軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十八話 とらないで

「はあ、はあ、はあ、はあ……くっ……まだまだ!」

「よし、来い!」

甲板の上での鬼ごっこは続いていた。

カロリーフレンドで一旦エネルギーを補給したものの、最初から今に至るまで全力で追いかけてくるスレイヤにペース配分はない。

そのために、既にヘトヘトで汗も滝のように流れている。

「くそ、はあ、はあ……」

スピードと造鉄した武器を振り回す力。身体能力は常人より遥かに上。

でも、それだけじゃ俺は捕まえられない。

なるほど、こうやってみると俺自身も見えてきた気がした。

『そうだ。先の先を予測してのステップ。さらに、相手の動きに対して必要最小限の動きで回避。ペース配分。身体能力や魔力や能力などの基本性能が高いことに越したことはないが、それだけでは更なる高みへ行けぬということだ。ガムシャラなだけでなくな』

俺の気づきにトレイナも頷いた。

『そして、重要なのは頭で考えてそう動くのではなく、考えなくても戦闘になれば自然とそういうことができるよう、体に染み込ませるのだ』

ただ筋力を、スピードを、魔力を鍛えるだけじゃない。

頭を使い、そのうえでいずれ頭を使わなくても自然と体がそう動けるようにすること。

「鉄の網に捕らわれろ!」

まだ魔力が残っているみたいだな。レーダーであいつの魔力の残量も大体わかる。

そして、これは剣や槍と違って、広範囲に広げる技が来るな。

「インフェルノネットワークダークネス!」

鉄網を広範囲に広げて、俺を拘束しようとしてくる。

なるほど、モンスターとかを生け捕りにするなら便利だな。

でも、こんな技を使えるなら最初から使えばいいのに……いや……よく見たら網が結構穴の大きさがバラバラでいい加減。

それに、範囲がデカい造鉄したから魔力もガクンと減ってやがる。

さらに……

「あっ……」

「網の強度が全然ねーな? さては、苦手なものだけど、他に手が無くてやってみたな?」

俺は網を回避しないであえて受け、その網を簡単に引き千切ることができた。

とてもじゃないか、鉄とは思えないほどの脆さだった。

こんなものをここに来て使うぐらい、もうスレイヤは手が無くて、そして今のでもう完全に……

「キリねーし、もう疲れたろ? そろそろやめにしようぜ?」

「はあ、はあ……何を……息一つ切らしていないくせに……バケモノめ……」

「くははははは、俺がバケモノ? 言ってくれるじゃねーか」

俺の提案にスレイヤは恨みがましく睨んでくるが……俺がバケモノ? 天才とか怪物とかそういうのは無縁な秀才どまりの俺としては、そんな言葉は初めてだったから、何だか新鮮だった。

天才やバケモノという類の言葉はこいつの方が似合っているのにな……

「ほれ、敢闘賞だ。もう一個カロリーフレンドをやるよ」

「またボクに施しを!? そ、それにそれは美味しいけどパサパサして喉が渇く……」

「おおっ、美味しいと思ってくれるのか? そいつは、製作者も喜ぶだろうな」

「な、なにを……別にボクはこのアイテムはけっこう便利だなとか思っただけであって、あなたに屈服したわけでも認めたとか全然そんなことではないんだから、勘違いしないでくれたまえ!」

