軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七話 もえろ

両手足に重りをつけるだけでいつもと違う。更に、肩に幼女まで乗せていると段違いだ。

アマエぐらい小さい子を抱えるぐらいは、本来なら何も問題ない。

だから、ロードワークに出て早々はそれほど問題なかった。

だが、すぐに重さを実感する。更に……

「おー。もっとぴゅーっていくー! はいよー」

「ぐっ、ぬうう」

俺に肩車されながら俺の頭を叩いたり、髪を引っ張ったり、体重を前後左右に傾けたりとバランスがランダムで変わる。

それを落とさないようにしながら走るのは、結構しんどい。

バランス力と足腰。確かにこれはこれでいいトレーニングかもしれない。

「ふう、はあ、ふう、すごいな……」

「ああ。あんなに沢山身に付けて、子供を肩車して俺らの先頭を走ってやがる」

さて、俺にハンデがあるとはいえ、一応後ろの奴らもまだついてきている。

だが、振り落とされるのはここから。

『さあ、ダッシュだ! 三十秒!』

少し街の外に出て道が開けて島の外側の砂浜にたどり着く。

どこまでも続く砂浜はゴミなど何も落ちていない美しい風景と、どこまでも続く大海原が目に入った。

海の上には他の島なども見えず、この島が本当に孤立した島国なんだと感慨にふけった瞬間に、トレイナからの指示。

「っしゃあ、ダッシュ三十秒!」

その内容を俺も後ろの連中に伝えるべく声を上げる。

つか、俺もいつまでも気にしてられねえ。俺は俺でやらねーと。

「ぐっ、ここから全力疾走!?」

「オラァぁぁ! 負けるか!」

「ひい、はあ、ひい、はあ」

「つ、つらいんだな!」

ダッシュを三十秒。砂浜で走る。足が取られていつも以上に力強く踏み込めねえ!

これは、お、俺もキツイ……正に、さっき言われた爪先……『足の親指』が鍛えられる。

『よし、ストップ! インターバルはシャドーを十秒だ』

「っし、シャドー……その場で仮想の敵を想像してパンチだ!」

「ぱ、パンチ? こ、こうかな!」

「お、オラ! オラ、オラ!」

「うわ、は、速い……手が見えない、綺麗だな……」

「ぜえ、はあ、ぜえ、おえ……」

『十秒経過! ダーッシュ!』

「ダーッシュ!」

「「「「え、も、もう!?」」」」

重りで負荷を付けて足腰とバランスを鍛えて、更に砂浜で足の親指を……これは効く……毎日やりゃ、相当鍛えられる……とはいえ、俺がこれだけキツイんだから他の連中は……

「はあ、はあ、はあ……っ……」

口数は少なくなったが、モトリアージュはまだついて来れている。

体格は普通だが、きっと運動神経はいいんだろう。

いかにも、これまでいい所で育った、優等生って感じだ。

シャドーを見る限り、パンチはかなり丁寧だ。

学校で教わった体術で基礎はやってるって感じだな。

「オラァ、負けるか! ウラ、ウラ、オラアア!」

未だにうるせーのが、オラツキ。

バテるのが速かったから、たぶん体力はそんなに無いんだろうが、根性でついてきている。

体格は結構恵まれたものをもっていて、パワーもありそうだ。

学校では不真面目だけど、喧嘩好きのヤンチャ野郎って感じだな。

シャドーを見る限り、パンチは大振りで大雑把。

だけど、少しフォームさえ改善すれば、なかなかいいものになりそうだ。

「ひい、はあ、ひいい……」

二人には遅れるが、黙々とついてこようとしてるのが、モブナ。

速さ、体力、体格、パワー、全部普通だな。

とにかく普通で……うん、あれだ、普通だ。

「ヴぉええええ、も、もう、だめ、なんだな、お、おえええええ」

早々についてこれずに、海で口から撒き餌をしている。

もう、アレは色々な意味で論外だ。

四人の中で一番の重量級。

でも、それだけでパワーもあるわけではない、ただの肥満な、ブデオ。

「おい……トレイナ……これで、刺激になんのかよ?」

まだ初日とはいえこれでふるい落とされんじゃねーか?

まあ、それならそれで俺も自分に集中できていいが……

「ブデオ、頑張ろうよ。彼はあんなに重たいものを身に付けてるのに、これでついていけないなんて恥ずかしいよ」

「で、でも、ぼく、おえ、っ、うっ、き、きっついんだな……」

「でも、僕たち、変わるんでしょ?」

ついには、足を止めてその場で下を向いてしまうブデオ。

モブナも駆け寄って声をかけるが、動けそうにない。

「ブデオ、止まったらダメだ! 今ここで頑張らないと、僕たちはいつまでも同じままだぞ!」

「オラァ! ブデオ! いいのかよ、これで! 根性見せろぉ!」

モトリアージュもオラツキも必死に檄を飛ばすが、ブデオは首を横に振る。

「だ、だめ、だめだめなんだな! 僕は所詮……生まれたときから負け組みなんだな! 存在するだけで、かっこ悪くて、気持ち悪くて、女の子たちからゴミみたいに見られて……誰からも好かれない、誰からも期待されない……ヨーセイみたいに生まれたときから才能ある奴がチヤホヤされてるのを、ただ眺めるだけの、ひっぐ、そ、それしか、で、できないんだな!」

ついには足を止めて泣き出した。……いや……まだ、始まってそんなに経ってねーのに……どうする? ついてこれねーやつは、もう置いていくか?

