作品タイトル不明
魔王の一手とその誤算と
策が上手く嵌まり、かなり速攻で仕留められた。
すぐに片が付いたが、あの巨体と素早さだ。間違いなく厄介な相手だっただろう。
「『パッケージングキメラ』という名称はどこから来た?」
石段を駆け下りながら、その名を呼んだシビラに声をかける。
「もともとキメラって合成した生物という意味合いがあるのだけど、そのオリジナルになったものがあの見た目なのよ。このダンジョン、途中から蛇とかの魔物も出てきたでしょ」
確かに話したとおり、下層からあのフロアボスの身体で見たことがある形状の魔物が多かった。
そこからシビラは、第八ダンジョンのフロアボスを、『魔王の手が加わっていない 合成獣(キメラ) 』と予測したわけだな。
「ま、外れたら外れたで作戦を立てるだけよ。さあて、ちゃっちゃと倒せたことだし」
後は、こんな性格の悪さが滲み出るボスフロアを作った魔王の顔を拝みに行くだけだな。
◇
「——聞いてない聞いてない、こんなに早く来るなんて聞いてない……」
最下層、紫の不気味な壁が視界一面に広がる魔王の部屋。
部屋を埋め尽くすほど現れたスケルトンの群れの奥に、黒い影を纏った魔王がいる。
「散々自分にとって有利な場面を作ってきたんだ、そろそろお前も直接相手してくれよ」
「『メーカー』は動かす側、直接動く必要がないように準備するのが役目……本来出番が来ないことが正しい……」
……そうなのか?
魔王達それぞれに独特の個性はあるが、戦うことそのものを否定してきた魔王は初めてだな。
「どんなに喋ったところで、今回戦うのはお前だ。時間稼ぎということはバレているぞ」
「ああ、そうか、王都には『女神』がいる……作戦が割れているのか……。やはり邪魔するのか、やはり肩入れするのか人間に……。ならば……。——ならば、これ以上は自分には荷が重い」
先ほどまでぶつぶつと頭を抱えて呟いていた魔王は、何かに取り付かれたかのようにスッと立ち上がると、自らのダンジョンコアがあると思われる腹に手を当て始めた。
何か、嫌な予感がする。
「《ダークジャベリン》!」
先んじて魔王に向けて魔法を放ったと同時に、周りのスケルトンをジャネットの業火が吞み込んでいく。
魔王は、膝から崩れた——何故だ?
俺の魔法の直撃を受けたが、一撃食らったぐらいで倒せるような相手ではない。
そこまで自惚れちゃいないからな。
「……ッ! 何か、来るぞ!」
突如として、地面に赤く光る魔法陣が描かれた。
これは……この状況が何を表すのか、俺はよく知っている。
「戦うのは専門外。だが時間稼ぎは、時間稼ぎだけは守らせてもらう」
蹲った魔王は、抱えた腹からひび割れたダンジョンコアを覗かせ——そのまま消滅した。
「自分の命と引き換えに、フロアボスを顕現させようというわけ!? アドリブならなかなかやってくれるじゃない!」
シビラが魔法陣を睨み、エミーが皆を守るように盾を構えて前に出る。
魔王がその命と引き換えに喚び寄せたフロアボスが、姿を現した。
先ほどまで戦っていたフロアボスと遜色のない、見上げるほどの巨体。
白く細い姿は、地面に転がるスケルトンに非常に近い。
眼孔の奥が昏く光り、俺達を睨み付ける。
現れたと同時に突撃してきたその巨体を、エミーが弾き飛ばす!
