軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十二話 ほっこり

海で一通りのトレーニングをこなしていたら、すっかり遅くなっちまった。

本当は、このまま海でもっと追い込んでもよかったが、そろそろ魔法学校の連中も授業が終わっている頃。

ひょっとしたら、モトリアージュたちも来るかもしれない。

だったら、一度戻ったほうがいいと思い、俺とクロンは一旦帰ろうと、道場を目指して歩いていると、街中で声が響いた。

「ああっ女神さまっ!」

誰かが叫んだその声と共に、視線が一斉に集った。

「本当だ! 女神様だ!」

「今日はなんという素晴らしい日! 謁見の日以外で女神様がお外に出られるとは!」

「あ、ああ、なんと……なんとお美しい!」

そうだ、こいつ女神なんだよな。

海から教会への帰り道、街を通った俺はそのことを感じた。

「皆さん、ごきげんようです!」

人通りの多かった中央通は、一瞬で人が左右に分かれ、誰もが跪き、拝み、目を輝かせている。

そこまでありがたい存在か?

しかし、クロンが微笑んで手を振るだけで民たちは歓喜している。

「ほら、アースも皆さんに笑顔で手を振りませんと」

「誰がやるか!」

つか、俺まで変な注目されそうで、ちょっと離れて歩こう……

「んーーーー!」

「ん? ごほっ!?」

と、その時だった。

開けた通りの向こうから、一人の幼女が駆けてきて、俺の腹に向かってダイブしてきやがった。

「つっ、アマエ?」

「む~……」

挨拶もなしにいきなり飛び込んできたアマエ。何やらご立腹のようで、頬をプクっと膨らませている。

「おい、どうした?」

「……勝手にどっかいった……」

「は? いや、それが悪いかよ……」

「女神様だけ一緒……二人で遊んでたの?」

「ちげーよ、ちょっとトレーニングだよ。何だ? 遊んでほしかったのか?」

「う~」

おお、図星か。

誰もが崇める女神様にヤキモチとは、かわいいやつめ。

「また、後でな。また道場でトレーニングしなきゃだから、その後にな」

「ん……」

アマエは俺に「ほんとか~?」、「約束だぞ?」というような目で睨んでくる。

なんだか、ここまで懐かれると、ほっこりする。

サディスが俺の姉みたいなもんだったし、妹が居るってこういう感覚か?

「あらあら、アマエ、ごきげんよう」

「あぅ……女神様……おはようございます」

おお、ここらへんは子供でも弁えてるのか。

しがみついていた俺の腰から降りて、姿勢を正してアマエはペコッと頭を下げた。

だが、すぐにアマエは振り返って俺の手を掴んで引っ張る。

「いく」

「わーったよ。引っ張るな」

うむ、最低限の挨拶はするけど、俺を取られていた嫉妬ということか。ほくほくしてきたな。

すると……

「うふふふ、アマエはアースと仲良しですね~。では、私も手を繋ぎます!」

「なに!?」

そう言って、手を伸ばすクロン。

まさか、こんな公衆の面前で俺と手を繋ぐのか?

流石にそれはまずい……

「はい、アマエ。お手手を繋ぎますね~」

って、繋ぐのは俺の手じゃなく、もう片方のアマエの手なのね。

「あぅ!?」

突然、クロンに手を繋がれ、アマエもかなりビックリした様子。

だが……

「はーい、ブラブラブラーです!」

「あ……お、お……おおー!」

微笑むクロンはアマエと繋いだ手を、揺りかごのように前後へ振る。

アマエも最初は戸惑っていたが、それが楽しいのか自らも手を振り始めた。

「ん、一緒にする!」

「は? 俺も?」

「ん! ぶらぶらぶら~!」

気をよくしたアマエは、繋いでいた俺の手も一緒に振り出した。俺とクロンに挟まれて手をブラブラさせながら繋いで歩く俺達三人。

なにこれ?

つか、民が崇める女神様とこんなことやってて、俺、なんか言われないか?

「ちょ、なんだ? あいつら、女神様に無礼な」

「私たちの女神様にあんな気安く……」

「あの子供もなんだ!?」

ほらな。

だが……

「あの男は、昨日マチョウさんと戦っていた……」

「あの子は教会のアマエよね? あんなに笑う子だったのね」

「うん……なんだろう」

「ああ、なんか見ているだけで……」

あれ? 最初は「失礼な奴」と非難の目が降り注ぎかけたが、それは一瞬で無くなり、それどころか段々と俺たちに対して温かい視線というか、なんというか……

「「「「「ほっこり~」」」」」

ほっこりしてる!?

