軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シビラがかつていた街には、当然知り合いも多いようで

王都セントゴダートに、新規ダンジョン出現。

太陽の女神に会いに行くまで退屈な日々かと思いきや、随分と大きな事件が起こったものだ。

シビラはマーデリンに孤児院を任せ、俺達『宵闇の誓約』の四人は、ギルドからの遣いとともに冒険者ギルドへと向かうことになった。

——ふと街壁を見る。

この街を守るためにある壁だが、日光を遮るような仕組みはさすがにない。

アドリアの時のようにバットが出たら、ルナ達にも危険が及ぶか。

こういう時、空という場所にいる相手は厄介だ。

宝珠も綺麗に光ってないで、街を守ってほしいところだな。

比較的ダンジョン寄りの中心地にある、セントゴダート冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

「これはまた、凄いな」

ダンジョンの規模から予想できていたが、冒険者ギルドは今まで見た中でもぶっちぎりで巨大だった。

広い建物の中には食事、酒、武器防具や魔道具など何でもありだ。

それでいてカウンターまでの長さは他のギルドと大差ないため、その巨大さが利便性を阻害しない。

使う人のことを考えて、よくできている。

そんな巨大ギルド本部だが、今日は当然のように人が溢れかえっている。

『定期連絡。出現したダンジョンには、ギルド職員が向かっています。一般の冒険者の方は、決して近づかないようにしてください』

各所に配置されている魔道具から、建物全体に女性の声が響き渡る。

声を大きくする魔道具なら見たことはあったが、これは離れた場所で声を出しているのか。便利なものだな。

内容に関しては、注意喚起だった。

まあ言わなくとも、誰も好き好んで未知のダンジョンに入ろうなどと思わないだろうな。

アドリアの時のような緊急性でもなければ。

案内の女性は最上階の五階まで上り、シビラはその後をついていく。

わざわざシビラのところまで報告に来たということは、ギルドとの繋がりがある上でギルド側がシビラ——つまり俺達——を必要としたということ。

ならば、この先にいるのは——。

到着した部屋に入ると、そこには妙に不気味なマスクで顔面を隠した、青い髪の人がいた。

「ご苦労。下がっているように」

「はい」

案内の女性が部屋から出て行ったと同時に、シビラは向かい合わせになっているソファへ遠慮なく座った。

「相も変わらずアンタの美的センス壊滅的ね!」

開口一番に何言ってんだこいつは。

いや……しかし、確かにこの仮面は……。

俺が何かを言及する前に、仮面の人は溜息を大きくつくと、その異様なマスクを外した。

中から現れたのは、鋭い目をした若い女性だった。

「シビラ、君はもっと芸術センスを磨くべきだ。アートが分からないようでは——」

「南の島の木彫りでしょ。いくら『ダブルフェイスアート』の似たものがあるとはいえ、結構ぎょっとするわよソレ。もっと初心者向けのアーリーモダンか無地でいいでしょ。ああ、シュルレってもだめだと思うわよ」

「——……。……はぁ、分かったよ。これは壁に飾るとしよう」

中性的な女性は仮面を一撫ですると、俺達の方に目を向けた。

「……おっと、すまない。シビラから話は聞いているが、皆が『宵闇の誓約』のメンバーで相違ないね?」

「ああ、それで間違いない」

「シビラのせいで挨拶が遅れてしまい申し訳ない。私はエマ、ここセントゴダートで冒険者ギルドのとりまとめを……女王からの使命で行っている者だ」

「挨拶が遅れたのはあんたの自己責任でしょ」

「やめてくれないか、僕の美術品が挨拶の邪魔みたいに言うのは」

「自己紹介おっつかれー」

予想はしていたが、ギルドマスターか。

ならば、俺達みたいな連中の頭ということだな。

シビラとの仲の良さも随分なものだ。

趣味でここまで口論できるということは、それだけ互いのことをよく知っているということでもある。

同時に思ったことだが、この個性の強すぎる趣味も、シビラの知り合いだからと言われると納得するものがあるな……。

「シビラから話を聞いていると思うが、ラセルだ。『宵闇の誓約』のリーダーをしている」

「君が【聖者】ね。よろしく」

「私はエミーです。職業は」

「待て。君はもっと砕けてくれ。君もだ」

俺に次いで丁寧に喋ろうとしたエミーを、エマは止めた。更に事前に、ジャネットにも釘を刺した。

「冒険者の皆にはもっと気さくに話してほしくてね。友人のつもりで喋ってくれないかな?」

「は、はあ……えっと、えっとじゃあ……エミーですだよ!」

「ハッハハハハ!」

不意打ち気味に放たれた言葉に、エマとシビラは思いっきり笑った。

俺も、思わず顔を覆って笑いを堪える。なんとか途中で気さくにしようと軌道修正しようとして、随分と変な合体をしてしまったなおい。

ジャネットも声を殺しながら、顔を覆って肩を震わせている。

一人しゃがみ込んで「あぁ〜……」とうめき声を上げるエミーの肩を叩き、なんとか起き上がらせた。

「あ、改めまして……私は【聖騎士】のエミー。ラセルとパーティー組ませてもらってるの」

「うんうん、無茶を振ってしまったね、ありがとう」

「僕はジャネット、パーティーの【賢者】だ。よろしく頼むよ、エマ」

「ああ、よろしくな!」

一通り紹介を終えて、俺達もシビラの隣に座った。

気さくに笑っていたエマだが、すぐに表情を真剣なものへと変える。

「話は聞いていると思うが、セントゴダートにダンジョンが現れた。しかも三つ……これは今まで起こったことのないペースだ」

「調査を出していると聞いたが」

「便宜上番号を振った『第七』と『第八』には人を向かわせたが、『第九』にはまだ誰も派遣できていない」

おいおい、さっきギルド内にあった連絡は虚報だったのか?

