軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

効率化のメリットとデメリット

――別れの言葉を交わした後だが。

「結局ラセルっていつまでいるの?」

「エマから呼び出しがあるまで……のはずなんだがな」

翌週も、何事もなくルナと一緒にいた。

竪琴(ハープ) を練習していたジャネットなんて、新しい曲まである程度演奏できるようになっている。

「なあシビラ、エマは何をやってるんだ?」

「んー、部下の子を喚び寄せて 通行証(パス) 代わりにするはずだから、魔峡谷で大回りするとはいえそろそろ着いてもいい頃なんだけど」

王都と帝都を繋ぐ東西の道が魔峡谷によって分断されたため、南からマデーラ経由でセントゴダートまで来る必要がある。

とはいえ、一週間にもなるとさすがに遅い。

一体何が理由かと思っていると、孤児院に突然の来客があった。

以前も新規ダンジョン発見時にここへ来た、ギルドの職員だ。

どうやら今度も、ギルドマスター直々に話があるらしいな……。

話題にしていた青い髪の女神は、やや疲れが見え隠れする表情で俺達を出迎えた。

「急にすまないね」

「そりゃ別にいいけど。それよりも、アタシら随分待たされてるわよねー。仕事遅いんじゃない? 感動的なお別れ会も間抜けな感じになっちゃうわよ」

シビラの軽口にも、シビラ以上に軽いはずのエマは肩を竦めて苦笑するのみ。

普段の綽々とした表情を潜め、眉間を揉みながら事実を告げた。

「ふー……単刀直入に言おう。先週セカンドに帰還指令を出したが、なかなか戻って来ない。再連絡したんだが、返事がなくてな……」

なるほど、エマは帝都から戻ってきているであろうセカンドをこの一週間待っていたんだな。

そのセカンドが、まだ戻ってこないと。

「普段は毎日報告の義務とかしてないんだよ。今日も異常なし、なんてのを数百回も聞かされると、異常があった時のログが埋もれるからね」

「で、今回も帝都から王都へ移動中は連絡してないってことかしら」

「んー、そうなんだよ。すぐに重要事項だけ目に入れられる今の運用形態も、こういうのって一長一短だね。欠点を補う機能強化を考えておかなくては」

エマは手元にある板を慣れた手つきで操作しながら、セカンドの姿とメッセージの一覧を表示させて溜息をつく。

仕事に真面目な部下の、音信不通。

それまで連絡を取り合っていたことを考えると、嫌な予感がする。

恐らくシビラも予測しているだろうが……。

「ただ、ここでセカンドの無事に関する是非は論じない。君達にとって重要なのは——ではどうやって帝都に入るか、だ」

セントゴダートの王都は、門があるとはいえ比較的簡単に入ることが可能だ。

その代わり、所在地などの記録が行われている。

とはいえ、むしろこの機能に守られている部分も大きい。

バート帝国には、そういった仕組みがないのだろう。

ただ、王国と違って簡単には入ることができない。

遠路はるばる訪れたはいいものの、門前払いで武器を向けられることもあるとのことだ。

「必要になるのは、少なくとも『バート帝国に過去住んでいた人』の紹介だね。しかも紹介者にかなり重い連帯責任がつく」

……なるほど、逃げ込むには便利な場所だな。

ケイティと、恐らくヴィンスもそこにいる。

「問題は、王都に帝国を案内できる人材がいないことなんだよね」

「えっ嘘でしょ!?」

「事実なんだよ。ここはロットが本気で作り上げた王都、快適な生活が極められている。帝都に明確に移住した経験者はいないよ。正直私も、こんなにいないものかと驚いたけど」

しかし、そうなると本格的にバート帝国へ入ることが難しくなるか。

必要になるのは、帝国出身者。

俺達はケイティがいる帝都へ、必ず向かわなければならないが……。

「いざとなったら、シャドウステップでも何でも使って入るという手もある。とはいえ、おすすめはできないね。宿泊施設も、タグ提出が必要だ」

「無理矢理入ると、野宿は必至か」

「宿のない者が巡回帝国軍に見つかれば厄介だ。そうでなくても、スリだって王都より多い」

聞けば聞くほど、選択肢からは外した方が良さそうだな……。

快適な環境に慣れていると、その辺りの神経は鈍い。

アドリアは田舎だが、荒れているような場所はなかったからな。

「しかし、そうなるとどうしたものかしらね」

「帝国出身者で、俺達と帝都に入ってくれる人が必要なんだよな」

頭を悩ませていても仕方は無い。

とりあえず一連の記録をもらい、俺達はギルドを出た。

帰りがけに、フレデリカから頼まれていた食材の調達をする。

魔峡谷の出現によって危機は訪れたが、これほどの変化にも人は逞しい。

活気溢れる街並みは、まるで地上に魔物が溢れる前の頃と変わらないとすら思えるほどだ。

「育ち盛りには……やっぱり鶏肉多めね。後はお野菜を買えるのが気持ちいいわ」

「何だそれ、他の街には売ってないのか?」

「そういうんじゃなくて。セントゴダートの子らはフレデリカのお陰か、野菜嫌いの子が本当にいないのよ。だから誰が何を苦手かって悩まなくていいの、本当に凄いのよ」

ああ、確かにフレデリカの調理したもので苦手な料理って全くないんだよな。

飽きることもないし、バリエーションも豊富だ。

「……」

ふと見ると、ジャネットが市場の袋を眺めていた。

「どうしたんだ? ジャネット」

「ぴよぴよ豆! アドリアではたくさん食べたよねー」

ジャネットが選んだ食材、それはひよこ豆だ。

ちなみにぴよぴよ豆は、エミーが最初に名前を聞いて勝手に名付けた。

そんなエミーの言葉に対し、ジャネットは振り返らず独り言のように呟いた。

「アドリアでは、安定して供給されていた。生産者がいたから」

ジャネットは摘まんでいた豆を袋の中に戻す。

アイコンタクトをするように一瞬目を合わせると、買い物を終えたシビラに近づき、何かを話した。

帰り際、人通りが少ない道でシビラは振り返り、ジャネットが頷いた。

それから俺達をぐるりと見回して、驚くべきことを言った。

「シビラさん。確証があるわけではないので、ギルドでは言えませんでしたが——僕は、帝国出身者の心当たりが一人います」