軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

劣悪な環境、改善と呼ぶことすらはばかれる待遇に

放送で示された西側第四受付まで行くと、椅子に座ってあくびをしていた受付の男が慌てて立ち上がり俺達を『外部討伐参加者』として登録した。

七名のタグを提示し、第二待機室へと案内される。

確かディアナ達剣闘士は第一待機室だったな。

「事前に聞いておきたいのだが、どういった作戦で向かうんだ?」

俺の質問が意外だったのか、小さく「えっ」と戸惑いの声を発した後、何か自分で納得することがあったのか急に頷きだした。

「ああ、なるほど……皆様はセントゴダートから来られた方でしたね。今日が初めてですか?」

「そうだ」

「でしたら、ご説明いたします。まず当施設の剣闘士が前衛に立ち、魔物に対して壁を作るような形で防ぎます。皆様はその間から出てきた魔物を討つか、遠距離から攻撃をしていただければ」

男の説明は簡潔であり、丁寧であった。

それ故に、だろう。

この説明の異様さが際立つのは。

「質問なんだが、その説明だと剣闘士にも遠距離攻撃が当たらないか?」

俺の疑問は、人間同士が魔物と戦う上では当然のものだと思ったが。

「当たって負傷するのは剣闘士の責任です。大丈夫ですよ、彼ら彼女らは強いですから」

男からの返答は、目の前の人物が根本的なところで違う生き物に見えてくるほどずれたものだった。

魔峡谷の大規模防衛戦。

西門を抜け、街を守る壁を背に俺達七人は立った。

「……もう前線にいるんだな」

今日見た剣闘士は、既に俺達の遥か先で剣を持っていた。

先ほどより鎧を着込んだ上に白い上着を羽織った戦士達が、人骨の魔物と交戦を始めている。

「うえー、もうスケルトンが出てくるわけ? まだ弱いのしか出てきてないけど、色つきとか大型とか混ざり出すと面倒ね」

シビラの言葉に内心頷き、俺も剣を鞘から抜く。

あいつらスケルトンは、決して弱い魔物ではない。上層から溢れて来るにしては、少し厄介だ。

動きは単調ながら威力は見た目以上に高く、駆け出しの冒険者ではやられかねないだろう。

僅かに溢れてきたスケルトンを、俺達は丁寧に倒す。

前線に比べると安全でかなり後ろの方なのだが、それでも帝国の『銀狼隊』とやらと比べると少し前なぐらいだ。

さすがに連中の剣士も、ここまで来た魔物には対処している。

「——ぐあっ!」

その時すぐ視線の先にある前線で、一人の男がスケルトンの持つ状態の悪い 曲刀(シミター) で切られた!

誰かがカバーに入るかと思ったが、周りの剣士達は誰も反応しない。

王国とは違い、本当に魔物討伐における協力みたいなものはないんだな。

男は盾を前に構えて一歩引くが、そこで更に驚くべきことが起こった。

『——掃射!』

拡声器からの声が後ろから鳴り響き、同時に殺意を持った大合唱が後ろから襲いかかる。

「《ファイアボール》!」

「《ファイアボール》!」

「《ファイアジャベリン》!」

魔法が、俺の頭上から魔物の方へと一斉に飛んでいく。

まさかこれは!

「セントゴダートから見えた、帝国の一斉攻撃……!?」

シビラが俺と同じ考えに至ったと同時に、魔法が次々と谷底から襲い来る人骨の剣士達を焼き払う。

赤い雨が降り注ぎ、スケルトンは瞬く間に数を減らしていく。

ただでさえダメージを受けていた上に、剣闘士によって足止めされているのだ。

これほど【魔道士】にとって狙いやすい的もないだろう。

無論そこには剣闘士がおり、先ほどの拡声器からの警告を聞くや否や、一斉に伏せたり盾を構えて引いたりと各自で対応した。

切り傷を受けていた男など、肩や頬を焼くのではないかというほど攻撃魔法がスレスレに飛来し、血の流れていない方の腕で汗を拭っている。

予想していなかったといえば嘘になる。

だが、目の前で実際に行われると、これほど歪に感じるとは……!

