軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国の価値観に従う必要はない

帝国の空のどこを見てもあの魔物が視界に入る程度には、状況が悪化していた。

フロアボス未満の敵を倒すだけと思っていたが、そこそこ数が多く、また展開範囲が広い。

とはいえ、背面接近すら気付いて避けたフロアボスに比べると、大幅に御しやすい敵だ。

「あの全面目玉野郎に比べたら、お前達は前方しか見えなそうだな。《シャドウステップ》」

屋根伝いに魔物の正面まで行くと、相手が攻撃してきたタイミングで消える。

後ろに出た瞬間――羽を切り落とす!

そのまま本体を刺してもいいが、俺の剣では今ひとつ長さが足りないのと、案外この魔物の体力があるのがな。

潰しきれるかと思ったが、逃げられると厄介だ。

ならば、下の冒険者にある程度は任せたい。

特にそこにいる、ディアナ達の後ろからヤジを飛ばしていた連中と同じ服の色をしたヤツとかな!

「うわああっ!」

「お、恐れるな! 我々は誇り高き銀狼……ひっ、こっちを見るなっ!」

安全圏で攻撃し、常に固まって戦っていた討伐隊。

名前の割に、随分と臆病な犬っころ集団だ。

空を飛ぶ敵の、羽まで落としてやったんだぞ?

「それぐらいは倒してみせろ、前列の剣闘士達より弱いと、他の住人に知られるぞ!」

「なっ……! そんなわけ、ないだろう! 大体誰だお前は!」

驚いたことに、銀狼なんちゃらどもは魔物から視線を俺に向けて話した。

住人を守るよりも、自分のプライドを守りたいってか。

「俺は他の国の冒険者だ、本来働かなくてもいいからな。飛んでいるままがいいなら、放置しておいてやろうか?」

まだ何か言いたげだったが、さっさと話を切り上げて次に向かう。

どうせディアナよりもいい金もらってるんだろ?

きっちり働いてもらうべきだと思うがな。

北西の方に向かうと、左手となる南西側に地上より稲妻が天へと昇る。

間違いなくジャネットだな。

「俺も負けてられないな」

その討伐ペースに頷き、次の相手へと急いだ。

倒してもキリがない、というほどの数ではないのが救いだろうか。

羽を切り落とすだけでなく、周りに他の魔物がいない時はトドメも刺している。

結果、もう数えるほどになっただろうか。

「ラセル、遅くなった!」

まだ魔物が残る中、エミーが俺のところにやってきた。

「いや、シビラは大丈夫なのか?」

「ある程度倒した後は、なんかマーデリンさんと合流しに行ったみたい。ラセルの所に行って、だって」

「ジャネットは?」

「私がいる方が逆に邪魔になりそうだよぉ~」

それもそうか、なるべく近くにいない方がいいってぐらい、魔法を飛ばしまくっているからな……。

合流を了承し、何体目かになるか分からない魔物を倒しながら次の魔物を狙う。

「つっ……このッ」

見ると、あの白い犬の刺繍が入った服の男が、火傷を負いながら街に入ってきている狼の魔物と戦っていた。

西門に近づくにつれて、こういうヤツも出てくるのか。

後ろには、また一風変わった服装の、随分と豪奢な鎧を着た男達。

そいつらは盾ばかり前に構え、剣は持っているのみという様子。

どうにも戦いには参加する気はなさそうだ。

エミーが割って入り、魔物を全て切り飛ばした。

俺はこっちの、恐らく剣闘士であろう男に接触する。

「一人で狼相手とは、大丈夫か?」

「あんた……おお、ディアナと一緒だったヤツじゃねえか」

結構前なのに、よく覚えているな。

俺の記憶力が弱いのか、それとも向こうから見て、俺が目立つのだろうか?

「怪我がひどいな。《エクストラヒール》」

俺が回復魔法を使うと、男は自分の身体の傷が消えたのを見て驚き、喜んだ。

だが、すぐにはっとすると、何故か後ろの連中の様子を窺う。

見ると、それまで後ろで盾ばかり握っていた連中は、妙に威圧的な態度で俺に指を向けた。

「おい、お前。今のは回復魔法だな」

「だったら何だよ? 冒険者同士の回復魔法は、女神の教義でも推奨だろ?」

俺があいつの教義に従っているのは癪だが、この状況で回復魔法を使わない選択肢があるか?

「どこの担当だ? 前金の約束もなく回復など」

「エクストラを使える者が、無償で? 市場価値を崩壊させかねない……危険だ」

……何だこいつら。

こんな派手な装備を着込んでおいて、回復魔法に金を取ることしか気にしてないのか?

