軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

他者からの印象と、本人の希望は案外違うもの

『————なるほど、そういうことになっていたんだね』

「ああ。これが起こったことの全てだ」

エマにも、ケイティとのやり取りを一通り話した。

今の話の中で、もちろんもう一つ気になることがあるだろう。

『セカンドのことをね……』

そう。エマがセカンドと呼んでいた上級天使のことを、ケイティが『愛のない名前』と呼んでいたことだ。

『セカンド。二番目。まあ言うまでもなくコードネームであり、彼女の本名じゃない。マーデリンは知ってると思うけど、メリッサだよ』

「やっぱりメリッサだったのですね。昔とは雰囲気が違って驚きました」

マーデリンにとって、セカンドは旧知の仲のようだ。

何でも近くのカフェで働いていたお喋りな店員であり、マーデリンによると性格はルナに似ていたらしい。

――この右目が疼くぞ……!

ルナに? あのギルマス御用達のいかにも仕事人のような斥候が?

『愛がない、か。事情も知らず、言いたい放題言ってくれるね』

俺の疑問に答えるように、エマは腕を組んで呆れたように溜息を吐いた。

『そもそもセカンドという名前は僕が考えたとはいえ、コードネームを付けてほしいと頼んできたのはメリッサの方なんだよ。天界住まいの天使なんて本名自体が戸籍登録のないコードネームのようなものだから不要だと思ったんだけどさ』

だからセカンド以外は普通に名前を呼んでいる、とエマは付け加えた。

告げられた真実に、いろいろと察して画面の前の相手と同じような溜息が出る。

要するにケイティは、セカンドのことを理解しているようで、理解していない。

愛の基準は独善的であり、本人達の希望はその内に入っていない。

話を聞けば、そのセカンドというコードネームがエマらしい愛に溢れていることぐらい俺にだって分かる話だ。

愛……愛、か。

曖昧で分からないものだ。

人によって、その有無は如何様にも変化する。

受け取った側が愛を感じても、他の誰かが見ると愛がないように感じる。

無論、逆も然りだ。

そんなものを司る女神というのは、どういうものなのだろうか。

「なあ」

『うんうん、何だい?』

「ケイティ……キャスリーンは、魔神の洗脳前からあんな性格ではなかったとは思うが、具体的にはどんなヤツだったんだ?」

俺の質問に、エマはシビラと視線を一瞬交わす。

『それは、シビラの方が詳しいと思うから彼女に聞けばいいよ。僕からは『気遣いの出来る明るいムードメーカー』ぐらいの印象かな』

そんなところか。

雰囲気自体は、そこまで大きな印象の差異があるわけではないのだろうな。

『僕からもいいかな。ヴィクトリア君と話をしたい』

「あら、私ですか?」

エマが指名したのは、帝国出身者のヴィクトリアだった。

俺の場所と代わり、エマの正面で相手から見えているか確認を取っている。

「見えているようですね。はい、私がヴィクトリアです。王都のギルドマスターにご挨拶できるなんて、大変光栄な限りで――」

『あーダメダメ。君も僕に対しては、もっと砕けてくれ。友達みたいな感じでね』

「あらあら、まあまあ。それじゃあエマさん、ヴィクトリアよ。ラセル君に病気を治してもらってから、仲良くさせてもらっているわ。……こう、でいいかしら? よろしくね」

『実にいい。さて、この度は僕が用意するべき帝国出身者を代わりに担ってもらって、非常に有り難い限りだ。ギルドを代表してというより、セカンドの友人として感謝の意を示すよ』

「どういたしまして。といっても、私もいいことがあったから、役得なのよ~。それに……」

言葉を句切ると、ヴィクトリアは窓の外に僅かに首を向けた。

俺から見た窓の空には、相も変わらずの曇天が広がっている。

ヴィクトリアと窓の対角線上には……カジノだろうか。

「……いいえ、何でもないわ。私も久々に帝国へ来たいなと思っていたから、ちょうどよかったの」

『ふむ。分かった、みんなにも是非君の情報を共有してくれ。さて……』

エマは何かを確認するように、左右に視線を動かした。

こちらからはエマの周囲ぐらいしか見えないことから、エマからもシビラの左右数人分ぐらいしか見えないのだろう。

『斥候君はそこにいるのかい? 是非挨拶がしたい』

ギルドマスターが次に指名したのは、イヴだった。

自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、自分の顔を指差しながらヴィクトリアと入れ替わりにやってくる。

「あ、あたいっすか? うっす、イヴっす。えっと……ちょうどいい感じっつうのわかんないんすけど、みんなと同じ感じならこんな感じっす、うっす」

『おっ、察してくれて嬉しいね。聞きたいことがあれば近所の暇そうにしてるお姉さんぐらいに思って、遠慮なく聞いてくれよ』

「うおギルマスさん軽いっすね、了解っす!」

イヴの方は気が合いそうだなとは思っていたので、概ね予想通りである。

つーかギルドマスターが冒険者に暇人宣言するな。あんた一応かなり忙しい人だろ。

まあ仲に関しては心配する必要なさそうだな。

「そんじゃ遠慮なく。シビラさんは羽とかのアレに関しても知ってる関係なんすけど、エマさんにもその辺りの秘密とかあるんすかね?」

すんなり話が終わるかと思ったが、いきなりぶっ込んできたな!

