軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十九話 皆

俺が大物賞金首でもあるヤミディレを助ける理由もないし、道理もない。

そんな俺がリスクを負ってまで、この問題にこれ以上首を突っ込む意味はあるのか?

そんなもの……

「別に……俺は勇者じゃなくて、大魔王の弟子なんだからおかしくもねえだろ?」

『ぬ?』

「まあ、そもそも……俺は別にヤミディレのために戦うとか、そんなこと考えてもいねーしな……」

『ほう』

「あんま細かいことは考えてねぇ。今はただ……このままじゃ勘弁ならねぇってだけだ」

そう、今の時点で考えているのは、単純に雲の上の奴らにムカついているだけだ。

この街で三カ月も過ごしたんだ。

俺はこれまで、リヴァルやフーたち留学組のように、帝都以外の場所でこれほど長く同じ場所に留まって生活したことがなかった。

この三カ月、トレーニングがきつかったとか、ヨーセイ関連がムカついたとか、そういうのはあったが、それ以外のことにこの街での不満なんて何もなかった。

むしろ……

「おにーちゃーーん!」

「あっ……」

「ぎゅううううう!」

そのとき、皆の手伝いをしていたアマエが俺を見つけ、嬉しそうにしながら不意打ち気味に俺の腹に飛び込んできた。

「アマエ……」

「おにーちゃん、もうだいじょーぶ?」

「……ああ……なんともねーよ」

「ん!」

「アマエは皆のお手伝いか? えらいな」

「ん……ん~」

労うように頭を撫でてやった。少し心地よさそうに頬がほころぶアマエ。

いつもなら、このまま「きゃっほー」とか言ってはしゃぎ回っていただろう。

だけど、今はそこまではいかない。

やはり、少し疲れているようにも見えるし、何よりもあまり元気が無いようにも見える。

その理由は……分かっているんだけどな。

「坊ちゃま!」

「アースくん! 良かった。腕は大丈夫かな?」

「おっ、あんちゃん、起きたんすか! いんや~、無事でよかった!」

広場の中心で忙しそうにしていたサディスたちも俺に気づき、更に……

「アースくん!」

「オラァ、アース、起きたか!」

「大丈夫? 女神様の魔法は効いたのかな?」

「よかったんだな~」

汗で汚れながら、働いて走り回っていると思われるモトリアージュたちも居た。

ノコギリやトンカチなどの工具や木材、更には食料と思われるものを担いでいる。

「よう。とりあえず、皆も無事だったんだな……まぁ、これを無事と言えるかは微妙だがな……」

「うん……まぁね……」

周りを見渡しながら俺がそう言うと、モトリアージュたちは苦笑した。

俺ですらこの光景にはかなりのショックを受けているんだ。

生まれ故郷であるこいつらにとっては、そのショックは俺なんかとは比べ物にならないだろう。

だが……

「でも、いつまでも下を向いてても仕方ないしね」

「オラァ、やってやる! 元々この街だって内戦で焼け野原から、俺らの親父たちが作った街だ! 今度は俺らが立て直してやらぁ!」

多少の強がりは混じっているかもしれない。

しかし、空元気ではなく、その言葉には確かな決意が込められているように見えた。

そんなモトリアージュたちの声に、ツクシの姉さんたちも頷く。

「へぇ……言うじゃねえか。校舎裏でウジウジしてた奴らが」

「はははは。ああ、そうだね。三カ月ぐらい前にそんなウジウジしたのが居たね」

「おっ? こらこら、お前らのこと――――」

「でも、その三カ月前の奴らは……ある男の熱い姿に感化されて、もう居なくなっちゃったからね」

俺が冗談交じりで言った言葉に、冗談を交えて返してくる。

そんなモトリアージュたちの姿に、どこか頼もしさも感じた。

さらに……

「そうかい。で、モトリアージュ、お前らはそんな荷物抱えてどこに行くんだ?」

「ん? ああ、これかい? これは……寝たきりのヨーセイの所にね」

