軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十五話 労い

「まさに柔よく剣を制す! それを体現した試合でありました! 試合開始早々、グランシャリオの必殺剣! 何か、『死兆星』がどうとか、『七つの星より判決下す。星の煌めき流星となりて、再び天上の導を―――』だとか、何やら長々と口上を述べながら何かをやろうとしていましたが、一瞬でその片腕を取られてぶん投げられ、背中を強打してそのまま身動き取れず、グランシャリオ敗北! 星は煌めくことなく、地に叩きつけられました!」

司会の男の相変わらず熱の籠った実況。それを聞いて、俺は「ん?」と思った。

確か、さっき俺に挑戦的なことを言ってきたのは……

「この試合、『滅力戦士・ヤワラ』の勝ち! 堂々の二回戦進出!!」

グランシャリオ……って?!

「って、負けたのそっちかよおおおおおお!!?? ええええ? いやいやいやいや、あれだけ自信満々で負けるとは……どこのヨーセイだ?」

「「「「たとえが酷すぎる!!??」」」」

「は~……まぁ、いいけどよ……誰が来てもやることは変わらねぇしな。誰が来ても、だ」

まさか、俺の次の対戦相手を決める試合がアッサリ終わるとはな。

しかも、次に対戦すると思われていた奴が、普通に負けてた。

ちょっと驚いちまったが、別に構わないと頭を切り替えることにした。

「はははは、ま、まぁ、それはそれとして……それより、さっきの試合だよ。すごかったよ、アース君!」

「ああ。俺たちもいつまでも腐ってる場合じゃねえし、打倒ヨーセイなんて言ってられないって思ったぜ! オラァ、やってやんぞ!」

「うん。ヨーセイがどうとかじゃない、自分がもっと強くなれるように頑張るよ」

「あとで、皆でお弁当食べるんだな!」

とりあず、今の試合は置いておき、そしてさっきの俺のヤバい行動には触れず、今はただ一回戦の勝利の祝福だと、モトリアージュたちは笑いながら手を上げる。

「おう! 次も、やってやるぜ! 見てろよな」

俺も頷いて、笑顔で皆にハイタッチしてやった。

「そうそう、アース君、確かに強すぎだったかな!」

「いんや~、相手が気の毒なぐらいっすね! まっ、よっしゃあって気にもなったっすけど」

そして、ツクシの姉さんやカルイも笑顔で頷いて労いの言葉。

そういえば……

「へへ、ありがとな」

そういえば、こうして勝って、労ってもらったのって、初めてかもな。

今までは、勝てば「流石勇者の息子」。だったしな。

それに、御前試合では途中で俺は逃げ出しちまったし。

こういうのも、何だか嬉しくて、ちょっと胸と目頭が熱くなった。

「……よう……」

「おめでとうございます」

そして、遠慮しがちに頭を下げるサディス。

「どうだった? 俺のファイトは」

「は、はい……とても……見事でした。あれでまだまだ本気ではないというところに、戦慄します」

「そうか」

こいつからも……昔……欲しかった。っと、俺は何を女々しいことを……

「……ちゃ……ん」

「ん?」

ん? なんだ?

そのとき、誰かがすごい小声で何かを呟いた。

とても幼い声……って一人しかいないか。

「う~……お……ちゃん」

何やら顔を真っ赤にして超モジモジしている。

「ふにゅぅ……」

「あ? なんだよ、アマエ」

「う~……」

いかん。

鈍感野郎共とは違って色々と察しの良い俺でも、流石にこれは分からん。

「ほーら、アマエ、がんばるかな」

「ね? アマエ」

「ふふふふ」

あら? でも、ツクシの姉さんたちはアマエが何を言おうとしているのか分かっている?

アマエの背中を押してクスクスと笑っている。

「ん~?」

俺も何が何だか分からず首を傾げた。

すると……

「はいはい、みなさん、そこをどいてくださいね~、ちょっと通ります~」

「えっほ、えっほ」

と、そのとき、廊下の向こうから複数の男たちが何かを運んで俺たちの前を通り過ぎる。

それは、担架で一人の男を運んでいるのだ。

「あ~ひ~、あたまに~、おほしさまがまわってるのら~」

そこには、頭の周りに星が回っているように見えるのか、精悍だった優男が、実に情けない顔で運ばれていた。

「あ~あ……結局あんたは何だったんだ?」

それは、俺に二回戦の宣戦布告をしてきたグランシャリオ。

どうやら、お星さまになってしまったようだ……死んでねーけど。

「あっ……ははは。アース君の次の対戦相手は、ヤワラさんだね」

「ヤワラのおっちゃんすか~」

あまりの秒殺劇だったと思われる今の試合に、ツクシの姉さんたちも思わず半笑いだった。

そして、どうやら俺の次の対戦相手がどういう奴か分かっている様子。

知り合いか? まあ、支部とはいえ、同じ魔極真流だしな……

「うう~~~~~~むむむむ~!!」

「あっ……」

と、忘れてた。

目の前には、頬を目一杯膨らませてご機嫌斜めなアマエ。

「おー、悪かったな、アマエ。で、話は?」

「う~、ン! ん! ん!」

は?

次の瞬間、何故か怒っているアマエが俺まで駆け寄って、その小さな手で俺の腹をポカポカと叩いてきた。

「え、えええ?」

「ん! ん! ん! んーだ!」

別に痛くはないけども……。そして、ツクシの姉さんたちは苦笑気味。

うむ、分からん。

だが、しばらく叩いてきた後、アマエは急に手を止めて、代わりに体を俺の腹に預けてくっついてきた。

「………………ぎゅっ……」

「アマエ?」

顔を俺の腹に押し付けて顔を見せず、くぐもった小声で、しかしそれでも……

「……おにーちゃん……」

「……なぬ?」

俺の耳にはハッキリと聞こえた。

そして、その言葉を発した瞬間、アマエは体をパッと俺から離し、代わりに両手にポンポンを持って、顔を真っ赤にさせながら……

「お……お……う~~……おにーちゃん、次もガンバ!」

小さな体で目一杯体を動かし、ポンポンを振ったり突き出したり、そしてジャンプする。

その姿を見た瞬間、天地に雷鳴が響き渡った気がした。

「う~、うー!」

そして、もう恥ずかしさの限界を超えたのか、アマエはそのままピューっと走り去ってしまった。

その走り去る小さな背を見つめながら、俺はしばし呆然。

「あは、あはははは、頑張った方かな」

「いんや~、すまんすね~、あんちゃん。アマエってば、ずーっと、あんちゃんのことを『お兄ちゃん』って呼びたかったみたいなんすよ」

アマエの姿にツクシの姉さんや他のシスターたちも微笑ましそうにしている。

でも、俺はまだ微動だにできない。

「できれば、許してあげて欲しいかな?」

「うん。ここ数週間ぐらい、ずーっと言いたくてそわそわしてたみたいなんすよ~」

ただ、許すとか許さないとかではなく、分かったことが一つだけある。

「今すぐ二回戦だ! なんだったら、出場者全員まとめてかかって来いやー!!!!」

「「「「「いやいやいやいや、意外と単純!!??」」」」」

今の俺なら恐らく何でもできて、誰にでも勝てるだろう。

そんな気がした。

とはいえ、そんなことになるはずもなく、とりあえずは次の試合までは観客席でのんびり観戦でもすることにした。

観戦するときは、アマエを膝に乗せてやろう。

うん、それがいい。