ブスっとした顔のスレイヤ。だが、文句言いながらも渋々と俺からカロリーフレンドを受け取りやがった。

本人はこう言ってるが、何だか少しは俺に対して心も開いてくれたのかな? と、思っていたところに……

「あーーーーーーー!!!! なにやってるの! なにしてるの! なにあげてるの!」

「……あ……」

突如甲板に響き渡る声。それは食堂でおもてなしされていたはずのエスピ。

「お兄ちゃん! ずっと帰ってこないと思ったら……そんな子と何やってるの!!」

どうやら戻ってこなかった俺を気になって探しに来たようだ。

なんだかんだで、結構鬼ごっこしていたからな。

そして、俺を見つけたエスピは顔を真っ赤にしながら走ってきて、スレイヤと俺の間に無理やり入り込んで、唸った。

「私のお兄ちゃんなんだから! 何してるの!」

「……別に」

「お兄ちゃんも、何してるの!? 何をあげたの?」

「あ、いや、ちょっとアイテムを……」

「私をほったらかしで、何してるの!?」

なんというか「ウガー」と感情剥き出して地団駄するエスピ。

スレイヤに対しても俺に対してもかなり怒っている様子だ。

「うるさい子供だね……」

「うにゅう!?」

「ボクはただこの人とちょっと鬼ごっこをしていただけだよ」

「お、お、鬼ごっこ!? なんで!? お兄ちゃんが何でこんな子と遊んであげるのぉ!?」

「そして……ちょっと、お菓子をもらっただけだよ」

「ッ!? な、なんで!? 何それ! 私、知らない! そんなの知らない! お兄ちゃん!」

溜息吐きながら淡々と答えるスレイヤに対し、エスピの怒りは頂点に。

「お兄ちゃん、私と遊んでない! 私と遊んでよぉ!」

「あ、いや、別に遊んでたわけじゃ……」

「それに、あのお菓子なに!? ちょーだいちょーだいちょーだい!!」

「あ~、もう落ち着けって」

俺の胸に飛びついてきて、エスピは何度も吼えた。

「やれやれ……あなたが何者かは知らないが……うるさい足手まといの邪魔が居て苦労するね」

「なにそれ!? それ私のこと!?」

「はぁ~」

「む、む、むぅぅううううううう! ぶっとばす!」

唸るエスピを宥めようと、抱っこしたまま頭をポンポン撫でてやるが、それでも収まりそうにない。

う~む、チビッ子はナデナデでたいていの機嫌は戻ると思っていたけど、そんなチョロくなかったか……

「ったく、二人とももう少し仲良くなれよ……ほら、握手でも……」

「「むり!」」

「……お前ら……」

「こんな性格のわるい男の子、仲良くならなくていいし!」

「ボクは誰とも群れる気はない」

お前ら将来恋人同士になって結婚目前なんだよ!!

あ~もう、悪いけどスレイヤとの鬼ごっこより、今の方が大変だ。

だけど……

「……ねぇ……」

「?」

暴れていたエスピだが、急にシュンとなって弱々しい目になり、俺の襟首を掴みながらスレイヤに向かって……

「わたしのおにいちゃん……とらないでよぉ……」

なんというか、嫉妬を超えて、どこか不安を感じているかのような訴え。

そうか……もう、エスピは以前と違って大丈夫……と思ったけど、まだ出会って数日だ。

そういう不安になるのも無理はねーか。

すると、その訴えにスレイヤは溜息を吐いた。

「別に……取ってもないし、そもそもいらないし……」

「……ほんと?」

「……ああ。とらないよ……」

ちょっとブスっとしながらもそう答えるスレイヤ。

エスピも機嫌治らないまでも、何とかその言葉で少し大人しくなった。

「はぁ……気持ちが萎えたよ……バカバカしい。ボクはもう寝るよ」

「ん? おい、お前、飯は?」

「いらないよ。これを二つも貰ったしね……」

そう言って、スレイヤは船内に戻ろうとする。だが、一旦足を止めて前を向いたまま……

「ねぇ……」

「ん?」

「あなたは何が目的だったの?」

聞いてくるのは三回目だ。人が二回聞いたらバカとかなんとか言ってたけど、よっぽど気になるようだな。

「言ったろ? 俺はただ、お前がどういう奴なのか知りたかった。そのうえでついでに俺のことを多少なりとも知ってもらえればそれでよかっただけだ」

「……意味が分からない……ボクを知ってどうするというんだ……仮に互いを知ったところで、あなたと群れる気も仲良くなる気もない。興味も持たない。ボクはそういうの……嫌いなんだ」

そう言って、納得できていないという様子で船内に戻るスレイヤ。

なかなか強情っぱりなやつだな……

「もう、おにいちゃん……あんな男の子ほうっておいてよ……」

「エスピはあいつとは仲良くなれねーか?」

「むり! ぜーったいむり! あの男の子、性格悪いだけじゃないもん! すっごい暗い子だもん! やだ!」

あんなやつは放っておけと、むくれた様子のエスピ。

結局お互いの印象はマイナスなままのようだな。

それにしても、暗い子は嫌か。

でもな、エスピ……

――もう……殺せばいいよ……わかってた……わたしは……任務に失敗した……もう……いらない子……戦争でいっぱいころせば……きつい実験も減らされた……叩かれなかった……でも……私は失敗した……国の命運がかかってるって言われたのに……

お前も初めて森で出会った頃は随分と暗かったぜ? つい数日前だぞ?

それが気付けばこんなに感情がコロコロ変わるようになってんだぞ?

それに……あのガキ……店長……いや、スレイヤだって未来では……

――ボクは認める。ボクのことは知らないのに、君は分かっている男だ。だからこそ知りたい。君ならスパイスでどれを選ぶ? 何を買う? 知りたいな。ボクは知りたい。ボクは君のことをもっと知りたいな

他人に対して興味津々になってるんだからよ。

そう、あいつだって今はああでも、いつかは……