か、親父と母さんが子供の時に1回、そこからこの時代に来るので2回、そして帰るので3回……

「あ、あ、あっぶねぇ~」

『なるほど……分子情報を転送してそれを再構築……時空間の歪みを移動する原理は同じだが、空間転移魔法とはそこが違うか……たしかに、なかなか危険な代物だな』

トレイナも族長の説明を聞いて唸っている。

未来のエスピはこんな危ないものを俺に……つうか……

「つまり俺は、これを使って帰ったら……もう本当にこの時代には戻ってこれないってことか……」

「既に数回使っているなら……まぁ、そうなるね……命の保証はないよ」

そうか、つまりエスピとスレイヤの様子を見に戻ることもできない。

だからこれで……

「ねぇ、お兄ちゃん。帰るって何? どこかいくの? 今すぐ? それなら私、イーテェさんたちのとこに荷物が置きっぱなしだから取ってくるよ」

「お兄さん。今から行くの? エルフたちを送り届けた後じゃダメなのかい? まぁ、お兄さんが行くって言うならボクたちもついていくだけだけど……」

何も分かっていない二人に俺は……

「エスピ……スレイヤ……」

「「?」」

「……………ここで……お別れだ」

「「…………………………?? ……………………ッ!?」」

ああ、分かっていたことなのに……胸が苦しい……

「「………………………………………え?」」