軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十九話 上陸前の朝

適度な運動もできたことで、結構ぐっすりと寝れた。

船内に吊るされたハンモックで揺られながら、俺はスッキリした感覚で意識が戻った。

だが、同時に腹のあたりに重みを感じる。

一瞬何かとも思ったが、すぐに分かった。

「おう、おはよ」

「……ふにゅ……ん……おにーちゃん、おはよ」

俺の胸の上でエスピが寝てたんだった……ん? エスピも丁度起きたのだろうか?

その割には物凄い眠そうだ。

瞼が閉じかけて、いや、隈もできている? 今にも寝そうな表情だ。

「……ひょっとして、エスピ……寝れなかったのか?」

船は結構揺れてたしな。俺はトレイナとのトレーニングで三半規管もバッチリ鍛えているから何ともなかったが、船酔いとかか?

「んーん……寝なかった」

「は?」

寝てない。寝れない。ではなく、寝なかった。

そう答えるエスピの言葉の意味が分からず、俺が首を傾げると……

「私が寝ている間にあの子がお兄ちゃん取っちゃわないように、ずーっと見張ってたの」

「……な、なにぃ~? ……ぷ、くははは、そーか……」

思わず呆れて笑ってしまった。

昨晩、自分が見ていないところで俺とスレイヤが鬼ごっこしたり、カロリーフレンドをあげていたことを相当根に持っているんだろうな。

「おかしくないもん。私はお兄ちゃんの妹だもん。お兄ちゃんは私のだもん」

「ったく、はいはいそーか」

「うん、そーなの」

鼻息荒く断言するエスピ。かわいいこと言ってくれるもんだと、思わず笑っちまった。

『ふふん、子供に懐かれているなとほっこりしているようだが……』

『あ、トレイナ……』

『よくよく考えれば、七勇者の一人に一晩中警護されていたと考えれば、とんでもないことではあるがな』

『あっ……そうだった……』

この数日や、昨晩の嫉妬やら怒りやらを見ていると忘れそうになるが、こいつは七勇者なんだよな。

確かに贅沢な警護だと思いながら、俺はエスピを抱きかかえながらハンモックから降りた。

「さて……」

「起きるの?」

「おう」

船内を見渡してみる。まだ寝ている連中もいれば既に起きだして欠伸をしたり、顔を洗いに外に出ている連中も居る。

あいつは……いないか……まっ、こんな人が詰め込まれた所で寝る奴でもねぇか。

「エスピは寝るか?」

「寝ない」

「そっか、じゃあ体操でもしてスッキリするか」

エスピを抱えたまま、薄暗い船内から外の甲板に出る。

すると、そこは山の中の朝日と違って、力強い日の光が注ぎ込み、穏やかな海面と時折吹く風が心地よい朝の……いや……

「……くちゃい」

エスピが思わず鼻をつまんでしまう。

確かに、何やら生臭い匂いが漂っていて、爽やかになりそうだった空気が台無しだった。

「あれの所為か……」

船の後方に括り付けられて引っ張られている、大海王の死骸。

一晩でなかなかの臭気を発するようになっていた。

まぁ、俺は漁港のバイトで慣れたけど、エスピには……

「エスピ、臭いのダメか?」

「んーん。平気。もう慣れた」

「は?」

「戦争はもっと臭いし。ほら、死体とか腐ったり、ぐっちゃぐちゃだったり、ないぞーが飛び散って〇〇〇とかがあっちこっちに――――」

「わかったわかった、もう言わなくていい」

前言撤回だった。エスピは俺以上に耐性があった。

そりゃそうか。

でも、そんなことをいつものように可愛らしいキョトンとした顔で平然と口にするから、俺もどうしても驚いちまう。

つか、そういう耐性あるのに、俺がちょっと他のチビッ子といるだけで怒るとは、やはりバランスが……

「あっ……」

「お」

「あっ!」

すると丁度その時、甲板でたそがれていたスレイヤを見つけ、向こうも俺たちに気づいて目が合った。

「よぉ、おはよ」

「……………………ふん」

「お兄ちゃん、話しかけちゃダメだよぉ!」

