軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シビラが見抜いた、子供達のこと。そして俺の出来ること

その日の調査を終えた俺達は、オークの耳をギルドに納品して帰路につく。

金額的には大したことはないが、何よりも街を脅かす魔物を狩れたということが俺の中では大きい。

「これで、少しは街の周りの危険もなくなるといいがな」

「……そうね」

何気なくシビラに声をかけたのだが、あまり浮かない声だった。

「そういえば、意図的に魔物がどうとかいう話をしていたが」

「まだ確定していないうちから話す内容じゃないけど……」

「例えばピンチになった人を助けるのは、恩を売りやすいわよね」

「言い方は悪いがな」

「その状況を作るには、魔物がいる方が都合がいい」

……まさか。

「オークの出現位置がはっきりしないうちは動けない。だけど、赤会は間違いなく『オークに襲われた人を助けた』という大義名分を利用しているわ。だから、オークが減るのは都合が悪いはずよ」

それで、シビラは赤い救済の会がオークの数を調整したり、ダンジョンからこの平野に出したりしていると考えているわけか。

「さすがに疑惑の段階であの信者全員を敵に回すような動きをするつもりはないわ。だけど、最低限そんなことができなくなるぐらいにはしたい」

シビラは、それまでの考えるような顔をやめて、ようやく勝ち気に口角を上げた。

「アタシ達は、それができるわ」

「そうか、『宵闇の誓約』なら……」

「そう。表立って動けないのなら、オークが出現するダンジョンの魔王を、『宵闇の誓約』が討伐してしまえばいい。そのために、アタシ達はいるのよ」

間違いないな。

魔王を討伐すれば、ダンジョンから溢れるほどの魔物はそう簡単に出なくなる。

問題がどれぐらい解決するかは分からないが、赤い救済の会がマデーラの街を拠点から外すぐらいは、射程圏内だ。

問題は、オークの現れるマデーラの第二ダンジョンがどこにあるのか、だ。

孤児院に戻ると、入ってすぐのところで子供達と遊んでいるエミーが真っ先に目に入った。

「ただいま、エミー」

「おかえり!」

エミーは元気よく出迎えてくれると、急に顔を赤くして俯いた。

「どうした?」

「う、ううんっ、なんでもない!」

「エミーちゃんは将来的に『お帰り』って言うお仕事に就きたいわけね〜」

「いいい言わないでぇ〜!」

……ああ、そういうことか。

理由を改めて教えられると、さすがに少し照れるものがあるな。

俺はエミーと一瞬目が合ったが、気まずさからお互いに無言で逸らした。……シビラのせいだな、うん。

「ところでラセルは、アタシに『おかえりなさい、あ・な・た』なーんて言われると、ときめいちゃう〜?」

「うわ背筋が凍るマジでやめろ」

「辛辣すぎ!?」

お前に対しては、なんていうかそんなんじゃないんだよ。

帰ってきたら『遅いわね』ぐらいで十分だ。

俺が気に入ってるのは、全く媚びないお前だからな。

ただし、調子に乗りそうなので言わない。

それよりもまず、確認しなければならないことがある。

「ところでエミー、フレデリカの側にいるんじゃなかったのか? 護衛という形でついてきているのに、こっちに来てるなんて珍しいな」

「フレデリカさんが、どちらかというと子供達の方を見ておいてほしいって言っててね。ほら、フレデリカさんは人気だけど、料理をしたいって言ってたから」

なるほど、そういう経緯か。フレデリカの料理好きはどの街の孤児院に行っても変わらないな。

俺もエミーも、フレデリカがいてくれた時は、その料理に随分と救われたものだ。

この孤児院にも、かつての俺のようにフレデリカを手伝おうとして、かえって時間を取らせてしまう奴もいるかもな。

俺達の会話を見ている子供にシビラがわしわしと頭を撫でて、一人一人をくすぐったり、頬ずりしたり、胸に抱き寄せたりする。

その顔は、今日一番のいたずらっ子のように楽しそうな笑顔。

子供の一人一人への、対応の仕方に小さな違いがある。何故かと思っていたが、その理由はすぐに分かった。

シビラが触れ終えると、笑顔で両手を広げた。

「アタシはシビラ! みんなはいい子かしら? アシュリーの教え子なら、名前を呼んでくれるいい子に育ってくれてるわよね〜?」

「しびーら?」「シビ、ラ」「し、シビラさん……」

名前を次々に呼ばれて、シビラは順番に抱きしめ始めた。

時には手を取って、自分の頭を撫でさせたり、おでこにキスをしたり。

それが終わると、うち二人はシビラにしがみついていた。残りの一人は、顔を真っ赤にしてもじもじしている。

驚いたな……距離を詰めるのが早すぎる。自分から無理矢理関わっていったと思ったら、もう子供から近づいているのだ。

ほんとこいつ、無類の子供好きだよな。フレデリカどころかジェマ婆さんより、子供の扱い慣れてないか?

