軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その瞬間が訪れる

ケルベロスとかいうフロアボスは、それぞれの口から炎を吐けるのか。厄介だな。

三方向から戦うのは、セイリスの魔王以来だろう。

魔峡谷から駆け上がってきたケルベロスは、俺達の左側に陣取った。

「エミー、左の頭を頼む。絶対に西門を越えさせないように。シビラとジャネットは右側な。俺が真ん中だ」

全員の返事を聞くと、正面の顔を見据える。

ただ三本首なだけではない。恐ろしく、巨大だ。

あのキメラと同等以上のサイズで、魔物として現れたウルフ系の敵より幾分か恐怖を煽る姿をしている。

見れば、口元からはぼろぼろと鳥の羽らしきものが零れ落ちている。

殆ど炭化しているような状態で、何か肉や骨のようなものも見受けられるが……飯の最中で呼ばれたか?

『ヴォオオオオオオオオオ!』

いや、考えるのは後だな!

「《ダークジャベリン》!」

犬の遠吠えとも全く違う、地の底から響くような声とともに、口の中から炎が現れる。

その喉元に突き刺すように、俺は闇の魔法を叩き込んだ。

「《コキュートスアイシクル》」

「《ストーンジャベリン》!」

右側では魔法組の二人が、左ではエミーが盾で攻撃を防ぎながら接近している。

(《アビスサテライト》、《アビスサテライト》……)

足止めしている間に、自動攻撃する闇魔法をいくつも生成する。

こいつは以前のフロアボスに比べても厄介そうだ。

黒い狼は俺の攻撃を察知してか、その巨大な牙で突き刺すのか、それとも噛み砕くつもりなのか、俺の至近距離まで一気に踏み込んできた。

顔の近くに熱の余波が当たり、一歩下がった瞬間の目の前に、ゴツリ、と鈍い音が鳴る。

派手さはなく、ただ確実に噛み砕くことに特化したケルベロスの 顎(あぎと) による攻撃だ。

頭が入れば、さすがに一巻の終わりだな。

再び踏み込もうとするケルベロスの脚は、しかし次の一歩を踏み出せなかった。

「今のは……ッ! 絶対、やらせない!」

エミーが自らの黒い盾で、ケルベロスの足を自分の近くに縫い付けたのだ。

スキルを持っているだけでは、普通は弾き飛ばされてしまうだろう。だが、エミーはこういった時の筋力だけでなく、根性が何より半端ではない。

とはいえ、長期戦は避けたい。

「うっしナイス。ジャネットちゃん、あっちね。あっ《ストーンジャベリン》! ヘーイ、あんたの相手はアタシよー! ポチちゃん、待てはできるかしら! それとも犬と間違えられるの、納得いかなかったり? お手はできなそうねー!」

シビラはシビラで煽る煽る。

正直言葉が通じそうにはないが、不思議とケルベロスは明確にシビラの方を睨んだ。

俺の正面の顔も、若干シビラの方に向いているぐらいだからな。

「効いてる効いてる。番犬って言うからには犬なんじゃないの~?」

その様子をむしろ楽しむように、更に煽る煽る。

この豪胆さと煽りの上手さこそがシビラの本領だよな。

煽りが上手い女神って何だよ。

お陰様でシビラにがっつり狙いを定めたケルベロスだが、エミーに足を縫われている以上身動きは取れないので、大きく口を開けてあの火球を出そうとする、が。

『ヴォオオオオ!』

既に俺のアビスサテライトが、相当数完成している。

シビラが注意を引いているうちに、ケルベロスの頭上高くに配置していた。

先に消した方がいいと判断したのか、狼の首は上を向き火球でアビスサテライトを狙い始める。

この間、もう一人動いている者がいた。

「《ライトニングボルト》。電撃も効く、と」

『――ヴォオオッ!?』

シビラが煽って注意を引いているうちに、ケルベロスの後ろ側へと回ったのだ。

「肉食獣は視野が狭い、首が三つあっても限界はある」

さすがに後ろは見えるわけないよな。

身をよじってジャネットに攻撃を仕掛けようとするが、それを引き留めているのがエミーの怪力と【宵闇の騎士】の能力だ。

【聖騎士】は味方から敵を離すことによって護るが、【宵闇の騎士】は敵の攻撃を全て自分に惹きつけるようにして護る。

全ての首の注目が逸れた今、俺に注目している頭部はない。

このチャンスに、俺は静かに動いた。

(《シャドウステップ》)

身を伏せ、魔物の完全なる視界の外となる場所。

即ち、腹部へと移動した。

後はこの剣を、上に突き立てるだけだ――!