ただの挨拶だけだってのに、眠くてショボーンとしていたエスピが覚醒して、今にも噛みつきそうな目でスレイヤを睨む。

「こら、エスピ。ちゃんと挨拶ぐらいしなさい」

「う~、だってぇ……」

「だってじゃねーよ。ジョーシキだ、ジョーシキ」

ったく、これじゃあ昨晩と同じじゃねえかよ……

一方でスレイヤも昨日のことで色々と思うところがあるのか、何だかすごく嫌そうな、それでいて何とも言え無さそうな難しい顔をしていた。

「おーし、航海は順調! 今日の昼頃にはゲンカーン港町に到着だ! 最後まで気ぃ引き締めていくぞ、野郎ども!」

「「「おおおおっ!!!」」」

と、そんな気まずい空気の中で威勢のいい船乗りたちの声が響き渡った。

どうやら、もうすぐこの船旅も終わりのようだな。

「なぁ、スレイヤ。お前は到着したらどうすんだ?」

「……なんだい、急に。何であなたにそんなこと言わなくてはいけないんだい? 別にただ換金したら次のターゲットを狩りにいくだけさ」

「……おお、そ、そうか。誰を狩るんだ?」

「別に誰でも構わないだろ。とにかく強そうなものを片っ端だ。アボソア大陸には魔界から流れてきたモンスターも多いと聞くし、そこら辺だと思うけど、あなたにそんなことを教えるつもりはない」

「……そっかそっ……か……ん?」

単なる話題作りでもあったが、案の定こいつはまだ心を開いていないから答えない……かと思えば、自分でも気づいていないのか、こいつ大体答えてねーか?

「ところで、何も興味ないけど、あなたはどうするんだい?」

しかも何も興味ないとか言いながら聞いてきたし! あっ、もうこいつ色々と拗れてるな!?

「俺は……『シソノータミ』を目指す」

「……………は?」

とりあえず、素直に答えたんだが、スレイヤはピンと来なかったようで首を傾げた。

「そこって、魔王軍が滅ぼした所でしょ? 今は廃墟だと聞いてるけど、そんな所に行って何をするの? お宝探しでもする気かい?」

「そんなとこだな。お前、モンスターを狩るのが専門か? 宝探しとかそういうのはやらねーのか?」

「くだらない。そんな欲にまみれた金の亡者たちの、運さえあれば誰でもできるようなクエストなんかやらないね」

そう言って、スレイヤは少しは心を開いてくれたかと思ったが、何やら「ガッカリ」みたいな様子で鼻で笑ってきた。

宝探しが誰でもできる金の亡者か……そんなチョロくはねーと思うけどな……そもそも、俺の目的は宝であっても金じゃねーしな。

だけど、それをこいつに言うものでもねーし……

「む~っ、おにーちゃんを!? ばかに「はいはい、エスピ。いーこいーこ」あぅ」

とりあえず、ムカッと来て怒るだろエスピを事前に抑え込んだ。

するとこいつは……

「あれ? でも、シソノータミでは現在ハンターは勝手に活動できないはずだったんじゃ……?」

ちょっと気になる情報を口にした。

「え? そーなのか?」

「たしか……連合軍が調査中で、国や連合に所属していたり、直接雇われていない調査員のハンター以外は立ち入り禁止だったと思うけど……あっ、それともあなたは雇われ?」

「いや……違うけど……」

「じゃあ、無理じゃないの? まぁ、資格を持ってるなら直接売り込んでもいいかもだけど……」

「そ、そーなの?」

予想外の言葉に思わず俺も戸惑っちまった。

現代でもまさに、連合やら魔界の調査やらで、鉢合わせしないように避けていたけど、ここでも?

あんときは、ベンおじさんとか、旧六覇のノジャとかが来たみたいだけど、ここでもそんなメンドーなことが……

「たしかこの間、帝国から七勇者のヒイロとマアム、そしてベンリナーフがそこに派遣――――」

「「『行くのやめよう!!』」」

トップクラスで遭遇しちゃダメだった。

俺とトレイナは当然のこと、しかも今回ばかりはエスピも同じタイミングで叫ぶという奇跡。

とにかく、しばらくは様子見だと上陸する前に決まってしまった。