ダンジョン最下層を眩く照らす光が、吹き飛ばした巨体の全容を明らかにした。
「あれは……スケルトンの、キメラか?」
周りの雑魚を焼き終えたジャネットが「そうっぽいね」と黙して頷く。
シビラは「あっ」と呟いた。
「どうした?」
「えっ、あ、あー。いやー、そのね」
「なんだおい、早く言ってみろ。エミーの負担が増えるぞ」
目で追うのも難しいほどのスピードで襲いかかるフロアボスだ。
話しつつも俺とジャネットも魔法を撃っている。対策があるならさっさと話してほしい。
「ラセル。あんたあの骨キメラ君にエクストラヒール撃ってみて」
「ボケたか?」
「いいから黙って撃って」
妙に断定的に言うな……もうどうなっても知らないぞ。
「責任は持てよ、《エクストラヒール》!」
俺達の会話を聞いて、スケルトンキメラの攻撃を弾き飛ばさずに受け止めて踏ん張るエミー。
その隙に、完全回復魔法を敵に使った。
『……!』
状況が好転するとは思えなかったが、効果は劇的だった。
フロアボスのスケルトンキメラは、先ほどまで暴れていたのが嘘のように大人しくなり、足元から力を失うようにばらばらと崩れていき……やがてただの動かぬ白骨標本と化した。
「やーい雑魚!」
「一体、何が起こった?」
「走りながら解説するわ!」
一発気が抜けた煽りをフロアボスの死体に向かって投げつけると、シビラは最早やることは済んだとばかりに上へと走り出した。
「やったことは、 不死(アンデッド) の浄化よ。リビングアーマーはゴーレムと特性が近いのかうまく効かないんだけど、スケルトンと、あとゾンビとかなら回復魔法がそのままダメージになるの。完全に忘れてたわ」
「おいおい、何故今まで忘れてたんだよ」
知識はあるのに、ひさびさのぽんこつ駄女神っぷりが出てきたなおい。
時々こういう抜けてるところあるのは、実に人間味があるな……。
「ラセルも分かってると思うけど、回復魔法も攻撃魔法も結局魔力を温存せずに消費する方法よ。だからわざわざ回復魔法を使って倒すのは、よっぽど苦戦している時だけ。あまり使う機会はないのよ」
それは……言われてみたらそうか。
俺もスケルトン相手なら、むしろ剣の練習になる程度の認識しかなかったし、わざわざ回復魔法をかけていくというのも面倒だ。
「でも、大物相手だったらこれ以上にない選択肢よ。アンデッドの魔物って平均的に、普通の魔物よりバリッバリに強い連中が多かったりするんだけど、当然無条件に恩恵がある属性じゃない。その一例が」
「さっきの『浄化』ってことか」
「そういうこと! あんたが真っ黒ローブで剣とか振り回してるから、まさかあのバカ魔王もここに【聖者】がいるとは露ほども思わなかったでしょうね! いやー、愉快愉快!」
強敵を喚んで時間稼ぎをするつもりが、最も時間を短縮しやすいフロアボスを喚んでしまったというわけか。
やれやれ、敵ながら同情してしまうな。
◇
第一層から地上へと飛び出すと、街壁の外側は大きく様変わりしていた。
空には明らかに鳥ではないと思われる魔物が溢れており、遠くに羽を生やしたあの兎が走るのが見える。
完全にシビラの嫌な予想が当たった形だ……!
「何か仕掛けてくるかもしれない! 急いで——」
俺に振り返ったシビラが、声を途中で止めて驚愕に目を見開く。
あまりに珍しい反応に俺も釣られて後ろを振り向くと、そこにはフードを被った人が佇んでいた。
確か、以前ギルドで見たな。シビラにすぐ追い返された女だったと思う。
「あんた何でこんなところにいるのよ!?」
シビラが激しい剣幕で怒鳴りつける。
それにしても、随分とあの女に当たりが強いな……。
「この状況を狙われてしまったから」
女はシビラの声に手短に返し、俺の方を向いて必死の形相で頭を下げた。
「あの子を助けて下さい!」
「あの子じゃわからんぞ」
「ルナ、です」
女から出た意外な名前に驚いたが、理由を聞き返す前に話を畳みかけられた。
「私にはやることがあって、あなたにしか救えないんです」
「そもそもお前は誰なんだ」
「そう、でしたね。挨拶が遅れて申し訳ありません」
俺の言葉に「ちょっと、こんなところで」とか「順序ってもんが」と声を挟むシビラを無視し、女はフードを取った。
全身を隠す灰色のローブから現れたのは、日が傾いて尚眩しく輝く金の髪。
更にはその髪色にも負けないほどの、黄金の瞳だ。
女は胸に手を当て、告げた。
「私の名は、シャーロット。あなたの全てを肯定し、それを支えると伝えに来ました」