軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

急遽決まった予定と、俺の用事

部屋に戻り、何の話をしたかをジャネットが説明した。

ローレンスとイェニーが、ジャネットの両親。

衝撃的な真実に皆言葉を失うが、ジャネットは話を続けた。

「つまり、今回の教皇を引きずり下ろすというシビラさんの目的は、僕にとっても必要な目的となった。父の敵討ちだ」

その言葉に、少しずつ場の空気が熱を帯び始める。

「そっか、そうだね。ジャネットのパパがいい人で、一方的に追い出されたというのなら、私も頑張る! もし権力に負けちゃったら、全部どーんってふきとばしちゃう!」

エミーは特にテンションが上がり、興奮気味にそう言った。

確かにいざとなったら、力尽くで逃げるしかないもんな。

なるべくそうはなりたくないが、いざとなったら頼む。

「親と言ってもほぼ他人ではあるけどね。でも、やられっぱなしは癪だろう?」

「よく言った!」

その言葉に、シビラがぐっと身を乗り出した。

「やっぱね、やられっぱなしはよくないのよ! ああいう絶対自分は大丈夫とふんぞり返ってるヤツには、ぎゃふん! と言って失墜していってほしいわけ!」

教皇の年齢を考えると、ぎゃふんはねえだろ。

ただ、権力を思うがままに使って当然のような顔をするヤツを、絶望とともに失墜させたい気持ちは分かる。

さて、どうするか……と思っていたところで、部屋にノックの音が響いた。

「はい」

扉前のヴィクトリアが確認すると、どうやら宿の人が来客者の連絡をしにきたようだ。

その名前を聞き、俺達は部屋に通す。

「どうも、お久しぶりです」

やってきたのは、ヘルマン枢機卿であった。

会うのは図書室以来となる。

代表で話すのはシビラだ。

「ヘルマン枢機卿。他の枢機卿との同意も取れたのね」

「ええ。実は今日のことが問題に挙がっていましてね……すぐに動こうと思ったのです」

ヘルマンの話には、思い当たることがあった。

今日の話といえば当然、あの巨大フロアボスのことになるだろう。

「大怪我をした人を、教皇様が助けない判断をしたことで意見が割れたのです」

「へえ、どんな怪我なのかしら?」

「片腕がなくなっており、痛ましい限りで……」

「うわっ、大変。止血を失敗していたら命に関わるわね。確かに意見が割れるわ」

シビラは淡々と話をしている。言うまでもなくジェロームのことだろう。

だがシビラは、そいつが治った話をしなかった。

俺はエミーやジャネット達と目を合わせる。

ヘルマンはじっとシビラを見つつ、話を続ける。

「……はい。大怪我を負った者を助けない。その判断をする教皇では、支持も信仰も得られますまい」

「そりゃーそうね。太陽の女神本人が聞いたら、怒るわ」

「ですから、すぐに神判の決議をしようと思ったのです。決行は――来週」

あと一週間か。

教皇の長期に渡った独裁を考えると近いような気もするし、緊急で来たにしては長い気もする。

これは他の枢機卿との連絡の兼ね合いもあるのだろうか。

「皆様には、どうか市民を代表し、我々とともに糾弾者となっていただきたい」

「ええ……いいわよ」

シビラが肉食獣のようにニヤリと笑い、片手を出す。

ヘルマンがその手を、しっかりと握った。

「くれぐれも、当日まで誰一人として、余所の人間には話を広めないようにしてください。それでは皆様、来週の昼過ぎ、また教会でお待ちしています」

ヘルマンはそう言うと、宿から出て行った。

扉が閉まり、シビラがジャネットに視線を向ける。

ジャネットは十秒ほど待つと……小さく頷いた。

「宿を出た。問題ないよ」

「うし」

シビラが緊張を解き、椅子にどかっと座る。

「一気に話が進んだわねー」

「ああ。未だにピンときていないぐらいだな……。シビラとしてはどうだ?」

「エミーちゃんじゃないけど、なんかムカついたら殴って逃げると考えてるわ」

なんつーかもう考え方が完全に盗賊とかに近くなってるな。

盗賊女神シビラ。不思議と語感がいい気がする。

「一応レティシアとも情報共有するけど、何かそれぞれ動きたいことがあれば個別に動いてちょうだい。何だったらダンジョンに行って腕試しでもいいし」

シビラはそれだけ言うと、酒瓶を持って部屋を出た。

いや酒を持っていくな。

「やれやれ。とりあえず、皆も今日はこんなもんでいいか。来週までに英気でも養っておいてくれ」

俺の言葉に皆が頷き、それぞれ食事の追加をしたりベッドに入ったりと、思い思いの行動を取った。

――時刻は、夜。

皆が寝静まったタイミングで、俺は先程ジャネットと話した場所へ再び足を運んだ。

宿の屋上は相変わらずの曇天だったが、僅かに月が雲の輪郭をぎらりと光らせることで、空の隙間が見える。

「おっと、やっぱり来たわね」

そこには、酒瓶片手に帝都を眺める、銀髪の女神がいた。

「ふん、相も変わらず生意気な反応だ」

「女神に対してその態度取ってる方がよっぽど生意気よ。でも――」

――あんたらしいわ。

そう言って、ぐっと酒瓶を煽る。

琥珀色の液体が喉に流し込まれると、複雑な形状をした透明な瓶が、きらきらと光を乱反射させる。

……月が出てきたか。

「裏の裏って、表なのよね」

「当たり前だろ」

シビラがまた、唐突に話を始める。

今日は随分と当たり前の話だな。

「裏の裏は表、じゃあ裏の裏の裏は?」

「裏だな」

シビラは、ニヤリと笑って空を眺める。

その銀の髪がきらきら光りながら、風に靡いていく。

「じゃあさ――」

女神は、屋上の手すりに腕を乗せ、目の前にある光景を見る。

視線の先に、カジノかよってぐらい派手にライトアップされた、帝国の教会があった。

「――アタシがどこまで裏面を見ていたか、分かる?」

首だけで振り返り、俺を射貫くように横目で見る。

核心に迫るその問いに、俺ははっきり答えてやる。

「四回か五回だな」

「ふふっ、生意気」

どうやら満足いただけたようで、シビラは笑いながら緊張を解いた。

手すりに両腕を乗せ、教会を背にするように俺を見てニヤリと笑う。

「『黒鳶の聖者』ラセル。本質はクッソ聖者だけど、スレて捻じ曲がった懐疑心の塊が人の形をした朴念仁カラス男子」

「褒めるのか貶すのかどっちかに……ほとんど貶してんじゃねえか」

「どっちも褒めてるわ」

嘘つけ、と半目に睨むも、この女神は俺のような個人の圧など気になるはずもない。

シビラはくつくつと肩を揺らして笑う。

「それぐらいの性格じゃないと、リーダーは務まらない。回復魔法と防御魔法だけじゃ、仲間は守れない」

宵闇の女神は、雲から完全に姿を現した月明かりを真っ直ぐ浴びた。

後ろの虚飾だらけの教会から、完全に表に出てくるように。

女神は誰よりも美しい顔で、誰よりも女神らしくないことを言った。

「さーて、それじゃお楽しみのクソカス引き摺り落とし作戦会議をするわよ」