軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

賢者の試行と思考

エーベルハルトには、表向き友好関係を取りつつも事前に話をしておいた方がいいだろう。

「今日は、全員客として?」

「ああ。とはいえ、普通に冷やかしじゃなくコインを使う予定だ。ま、たまにはな」

「そうか……分かった。全員去るなら兎も角、客としてということなら歓迎しよう。存分に使ってくれよ」

調子のいいことを言うエーベルハルトにシビラが「ガンガン勝つわ!」と答え、俺達はホールへと戻った。

……こういう時に腹の内を隠すのは苦手だな。

今日も相変わらずの盛況っぷり。

カジノのホールは人が沢山やってきていた。

「で、今日はどうする?」

「まあ普通に遊びましょ。ただし『思いっきり疑いまくりながら』ね」

なるほどな。結局のところ、そこに行き着くというわけか。

早速と言わんばかりにシビラが期待を込めた目で俺を見る。

遊ぶ気満々、と言った様子のこいつに、自分の予算を思い出す。

大丈夫な金額である。だが……限度というものはある。

ところが、ここで珍しい人物が立候補をした。

「……えっ、マジで?」

シビラが驚きに声を上げ、その人物を見る。

なんと、ジャネットが無言で手を挙げていたのだ。

「僕に全てのゲームを任せてもらえませんか?」

「マジでー!? それは面白そうだから任せちゃう! カジノは見るだけでも面白いものね!」

そう答えたシビラは、ジャネットに全権を委ねることに決めた。

俺はエミーと目を合わせ、期待混じりに【賢者】の後ろ姿を見つめた。

ジャネットのプレイは独特であり、ある意味究極の無個性であった。

「スリーカードでございます。ダブル……」

「ダブルアップをしてくれ」

「……はい、それでは――」

「ビッグ」

出てきたカードは4、次のカードは9。ジャネットの順当な勝ち。

が、ここからがジャネットの特徴だ。

「ドロップ。次のゲームを」

ジャネットはダブルアップの二度目を降り、コインを一つ置いて次のゲームを始めた。

ディーラーも意外そうな顔をしつつも、すぐにカードを配り始める。

ジャネットはそのカードを見ると、迷うことなく三つのカードを選んだ。

外れ、次。外れ、次。

再びスリーカード。ダブルアップ、当たり。

即ドロップ。

そんなやり取りを繰り返す度、ディーラーも段々このジャネットの遊び方に慣れてくるようになった。

何度目か分からないが、ジャネットの手元のコインが、それなりに増えた時。

「オールイン」

急に全てのコインを投げ込んだ。

ディーラーもこれには驚き、しかし静かに口角を上げカードを配る。

フルハウス、大きい当たりだ。

ダブルアップの最初は、3だった。

「ビッグ」

「あ」

ジャネットが選んだと同時に、エミーがぼそりと呟く。

次のカードをめくる前に、ジャネットは立ち上がった。

「お客様?」

「……ああ、立つのが早かったね。失礼」

ディーラーが訝しみながらカードをめくると……中から出てきたのは、2。

ジャネットの負けだ。

無言で立ち上がると、ジャネットは更にコインを換金して次のゲームを目指した。

このプレイスタイルで、他のダイスやルーレットを含めた全てのゲームを素早く済ませていく。

無表情で、しかし手早く。

――結局その日、ジャネットは徹底的に負けて、全てのコインを失った。

帰り際、ジャネットよりも凹んでいたのがシビラであった。

「てっきり期待しちゃったじゃないのぉ~」

「っす、なんか意外っす」

皆がそう言う中、ジャネットは「今日も宿で夕食を食べよう」と提案する。

その声に早速エミーが乗っかり、俺も賛同する。

チーズと肉を挟んだパンを大量に買い込み、部屋に集まる。

今日は単にジャネットが負け続けるのを見る一日だった。

だが、さすがにもう付き合いが長いと分かる。

「なあ、ジャネット。今日は一体 何(・) を(・) し(・) て(・) い(・) た(・) んだ?」

俺の言葉に、ジャネットは僅かに目を見開いた。

「……何故、分かったの?」

「見てりゃ勝敗のこと気にしてないことぐらい分かるだろ、何年一緒にいたと思ってるんだ」

ジャネットは俺の答えを聞くと……何故か頭を軽く小突いてきた。

いや痛くねえけど何なんだよ。

「はぁ、これだからラセルは……」

さっきのは長年一緒にいたが分からん理不尽さだぞ……。

「……そうだね。では僕の話を聞いてくれ」

とりあえず変な行動は終わりのようで、ジャネットは話を続けてくれるようだ。

「確率を見ていた。あと他のプレイヤーの結果も全部ある」

「どこにあるんだよ」

「頭」

ジャネットの、いかにもジャネットらしい返答に、イヴが「ひゅッ……」と息を吞む。

そういやイヴは初体験だったな、俺達の幼馴染み。

「確率は収束する。次は7より大きいか、そんなのは五分五分だ。これが2になると、九割を超える。当たり前の話」

「それをジャネットは、プレイ中ずっと計っていたのか」

「ん。結果は五割弱、まあまあの数字だろう。他の人もそうだった。それが、普通の時」

普通、と称するということは、普通でない時のこともあるのだろう。

「ダブルアップの時、掛け金が大きくなると、最初は当たる。ただし、次で外れる。この確率が、それぞれ七割と九割ぐらいに思う。勝ち続けていたのは若い女の人一人ぐらい」

それは異常な数字だ。

同時に、一度目で当たる確率というものを

「僕は、ダブルアップで即 辞退(ドロップ) するプレイをした。だからディーラーは、一度目でアウトに出した」

「初手であのカードを出したのも」

「そう。次が2なのはエミーの反応から分かった。だから――今日一日怪しまれないよう、負けておく必要があった。他の人と合わせて計二千回には届かない結果だが、統計としては十分だろう」

ジャネットの言葉に、イヴとヴィクトリアは半笑いで首を振る。

これは規格外だ。そういう声が聞こえてくるようだった。

シビラが愕然とした顔でこちらを向く。

「そろそろアタシの出番作って」

「いつでもドロップしていいぞ」

「全世界五千億人のシビラちゃんファンが泣いちゃうから駄目!」

盛りすぎてもうよく分からなくなってきたぞ。

お前のファンは地面を歩くアリから夏の蚊柱までカウントしているのか?

「とはいえ」

ジャネットが腕を組み、椅子に深く腰掛けて溜息を吐く。

「トランプは分かった。ダイスも……何か選んでいるのは分かった。ただ肝心のルーレットが分からない」

「何か、予測はつかないのか」

「風魔法や土魔法の線を考えて観測していたけど、魔法は感じ取れなかった。あのルーレットの決定打がなければ、動きづらい」

ジャネットはそう言ったが……むしろ、ここまで導き出してくれたのだ。

後はもう、全員で挑むべきだろう。

「シビラじゃねーが、あんまり出番を取ってくれるな。ジャネットが見つけ出せなかった部分、みんなで挑めば解明できるさ」

「ラセル……そうだね。うん、確かにそうだ。極端に走る必要はない。賢者でも愚者でもなく、次はただのパーティーメンバーとして、挑ませてもらおう」

俺達は互いの顔を見ると、それぞれ力強く頷いた。

最後は、全員で。

そう互いに頷き合い、明日へと備えた。

いつになるかは分からないが、必ずその秘密を暴いてみせよう。

この時の俺は、まさかカジノの謎が一気に進展することになるとは、まだ想像していなかった。