軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十三話 宿題

サディスは天才と呼ばれていた。

ガキの頃ではあるものの、俺と姫とリヴァルとフーの四人がかりでもアッサリやられた。

アカデミーに居たころから、いずれ帝国が世界に誇る戦士になるだろうと言われていた。

だから当然、そんなサディスに言い寄る男だって大勢いた。

『サディス。僕、新しい馬を買ってもらったんだ。あのマンデーサイレンスの血を引く素晴らしい馬で、是非見に来てくれないかい?』

『おい、抜け駆けすんな! なぁ、サディスくん、実は僕もパパから劇団のチケットをもらってね。特等席だ。僕と一緒に行かないかい?』

『なぁ、サディス。サディスは女子トップであり学年トップかもしれないが、俺は男子でトップだ。ここはトップ同士、更なる高みを目指すために、一緒に鍛錬しないか?』

もう、何年前になる?

サディスがアカデミーに通っていたとき、「たまたま」アカデミーの門の前を通りかかった俺の目には、下校時に大勢の人を回りに集めているサディスが居た。

強くて、頭が良くて、美人な人気者。

俺はそれを見て、無性に焦った。

何だよ、お前らは。

サディスを一番知ってるのは俺だ。

一緒に住んでるんだ。

ずっと一緒に居るのは俺だ。

まさにガキの嫉妬だった。そんな俺だったが、サディスは取り巻きの男子たちに無表情で返す。

『申し訳ありませんが、予定がありますので』

少しも考える素振りを見せずに、返答。

それにへこむ男たち。明らかに脈は無い。

そんな冷たくお高く止まった態度は、普通はあまりよく思われないだろう。

しかし……

『今日もサディスさんは素敵ね』

『クールでお美しく、孤高の気高さを感じるわ~』

『一体、彼女のハートを射止めるのはどんな方かしら?』

『それこそ、上級戦士……いいえ、他国の王族ぐらいでないと』

『あのヒイロ様とマアム様の教えを受け継がれているんだものね』

『もう、お姉さまって呼びたい!』

『私、振られると分かっていても……恋文だけでも!』

同性でありながらも憧れを見せる女たち……

『か~、ツンとしちゃって……でも、そこがいいよな~!』

『うぅ、是非とも彼女を俺の嫁に……』

『ばっか。おめーにゃ無理だって』

『一度もデートの誘いを受けてくれたことないしな』

振られ、相手にされず、しかしそれでもサディスに怪訝な眼差しを向ける男は居ない。

アカデミーの門の前から覗き込んで、サディスはやはりモテるんだと、俺は改めて知った。

『あら? 坊ちゃま!』

『うわっ!?』

俺が少し俯いていると、俺に気づいたサディスが向こうから走って駆け寄ってきた。

『坊ちゃま、学校はもう終わられたのですか? それにしてもどうしてこちらに……ん? ん~? ん~♪ うふふふふ~』

俺を見て、何故俺が居るかと不思議そうな顔を浮かべるも、サディスはすぐにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべだした。

『な、なんだよ……』

『ひょっとして坊ちゃま、私をお迎えに来てくれたのですか~?』

『ちがっ!?』

正解。でも、俺は慌てて否定した。

『ち、ちげーし! 学校終わって、ちょっと遠回りして帰ろっかなって思って、たまたまアカデミー通りかかって、将来のためにちょびっと覗いただけで、だ、だから、さ、サディスが俺の知らない奴と一緒に居ないだろうなとか、気になったとか、そ、そんなんじゃねーんだからな!』

もう、早口で捲し立てる俺。そんな俺にサディスは顔を抑えてソッポ向いた。

『わ、わかりました……ぼ、ぼっちゃま……十分です。ですので、それ以上は……か、かわたんすぎて……』

ブツブツと呟いて笑ってる?