俺が絶句していると、男が一歩踏み込んで来る。

剣闘士の男は、どうにも割って入りづらい様子だ。

「少し、ここでのやり方を教えた方がいいかもしれないな」

「実力はありそうだ。しっかり所属してもらわなければ」

お、おいおい……この魔物がどこで誰を襲っているか分からないタイミングで、そっちを全部無視して人間に絡んで来るのか!?

マジでどんな倫理観で生きてるんだよ!

「ここは犬どもに任せて、お前は教会に来てもらおう。無理矢理にでも」

男は俺の腕を掴もうとしてきた。もう一人は、なんと剣を持っている。正気かよ……!?

俺がそろそろ実力行使してでも振り払うべきだと思ったタイミングで――目の前を何かが横切り、やってきていた男達にぶつかった。

「は……はあ!?」

飛んできたものは、黒い狼。

何だっけな、ダンジョンブラックウルフ、だった気がする。

「た、倒せ倒せ! おい! 何をしている!」

慌てて男達が俺の隣にいた剣闘士を怒鳴りつけるが、それよりも先に前に出た者がいる。

エミーだ。

「――ラセルに何かしようとした?」

一見、普段通りの声色に感じる。

だが……これは、普段とは全く違うエミーだ。

「お、お前、倒せ! 命令だ!」

男達は必死に盾ばかり構え、狼の攻撃を防ぐ。

こんな状況でもまだ威圧的で、むしろその豪胆さに感心してしまう。いや感心はできないな。

エミーは、淡々とその場から離れると、二体目の狼の首根っこを捕まえて、男達に叩き付けた。

「いや、あなたが倒せばよくないですか?」

「うわああッ!」

「この人の剣より、そっちの剣の方が高そうですし。まさか、そんな装備をしていてできない?」

おお、随分と煽るじゃないか。

久々にエミーのこういう姿を見るが、俺も気持ちとしては近いからな。口出しはしない。

「何なんだ、何なんだお前、助けろ! 欲しいのは金か!? 地位か!?」

「どっちも要らないなあ」

エミーは淡々と答えると、狼を二体とも瞬殺した。

真新しかった男達の盾と服と、金の獅子をした印が血にまみれる。

「私は、王国の【聖騎士】です。帝国のやり方ってよく分からないけど、女神の 職業(ジョブ) 持ちなら協力して魔物を倒すのは当然でしょ?」

「せ、聖騎士……!?」

「最近女王様とも話が弾んで、仲良くなったんだー。だから今日のことも報告するね?」

エミーはそれだけ言うと、「行こ」と俺の所まで来た。

そんな姿に肩を竦めながら小さく笑って応え、一緒にその場を後にした。

「よく言ってくれた」

「私が言わなくてもラセルは言ったんじゃない?」

「かもな。ただ、今になってようやく分かったことがある」

最初に剣闘士ディアナを見た時、包帯を被って血を流していた。

回復魔法を使うぐらいは何でもないと思っていたが、それにしては妙に喧嘩腰だなと思ったのだ。

傷が増えることを誇りに思っているのなら、そういう可能性もあるのかもしれないと最初は思ったが。

とんでもねえ。

あんなカスどもが教会の回復術士を独占してんなら、そりゃ押し売りだと思うのが自然だ。

ヘンリーを見た時も、回復することを提案したが……俺のことも、エーベルハルトが契約した高級神官の代わりに営業かけてきた、高い金を貰いに来ただけの生臭神官野郎、ぐらいにしか思えなかったのかもな。

「うわーなるほどなあ……あの時の反応ってそうだったんだ。ラセルの提案を蹴るなんてやなヤツ、って思ってたんだけど悪いことしたなあ」

俺の説明を聞いて、エミーも納得したように頷いた。

「仕方ねーよ、さすがにあの腐り方はジャネットでもないと予測できん」

そんな会話をしていると、ちょうどジャネットが目の前に現れた。

「そっちは終わったか?」

「街中は全部。五重サーチフロア中。残りは西門の向こう」

実に手短で分かりやすく、信頼できる。

ジャネットが言うなら間違いないというか、ジャネットの観測から離れてしまったらそれはもう他の冒険者には無理だ。

「メインアイドルは遅れて登場!」

「一番要らないのが来たな」

「間髪を入れずに!?」

東から合流してきたシビラを軽くあしらい、他の者も見る。

「他は?」

「マーデリンと一緒に待機。もうひと揉めするから、その準備ね」

なんで揉める必要があるんだよ、いちいち不穏だな。

「それより、この状況だけど……かなりまずいわね。すぐに西門に向かうわよ」

「言うまでもない」

まあ、何か理由でもあるんだろう。

確かにそれよりは、今気になるのが西の様子だ。

一体あの魔峡谷に何が起こったか、見させてもらおうじゃないか。