『――ヴォアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

ケルベロスの三つの首が、一斉に叫んだ!

無論、全ての首が一斉に俺へと狙いを定めるように、腹部を覗き込む。

が、その動作も想定内だ。

『アアアアアアッ!……?』

相手に見つかる前に、俺は再びシャドウステップで背中側に飛んでいた。

どんな魔物でも、動物を模している以上背骨は急所。

頑丈な骨の鎧でも、今の闇魔法を載せた俺の剣の前では無意味だ。

背中に剣を差し込み、首へ向かって割くように斬る!

『――――!』

ケルベロスは一度痙攣し、その瞬間に俺は首の方へと走って一本を切り飛ばした。

右側のエミーも俺に続いて額に剣を突き立てる。

最後の左の首は、シビラに決定的な攻撃手段はない。ジャネットもまだ後ろ側。

最早息も絶える寸前だが、最後の意地を振り絞ったケルベロスの首は、俺を振り返ると炎を全力で吐き出した!

ウィンドバリアが一気に燃え、体に熱のダメージが入る。

この感じ、アドリアの魔王に直撃を受けて以来か。

俺は全身に炎を浴びながら――更に踏み込んでケルベロスの喉に剣を投げ入れた!

『――ッ!?』

喉の奥を貫通し、大きく痙攣すると……巨大な四肢の獣はその脚の力が抜け落ち、地面へと沈んだ。

完全勝利とは言い難いが、なんとか辛勝だな。

「ええええラセル大丈夫なの!? 本当に怪我ない!? 今の大丈夫だったの!?」

「このローブな、炎は効かないんだよ。ケルベロスは最後まで気付かなかったようだな……とはいえ、顎は危なかったな。エミー、助かった。皆もよくやってくれた」

「けっこーヤバいボスだったわね」

確かに、今までの中でもかなり危ない相手だった。

――【宵闇の魔卿】レベル18《アビスホーミング》――

「……これは」

「ん、どったの?」

「18になった。セントゴダートでは16から何もなかったから、新しい魔法も久々だな」

俺の言葉に、シビラは何故か黙ってじっと俺の方を見た。

「……何だ急に。お喋り女神が黙るなんて、変な病気でも貰ってるんじゃないのか? ほれ、《キュア》」

「いや病気じゃないわよ、【聖者】の治療魔法を煽りに使うとかどうなの」

フロアボスを煽る女神も大概だと思うぞ、と返したいところだがどうにも様子がおかしい。

「マジで何なんだよ、言いたいことがあるならハッキリ言え」

「ホーミングよね、今覚えたの」

「ああ」

まあそりゃ知ってるよな、何の魔法かぐらいは。

だが、それがどうしてこういう反応になるんだ?

シビラはすっかり宵闇を通り越して真夜中に入った空を見上げ、話を始める。

「アビスホーミング。その魔法の特徴は『魔物を追いかける』という、戦闘においての最適解。どんな状況でも一番強い防御完全貫通の闇魔法と、相性最強の決定版」

何だその反則魔法は。

明らかに強すぎるだろ。

「あまりに便利でね。アタシはそれ、教えちゃったのよ」

「教えたって、誰にだよ」

「魔力の枯渇した術士ほど駄目なものはないわ。だって魔法を使わない戦い方を練習してないもの」

そりゃ、そうだな。

俺の剣だって、考え方によっては討伐部位を持ち帰る量が減る荷物でもある。

つうか何の話をしてるんだ?

「そいつ、ランクダウンしたわ」

「ランクダウンした?」

シビラの言葉が曖昧で、何を言いたいか分からない。

「ユリアン。名誉欲の男。オーツウォール北の未踏破ダンジョンへと挑み、レベルアップしたからと調子に乗って第十四層のモンスターハウスで引き返しそびれた」

「いやだから誰なんだよ、その男は」

さすがに催促しないと、主題が分からない。俺だけじゃないからな、ここにいるの。

首を傾げるジャネットは兎も角、エミーはもう明らかに右から左に流すだけという顔で固まっている。

だが、今の質問に対する答えが返ってきたことで、俺はようやくシビラが何故こんな話を始めたのかを理解した。

「セントゴダート出身、見栄と嘘の破門神官ユリアン。【宵闇の魔卿】レベル17。歴代最高 だ(・) っ(・) た(・) 人間」

種明かしをしたシビラは、視線を夜の空から俺の姿に向けて悪戯っぽく笑った。

「おめでとう、ラセル。あんたは今この瞬間、【宵闇の魔卿】における人類最高到達点になったわ」