「……なに?」

「ヨーセイや彼女たちは、皆の前に顔を出しづらいみたいで、広場から少し離れた場所に居るんだけど……それだと色々と大変そうだから、手伝いにいこうと思って」

「……はぁ?」

予想もしてなかった言葉に俺は思わず声を出しちまった。

そして、モトリアージュの言葉に「自分たちもだ」とオラツキたちも頷いた。

「おいおい……お前ら、あいつらのこと嫌いだろうが。なんでそんなことを?」

「え? 何でって……言われても……」

あいつらからどれほどの屈辱を受けたか……つか、俺だってあいつらにムカついたし、嫌いだし。

なのにこいつらは……

「こんな時に、そんなことは言っていられないよ。困ったときは、お互い様だよ」

「モトリアージュ……」

「それにもう……いいんだ。ヨーセイのことも、彼女たちのことも」

俺の問いに、少し困ったように笑いながらもモトリアージュたちは好き嫌いの感情ではなく、あくまで善意で……そして……

「アースくんが、あそこまでヨーセイを叩きのめして、溜飲が下がるのを通り越して、哀れに感じちゃったしね。それに、君も言っていただろう? 結局は僕たちが強くなればいいんだって」

そう言って、どこかスッキリしたような、そこに何もわだかまりを感じさせずに爽やかにほほ笑むモトリアージュたちに……俺は思わず……

「ったく、カッコつけやがって! こんにゃろ!」

「あいたっ、ちょ!?」

「とりゃ!」

「うおっ、いて! 何すんだよ!」

「ふん!」

「あわっ!?」

「ウラ!」

「はぶっ!? んも~、何で叩くんだな?」

モトリアージュたち四人の胸を軽くグーで叩いてやった。

「ったく、お前らはほんと……」

思わず言ってしまいそうになった言葉を、俺はそのとき慌てて飲み込んだ。

俺の柄じゃないから口に出して言わない。

でも、俺は改めて思った。

「アースくん?」

「なんでもねーよ」

こいつら、いいじゃねえか!

「オラァ、何でもねーなら、何で殴るんだよ!」

「だ~か~ら~、なんでもねーって」

「ほんとか~?」

なんか、いいな。こいつら。

友達になれて良かった。

「ああ。なんでもねーって。な~、アマエ?」

「あう」

「ほーれ、高い高い!」

俺はこいつらのことが、良いと思ってる。

確かに俺はヤミディレに攫われて、強制的にこの国に連れてこられて、そして閉じ込められていた。

だが、ここでの出会いは、俺にとっては大事なもんだった。

「坊ちゃま……」

「……なんだよ、サディス」

「いいえ、何でもありません」

そんな俺に「お友達ができてよかったですね」と、完全に保護者のような温かい眼差しでサディスが微笑んで、少し恥ずかしくなって俺は顔を逸らした。

だけど、そうなんだ。

俺はもうこの街のことを好きになっちまってんだ。

ここで出会った連中のことも、気に入っちまってる。

もはや、飛び出してきちまった生まれ故郷と比べてもだ。

だからこそ……

「まぁ、とりあえずお前ら皆無事で何より―――」

「……みんなじゃない」

「……アマエ?」

俺が皆の無事を口にした瞬間、アマエが顔を俯かせて悲しそうに言った一言が、全てだった。

「……大神官さま……いない……」

ヤミディレが居ない。いや、足りないと言うべきか?

「アマエ……うん、そうかな……」

「そっすね……」

そう、たとえヤミディレにどんな思惑があったとしても、アマエやカルイ、ツクシの姉さん、いや、それだけじゃねーな。

たとえあいつがこの島国の外ではどんな評価で、過去どんなことをしていた奴であろうと、あいつの存在はもうこの国の連中にとっては欠かすことのできないものなわけだ。

「カウンターパンチ……か」

「おにーちゃん?」

空を見上げる。まだ堂々とあの雲はこの街……いや、この島国の上空に留まっている。

大方、ここからじゃ手出しできねえとでも思って余裕ぶっこいてんだろうな。

やっぱり……叩き込んでやりてーな。