つか、こんなんで歩いていたらまるで仲の良い兄妹みたいな……

『いや、というよりはもうそれを超越して……仲の良い……家族?』

こらこら、トレイナ。それはねーだろ。

俺はまだ十五なんだから。

大体、それじゃまるで俺とクロンが夫婦で、アマエが娘みたいじゃねーかよ。

そんなトレイナのくだらない冗談を無視しながら、俺たち三人はほっこりしている街を通り、道場を目指す。

「そうだ、アース! アマエをブランコしてあげましょう」

「は? ブランコ?」

「そうです、二人でこうやってアマエを持ち上げて」

「あ、ああ……こうか」

「はい! そしてこうやって、ゆ~らゆら!」

左右から俺とクロンがアマエの腕を引っ張って持ち上げる。

足が宙に浮くアマエ。足をばたばたさせながら、興奮したように俺たちに笑顔を見せる。

「きゃっほーーーーーう!!」

今までで一番大声でハシャぐアマエ。

「うふふふふ、楽しいですか? アマエ」

「よう、機嫌直ったか?」

「きゃっほほーい! もっとするー!」

そんなことをしながら歩く俺たちを……

「「「「「うん、結婚しろ」」」」」

なんか、コソコソヒソヒソ周囲が何かを話しているが、ちょっと恥ずかしくて居心地悪かった。

だが、その視線に耐えてようやく道場についた俺たちを待ち受けていたのは……

「みなさん、頑張ってます……か……あら?」

「?」

「なんだ?」

道場に顔を出した俺たちだが、1階に人が居なかった。

つい先ほどまで何人かがトレーニングをしてたと思われる、ダンベルやバーベル、なわとびなどが床に散乱しているが、誰も居ない。

だが、すぐに上の階から……

「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」

建物全体が揺れ動くような声が響き渡った。

「みなさん、上ですか?」

「みたいだな」

皆、上の階に居る。しかし、全員が上に居るとは何かあったのか?

そう思って俺たちは階段を上ろうとしたら……

「すげーぞ、あの姉さん!」

「ああ! あの、ツクシがまるで歯が立たない!」

「ツクシは、マチョウさん、ブロに続く道場でも三番手の実力者だぞ!」

「しかも、カルイと二人がかりなのにだ! カルイの目にも止まらぬ動きを……見切ってるのか!?」

二階じゃない。三階のリングだ。

昨日、俺とマチョウさんがスパーをしたように、今日も誰かがスパーをしているようだ。

そして、響き渡る歓声。

一体誰が戦っているのかと、俺たちが三階へたどり着くと、そこにはリングを大勢で囲み、その上では……

「これは……あっ……モトリアージュ……あいつらも……ッ!?」

リングの上には、「七人の男女」が戦っていた……と思われる。

リング上で片膝ついたり、気絶しているのか倒れたりしている、モトリアージュ、オラツキ、モブナ、ブデオ。

そして……

「はあ、はあ……魔極真・正拳突き! せいや!」

「私も全力でいくっすよ! マジカルスプリント!」

二人がかりで一人の女に特攻するツクシの姉さん、そしてカルイ。

その二人を涼しい顔で、直立したまま……

「では、捕獲します」

「「ッッ!!??」」

姿勢を真っ直ぐにしたまま二人の間を一瞬で通り抜ける。

すると、次の瞬間、ツクシの姉さんとカルイが両手足をなわとびで縛られてしまっていた。

「うわっ!? ど、どうして!?」

「げっ、げえ!? すげえ! いつ縛ったんすか!?」

縛られた二人はそのままリング上で倒れて転がってしまう。

それは、何だろう……俺にはどこか懐かしいもので……

「考えず、自然と体が動きました……私はこういうこともできたのですね……」

息一つ乱さず、汗一つ掻かず、無表情で頷く、サディス。

ツクシの姉さんの服を借りたのか、初めて見るサディスの半そで半ズボンの軽装。

生足ふともも尻がプリッと!?

って、いかんいかん! 何を興奮して……

「すげえ! 六対一で手も足もでねえ!」

「サディスさん、だっけ? カッコいい!」

「憧れちゃうかも……」

「美人で、クールで、しかも強い……」

「聞いた話だと、家事全般も完璧で、料理もうまいって!」

「よ、嫁に欲しい!」

「ぜひ……ぜひ、俺の嫁に!」

「おい、抜け駆けすんな! 俺だ!」

興奮しているのは、道場の連中も同じ。

男も女も関係なく、誰もがサディスに賞賛の声を上げていた。

「すごい……こんな女性が居たなんて……」

「なんて……イカした女だ」

「なんか、僕、ドキドキしてきた」

「むはー! もっと、あの目で見下されて踏まれたいんだな!」

リングで転がるモトリアージュたちも体を起しながら、苦笑したり、頬を赤らめたり、変態的なことを言ったり……

「すごい! うん、サディスさん! 私、すっかりやられちゃったかな! 今度から、サディス姉さんって、呼んでいいかな?」

「いんやー、すげーっす! つか、どうしてそんなに強いんすか!?」

敗れたツクシの姉さんも、カルイも、目を輝かせている。

俺の居ない間に、一瞬で大勢の人の心を掴んだサディス。

「うふふふ、すごいのですね、サディスは。……ん? アース?」

「どしたの?」

俺はその光景を見て、言いようの無い複雑な感情がこみ上げてきた。

「何でもねーよ」

せっかくほっこりしたはずなのに、何だろうな、この気持ち。

その分からない何かを発散してやろうと、未だ盛り上がる3階から一人降りて、俺はトレーニングの続きをすることにした。