軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十六話 高みの見物

「さあ、続いて第三試合を始めたいと思います! そして、次もまた注目の一戦です! たった一つの武器、拳によるストレートパンチのみを鍛え続けてきた男。骨が折れようと、脱臼しようと、骨が突き出ようとも、叩いて叩いて叩き続けた! ただ一つの事のみを追求した男の拳は、やがて鈍器に、刃に、そして兵器と化した! その破壊力を見せてみろ! 『破壊拳士・クロオビ』!」

観客席へ上がると、丁度第三試合が始まる所。

「対するは、その逆。あらゆるジャンルに手を出した。投げた。絞めた。殴った。蹴った。一つの武器を磨くのではなく、実戦を想定してあらゆる場面に対応できるように己を磨いてきた! 男は言う。クロオビよ、お前がやっているのは、一つの事のみを追求しているのではなく、単純に他のことをサボっただけに過ぎないんだ! それを今日、教えてやる! 『格闘万屋・ジュウジュ』!」

司会の紹介と共に出て来た二人の男。

中々いい面構えだ。俺の見立てでは、体つきや歩いているときの姿勢や雰囲気などから、ジュウジュって奴の方が強く見えるな。

と、まずは俺も座らねえとな。

「え~っと、座席座席……」

「あんちゃん、あそこだよ~」

「ん? おお、あったあった。んで、居たな」

俺を応援するときに皆が居た席。

そこには、既にアマエが戻っていて、ちょこんと座っていた。

「よ、アマエ~。な~んで逃げるんだよ」

「はうっ!?」

俺が笑みを浮かべながら近づいて声を掛けると、アマエは驚いたように体をビクッと震わせた。

「あ……ふみゅ……う……」

「隣座るぜ~。おいしょっと」

「はふっ?!」

またモジモジしている様子が面白いので、そのまま隣に座ってやった。

「って、あんちゃ~ん。そこ、私の席なんだけど~」

「ん? あっ、そっか。俺が来たから席が……ん~、どうすっかな~」

「ね~、どうすっかね~?」

俺が座ったのは元々カルイが座っていた席。

しかし、俺が来た所為で席が一つ足りなくなってしまった。

さてどうする?

しかし、これはもう俺とカルイで事前に示し合わせていたことなので、俺たちは互いにニヤニヤ笑っていた。

そして……

「しゃーない。おーい、アマエの席に私を座らせてよ」

「……え?」

「んで、アマエはあんちゃんの膝に座んなよ。いつもご飯のときはそうしてるっしょ?」

「っ?!」

そう、アマエは食事のときは当たり前のように俺の膝に座ってそのまま食事する。

だから、いつものことである。

しかし、アマエ自身は先程の「お兄ちゃん」発言でまだモジモジしているため、なかなか動こうとしない。

「ほら、アマエ。カルイに座らせてやんな」

なので、俺は後押しとばかりに、自分の膝を叩いてアマエを招く。

それをアマエはオズオズと顔を上げて俺を上目遣いで見て……

「いいの? お……お……に……ちゃ……あぅ……」

いつもは平気で人の背中に飛び乗ったり、抱きついてきたり、膝に乗ってきたりとやっているくせに、どうやら「お兄ちゃん」発言は恥ずかしいらしい。

というよりは、怖がっているのかもしれない。

多分、それはアマエに血の繋がった家族が居ないことと関係のある、意外とデリケートなことなのかもしれねえ。

なので……

「いいよ、別に」

「へ?」

「好きなように呼べばいいぜ」

そう言って、軽く頭に手を置いてやった。

するとアマエは一瞬呆けながらも、また意を決して……

「お……おにーちゃん……」

「おう」

「……おにーちゃん」

「ああ」

「おにーちゃん」

「なんだよ、アマエ」

「ッ!?」

最初は恐る恐る。だけど、次第に確認するように、そしてついにはハッキリと俺をそう呼び、そして次の瞬間には……

「おにーちゃん!」

「ああ」

「~~~~っ、きゃっほーう!」

「のわ!?」

俺の膝に乗るどころか、体ごと俺の腹にダイブしてきた。

「むふー! アマエのおにーちゃん!」

「ああ」

本当に屈託のない満面の笑みを見せてくれた。

プニプニの柔らかい頬で俺の顔に頬ずりしてくる。

天使だ。

「あは! よかったかな! アマエ。オジサンに続き、お兄ちゃんができて!」

「あんちゃん、意外とお優しいんだねぇ」

「むはー、僕もアマエちゃんにおにーちゃんって呼ばれたいんだな!」

嬉しそうなツクシの姉さんたち。まぁ、俺もちょっと俺らしくないような気もするが、とりあえずこいつに関してはそれで構わないと思った。

『おい、まだ大会は一回戦しか終わってないのだから、気を緩めるなよな?』

『お、押忍』

とはいえ、流石に俺も顔に締りがなかったのだろう。トレイナからの注意が入る。

確かに、ちょっと気を抜きすぎかもしれねえな。

試合も真剣に見……

「おーっと、関節を取られたああ! これは堪らずクロオビがギブアップ!」

あっ……

「って、終わっちゃったあああ!!??」

また、何も見ないままで終わっちゃった……

「いやー、一度はクロオビの拳がジュウジュの顔面を捉えましたが、ジュウジュは堪えきり、そのままクロオビの腕を取ってサブミッションに持っていきました! しかし、勝敗は紙一重。御覧ください、ジュウジュの右顔面が青く腫れあがっております! なんという恐ろしい破壊力。そしてそれに耐えたジュウジュもまた素晴らしい! おっと、両者健闘を讃え合った握手! 皆さんも、どうか盛大な拍手を!」

やっちまった……勝ち上ればひょっとしたら戦うかもしれない相手だっただけに、二戦連続で戦いを見逃してしまった。

『まったく、たるんでいる』

『面目ない……』

確かに気が緩んでいる。

やっぱり、失敗だったか?

