軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼が見ていたのは、姉の友人を自称することの意味

街の様子は、異様だった。

「ディアナって、あの包帯巻いた剣闘士だろ?」

「私元々嫌いだったのよね、ああいう粗暴なの」

「ハハッ、お前あいつに賭けて稼いだのにな」

冒険者ギルド付近、噂はそれで持ちきりだった。

一体どういうことなのか、初日に寄った店へと足を運ぶ。

ここにはあの帝国銀狼隊とやらも、頻繁に食べに来ていたはずだ。

「……しかし、ディアナがなあ」

「仕事増えるのは面倒だな、何やらかしたんだか」

早速やってきた男達の所へと、皿を持って向かう。

「俺もその話、聞かせてもらっていいか?」

皿に載ったチキンを男達のそれに載せながら、話に割って入る。

後ろから「あぁ~……」と名残惜しそうに呟くエミーの声が聞こえてきたが、無視。

ただでさえ四人分食べてるだろ? というか来た時より食べる量増えたな?

「おう、いいぜ。おごりならビールと言いたいところだが、金獅子サマが最近はやかましいからな」

金獅子……あの教会絡みの連中か。

他人に討伐を丸投げして威張り散らして討伐隊を名乗るのだ、銀狼隊に対してもどういう対応をしているか察するに余り有る。

「ディアナのことだったな。何でもカジノでやらかしたそうだ」

「ディアナが、ではないだろう?」

「取り逃がした責任だってよ。誰か断罪しないとプライドとかメンツってゆーの? そういうの保てないんじゃね?」

そういう動機は十二分に有り得るな……。

あの男のかき集めた調度品を見ると、そういう可能性は高そうだ。

エマも独特だったが、方向性が違うんだよな。

芸術として見ているのがエマだが、あくまで金として見ているのがエーベルハルトというか。

「後は、教会の後ろ盾もあるな」

「教会? 何故出てくるんだ」

「わかんねー、伯爵の貢献がどうとか、そういうんじゃね?」

俺はシビラと目を合わせつつ話を聞く。

貢献か……後ろ暗い感じがするな。

「そんで、今は教会の牢に収容中。剣闘士としても別のを推してたヤツからは結構怨み買ってたし、特にカジノ趣味の連中の怒りも買ってたからな」

「そうか……参考になった」

俺はソーセージを追加で男達の皿に載せると、自分の席へと戻った。

なお涙目で空の皿を見るうちの小動物のために、肉の皿は追加で注文した。

「今回の件すら、教会が絡んでいるというのは本当か?」

「マジっす。つかオーナーの部屋から、ちょいちょい時計のダブリとかなくなってたっすね。賄賂ってやつなんすか? いやーなまぐせーカスっすね」

かつて金で苦労したイヴは、そのことに真っ先に悪態をつき、苛立ちを隠せないように吐き捨てた。

「カジノのオーナーを糾弾できないのは、教会側の後ろ盾。教会側も、ヘンリーに関する上客という表面上の体裁でオーナーのことを見ている。だが」

「ディアナが処刑されたら、今の関係も終わる。その代わりの一括で払って立場を保証させてるってことなのかしらね」

シビラの回答に、大きく溜息を吐く。

どいつもこいつも身勝手なものだ。第一他者のことを何だと思っているのか。

「処刑道具はどうなってるんだ?」

「教会が、断罪用にギロチン持ち出すみたいっす。首と手を固定して、でけえ刃物を上からドスン! て感じで」

何だそれは……そんなことを大衆の前でやるというのか?

街の人間も、そんなもの見たくはないだろう。

「ラセルが何を考えてるか分かるけど、それは王国民のまともな思考回路よ」

「国が違うだけで、そんなに違うのか?」

「そもそもこの帝国って、大昔に他の住人を戦争で立ち退かせて今の状態になった国だから。さすがに途中でロットがキレて本気出しちゃったから、それ以上の侵攻はなくなったけど」

人間同士の争いで、ここまで大きい国になったのか。

その感覚が、今もなお引き継がれていると。

あまり同意したくはないが、どうしてもケイティを思い出してしまうな。

この街には、愛がない。

その抽象的すぎる表現が、今は一番納得できる。

剣闘士のようなものがあるのも、そのための技術があるのも。

今もまだ、人間同士の争いを望んでいるというのか。

「ギロチン、ギロチンね……。イヴちゃん、その台の構造教えてもらっていい?」

「いっすけど……」

シビラはシビラで、何を考えているのか分からんが……。

この中で、今の話に動揺しているのはもちろん彼だ。

「そんな、姉さんが……!」

その様子にシビラが彼の近くで膝を突き、目を合わせる。

「ヘンリー君にお願いがある。難しいけどいいかしら」

「は、はい! 協力できることなら何でも……!」

「そう。アタシの願いは一つ。――絶対に、見つからないように隠れて。黙っていて、動かずにいて」

「え……」

シビラの要求は、『何もしない』ということであった。

「これは楽をさせているつもりでもないし、何より簡単なことではないわ。誰だって動きたくなってしまうもの」

「……」

「だけど、その状況であなたが見つからないことが、一番ディアナのためになるの。……急に現れて、勝手にお姉さんの友人面しているアタシに言われても、信じるのは難しいかもしれないけど……」

シビラのいつになく気弱な言葉に、ヘンリーはぎゅっと拳を握ると……シビラの手の上に被せた。

「分かりました」

「……本当にいいの?」

少年は、自分の手を重ねた相手に自分の考えを語り始めた。

「元々、姉さんの友人というのも嘘かなって。だって姉さん、あんな人でしょう? だからきっと、一方的にシビラさんが言ったのかなって」

「……」

「でも、それが嬉しかったんです。あの喧嘩腰な姉を、きっと、本当は優しいことを分かってくれていて……こんなに気に入ってくれる人がいるって。そのシビラさんが、今味方したところで得にもならない姉さんを助けてくれる。だから」

ヘンリーは、自らも視線を合わせるように膝を突き、シビラに再度お願いをした。

「姉さんを……僕の姉を、助けてください」

シビラは病弱だった弟の決意を見届けると、強く頷いて頭を撫でた。