軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 スワロウライダーの受難(2)

「大体、お前らに酌するほどの価値があると思ってんの? ……ないね、ないない。こんな風に周囲に迷惑かけるくらい酒癖が悪くて、飲食する場所だってのに土埃まみれで薄汚れてるのにお構いなしみたいだし、ぱっと見でわかるくらい武器防具の手入れもちっともされてない。つまりはほかの冒険者の人たちにできていることができない、最低限の常識すらわきまえていないような非常識と不潔の塊ってことじゃん、オタクら。誰がそんなヤツの酌したいと思うんだよ。歯を磨け。顔を洗え。汚れを落として清潔感ってものを備えろ。人として最低限度のマナーをおぼえてこい。私に酌しろって言うんなら、鏡見て、最低限の身づくろいしてから出直して来な。……というか、酒くらい手酌で勝手に飲んでろよ。『女は男の酌をするのが当然』とか、ふざけてんのか? 女に酌して欲しいんなら大人しくそういう店に行って金落としてろ」

「ん゛ん゛っ、ふ、ゴホッ」

「なんでこの空気の中でパトリシアさんは笑えるんですか……?」

派手に舌打ちを鳴らしそうな勢いでまくしたてる彼女はとても堂々としていて、辛辣で、正論で。

あの迷惑極まりなかった酔っぱらいたちに言いたい放題、次から次へとこき下ろす様はいっそ痛快なくらい。

酔っぱらいたちの間抜けな顔も相まって、私はもう、完全にツボに入ってしまった。

『この空気を壊しちゃいけないから』と必死に笑いを堪えようとぷるぷる震えていれば、隣に座っていた 後輩(ナタリー) からは呆れたような視線を向けられる。

……でも、わかってるのよ?

貴女だって、アイツらが散々こき下ろされているのが楽しくて嬉しくて仕方ないんでしょう?

誤魔化そうとしているみたいだけど、目が笑っているのは大先輩のおばさんにバレバレなんだから。

こそこそナタリーと話しながら、周囲に気づかれないよう注意を払って『どっちがあの子の対応をするか』の争奪戦をしていると、

「うるさいんだけど」

──それは、ほんの一瞬の出来事だった。

息が止まるほどの重圧がのしかかり、全身にぞわりと鳥肌が立つ。

実際、呼吸が普段通りにできなかったらしく、こひゅ、と喉の奥で妙な音がして、耳障りに鼓膜に響いた。

そしてその重圧は、どうやら私一人だけが感じたわけではなかったらしい。

ナタリーも、野次馬や様子見をしていた冒険者たちも、バックヤードの職員たちも、多かれ少なかれ反応を示している。

顔を真っ青にして震えている人もいれば、警戒するように身構える人もいるし、中には腰が抜けたのか床に座り込む人までいた。

特に反応が顕著なのは女の子に絡んでいた酔っぱらいたちで、逆にまったく反応がないのは絡まれていた女の子だ。

……うーん、腰を抜かした男たちが怯える姿を見て嗤っているあたり、あの子が何かしたのは間違いなさそうね。

結局、ナタリーは重圧による動揺から持ち直せず、女の子──ヴィルの対応は私がすることになった。

酔っぱらいとのやり取りでかなり注目を集めてしまったせいでしょう、冒険者登録などの手続きは別室で行うことにするようにと上司から通達があったので、ホールを離れて応接室へと案内する。

あくまでも私たちとしては、『静かな場所で、落ち着いて手続きをしたい』という思惑で動いただけだったのだけど、結果的にこの対応は正解だった。

だって、ヴィルったら 先代侯爵(パトロン) 様からの紹介状を持ってきてるんだもの。

薄々察していたこととはいえ、やっぱりこの子、只者じゃなかったんだわ。

食堂での一件から今度はどんな問題児が来たのだろう、と気がかりな気持ちもあったけれど、そんなのは杞憂だと言うように手続きはすんなり進んだ。

なんならそこいらの冒険者よりよっぽど落ち着きがあるし、真面目にしっかり話を聞いてくれるし、くるくると変化する表情は感情豊かでとっつきやすさを感じるほど。

食堂で冷笑を浮かべていた子と同一人物とは思えないくらい、印象がどんどん塗り替えられていくのが自分でもわかった。

……たぶん、元々の気質はこちらで、酔っぱらいたちに絡まれて不愉快だったから辛辣さが増し増しになっていたのかも?

うん、案外これが正解な気がする。

それにしても……このご時世に紹介状を持って現れるなんて、いったいヴィルは何に巻き込まれているのかしら。

私がまだ十代、二十代の頃は訳アリの人が紹介状を持ってギルドに駆け込んでくることもしょっちゅうあったけれど、近年では久しくそんなことなかったのに。

だから、紹介状を見るのは本当に何年振りだろうと考えてしまうほどで……この子が背負う『何か』についても、あれこれ邪推してしまう。

老婆心から、差し支えなければ教えてもらえたりしないかな、なんて考えもしたけど、きっと無理でしょうね。

軽々と言えないことだから先代侯爵様は紹介状を発行したし、ヴィルは紹介状を持ってウチに来たんだろうから。

気長にチャンスを待ちましょう──そう思っていたら、予想をはるかに凌駕する勢いでチャンスはいきなり訪れた。