軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎に包まれた『赤い救済の会』の潜入調査。行動の結果が今の自分を形作る

一旦白い布を外したシビラは、そのまま道具袋から赤いローブを取り出して俺に渡す。

そういえばお前、セイリスで人目を避けるためにこの服を着ていたな……。

道の裏で赤い布の上に白い布を被った俺達は、その姿のまま町中に繰り出す。

晩にさしかかる頃、住んでいる人は夕食を準備する買い物をしなければならない。

さすがに大通りも誰もいないということはなく、街の住人とすれ違うことも少なくなかった。

その住人達は、皆こちらを見ないように歩いている。

視線を向けても、あちらがこちらを見ることはまずない。

……よほど勧誘が強引なのか、やはり見た目が異様すぎるのか。

兎角、凄まじい嫌われっぷりである。

俺とシビラはあまり迷惑をかけないよう、足早に街を出て赤い救済の会の建物(もう確定事項として考える)の方へと向かう。

建物が見えてきたところで、シビラはオペラグラスを手に取り、俺を道の脇にある林へと誘った。

「どうした?」

「ある程度、決まりみたいなものがあれば見ておきたいなと思って」

シビラがじっと、グラス越しに建物の方を見る。

俺からは小さくてあまり見えないな……。

「ふむふむ……」

「何か分かったか?」

「すれ違うときに、礼もなにもしないみたい。建物の中へも、結構自由に入ることができるみたいよ。ザル警備ねー……まあそんだけ近寄りがたいんでしょーね」

そりゃ都合がいいな。

さっさとこんな面倒な潜入調査終わらせて、何があるか知ってから帰るぞ。

「ん? 待って」

シビラが立ち上がりかけたところで、再び身を屈めてオペラグラスをのぞき込む。

「……ラセル、確認したいことがあるわ。アタシの後ろについてきて」

何か気付いたらしい、シビラに頷く。

後ろに立ち、お互い顔を見られないよう俯きがちに歩く。

道の方まで出てくると、数秒後に白い集団が出てくる。

シビラはその人物を見て……なんと礼をした。

何か理由があると思い、俺も礼の形を取る。

白い服の人物はそのまま素通りしていく。

シビラが首を上げると、ゆっくりと進み出したので俺も後を追う。

「……そろそろいいかしら」

「何か分かったことがあったのか?」

こちらに振り返る全身真っ白のシビラ。

その手が、首元のあたりを指した。

「ここ。赤いネックレスをかけていたわ」

「……そうか、上位の信者」

「そういうこと。上納金を納めた印ね。……全く、下らないわ」

シビラは最後に吐き捨てるように言うと、赤い建物の方へと足を進めた。

その不機嫌な言葉に同意し、俺はシビラに並ぶ。

建物は大きく、近くで見れば見るほど威圧感のあるものだった。

赤い以外は飾り気のない建造物だが、下手な城より大きいんじゃないのか……?