俺があまりにもバレバレすぎてバカにされていると思い、俺は余計にムスッとして俯いた。

『うぅ……も、もう知んない。サディスのばかぁ!』

『はうっ……怒った顔もまた……はぁ……これがあるから私も同年代の男子に興味の欠片も持てないのです……』

俺はそのまま拗ねて逃げ出しそうになった。

だが、その前にサディスは笑いを止め、少し屈んで俺に手を差し出した。

『では、坊ちゃま。こうして偶然会えたわけですし、私と一緒に帰って戴けませんか?』

それだけで俺は頬が熱くなり、おずおずと手を差し出していた。

『……いいけど……』

結局俺はサディスにはどうしても抗えなかった。

『うふふふ、こうして制服で坊ちゃまと下校するなんて、なかなか新鮮ですねぇ』

『そ、そっかな……』

帝都の中央通りを歩く俺たち。

俺はそっけなく答えたが、本当はすごい緊張していた。

いつものメイド服のサディスではなく、アカデミーの制服を着たサディスと並んで歩くのは初めてで、いつもと違うものを感じた。

そんな緊張を誤魔化すと同時に、俺は気になることをサディスに聞いた。

『サディスって……モテるんだな』

『ええ。ありがたいことに』

『うん。でも……い、いいのか?』

『何がです?』

『で、デートとか誘われてたじゃん!』

『そのようですね』

『さ、サディス、いつも、勉強して、修行して……家の手伝いして……宿題もあるし……大変じゃん。たまには、デ、デートとか遊びに行くとかしないの? 行きたいとか思わないの?』

いつも俺のために大変なサディス。

でも、俺のためにいつもいつも大変でいいのか?

サディスだって遊んだりしたいんじゃないか?

そう思うと同時に、それでもサディスが他の男と一緒に居るのを見たくない。

そんな複雑な気持ちを抱いて、なかなか素直になれない俺。

すると、そんな俺にサディスは……

『ええ、私も女ですよ、坊ちゃま。男の子とデートをしたいと思っていますし、っというか私もデートしますよ?』

『えっ!?』

驚いて、俺が振り向いて見上げると、サディスは意地の悪い笑みを浮かべていた。

『おや~? どうされたのです~? 坊ちゃま。ほら、私は坊ちゃまもご存知の通りモテモテなのですよ? 手を繋いでイチャイチャ男の子とデートしたいですし、実際その相手は既に居ますしねぇ』

『え? うそ、え? そんな……え……うそ、でしょ?』

『嘘ではありませんよ~。だから、私は先ほどのクラスメートたちの誘いを断ってるわけなのです。もう、その人が大好きで大好きで仕方が無いので、今日だってデートですしね』

ショックだった。俺は誰よりもサディスを知っていると思ったから、俺の知らないサディスが存在したのかと思って泣きそうになった。

将来はサディスをお嫁さんにするんだ。

そう思っていた俺はプルプル震え、涙が出そうになった。

『そ、うなんだ……ど、どこのやつ? デート、今日するの? 誰なの?』

泣くもんかと俺は堪えながら、サディスに問う。

すると、普段は無表情だったり、イジワルな笑みを浮かべたりするサディスが、この瞬間ニッコリと微笑んで……

『まさに今、私が手を繋いでいる男の子と、放課後デート中なのですよ』

あの後、すごく恥ずかしくなって、でも嬉しくて興奮して、どうやって帰ったのか、どんな会話をしたのかよく覚えていない。

でも、今にして思えば、あれは俺を弟とか子供扱いしているから言うセリフ。

それがずっと俺の初恋を助長させ、いつまでもそれが俺を支配していた。

御前試合でそれも断ち切ったはず。

なのに、今でもあのときを思い返すってことは、まだまだだってことだ。

「くそが……俺は何を……ガキや天然女とお手手つないでヘラヘラしてんだよ……」

さっきの、ノンキにほっこりしていた自分を恥じた。

「見てやがれ! 強くなってやる! こんなもんに振り回されてたまるか! 勝ってやる! 勝ってやる! 誰であろうと!」

もう、あんなことを思い出して、女々しい気持ちになんてならねーぐらい、強くなってやる。

そして、勝ってやる! 勝ってやる! 勝ってやる!

誰が相手でもだ!