まあ年齢的に、あの婆さんより上の可能性が高いんだから、年の功ってやつか。

シビラは立ち上がると、ぽんぽんと両サイドの子の頭を叩いて……こちらに振り返ったときは眉間に皺を寄せていた。

「心を読むな」

「……何のこと?」

ん? 違うのか。

いきなり年齢のことを言及されて不機嫌になったと思ったが、さすがに俺の勝手な思い込みか。

……いや、待て。

なら何故今の流れでそんなに不機嫌そうな顔をしているんだ。

「どうしたんだ?」

「『聖女伝説、女神の祈りの章』……この空間だけでいい、お願い」

その言葉を聞いた瞬間——シビラの考えと行動の全てを理解した。

「《キュア・リンク》」

『聖女伝説、女神の祈りの章』の真実。

忘れもしない、『村の人を全て祈りで治した』という聖女伝説が、聖女の覚えた治療魔法だったという話。

その大規模な治療を可能としたのが、このキュア・リンクだ。

シビラは子供の頭を撫でたり、顔をしっかり見ていた。

その様子から理解したのだろう。

何かしらの、病のようなものに冒されていると。

「……あれ」

子供の一人が、立ち上がる。

「なんだか、私、おなかすいてきた……」

「お腹が空くのは、健康な証よ。みんなを元気にしてくれたのが、ここの黒いお兄さん。さあ、アシュリーの教え子の君たちなら、何を言えばいいか分かるわよね?」

指を立てて片目を瞑り、子供達に催促をする。

それから皆はお互いを見て、同時に頭を下げた。

「ありがとうございました!」

先ほどのシビラを呼ぶ声と比べて、明らかにハリのある声。

体調が明確に治ったのだ。

……黒いお兄さん、という呼称はどうかと思うが。

「これで懸念事項おしまい! さっさとフレデリカにメシの催促にいくわよー。まだ出来てなかったら、つまみ食いしちゃおうかしら」

シビラは今度こそニーッといたずら猫のような笑顔になり、奥へと向かった。

その姿を見て、エミーは溜息をつく。

「私、一日かけても心を開いてくれなかった子もいたのに……はぁ〜、やっぱりシビラさんって凄すぎだよぉ」

「気にするな、下手したら魔法より子供の扱いの方が上手いまであるぞアレ。それに、当のシビラも一日留守を守っているお前のことを頼りにしてるさ。俺もあいつも、どう頑張っても盾にはなれないからな」

「え、えへへ、そうかな。……うん、ありがとね! よーし、がんばるぞーっ」

シビラに対抗しようと思うだけで、お前は十分凄いと思うぞ。

俺はもう、今回は教会と女神関係であることも含めて、頭脳方面の大多数は任せることにした。

知識のないうちから、下手に出しゃばって事態を悪化させるようなことだけは避けたい。そういうのって、一番嫌がられるパターンだからな。

その代わりに、今みたいにそれ以外の殆どを担当してやるつもりだ。

そうでなくちゃ、さすがにマデーラでの全部を任せっきりになるからな。

それに、俺だって感じている。

確実に、俺の出番が来る状況にあると。

子供達と一緒にキッチンへと入る。

アシュリーはやってきた子供の様子を見て、目を見開いた。

やはり、ずっと一緒にいた者ならその変化に気付くか。

「……あの、聖者様……もしかして」

「シビラがすぐに看破したんで、さっさと治したぞ。金は取らないから安心しろ」

子供が辛い目に遭っているというのは、どうにも落ち着かないからな。

やれやれ、我ながらこういう性格だから、聖者なんて職業を授けられてしまったというのにな。

アシュリーは……再びキッチンで膝を突いた。

「あ、ありがとうございます聖者様! やはり聖者様は、私の神様です! 聖者様、何かできるお礼などは……!」

「じゃあラセルと普通に呼んでくれ」

「さすが謙虚でいらっしゃいます、ラセル様!」

「単純に周りの目が痛いからやめてほしいだけなんだが……」

本当にテンション高い女だなおい。

目を逸らすと、フレデリカが笑いながらこちらに手を合わせていた。

フレデリカもこいつの勢いには、幾度となく苦労させられてそうだな……。

フレデリカの料理はマデーラに来ても変わらず素晴らしく、子供達もいつも以上に食べているとアシュリーが嬉しそうに話していた。

ああ、こんな街でも、こうやって手の届く範囲を救っていけるのはいいものだな。

いずれ、この手をこの町中に広げて、街中を今の食卓のような明るさにできればな。

今日は『赤い救済の会』で、あんなものを見てしまった後だ……。できれば気分良く一日を終えたかった。

だから、今日を締めくくる最後に、いい仕事ができたように思う。

ふと、ブレンダが俺を『黒鳶の聖者』と呼んでくれた日を思い出す。

その笑顔が、フレデリカの料理を口に付けてアシュリーに拭かれている目の前の子に重なった。

……ある意味、子供の笑い声に救われているのは、いつも俺の方なのかもしれないな。

よし、明日も頑張らせてもらうか。