軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

普段は見えない瞳の奥の秘密に迫る

ケイティと会った翌日、何か進展があるかと思ったが……。

「……本当にどっか別の国に行ってしまってるんじゃないだろうな」

「だとするとアタシ達、ここにいても完全に無駄骨よね。カジノで 全額賭博(オールイン) して帰る?」

「お前実は破滅の女神だったりしないよな?」

シビラのとんでもねえ提案を軽くいなしつつも、今後の予定をぼんやり考える。

ケイティがいることは分かったが、肝心の捜し出す手段に皆目見当がつかない。

そもそも、見つける糸口すらないのだ。

「ただ、まだ離れるべきではないと思う」

「……へえ、理由を聞いてもいいかしら」

「まずケイティが向かった方向だ」

東門の先。

帝国領が続くはずだが、俺の中でどうしてもひっかかることがある。

――赤い髪の勇者。

シビラの姉プリシラが話していた、ケイティの目的。

それが、よりにもよって『赤い救済の会』という一度潰したはずの宗教が関わっている可能性があるのだ。

「確かにケイティは、東門から出たように見えた。だが、何か騒動を起こすなら――」

視線を、街の北側に向ける。

王都セントゴダートでは女王の城があったその位置に、鉄で無骨に固められ、赤と金の旗がいくつもかかる建物がある。

「――城のある、ここだろう」

こういう部分で、妥協するような相手には見えないのだ。

合理性など考えられず、最後は派手に巻き込む。

どうにもそんな気がする。

「それに」

俺は、席を分けた向こう側で、慣れた様子で肉にヨーグルトソースをかけるヴィクトリアの様子を窺う。

物腰も柔らかく交渉も上手いが、仕事もきっちりこなすベテランの【剣士】。

知り合いの少女の母親という、少し独特なポジションの女性。

一度目は、黒ゴブリンの毒で病に冒されていた時。

二度目は、剣闘奴隷の焼き印を消した時。

彼女は『返しきれない恩が二つもできた』と言い、俺の指示には文句一つ言わず従う。

非常に有り難いことだが、それ故か自分の要望を出してこない。

だが。

「何か、引っかかるんだよな」

「んー……そうね、アタシも気になってる。過去のこと、吹っ切れてもないし納得もしてないんだろうなというのはなんとなく感じ取れるわ」

そこに気付ける辺り、こいつのこういう部分は信頼できる。

シビラは僅かに考えた後、俺に一つの疑問を提示した。

「一つ言えるとしたら、バート帝国でも殺人事件だなんてそうそう起こらないのよ。金銭絡みや近所トラブルで年に数件ぐらい」

「年に数件は、十分多いと思うが」

「王国に比べたらねー。そんな帝国でも、国外で集団使って、剣闘士出し抜いてとなるとそれなりに大規模な犯罪事件よ。少なくとも近隣トラブルの枠じゃない」

となると、問題になってくるのは――。

「ヴィクトリアの夫の仕事内容が関係している?」

「順当に考えると、そんなところね」

今は穏やかそうにしているし、特に問題があるようには見えないヴィクトリアだが、夫婦仲が悪かったような雰囲気は以前の話から感じ取れなかった。

夫の死について、納得しているわけではないだろう。

「でも、あんたがここまでヴィクトリアを気にするなんて珍しいわね。年上狙い? フレっちぐらいの年頃が好みなのかしら」

「そうじゃねえよ、『愛の女神』みたいな反応するな」

俺の返しに、露骨に「うげっ」という顔と声で反応するシビラに溜飲を下げつつヴィクトリアに視線を向ける。

今度は目が合い、軽く微笑まれた。

普段通りの様子に俺も机の上で僅かに手を上げるのみで応える。

見た限り、何も問題なさそうではあるが……。

「あくまで勘だ。ずっと何かを気にしているんじゃないかと思ってな」

「ふーん。ま、聞きたかったらそっちで聞きなさい。アタシよりあんたの方が答えてくれると思うわ」

シビラは最後にそう言うと、エミー達の座る席へと向かっていった。

ちょうどそれに代わるように、ヴィクトリアがドリンクを片手に俺の正面へと座った。

「シビラさんと何の話をしてたのかしら? もしかして私の話?」

「そうだと言ったら?」

「あら、あらあら……ラセル君にはもっと私より、ブレンダに興味を持ってほしいのだけれど……」

いや、何の話だよ?

ブレンダはここにいないし、話すことも特にない。

特に気になる過去があるわけではないからな。

そう、気になる過去があるのは正面の女だ。

「なあ、ヴィクトリア。何か要望とかがあるなら先に言っておいてくれないか」

「まあ、どうして急に? 私はラセル君のお仕事に協力できたらそれで十分よ」

「そう見えないから言っているんだよ。……そうだな。もしも明日にでも帝国から王国に帰ると言ったらどうだ?」

俺の仮定にヴィクトリアは体を硬直させ、考え込むようにテーブルに視線を落とす。

眉間には僅かに皺が寄り、普段は朗らかな口角が引き結ばれるように閉じて下がる。

すぐにはっとして俺に視線を戻すも、その一連の動きが『納得していない』と如実に語っているのは俺でなくとも気付くだろうな。

「別に、お前のことを気に掛けているわけでもなければ、好感度を上げようとしているわけでもない。俺自身のためでもある」

「ラセル君自身のため? 私の要望を叶えることが?」

「ああ。もしかすると、ヴィクトリアの問題を解決することが何らかの進展に繋がるかもしれないんだよ」

ケイティが最後に伝えた言葉。それは『怒りの蝶』と『秘められた瞳の奥』。

これらが示すのは、俺の周りで思い当たるのなんてヴィクトリアぐらいしかいない。

後者は謎ですらないほど明確だ。

問題は、前者だ。

大紫とは、ヴィクトリアの髪の色のことであり、また蝶の名前でもある。

つまりケイティは、『大紫の剣士』という彼女の呼び方を蝶に喩えたのだ。

それはいい。

だが、その前についた言葉は何なのだろうか。

聞いたら答えてくれるかもしれないが……軽率に踏み込んでいいとは思えない。

それは、ヴィクトリアは勿論のこと、ブレンダに対しても失礼だ。

「ラセル君の問題解決のために、私の問題解決を、ね。何だか言い含められちゃってる気もするけど」

「言ってる俺もそう感じてるが、マジで今一番重要な手がかりなんだ。協力してくれるか?」

「断る理由はないわ。それと、また勝手に恩義をあなたに重ねちゃうわ」

「これ以上は重すぎて持てないな。俺は受け取り拒否するから、二件目はジャネットに、次のはシビラにでも渡しておけ」

そもそも俺、剣闘奴隷の存在すら知らなかったしな。

恩義を感じるのなら、それを知識と僅かな可能性から導き出したジャネットの方だろう。

……改めて思うが、直接剣闘士を見たわけでもない上に、自分が剣士でもないのにあいつはよく分かったよな。

ジャネットの頭脳には、一生かかっても敵いそうになさそうだ。

俺のそんな答えに、ヴィクトリアは「じゃあシビラさんに全載せで」と冗談めかして言う。

彼女は手元のドリンクを一気に飲み干すと、決意したように俺に相談をもちかけた。

「それじゃ、相談。私をラセル君達と、カジノ側の警備に回してくれない?」