軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 はじまりを照らす一番星(3)

「ヴィルって実はいいとこの生まれだったりするのかい?」

「? どうして?」

「食べ終わったら丁寧に手を合わせて、なんだっけ……『ごちそうさま』? とか言ってたし、食器を戻す時もわざわざお礼いってただろ?」

「ああ、それか。……うーん、特に私の生まれとか育ちには関係ないかなぁ。言いたいから言ってるだけっていうか、むしろ言うのが当然だから言ってるだけというか……。もちろんお金は払ってるけど、あんなにおいしいごはん作ってもらってるわけだし、それならやっぱり『ありがとう』じゃない? お礼なんて言うだけタダで、言って損するようなこともないもん」

『敬語は要らない、使われると鳥肌が立つ!』というノラさんのお言葉に甘え、かなりフランクな口調で問いに答える。

何をどうして『いいとこの生まれ』だと思われたのは謎だが、言われてみればなるほどなと納得する。

日本由来の『いただきます』や『ごちそうさま』はこちらの世界に馴染みがない食前・食後の挨拶だし、私ほどしょっちゅう『ありがとう』を口にする人はいないみたいだし。

……そのせいか、厨房のおっちゃんやおばちゃんには目をまんまるにして驚かれてしまった。

ああも過剰な反応をされると気まずくなるが、かといって、前世からの癖を今になって矯正するのはあまり現実的じゃない。

癖というのはつくまでは簡単だが、矯正しようと思うと倍以上の時間がかかるという。

そんなしょーもないことに時間をかけるくらいなら、おっちゃんとおばちゃんにそういうヤツなんだと慣れてもらった方が早いに決まっている。

……他力本願? ソンナコトナイヨ?

「というか、私がいいとこの生まれなら、むしろお礼なんて言わなくない? だってほら、特権階級の人たちって、『人に何かをしてもらう』のが当然の人たちなんだし」

「ああ、それもそうか」

「そうそう」

まあ、うちのウィロウはそうじゃないけどね!

あの子はちゃんと『ありがとう』と『ごめんなさい』が言える自慢の娘で妹だから!

……いやまあ、うん、侯爵令嬢という立場柄、どっちも私ほど安売りはしてなかったけど。

「さて、それじゃあ今日のクエストはっと……」

「ヴィルはこれが初めてだろ? なら、一日の動き方に慣れる意味も兼ねて、手っ取り早くて簡単な植物採取がおすすめだよ。今の時期なら……そうだな、このあたりか」

「この依頼書を受付に持って行けばいいんだよね?」

「そうそう。依頼書を受付に持って行くと、詳細な説明とクエスト受注にあたっての注意を聞かせてくれる。もしわからないこととか、気になることがあればその時に聞けば良い。一通り話を聞いて問題がなさそうなら受注するし、今の自分に無理だと思えば取り下げて別のクエストを探す。……とまあ、朝の動きは大体こんな感じかな」

「なるほど」

昨日の案内の時にパトリシアさんからも聞いた説明を、ノラさんはより詳しく、アドバイスも含めてしてくれる。

いや、昨日はどちらかというと施設案内に近かったので、クエストの受付手順に関する説明をさらりと済ませてしまったのも仕方ないとは思うのだが。

自分が受けようと思っているクエストについて詳しい話を聞いたり、質問をさせてもらえる、という情報は説明になかったので、本当に助かった。

……偶然とはいえ、ノラさんと知り合えたのは運が良かったと思う。

もしノラさんのアドバイスがなかったら、冒険者っぽいから~とか頭すっからかんな理由で、しょっぱなから魔物討伐クエストを選んでいたかもしれない。

もちろん、ウィロウにはあふれんばかりの魔法の才があり、私にもそれは共有されているわけだから、失敗するようなへまは犯さないけれど、それはそれとしてオタクはチュートリアルが大切だと思うのです。

びびってなんかないよ本当だよ。

「ヴィル」

「はーい?」

「アタシも今日は早めに戻って来られるようにするから、気を付けて行ってきな。……時間が合えば、夕飯も一緒に食べようか」

掲示板からはがしたばかりの魔物討伐クエストの依頼書を手に、ニッとノラさんが男前に笑う。

面倒見が良くて、美人で、男前で姉御肌とか、なんだこの先輩最高か?

ギュンッと鷲掴まれた心臓に、内心スンッと表情が消える。

……が、表面上は根性でこらえて乗り切り、とびきりの笑顔で元気にお返事を返した。

ところでひとつ質問なんですけど、ノラさんのファンクラブってどこに行けば入れますか?