だって、アマエが俺の膝でもたれかかったり、鼻歌交じりだったりで、すごいご機嫌なんだ。

本当は、対戦相手の偵察だけじゃなく、色々な格闘術を知るいい機会だってのに……

『悪い、ちょっと集中する』

『当たり前だ。そもそも――――ん?』

『……ん?』

そのとき、俺とトレイナは同時にある気配に気づいた。

見知らぬ気配が傍に。

視線を送るとそこには……

「いや~……あれだけ同世代の男を叩きのめしながら、今ではとても微笑ましい光景……どっちが本当の君か、気になるアルね~」

俺らが居る観客席のフェンスの上を片手で逆立ちしながら、変な男が笑いながらこっちに近づいてきていた。

それには他の観客も気付いて笑ったり、反応を示し、そしてツクシの姉さんたちも驚いて声を上げた。

「うわっ!? ちょ、ワチャさん!? ビックリするかな!」

「んも~、相変わらず、何やってんすか~?」

ワチャ。そう呼ばれた男に見覚えがある。

っていうか、出場者の一人だ。

上半身裸で下は長い黒ズボンという目立った格好の、おっさんだ。

細身でガタイもデカくはないが、良く見たら結構良いバランスに体幹、そして引き締まった筋肉を持ってやがるな。

総じて……まあまあってところだな……

「いや~、先ほどは見事な拳打を見せてくれた若者に、是非ウチの支部に出稽古に来て欲しいと思って探していたアル」

「あ……俺?」

どうやら俺が目的な様子。つか、そういえばこの人はさっきも、ヨーセイとの戦いが終わった後にそんなこと言ってたな。

「あ~、まぁ、それは気が向いたらな。俺は別に魔極真の門下生ってわけでもねーし」

「それでも構わないアル。なんなら、そのまま我が支部に入門しても問題ないアル」

「え? おいおい、稽古の誘いじゃなくて、勧誘か?」

まさかこんな所でスカウトみたいなことをされるとは思わなくて、ちょっと驚いちまった。

だが、俺のその問いかけにビクッと体を震わせたアマエが、急に俺の膝から降りて、ワチャとかいうオッサンに向けて両手を広げて睨んだ。

「う~~~……あげない」

その姿を見て、俺たちは思わず噴き出した。

「おっと、それはすまないアル。何もお嬢ちゃんのボーイフレンドを奪おうだなんて思ってないアル」

「ちがう。おにーちゃん」

「おお、それは次から気を付けるアル」

アマエの姿にワチャのオッサンも笑って謝罪。

まぁ、勧誘と言ってもそこまで本気でもなさそうだな。

「しかし……魔極真の門下生でもなく……マチョウの話だと、自己流で師匠も居ないとのこと。本当アルか?」

「ん? ……ああ……まぁ……」

つっても、師匠は居るっちゃ居るんだけどな。

だが、周りにはそう通すしかない。

「ふむふむ……それは驚きアルね……それで、あんな綺麗な左を打てるアルか? 誰の指導もなく?」

片手逆立ちのまま神妙な顔で驚くワチャ。

でも、確かにそうだよな。

俺に「師匠は居ない」ということになってるのに、いきなりレベルアップしたり、皆の知らない技とかを使ったりしたから、帝都の御前試合でも皆驚いたんだ。

これまでは、テキトーにそこら辺を誤魔化してきたし、ヤミディレも深く聞いてくることは無かったが、今後そういう所を深く追及されたら答えに困るな。

だって、本来は俺が知らないはずのことを、俺は知っているということなんだから。

『確かに、言い訳の仕方は今後考える必要があるだろうな』

そして、トレイナもそれは同じのようだった。

「まっ、それならよっぽど君はセンスがあり、人体を知り尽くした天才ということアル」

「あ、はぁ、まあ、そ、そうなのかな? 自分では分からないけど……」

「うむうむ、これは是が非でも一度、手合わせを……おお、そうかそうか……私が勝ち上がれれば、それも叶うアル。これは、頑張りたいアルね」

そう言って笑うワチャだが、何だかんだで自信ありげだな。

とは言っても、ヨーセイやグランシャリオの例もあるので、この自信を真に受けていいかは微妙だな。

「まぁ、それならこっちに問題はない。俺は必ず勝ち上がるからだ。あとは、あんた次第。生意気かな?」

すると、次の瞬間ワチャは片手逆立ちの状態から飛び跳ねて、フェンスの上に両足で立って俺を見る。

「いいアルね。これまで無名だった男が突如として化けて、その名を轟かし、強く吼える。まるで、昇り竜アルね」

「くはは、ちょっと褒め過ぎなんじゃねぇか?」

「褒めてるアルよ。果たしてその竜は天を翔け、天すら砕けるか見物アル。流石はヤ……師範のお気に入りなだけあるアル」

「は……はぁ? あるアルすか?」

何だか、大げさすぎてもう何が何だか……

『……ん? ……こやつ……今……』

ん? トレイナ。

「では、次は私の試合アル。また後でお話して欲しいアル~」

「お、おお」

そのままフェンスから闘技場へ飛び降りて行っちまったワチャ。

何だか、よく分からん奴だったな。

でも、トレイナは何か気になったようで、ワチャをジッと見ている。

何かあるのか?

『あやつ……なかなか曲者かもしれんな』

え? なに? 何だか、トレイナがそう言っただけで、あのワチャという男が実は普通に強いんじゃないかと思えてしまった。