軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 はじまりを照らす一番星(4)

「おはようございます、パトリシアさん」

「おはよう、ヴィル。昨日はよく眠れた?」

「おかげさまで、朝までぐっすりでした。パトリシアさんは?」

「私はもちろん快眠よ。ほら、お肌もばっちりでしょ?」

「ふふ。今日ももちもちの卵肌ですね」

受付の席に見知った顔を見つけたので、迷いなく私はそこへ向かうことにした。

挨拶をして、ゆるゆると駄弁りながら、先ほど掲示板から引っぺがしてきたばかりの依頼書を渡す。

パトリシアさんは依頼書に目を通すと、少しだけ受付の奥──事務室っぽい部屋に下がり、数枚の紙を持って戻ってきた。

一枚は昨日の案内の時に教えてもらった同意書として……残りの紙にノラさんが言っていたクエストに関する詳細な説明や、注意事項が記載されているのだろうか?

「お待たせ。それじゃ、クエスト内容についての確認について始めましょう」

「はい。お願いします」

今回、ノラさんにおすすめされて選んだクエストは植物採取の依頼である。

ギルドがある町から少し離れた場所にある森で、この時期に実りを迎える木の実──チェスナットの実を取って来て欲しい、というのがおおまかな概要だ。

集めたチェスナットの実は支給される袋に入れれば良いらしく、袋いっぱいに集まればそれでOKとのこと。

ちなみに集めるチェスナットの実は 毬栗(いがぐり) や 雲丹(うに) とよく似た形状をしていて、実際に依頼主が必要としているのはトゲトゲの中に隠れている部分なんだそうな。

図鑑のデッサンを見せてもらったけど、うーん、色味といい形といい、ますます栗っぽい……。

なお、報酬は基本が銀貨十枚分に相当する大銀貨一枚なので、このクエストをこなすことができれば三日分の朝食は確保できる計算になる。

いやまあ、昼と夜も食事をとると考えれば、一日であっという間に消えてしまう金額なので、貯金に回す余裕のないギリギリのお金なんだけど。

パトリシアさんの補足によれば、集めたチェスナットの実の品質や量によっては追加報酬もあるらしい。

要するに、チェスナットの実のトゲトゲの中に隠れている部分が多ければ多いほど、高品質であればあるほど得られる報酬が高くなる、ということで。

確実性を取るか、博打を狙うか、このクエストだけでも戦略性が求められるとは意外に奥が深いな、植物採取……。

「何か質問はある?」

「森でチェスナットの実を集めるタイミングで、まわりのトゲトゲを引っぺがして持ってくるのは有りですか?」

「できるならそうしてもらえると助かる、とは依頼主から聞いているけど……無理はしないでいいのよ? トゲは鋭いし固いから、素人が剥くのは難しいみたいだし」

「試すだけ試してみようかな、と。何事もチャレンジです」

パトリシアさんの心配には、無理はしませんよ~とへらりと笑った。

チェスナットの実が本当に栗っぽいのなら、栗の 毬(いが) を剥く時の方法を試してみたいなと思った次第である。

もしも試みが上手くいって、依頼主が求める中身がたくさん集まれば、それだけ報酬が上乗せされる。

そういうチャンスがあるならやっぱり試してみようかな、と思うのが人の心理だろう。

あ、いや、ほら、別に私の欲が深いとかそういうわけじゃないよ?

備えと蓄えは多いに越したことがないから、そのチャンスを逃したくないってだけだよ?

……なんて、言い訳している時点で既にお察しというヤツである。

守銭奴とまでは言わないが、ウィロウのためにも自由に使えるお金はたくさん貯めておきたいのだ。

目指すはウィロウが働かなくても一生過ごせるくらいのお金!

……我ながら目標がふわっとしすぎてるんだよなぁ。

もうちょっと具体的な金額を算出すべきだぞ、私よ。

「それじゃあ、このクエストを受けるってことで良いのね?」

「はい」

「では、同意書に記入をお願いします。……はい、ありがとうございます。これでクエスト受注の手続きはできたから、依頼主から預かった袋を渡しておくわね」

「ありがとうございます」

「納品はギルドじゃなくて、依頼主のところに直接するかたちになるから、地図もあげる。ここがチェスナットの実がなる森で、依頼主のお店はこの辺ね」

「わー、助かります!」

パトリシアさんから受け取った袋と地図は腰に下げた小さい鞄……ポーチ? にまとめて突っ込んだ。

このポーチは服とあわせて先代様が用意してくれたものなのだが、聞いて驚くことなかれ。

あの国民的アニメのキャラクターのポケットさながら、たっぷり収納ができる逸品なのである!

……いやその、貰った時はちゃんと普通のポーチだったのだが、ちょっとした出来心で『いっぱい入るようになーれ!』と魔法をかけたら本当にその通りになってしまったというか……。

先代様もコードさんも見た目に反する収納力にポカンと呆けていたので、この世界的にはあり得ない代物なのだろう。

軽い気持ちや出来心でやっていいことじゃなかったな、とあとからすごく反省した。

せっかくだからと重量軽減の魔法もかけてあるので、余計な荷物を持ち歩く必要がなく、正直とても助かっている。

大荷物を抱えて歩くなんて面倒だし、この小さなポーチひとつあれば十分なのは、個人的には最高だとさえ思っていた。

しかし当然、それがほかの人に知れれば、厄介ごとを招く種になるのは確実なわけで。

人目につく時の使用は控えることと、もし使うならポーチに入ってもおかしくない程度のものを出し入れするだけに留めることは、面倒に巻き込まれないための自分への戒めにした。

……うん。やはり早めに日記帳を用意して、ウィロウ宛てにポーチの使用上の注意も書き残しておかないといけないな。