「……おい! 泣いたってどーしようもねーだろうが! だから、そのクソ野郎とクソ女共を見返してやるぐらいの気持ちを出せよ!」

とりあえず、俺も声を掛けてみる。

そして、もしこれで立ち上がらないようなら本当に……

「ブデオー……ガンバ!」

「ッッ!!??」

そのときだった。

皆が声をかけていたからか、そういう流れなのだと思ったのか、アマエも俺の肩の上でブデオに応援をした。

すると、どうだ?

「あ、アマエちゃん……」

「オー、ガンバー。フレッフレッフレー、ブデオ~ガンバー」

「ッ!? あ、アマエちゃんが、ぼ、僕を、お、応援して、く、くれて……お、おおお」

泣き顔だった両目が大きく見開き、モノと弱音しか吐き出していなかった口が強くかみ締められる。

プルプルしていた両足に鞭を打ち、ブデオは立ち上がって前を睨む。

「うおおおおお、燃えてもえて、もえもえなんだなああああああ! 天使が応援してくれたんだなー!」

正に火事場の馬鹿力のごとく、猛ダッシュしてくるブデオ。

もう、ダッシュの秒数もシャドーも忘れ、とにかくダッシュしてきた。

「お、おい……」

「オー、ブデオはやい」

女の子……からの応援にパワーを貰ったのか、ブデオは走り出した。

「はははは……よーし、僕らも負けられるか!」

「オラァ、俺らだってなぁ! 俺らだってなぁ!」

「ま、待ってよ! 僕だって、……僕だって!」

そして、ダメだった奴が根性見せて限界を超えようとしたら、自分たちも何かを感じたんだろう。

「オー、みんなもガンバー」

「「「「よっしゃあっ!!」」」」

モトリアージュたちも「まだまだやれる」と声も元気も出てきたようだ。

「ふふふ、ブデオだけじゃなく……なんだかこれはこれで嬉しいね」

「ああ。もう俺たちを応援してくれるやつらなんてこの世に居ないと思ってたからな……」

「うん……嬉しいや……なんか、力が沸いてくるよ……」

幼い子供とはいえ、自分たちを純粋に「応援」してくれる人が居る。

それだけで嬉しい……力が沸く……なんだか、その気持ち……分かる気がした。

「ったく……単純な奴ら……」

『ああ。メイドのオッパイを目標に頑張っていた頃の貴様と同じだな……』

「ぬっ!?」

俺が呆れていると、トレイナが笑みを浮かべて俺にツッコむ。

『頑張る理由は不純で構わぬ。むしろ、理由は単純な方がいい。そのほうが人は正直に……そして、ひたむきになれる……と、出会って間もない頃に言ったのを覚えているか?』

ひたむきさ……か。

『童。そもそも貴様は自分よりできないものを見下せるほど、高みに上っているつもりか?』

「だな……」

俺もトレイナに言われたトレーニングはこなしているし、サボろうとは思ってない。

でも、確かにああやって鼻息荒くすることなく、最近は言われたメニューをこなしているだけだった。

そもそも、この国には俺よりパワーのすごい奴、足の速い奴、俺よりも才能のある奴が居るってのに……よし!

「そうだ! こんなもん、つらくねー! 鍛えて鍛えて……クソ野郎とクソ女共を見返してやって、『見たかこの野郎』って言ってる自分を想像しろ! そしたら、まだまだ走れるだろうが!」

「「「「おうっ!!」」」」

「オー、ガンバー!」

『ふはははは、まあ、一番単純なのは貴様だがな……童……だが、いずれビッグな男とやらになるのであれば……自分一人だけでなく、周りを惹き付け、皆を率い、そして時には皆を奮い立たせられるぐらいでないとな……』

足手まといはめんどくさい。ダメだったら置いていく。そう思っていたはずなのに、なんか、段々と俺も声を出していた。

『さて……トレーニングに問題はない。方針も決まっている。だが、三ヶ月も特訓に費やせるのであれば……やはり、格段にレベルアップできるものが一つ欲しいな……』

走っている俺らを眺めながら、トレイナは何かを考えているかのように腕組している。

『ふむ……『ギガ級の魔法』を覚えさせるか……それとも、『召喚魔法』を……いや、しかし何と契約させるか……流石に『冥獄竜王』は荷が重すぎるか……いや、そもそも童の魔力量が……』

そして、一度目を閉じて、何かを決めたかのように再び目を開けて……

『やはり、まずは……『魔呼吸』だな……長時間のブレイクスルーを可能にするために……』

俺の知らない間に何かが決まっていたようだ。