確かに調査に出ていると言っていたはずだが。

「あれは、混乱を避けるためにね。同時に混乱や不安を更に抑えるためには、日常がいつも通りに過ごせなくてはならない。故に職員が足りないのだけど」

日常……この街の人にとって、最も日常を平和に送れるための基盤となると。

「つまり、皆が下手な動きをしないよう第二ダンジョンに職員を割いている、ということだな」

「ご明察だね、ラセル」

指を鳴らしてウインクしながら、エマは足を組み直して笑う。

「この街の人は『安定』という大きな地面に立っているが故、落ち着いて生活できている。それは何よりも重要なことであり、また女王の願いでもある。同時に、それが長く続くと『不安』という魔物が何よりも恐ろしいものになる」

冒険者ギルドは国の運営であり、この街の第二ダンジョンはギルドによって『絶対安全』を徹底した作りにしている。

ダンジョン以外での娯楽を発展させることが女王の願い。

更に孤児院の運営まで担当しているのだ。

随分と平民視点で物事を考えられる人なのだな、この国の女王は。

なるほど、王国も大きな問題なく運営できているわけだ。

俺がこの街の運営に頷いていると、扉がノックされる。

「誰だ」

「私」

シビラがその声に「えっ」と驚いて振り返ると、視線の先にはローブ姿の女性らしき人が部屋の中に入ってきた。

口元はマスクをしており、ほぼ全身が見えない

「エマ、それに……シビラ? ダンジョンの様子は?」

「ちょうどシビラ達に頼もうと思っていたところだ。心配は——」

エマが喋っている途中で、何故かシビラが苛立ちを隠せないような表情で立ち上がり、ローブの胸元を指でつつく。

「あんた! ね! 心配なのは分かるけど! 任せるとかできないわけ!?」

「でも……」

「こっちは大丈夫だから! 自分の仕事してなさい!」

「……わ、分かった」

そのまま指先でドアの向こうまで押し出すようにして、実際部屋の外まで追い出してしまった。

一瞬俺と目が合ったが、すぐにシビラに押し出されて視線を外した。

シビラは最後にドアを閉めてから、溜息をついてドカッとソファに座り直した。

「今のは誰だ? セントゴダートの冒険者仲間か何かか?」

「そんなところよ。職員の一人ね。……全く、心配性なんだから」

普段は機嫌のいいこいつがこれだけ呆れるということは、気に入らない……というよりも、それだけ気を許した相手であるように感じる。

こうして見ると、元々シビラはこの街にいたというのも納得するぐらい知り合いが多いんだな。

エマはシビラの様子に何故か苦笑をしながら、俺達の方へと向き直る。

「話が前後してしまうが、君達には第九ダンジョンの上層を調べてきてほしい。後日に別パーティーと組んでもいいし、もちろん断ってくれてもいい。君達の実力はシビラから聞いているからね」

ここに来て、この危機的状況においてギルドマスターが『断ってくれてもいい』と来たか。

こいつもこいつで、随分と腰の低いヤツだな。

ならば、こう返そう。

「受けるつもりでいるが、一つ質問をしてもいいか?」

「ありがとう! もちろん何でも聞いてくれ」

「——魔王に会ったら、討伐しても構わないよな?」

エマは驚きに目を見開き、シビラに視線を向ける。

シビラはニヤニヤとその顔を見返しながら、親指を俺の方に向けた。

「報告したと思うけど、ラセルは剣も使えるし、倒した魔王も一人二人じゃないわよ。しかもマジで『女神の祈りの章』やってのけたもの。ほんっと人は見かけによらないわよね!」

「どういう意味だ」

「いや〜ん眉根の皺が回復魔法でも取れないぐらい刻まれちゃうわよ〜、そういうところよ〜?」

ギルドマスターの前だが思いっきり 叩(はた) いてやろうかなこいつ。

俺達のそんな様子を見て、エマは天井を見上げて大きく笑い出した。

「ハッハハハ! いやあ久々だね、これほどまでに気持ちのいい青年は。どうしても 王都(ここ) に住んでいると、みんな安定志向だからさ。それが悪いとは言わないけど、ギルドマスターとしては物足りないと感じることもあるんだよ」

エマは笑いながら、俺に右手を差し出した。

「もちろん、やってくれて構わないとも。よろしく頼むよ、【聖者】ラセル」

「ああ、任された」

俺はその手を握り返し、頷いた。

久々の、誰も攻略していない魔王のダンジョンだ。

腕が錆び付かないうちに、思いっきりやらせてもらうとするか。