作品タイトル不明
思いがけない偶然は、思いがけない幸運を呼び込む
折角だからと、互いに自己紹介をする。
カイルの所属する『獅子の牙』は男二人に女二人のパーティーであり、男二人、女二人がそれぞれ剣士と術士という基本的な構成とのことだ。
「うーっし、それじゃ朴念仁ボーイが珍しく繋いだ縁を祝して、乾杯といこうじゃないの! 店員さん、アタシはビールね!」
人前で俺をおちょくるうちのお調子者女神は、早速昼間から吞む気満々である。
今日はもう仕事する気ナシってか?
いや、吞んだ後も平気で仕事しそうなのがこいつだったな。
シビラはカイル達に注文を確認すると、次から次へと肉の部位を言っていく。
最後にサラダを注文すると、俺の注文を取ることなく店員を帰してしまった。
「おい、一人で食うつもりか?」
「ここはね、みんなでテキトーにお肉焼いていくお店なの。ホラ、ここに魔道具があるでしょ?」
シビラはテーブルにある網の上に、大きな管を天井から引っ張り下ろしてくる。
「これで出てくる煙を吸わせるの。二時間で、食べ放題。残したら追加料金なのはセイリスと一緒だけど、まー大丈夫でしょ」
言葉を切って、シビラはエミーに笑いかける。
エミーの方は、それはもう楽しそうにうんうん頷いていた。
そうだな。エミーが焼肉食べ放題と聞いて、残すわけがないよな。
全員に飲み物が渡ったところで、シビラがビールの巨大な瓶を片手に音頭を取った。
言うまでもなく酒精入りはシビラ一人だけである。
「それじゃ、この楽しい出会いとグラスに映る女神のアタシに乾杯!」
シビラはいかにもな挨拶とともに立ち上がって隣の白いローブの術士に、次にカイルにとガンガン飲み物をぶつけていった。
四人全員に楽しげに絡んでからビールを一気に呷ると、「っくゥ~~~! ラセル公認の、酒の女神シビラちゃんは、この瞬間の為に生きてるのよね!」と実に気持ちよさそうに声を上げる。
……こいつ、宵闇のことを酒飲みの時間と言ったの根に持ってるのか?
つーか酒の女神も多分いるだろ、今のうちに謝っとけ。
「シビラさん、愉快な人だな!」
「ああ、俺にフルコース超えのワインを奢らせたうちの駄女神だ」
「はっはっは、いやーいい気分でしたわ〜! 次も奢ってくれたまえ少年~!」
嫌味に対してもコレなこいつに対して、俺が次にかける言葉はない。
溜息一つ吐いたところで、注文した肉がテーブルにやってきた。
「うわあ~っ!」
その皿に盛られた鮮やかな生肉の山に、エミーが歓声を上げる。
なるほど、この肉をこっちで焼いていくというわけか。
こういうものはできたてが美味いからな。
早速とばかりにシビラがトングを持ち、机に埋め込まれた網に次々と肉を置いていく。
肉を焼く音が響き、水分が泡立つように現れて煙が上がる。
事前にシビラが説明した通り、すぐ近くの管が煙を吸い取り、こちらまで煙が来ない。便利だな、これ。
塩やソースが仕切られて入った皿を並べると、シビラは焼き上がった肉を鉄板横のスペースに置いていく。
「適当に網にフォークを伸ばしてもらっていいけど、焦げる前に一応ここに置いておくわよ。それじゃもうどんどん適当に取っていっちゃって」
シビラがそう言うや否や、待ってましたとばかりにエミーが肉をどんどん取っていく。
俺もいただくとしようか。
手元のソースにつけて食べると、熱い肉とソースの酸味が口の中に広がり、この上なく美味い。
シビラじゃないが、それこそ冷たい飲み物によく合うな。
「ん……野菜を煮詰めたものか。なるほどね」
ジャネットはソースの分析をしながら、サラダと一緒に肉を食べている。
ちなみにエミーは完全に肉に集中して黙々と口に運んでいた。
「シビラは食べないのか?」
「あら、そういうところは気が利くのね。いちおーそれなりに食べてるわよ」
言われてみると、確かにシビラの皿には肉を一度置いた跡がある。
自分もちゃんと取っているようだな。
こいつのことだから、焼くペースを他の人に握られたくないのかもしれない。
「おにーさんビール追加! いやーやっぱ肉はいいわ!」
飲み物の方は、いつの間にか空けていた。
……実は宵闇の女神じゃなくて、マジで酒の女神だったりしないよな?
