軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十一話 戦いましょう

俺とクロンが二人で居なくなって、そんな俺たちを心配して皆が帰りを待っていた。

「帰って来たかな!」

「おにーちゃん! 女神様!」

「いんやー、良かったっす! 心配したんすか……ら……うぇ?」

「坊ちゃ……へ?」

ドスンドスンと地響きを起こしながら廃墟となった街へ戻ってきた俺とクロン。

皆が最初は安心したような笑顔を見せたが、次の瞬間には誰もがその笑顔が固まった。

「え、えっと……なにかな? あれは」

「おお……おおーー!」

「ななな、なんすか? あ、れ……」

「何か……すごいのが……」

誰もがこいつに目が行くのは当然だ。

俺とクロンの二人を背中に乗せて、その巨体は四足歩行する。

「ちょーーー。なななな、何だあれは!」

「でででで、でかい!」

「か、怪物……か?」

「自分よりデカい存在……誰かを見上げるのは久しぶりだな」

大会出場者や道場の屈強な男たちですら唖然としている。

あのマチョウさんも含めてだ。

無理もない。これまで鎖国したこの国に居た連中からすれば、こんな大きな生物と出会ったこと自体が初めてだろう。

帝都に住んでいた俺だってそうなんだからな。

「んあ……何だか……見られて、恥ずかしいのん、クロンちゃん!」

「うふふふ、そうですね~。みなさん、ヒーちゃんに驚いてます!」

「何だか照れるのん」

周りの視線が気になるのか、こんなデカい図体で恥ずかしそうにモジモジするヒルア。

ちなみに、もはや打ち解けたクロンとは「クロンちゃん」、「ヒーちゃん」と呼び合う仲だ。

そして……

「しゅーごい、おっきい!」

誰もが現れたヒルアに圧倒される仲、真っ先に目を輝かせてアマエが駆け寄ってきた。

「女神様、このこだれ? んふ~すりすり~」

「ひゃ、ひゃ~、だだ、誰なのん、この子……か、かわい~のん」

恐怖など一切なく、四足歩行故に顔の位置が低いヒルアの顔にアマエは飛びついて頬ずりした。

「うふふふ、アマエ、この子はヒーちゃんです!」

「ヒーちゃん?」

「はい。私たちを、あの雲の上まで連れて行ってくれる頼もしい仲間です!」

その言葉に、ツクシたちはハッとする。

「ッ!? 女神様、それって……」

「はいっ! この、ヒーちゃんに乗って、私とアースは雲の上まで行って、ヤミディレを助けに行くのです!」

「え、ええええ!? ここ、これに!?」

アマエとは違ってすぐに状況が受け入れずに周りの連中は戸惑ったままだったが、クロンのその一言で皆の表情が変わった。

「んふ~、ヒーちゃん? ヒーちゃんっていうの?」

「そ、そうなのん。き、きみのお名前は?」

「アマエはね、アマエっていうの。んふー、ヒーちゃん、ぷにぷに~」

「ひゃ~、アマエちゃんもプニプニなのん! ボク、生まれて初めてプニプニで良かったと思ったのん! っていうか、地上の女の子は優しいのん! ボク、今度から地上に住むのん!」