『ふっ……何だか……御前試合前……ヒイロ、マアム、そしてあのメイドの三人で話をしたときと同じような目をしているな』

「……んなこたーねーよ」

『そうか? まぁ、そういった感情でガムシャラに強くなろうという気概が生まれるのであれば、構わぬさ』

今は俺とトレイナ以外誰も居ない1階。

鏡の前でサンドバッグを軽く叩いた俺のことをトレイナがそう言った。

御前試合前。

そうだ、俺が魔穴を開けて倒れた時、親父と母さんが仕事を放り出して慌てて帰ってきた日。

あのときは、「俺の勝利を誰も期待していない」という状況に腹が立ち、反骨心から余計に強くなろうと心に誓った。

正直、今とは全然状況が違うし、俺自身はあの時の俺と同じとは思っていなかった。

ただ、トレイナにはそう見えたのだろう。

そして、トレイナは俺の気持ちを汲むように……

『さて、童。この三カ月は前も言った通り、道場の器具を使っての『基礎の能力向上』。『魔呼吸の習得』。これがテーマであり、そのためのトレーニングをひたすら続ける予定だ。飽きぬよう、色々とトレーニングメニューを考えていたりもするが……ちょっと予定を変える』

「なに?」

『変えるというより、強くなるために、もう一つばかりトレーニングのテーマを増やそうと思う』

これからのトレーニング。

基礎の能力向上で、なわとび、上半身、下半身の筋トレ、足の親指専用の筋トレ、ロードワーク、シャドー、スパーリング。

魔呼吸の習得で、ヨーガなどを短い期間で教えられていた。

この現状に、更に一つ新しいテーマを増やす。

それは、かなりハードかもしれない。

だが、不思議と今の俺は、「何でもやってやる」という気持ちしかなかった。

そして、トレイナが新たに課すテーマは……

『それは、必殺技の開発だ』

「……な……なに?」

ちょっと意外な提案に俺は呆けてしまった。

『大魔フリッカーも、大魔スマッシュも、大魔コークスクリューも、カウンター系のパンチも、ブレイクスルーも、大魔螺旋も、技ではある。しかしそれらは元々余の技。言い方を悪くすれば、貴様は余の技を言われたままに使っているに過ぎない。まぁ、それも今はまだ悪いことではないがな……』

「い、言われたまま……って……でも今は……」

『だからこそ、将来を見据えて、一つ作るのだ。三か月後に使い物にできるかどうかは別にして、貴様専用のオリジナル技……貴様の必殺技を編み出すことだ』

必殺技。そういう響きは久々に聞いた気がする。

『そして、この必殺技の開発においては……どのような必殺技にするかは、貴様に一任する』

「ぬわっ?! え……え!?」

そして、自分で提案しておきながら、トレイナがまさかのノータッチ宣言。

これには俺も戸惑うしかなかった。

『まぁ、相談には乗ろう。だが、これからはこれまでと同じトレーニングをしながら、そして魔法学校の情けない男どもを指導しながら、頭の片隅で必殺技のイメージを思い浮かべてみろ。自分に何が出来て、自分に何が合うのかを、想像しろ。そして、これが自分だと主張でき、ボンクラ共の目に焼き付けさせ、世界の度肝を抜くようなものを創ってみよ!』

まさか、ここに来てそんな提案をされるとは思わなかった。

昔の俺なら、それこそ必殺技名を考えるだけでも楽しかっただろう。

しかし、今は違う。

大体、俺が考えるより、何でも正解を知っているトレイナに教えてもらった方が……

『童』

「……え?」

『確かに余が童に合っているアイデアを出してやる方が手っ取り早いが……たまには、こういうのもよかろう。貴様が貴様であるためにはな……』

その時のトレイナの笑みは、師匠というよりは、どこか宿題を出す学校の先生のような表情をしていた。

俺は結局、トレイナの意図は分からないままだったが、どちらにせよ、言われた通り考えるしかなかった。

そして……

『ただ、必殺技を編み出すには、魔呼吸を早々に習得した方が貴様の選択肢も広がるだろう。本当はゆっくり覚えさせた方が良いのだが、そうも言ってられん。だから、童。本当は成長期の貴様にこういうことをさせるのはあまり気が進まぬが、ヨーガと組み合わせることで魔呼吸をもっと早く習得する方法がある』

先生のような表情は一瞬で引っ込み、今度は再び厳しい師匠の顔を出すトレイナ。

今の俺の気持ち、覚悟を試す様に問いかけ、俺が頷くと……

『覚悟があるのなら……『水抜きによるドライ・アウト』という……短期間だが……ちょっと地獄を見てもらうぞ』

これまでのトレーニングが、キラキラの汗を流す爽やかなものだったと思えるような、過酷なものが始まった。