こいつに限っては冗談抜きで有り得そうなのが困る。
「賑やかなヤツですまんな、カイル。やかましいのなら遠慮なく言ってくれ」
「いやいや、いいっていいって! シビラさんも朝から働いたって感じなんだろ? 俺も午後の予定がなければぱーっと酒行きたいところだよ」
「ヘイヘーイ、カイルは分かってるわね! 予定があっても吞めばいいわ! アタシら朝からエマのヤツに呼び出されて大変だったんだから」
予定があるなら吞むなと突っ込もうとしたが……シビラが何気なくエマの名前を出した瞬間、肉を食っていた『獅子の牙』のメンバー全員が動きを止めてシビラに目を向けた。
「……シビラさん、ひょっとしてマスターからの朝の招集ってことは、新規ダンジョンの探索をしたのか?」
カイルが話題に出したのは、新規ダンジョンの話……ということは、だ。
「もしかしてカイルも、エマに呼ばれていたか?」
「ああ、その、まあな……呼ばれていたよ」
あのギルドマスターに呼ばれていたということは、やはり高ランクの者か。
以前会った時の雰囲気から、どこか只者ではないという雰囲気が漂っていたからな。
しかし歯切れの悪さから、俺もなんとなくカイルが気まずそうにしていることに思い当たる。
「職員が行っていたはずだ。ってことは、エマの依頼を請けなかったのはカイル達だったか」
俺の指摘に、術士の女が眉根を寄せながら「ほら、言ったじゃない」と肘でカイルを突く。
どうやら行くかどうかで意見が割れたらしいな。
「うっ、まあ、自由参加……ということだったから、保留とさせてもらったよ」
本当に、女神エマが取り仕切るセントゴダートは、人間のために作られているんだな。
普通、緊急事態の招集——特にギルドマスターの仮面をつけた女神——ともなれば、普通は強制参加だろう。
しかし、エマは命令を強制していないし、自分が女神であることを大々的に言っていない。
本当に初見の印象と違い、随分と人間本位な女神様なことだ。
「一応話を聞いていたので確認したいが、カイルは【剣聖】か?」
「そこまで分かってるのなら、隠す必要ないな。改めて自己紹介させてくれ、俺は『獅子の牙』リーダーで、【剣聖】のカイルだ」
「現役の剣聖は初めて見たな。ならばこちらも」
俺はシビラに目配せすると、追加のビールを既に半分飲み干したシビラが頷いた。
「こちらも、隠し立てはナシだ。俺は『宵闇の誓約』リーダーの【聖者】ラセル。後ろは【聖騎士】と【賢者】だ」
「アタシは普通の【魔道士】だけど、天才美少女女神だから実質上位職みたいなものよね!」
初めて聞いたぞ、どこのいかがわしい店の採点基準ならそうなるんだよ。
俺達の自己紹介に、カイルだけでなく他のメンバーも目を見開いて驚いていた。
「マジかよ、ラセルは凄いパーティーだったんだな」
「あんたがそれを言うのか?」
互いにコップを持ったタイミングで、軽く打ち合わせる。
本当に、面白い縁だ。まさかこんな場所で伝説の剣聖の弟子である剣聖と出会えるとはな。
「そういえば、新規ダンジョンに潜れないのは未知の空間だから、なんだよな」
「まあ……そうだよ。やっぱな、何が出てくるか分かんねえってのは、何が出るか分かってる下層よりも怖いんだよ。剣聖になってもそうさ、不得意な分野ばかり気になってしまう」
話を聞いて思ったが、やはりカイルは相当にできる男だろう。
自分が強くなった時ほど、調子に乗って失敗しやすい。どっかの勇者みたいにな。
だがカイルは、強くなっても初期の頃の危機意識がまだ残っているのだ。
実力は信用できる。
ならば。
「ダンジョンスカーレットバットが現れたのは知っているな?」
「それはもちろんな。俺達もあっちの討伐には参加した」
「残り一つは知らないが、最後の俺達が抑えた第九ダンジョンは羽つきのニードルラビットであり、ダンジョンの外に出そうなことを除けば雑魚だ。恐らく残り二つもそうだろうな」
俺の説明を聞いたカイルの目の奥が、気落ちしていた分を取り戻すように光るのを見逃さない。
「第二層もダンジョンメイクされて上層の色だったから、少なくともあれより強い魔物は現れないだろう。今日は徹底的に仕留めたから、暫くはいきなり溢れ出すということはないんじゃないか?」
一通り説明を終えると、カイルがパーティーの皆と目を合わせて頷き合う。
全員が頷くと、最後にカイルは俺の方へ向き直り、頭を下げた。
「今日エマのところに行き、明日以降は俺達も潜ろう」
よし、ここに来て不足していた人員を得ることができたな。
今回のダンジョン攻略のように、新規ダンジョンが複数ある場合はどうしても俺一人で全てを防ぐことはできない。
そのため、残り二つのダンジョンを抑えるか攻略してもらう別のパーティーが必須となる。
ギルド職員もそれ相応の力があるように思うが、魔王討伐まではできないのだろう。
どこまで抑えられるかは未知数だった。
その懸念が、かなり解消されることになる。
なかなかの幸運だ。
「ラセル、君には助けられてばかりだな」
むしろ、このタイミングなら助けられているのはこちらなのだが……折角だ、カイルの言葉に乗せてもらうか。
「偶然だ偶然、全部貸しにしておくから気にするな」
「ははっ、それは気にするなっていう方が無理だろ。これは返すのが大変そうだ」
最後にコップを軽く打ち合わせると、お互いのパーティーの方へと視線を戻した。
少し盗み見ると、つっけんどんな雰囲気の術士の女が、からかうようにカイルを覗き込みながら笑っていた。
きっと正義感が強いのか、ギルドに出向かなかったのを気にしていたのだろう。
ちなみに自分達の席に視線を戻すと、シビラのコップが三つに増えており、エミーがバゲットに肉を挟んで食べていた。
気がついたらあの長く硬いバゲット二本は、全てエミーの胃袋の中に消えていた。
こっちはなんというか、ぶれない感じだよな……。
斜め向かいでサラダに肉を挟んでいたジャネットと目が合うと、彼女は何故か俺の皿に肉を載せてきた。
「どうした?」
「時間制限あるの、忘れてない?」
「……そうだったな、助かる」
「ん」
すっかり話し込んでいた。俺も腹が膨れないうちにしっかり食べさせてもらわないとな。
「あっ、店員さんお肉追加できます? バラ、モモ、とりあえず五つ。あとバゲットも」
いい食べっぷりだ、こういう食べ放題の店にいる時に遠慮なく食べてくれ。
「ヘーイ店員! アタシは締めにこのシングル十二年のダブルね!」
お前は遠慮というものをいい加減覚えろ。