クロンに続いて、アマエのこの反応。これまでの人生、女というか雌から不遇な扱いだったのか、ついさっきまでアタフタしてたくせに、もう地上に住む宣言までしやがった。

ほんと、しかたねーやつだな……

「で、坊ちゃま……どういうことです?」

そんなヒルアを見て微妙な顔を浮かべたサディスが俺に尋ねてきた。まぁ、これが普通の反応だよな。

「召喚魔法でちょっとな」

「……翼の生えたカバですか?」

「翼の生えた、おもしれー仲間だ」

俺は、「ヒルアは冥獄竜王の息子」とは言わなかった。

別に内緒にしているわけじゃない。

ただ、そういう肩書は余計だと思ったからだ。

「召喚魔法ですか……それでこんな大きな……しかし、大丈夫でしょうか? 人語は理解しているようですが……大きいですが……あまり強そうでは……」

「大丈夫。こいつに頼むのは、俺たちだけじゃ届かないあの雲の上まで連れて行ってもらうこと。そこから戦うのは、俺らの仕事だ」

「坊ちゃま……」

あの雲の上まで連れて行ってもらう。それで十分だ。

こいつが居なければ、俺たちの拳も螺旋も魔法も何一つあの雲の上まで届かなかった。

しかし、こいつが仲間になってくれたおかげで、俺たちの力が届くことになった。

それで十分なんだ。

そして……

「女神様」

「マチョウ……」

「今、この生物に乗って、アースと女神様が行くと……」

「はい、そのつもりです」

「ッ!?」

ヒルアのことはとりあえずいいとして、これからどうするのか?

クロンの言葉にマチョウさんたちの眉が動いた。

「皆さん、大神官として皆さんと接したヤミディレの本当の素性、そしてあの雲の上から来た人たちが何者か、私たちはよく分かっていません。そして何よりも、これまで皆さんから女神と呼ばれた私自身が本当は何者なのかもです」

それは、クロンなりの気遣いのようなものなのだろう。

これまで、この国の民たちには大神官と女神として接していたクロンとヤミディレ。

しかし、あの天空族たちが来て、その正体が何なのか分からなくなった。

そんな素性不明な自分たちのことに皆を巻き込むまいという、クロンの気遣い。

俺? 俺はもういいんだ。

だけど、皆は違う。ひょっとしたら、自分は皆を騙していたのかもしれないとクロンは思ったりもした。

だから今、こう言ったんだ。

でも、俺はこう思う。

多分、この国の奴らからしたら、そんなの……

「「「「何を水臭い! 何を信じるかは自分で決めます!!」」」」

「……え?」

ほらな。こう言うに決まっている。

まるで迷いのない男たちの言葉に、クロンも呆気にとられた様子。

そんなクロンに、マチョウさんが代表して告げる。

「女神様……いえ、クロン様。あなたは一つだけ勘違いしている」

「マチョウ?」

「自分たちは別に、大神官様を、師範を……『義務だから助けなくてはいけない』と思っているから、戦うのではありません」

「え?」

「たとえ素性がどうあれ、その存在に救われ、そして自分たちを強くしてくださった。中には大神官様の裏の思惑によって犠牲となった者も居たかもしれません……ヨーセイという若者や旧体制の関係者たちのように……だから、全員が全員ではありませんが……少なくともここに居る男たちは、『助けなくてはいけない』から戦うのではありません。『助けたい』から戦うのです」

そう。たとえ、ヤミディレの過去が天空族にとってもこの世界の人類にとっても許してはならない大罪人だったとしても、それでもこの国の連中からすれば……

「ちょっと、マチョウさん? 男たちってどういうことかな? 男女差別はどうかと思うかな?」

「そうっすよ! 少なくとも、ここにも同じ気持ちの女が居るっす!」

「ん!」

ツクシの姉さんや、カルイもアマエも同じ。教会のシスターたちも。

だから、もう皆の気持ちは決まっている。

「皆さん……一緒に……戦ってくれるのですか?」

戸惑うクロンのその呟きに、俺は軽く背中を叩いてやった。

「そうじゃねーよ、クロン」

「アース?」

「戦ってくれるの? じゃねえよ。マチョウさんが言っただろ? みんな、自分がそうしたいからそうすんだよ」

だから、こういうときに言うべきことは……

「……分かりました!」

そして、クロンは俺の言葉の意味を理解し、その小さな拳を力強く突き上げた。

「皆さん! 一緒に戦いましょう!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」」

女神と呼ばれ、敵からは人形とも呼ばれた女が、ついに自らの意思で皆を率い、そして皆と肩を並べて共に戦う決意をした。

その背中、俺は全力で援護してやる。

「んあああああああ! よく分からないけど、ボクも頑張るのーーーーん!」

「うむ、頼むぞ、新たな仲間! ヒーちゃんよ!」

「おう、俺らを乗せてくれよ!」

「やってやろうぜ、ヒーちゃん!」

「今度、一杯奢ってやるぜ、ヒーちゃん!」

こうして、やられっぱなしだった俺たちによる、天への反撃が始まった。