軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ローレンスの屋敷で、俺達は最後の謎に辿り着く

「ラセル」

部屋の中に、ジャネットがやってきた。

何か話そうかと思う前に、ジャネットが短く言った。

「誰か来ている。逃げるよ」

俺はすぐメモ帳をポケットに入れ、皆と合流した。

崩れた壁の穴からも見えない位置に陣取り、俺達は顔を合わせる。

『ああ~っ! 中が、こんなにィ~~~ッ!』

「……《スリープ・フォール》」

男の声が建物の中に響いた瞬間、マーデリンは迷いなく魔法を使った。

ゴトリ、と音がする。

見ると、男と兵士が二人、床に寝っ転がっていた。

かなり思い切ったことをしたな……。

マーデリンがこちらを振り返る。

「えーっと……びっくりして気絶しちゃった、ということに……なるといいなあ……」

天然天使がなんとも緊張感のないコメントをしたところで、シビラが満面の笑みで両手の親指を立てた。

次に声を上げないよう口に指を立てて、ゆっくりと出て行く。

……倒れた人物、今回のことは完全に被害者なので、一応回復しておく。

頭を打ったことで死なれたら寝覚めが悪いどころじゃないからな。

夕食を食べて、宿に戻って。

皆で一旦情報共有をすることとなった。

「んー、金貨も金目の物もなかったわねー。家主が取り上げちゃったかしら」

シビラは欲丸出しでとんでもないことを言った。

最初に家の中に入っておいてマジかよ、こいつにはもう聞かん。

「あたしは、うーん……よくわかんねっす。棚とか見たんスけど、本棚ガラガラだけど食器はしっかり常備してて」

「私も自分の元主の屋敷と近いかなと思ったのだけれど、全然分からなかったわね」

「キッチンの道具も綺麗でしたね~。お料理好きな方だったのか、メイドさんがいらっしゃったのかしら?」

イヴやヴィクトリアに、マーデリンもそこまで何かを見つけられたわけではないらしい。

本は……まあ、あったのなら持ち出したのだろうな。

話から推測できるのは、必要に駆られて急に家を出ることになった、ぐらいか。

「僕の探した部屋はハズレだったかな。クローゼットの中には服があったけど、全部安価だったし虫喰いだ。大家の人が高いものは売ってしまったんだろうね」

「えっとね……私も、よくわかんなかった。化粧品っぽいのは使いっぱなしで置いてて、もったいないなーって」

ジャネットとエミーは、イェニーの部屋を探していたらしい。

結果どちらも何も見つからなかったと。

「さて、ラセルは?」

全員の視線を受け、俺はある程度までは話すことにした。

「当たりではあった。ローレンスの日記帳を見つけてきた」

「おっ、やるじゃん!」

「とはいってもな――」

俺はそこで読んできた内容を簡単に説明した。

ローレンス枢機卿は、教皇に反対していたが、やはり追及して負けたと。

「んー、権力に逆らって負けて……ってぐらいかしら。まあ当たり前の結末よね」

仕方ないとはいえ、空しい結論だ。

結局のところ、民からの人望だけでは権力者の集まる場はどうすることもできなかったわけか。

「後は……ジャネット、いいか?」

「僕かい?」

「そうだ。ジャネットに相談したいことがある」

そう行って外に誘う。

シビラが「頭脳担当のアタシを、呼ばない……!?」と衝撃を受け、続いて「つまりこれは……二人きりの、アレね!」と言ったことにより部屋の空気が異様に重くなる。

放置しておくとヤバいので違うと言って頭を叩いた。

宿の外に出る。

夜の空気も独特であり、雲に覆われた空は、まるで巨大な大理石の天井が迫ってきているかのようだ。

「急に呼び出してすまないな」

「君の呼びだし方は誤解され易い。もうちょっと考えて」

「悪い」

俺のために比喩ではなく命を張ってくれるヤツだからな。

そういう意味でも大切にしたいところだ。

「俺はあの場で、ひとつ言わなかったことがあった。ジャネット自身がこれを公開するかどうか決めてほしかったからな」

「……どういうこと?」

俺は、ポケットからメモ帳を取り出した。

小さなメモ帳。

中に書いてあった名前。

レオ、リンク、レスリー。

どれも頭文字が同じなのだ。

これは、ローレンス枢機卿と同じだ。

女のページを見て、すぐに理解した。

妻の名前は、 イェニー(Jenny) 。

容姿は、青いロングヘア。

ページの中身は、こうなっていた。

「女――ジェイミー、ジェナ、ジャネット、ジュリエット」

「……ッ! まさか……!」

そこにあったジャネットという文字が、丸で囲まれていた。

イェニーの容姿の特徴と、メモ帳の名前の一致。

恐らくこれは、『命名候補』だ。

これにより、今までの全ての点が一本の線で繋がる。

十七年前に追放された、土魔法が得意な【賢者】の枢機卿。

十七年前に教会の図書室から、大量の本を盗んだ犯人。

十七年前に孤児院で、帝国の本を集めた地下図書室を作った人物。

そして――十六年前に、子供をアドリアの孤児院に置いた夫婦。

思い当たる事実は、一つ。

「ローレンス枢機卿とイェニー夫人が、僕の両親……!」

「ああ」

遂に、辿り着いた。

親のいない孤児だった俺達が、どこから来たのか。

その一つが、今明かされたのだ。

「そうか……僕の父も【賢者】で、しかも枢機卿か……凄い人、だったんだな……」

全くだ。相当な人格者だったそうだし、能力も高かった。民からの人望も厚かった。

だが…… 破(やぶ) れた。

教皇の権力の前に、負けてしまったのだ。

「……」

「ジャネット、大丈夫か?」

「ああ、うん大丈夫。急に借金持ちのクズだったとか、判明した途端に連帯責任を取らされるとか、そんなのに比べると全然。考えたこともあったから」

最悪を想定しすぎだ。

だがそういう慎重さ、ジャネットらしいと思うぞ。

取り乱すことは想像していなかったが、今日のような日に備えていたってことか。こういう姿勢は俺も参考にしないとな。

「しかし、名前が僕しかないということは……僕以外は謎のままだね。ラセルやエミーと兄弟姉妹というわけではなさそうだし」

「そうだな」

俺達のことは、まあおいおいで構わないだろう。

問題はこれからどうするか、だ。

「話すよ」

俺が何を考えているか分かったのか、ジャネットはすっきりとした顔で言った。

いつも通り、淡々と。

「どういう反応になるかは分からないけど、士気は上がると思う。今は僕達の話、教会と戦うという話だ」

「そうだったな」

「そこで、僕の父が今の教皇によって追放されたという事実は、士気高揚になるだろう。僕はそれを狙う」

驚いたな、これほどの衝撃的な事実でさえ、むしろ成功率を上げるために使ってくるか。

こういう辺りの冷静さと賢さは、さすがのジャネットといったところか。

「何はともあれ」

「ん?」

表情の変化に乏しいジャネットが、明確に喜びを表すように微笑んで俺の手を取った。

温かい。

「見つけ出してくれてありがとう」

「気にするな……いや、違うな」

俺はジャネットの手を、少し強く握り返す。

彼女は誇りある賢者。

返す言葉はこうだろう。

「どういたしまして。気が向いたら、俺の方も頼むな」

「任せて」