そんな俺達の衝撃は、次のやり取りで更に上塗りされることとなる。

「——『ミイラ』! お前、俺のを弾きやがって!」

声のした左側を見ると、そこには剣闘士のディアナが大量のスケルトンの死骸に囲まれながら、【魔道士】らしき男に怒鳴られていた。

男は茶色のジャケットを羽織っている。

「白犬なら銀狼の邪魔をするな、俺らの魔力は安くないぞ」

一方的に攻撃した上でのその理不尽な要求に、ディアナはぼそりと反論した。

「……狙う場所が悪かったんじゃないのか?」

へえ、言うじゃないか。そういうのは言っていいと思うぞ。

実際狙いが悪かっただろうしな。

一方まさか反論が返って来ると思わなかったのか、男は顔を真っ赤にして口を開け、拳をぷるぷると震わせる。

周りの剣闘士は横目で見て鼻で笑ったり、無視したりしている。当のディアナは表情を変えずに鼻で嘲笑した。

ただ、ここで男は止まれなかった。

「お前、この銀狼の俺に対して『剣闘奴隷』のくせに——」

その瞬間。

包帯の女剣士は表情の見えづらい姿でも明確に分かるほど目を見開き、周りの剣士達も視線を向ける。

今のは俺でも分かる。一線を越えた発言だ。

ただ、変化はこれだけではなかった。

「お前まずいって!」

「あ……」

すぐに自分の失言に気付いた男が、面白いほど青白く顔の色を変化させた。

男はゆっくりと後ろを振り返る。

茶色いジャケットの後ろには、赤いコートに獅子の金紋が縫われた男が腕を組んでいた。

「なんとなく、展開と理由が分かったわ」

その姿を見ただけで、シビラは何かを察したようにニヤニヤと笑った。

「どういう意味だ、お前の中だけで納得するな」

「はいはい。大きな声で言えないほど『剣闘奴隷』という単語が危ないことは、みんな分かったわね」

シビラの言葉に、皆一斉に頷く。

「あれって、シャーロットが呼称を変えさせたものなのよ。長年言ってたんだけど、ちょうどヴィクトリアが現役だった頃にキツめのガン付け方して、それ以来タブーとなったのよね」

「それで今の反応なのか」

「ええ。帝国としても、やっぱセントゴダート女王を怒らせるようなのを置いておくのは避けたいってわけ」

なるほどな。それで周りの連中もビビってたってわけか。

……ただ、そういうのは。

「別に何のデメリットがなくとも、言うのは自然と止めるべきだと思うがな」

意識改革はできているだろうが、心からの反省というようには見えない。

だから剣闘士の前衛に対してこういう扱いをしているわけだ。

単語が出て来ないぐらいの差しかない。

ふと顔を上げると、皆が俺を見ていた。

シビラは顔を近づけて、ジト目で俺を覗き込む。

何だよ、近いな。

「うーん、真っ黒のくせにクッソ聖者。腹立つわねー」

「何だお前、喧嘩売ってんのか」

「褒めてんのよ、ムカつくわねー」

そこの剣闘士並に理不尽な要求が来たんだが、何を言えば満足なんだよお前は……。

一方俺の言葉にエミーやイヴは嬉しそうに頷き、ヴィクトリアに至ってはこちらを見ては「ダメよ、それは……」と呟いている。

何だか忙しいな……。

「とりあえず今の一斉掃射で魔物はいなくなったな」

「ええ。手がかりみたいなのはなかったとはいえ、こちら側の風景も見られてよかったわ」

シビラが辺りを見回すと——向こうから、大柄の戦士が歩いてくる。

「よお、暇人ども。まさかあんたら、壁の外まで来たとはよっぽどの変わりモンだな」

そこには、顔面を包帯で巻いた剣闘士ディアナがいた。