そういやイヴはこういうヤツだった。元々警戒心が強いから、シビラも気に入ったんだよな。

エマは一瞬目を見開くと、すぐに大声を上げて笑い出した。

『ハッハッハ! わざわざ斥候をギルドからではなく個人の伝手から選んだと聞いた時はどんな人物かと思ったけど、シビラが気に入ったのも分かるよ』

「でしょ、アタシのお気に入りよ。話は本当だし、アタシのことはある程度伝えてるわ」

シビラが否定しなかったことで、エマも続くことを決めたように頷いた。

ただ、何故かあの異様なマスカレイドを持って。

『ああ、その通り。僕の本当の姿は『水の女神』なんだ。もちろん変わらず、近所の変なお姉さんか、謎のヒーローぐらいに思ってくれていいよ!』

そう宣言すると、切れ長の美貌を隠すようにお面を顔に付け、変なポーズを取りながら「変身!」と叫んで女神の羽を出した。

正気かこの女。いや素面でもこういうヤツだったな。

青く透き通る羽の美しさと、エキゾチックかつ不細工気味な仮面のミスマッチ具合が正気度を失わせる。

人類の美術を愛でるには、些か感性というものに疑問を感じざるを得ない。

「マジで変なお姉さんっすね!」

豪胆が過ぎるイヴと、シビラを超えかねない変人度のエマが仲良く意気投合した。

一方ヴィクトリアは「えっ……? 女神、しかも本物の……?」と困惑の色を隠せていない。

すまん、巻き込まれ一般主婦。この国のギルマスはマジで女神であり中身はそれが素なので、可能ならば慣れてやってくれ。

『さて、楽しい歓談は一旦置いて。状況から察するに、セカンドを回収するのは難しそうだね』

「そーね、完全に取られちゃったと肯定されたし。まあセカンドから接触されないことには、ちょっと難しいかもね」

『分かった、報告ありがとう。結果としては残念だが、最悪ではない。行方不明で手がかりがないよりは断然いいから』

エマは自らの考えを伝え、手を叩いた。

一通り話は終わったということだろう。

『キャシー改めケイティの情報は、迂闊に集めると却って君達に迷惑がかかりかねないね。遺憾で忸怩たる思いだが、全てシビラに委ねようと思う』

「ええ。また何か判明したら共有するわ」

最後に画面の向こうのエマが小さく頷き、何やら下を向いて手元を動かしたと思うと、今までの動いていた画面が、再び最初のエマが中空に浮かぶ姿留めへと戻った。

シビラは再びマスタータブレットなるものに触れると、画面が全て消えて元の黒い板へと戻った。

皆その高機能な道具に興味津々だが、特にこういったものに興味を示すのはジャネットだった。

「便利な道具ですね……汎用性が高そうです。機能はどれぐらいあるのですか?」

「姿留めに音留め、メモからさっきの通話はもちろん、エマのものは他の冒険者の情報もずらっと出てくるのよ。ちなみに盗まれてもエマ以外じゃ動かせないわ」

「本当に気さくに絡み続けていい人物なのか困惑してしまうほど、人類にとって重要な方ですね……あのマスクのセンスだけは難解ですが」

「それな!」

ちょっと毒の冗談が出たジャネットにシビラが乗っかり、皆が笑った。

ま、あの変人ギルマスに関してはこれぐらいがちょうどいいだろう。

「さて、一通り話が終わったところで、ラセルの質問にも答えないとね」

ん? 何かシビラに質問していたか?

「って顔してるわね。キャスリーンのことよ」

「そうか、エマがシビラの方が詳しいと言っていたな」

単純な興味だったが、

「ええ。かつて姉さんの友人だったキャシーは、天界一可憐で引っ込み思案だったアタシに一番声をかけてくれた女神で――」

「エミー、デザートにケーキでも買いに行かないか?」

「えっ行く行く! やったー!」

「はああ!? まだアタシが喋ってる途中なんですけどお!?」

そりゃもう開幕いきなり聞く必要がなくなったからな。