「ラセル、何一つ気負いなく入ることを意識するわよ。あまり他のものに視線を向けないこと。そして入ったら、アタシの動作の真似をすること。いいわね」

「了解だ」

そうだな。珍しい建物だからとお上りさん気分で入るわけにはいかない上、決まり事があればそれを外すわけにはいかない。

潜入というだけあって、『赤い救済の会』の信者のつもりでいなければな。

建物の扉をシビラが開くと、中は意外にも白い壁。ただし床は赤い絨毯。

半端に赤に拘る建物へと足を踏み入れ、靴音の立たない廊下を進んでいく。

入ってすぐのところに、部屋への扉がある。

シビラは扉に聞き耳を立てると、俺を手招きした。

扉を開くと……そこには天井があるはずの部分が大きく開けた、大聖堂のような内部になっていた。

十六階建てではあるが、殆どはこの部分が突き抜けているのか。

ただし、太陽の女神の神殿とは似ても似つかない。

ステンドグラスは赤と黒のみ。今は夕日に近いからそこまでは思わないが、恐らく正午には赤い人型の光が差すのだろう。

……想像してもあまり美しく思えないし、何より目に悪い。

シビラが足を進め、俺もその後ろについていく。

横に避けて、大聖堂中央である身廊の通路……ではなく、左周りに外壁側の側廊を通る。

それから前の方に進むと、一旦足を止めて戻った。

少し疑問に思うような視線が刺さるが、すぐに興味を失ったように視線を戻す。

そして一番後ろの端の席に着くと、内側に座る。結果的に俺が、一番後ろの左端の席だ。

少し待っていると、人が集まってきた。

壇上に、男が現れる。

その隣に……あれは……。

「……っ」

シビラが手を、強く握った僅かな音を聞いた。

「司祭様の言の葉です。さあ皆様、今宵も救済の共鳴を」

男がそう言うと、白い布に手をかけ赤い服を見せる。

フードを外すと……なんと、そこにいたのは今朝馬車の前にいた、あの時の男。

そして隣にいたのは、やはり赤い髪の少女。

周りの人も白い布を外し始めたので、シビラも迷いなく服を開いた。

そしてローブの赤いフードを深めに被って、見えないように俯く。

俺も顔が割れないよう白い布を外したところで、少女の不思議とよく通る声が聞こえ始めた。

「女神の意志を受け継ぎし者により、人型の人ならざる者はこの地より離れる。産み落とされた恵みだけが残り、人々には赤いワインが注がれる」

間違いない。シビラが言った『女神の書』の一節だ。

その直後……周りの信者が一斉に声を上げ始めたのだ。

俺はその間、黙っていることにした。

下手に違う言葉を言うとばれやすいが、言っていなければ俺一人が喋っていない事など分かるまい。

同時にシビラが、隣で普通に暗唱していることも俺を隠す要因になっていた。

こうなることを予測して、俺を一番外側に置いてくれたと考える方が妥当だろう。

「こうしてその土地には永久の平和が約束され、人はその恩恵のみを得られるようになったのである」

再び少女の声が響き、赤き大聖堂に女神の書の一節が復唱される。

この後は、何があるのか。

「——赤き最高神に、祝福あれ」

暗記していない俺でも分かる。

間違いない。

今、全く違うことを言い放った。

その言葉を当然のようにシビラがさも元々知っていたかのように復唱し、少女は礼もせずにフードを被った。

「司祭様、ありがとうございました」

全身真っ白になった少女は、無言でそのまま壇上を離れる。

男も少女に付き従うように離れた。

次に、身廊の前列から順番に立ち上がり、白い集団が聖堂を離れる。

当然最後になるのが俺達になった。

その間ずっと身動きを取らないようにじっとしていた……恐らくばれていないものだと思いたい。

建物を離れたシビラが、一瞬振り向くと再び街の方へと足を進める。

誰もいなくなったところで脇道から森に入り、白い布と赤いローブを外した。

その顔は、不機嫌そのものだ。

「いい、ラセル。あんたの魔力は恵まれてのものだけど、それでも【聖者】のレベルを上げたのも、【宵闇の魔卿】を選んで闇魔法を使うのもあんた自身の選択であり行動よ。でもやっぱりあんたの芯は、ブレンダちゃんのお母さんを治してあげたことね」

「急にどうした?」

「……誰かに尊敬されるために行動するんじゃなくて、行動した結果により尊敬されるようになる。絶対とまではいかないけど、アタシはそうあってほしいと願っている」

シビラは、ずっと遠くに見える赤い建物を睨んでいる。

「赤いネックレス。それをするだけで、下の者に頭を下げてもらい、中央の回廊を通る権利があり、先に帰宅できる。……自尊心を金で買っているの。何故なら、金で買う以外に自尊心を満たせないから。満たしてくれるだけのものを、他に与えていないから」

……そうか。

シビラが中央を通らなかったのも、大聖堂の席前方で座らなかったのも、赤いネックレスを着けているかどうかを見ていたわけか。

「下らない。格上か格下かを上納金だけで決めて……そんなことに『女神の書』を利用されるなんて、心底気に入らないわ」

そう吐き捨てた直後、シビラは珍しく怒りをぶつけるように、皮のグローブで木を殴る。

「……でも何より」

続けてシビラは、顔を俯けて呟く。

「あの女の子が……何の分別もついていないであろう小さな子が、そんな大人の思惑にまんまと利用されて、上納金を吸い上げる道具のように扱われていることが気に入らないわ……!」

ああ、そうだな……あの光景はあまりに異様だった。

救済だとか最高神だとか、そんなことを考えているような子ではない。

そうだ、まだあの年齢の子は、同じ年の子と遊んでいるぐらいがちょうどいいじゃないか。

「……ええ……あの子は、それこそ紙芝居を見て笑うような、それぐらいの年の子のはずよ。だけどあの子が……あの子の意思とは全く別の思惑で、他の子供達から笑顔を奪っているというのが、何よりも許せないのよ」

シビラの吐露は、俺の心にも刺さる。

不意打ちでフードを取ったシビラの方を見ていた少女。俺の方にも一瞬、何気なく視線を向けてきた。

その目には、突然の事態にどうすればいいか分からなかったようで……あの時の反応にはあどけなさが残っていたように思う。

もしも、この街の現実を作り出している一端を自分が担っていると知ったら、どう思うだろう。

あの子を、なんとか助けられないものか……。

「……とりあえずあの建物、気になることが増えたから調べるわ。ラセルもいろいろ協力してくれるわよね」

「もちろんだ。俺もあの子に直接、これが自分の意思なのか聞きたいしな」

俺はシビラと同じように、もう一度赤い建物を睨み返すとマデーラの街へと戻っていく。

空は、今日一日で見飽きた色に染まっていた。